We are still the same - 2017.10.10 MONOEYES Dim The Lights Tour 2017

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■We are still the same

7月5日にリリースされたMONOEYESの2ndアルバム『Dim The Lights』。このアルバムを引っさげ7月から始まった全国ツアーも、追加公演のいわきと最終日の沖縄を残すのみ。10月10日、事実上のツアーファイナルとなる新木場スタジオコーストの2DAYSの初日を迎えた。

ゲストのJohnsons Motorcarがライブを終えると、お馴染みとなったスターウォーズのテーマソングをSEにMONOEYESの4人が登場する。

Wildlife in the sandy land
Barking at the rising moon
That’s what my body feels like doing
You are someone like me
砂だらけの陸地で動物たちが
昇る月に吠えている
僕の体が欲しているのはそれ
君と僕は似てる

「Dim the lights = 灯りを落とす」。暗闇の中でこそ浮かび上がる野生。重い扉を開け、日常とは毛並みの違うライブハウスという空間でだけ露わになる本能。MONOEYESのライブが呼び起こすのは、日々の社会や規範の中では羽を伸ばせない衝動と純真だ。ルールではなく思いやりを持って。それさえあればこのライブハウスでは誰もが平等で自由だ。

It’s you and me again
もう一度 君と僕だ

『Dim The Lights』の核心に触れるリードトラック、"Free Throw"でライブの幕は切って落とされた。 

続く"Reasons"でフロアが更に熱を帯びていくと、3曲目で早くも"My Instant Song"が投下される。

全て失ったと感じるときは
これ以上もちこたえられないと感じるときは
暗がりにいると感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
息を飲む瞬間には
夢みたいだと思うときには
飛び込むのが怖いと感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
いつだってやめられる
即興の歌さ

2年前、MONOEYESはこの曲とともに始まった。「ただ歌うだけ」、いつだってやめられると口ずさんだ即興の歌が、会場をポジティブなエネルギーで満たしていく。ステージも客席も、見渡す限り一面の笑顔が、赴くままに身体を宙へ弾ませる。

 

細美「本日1発目スコットがキメるぜぇ!!」

 

細美のシャウトを皮切りに"Roxette"が披露される。スコットらしい伸びやかなメロディとほろ苦い歌が、細美の曲とはまた違う風通しの良さで、MONOEYESのライブに新しい色を加えていく。

細美「千葉LOOKから始まり、東北を散々回って、九州を巡り、北陸を回り、ようやくここまでたどり着けました。追加公演のいわきと沖縄を残して、事実上のツアーファイナルなんだけど、ファイナルだからと言って特別なことは何もありません。だからおれたちがこれまで回ってきたところと同じライブをするよ。」

"Leaving Without Us"、"When I Was A King"で一瀬の2ビートが激しい疾走感とダイナミズムを起こしたかと思えば、続く"Get Up"では「Get Up」の合唱が優しくも力強いサウンドスケープを描いていく。

「東京でやるのはすごい久々の曲をやります。」

 

そうして演奏されたのは"Cold Reaction"。

I'm against the new world
僕は新しい世界なんていらない

大きい会場でライブがやりたいわけじゃない。ただ、自分たちのこの場所(ライブハウス)をこれからも守っていきたい。MONOEYESは東北で細美が1人で弾き語りを行なっていた時、ライブに来る人たちがもっとスカッと暴れられるようにバンドで来たいと、ソロアルバムを作り始めたことをきっかけに生まれたバンドだ。ただ仲間とともに、ライブハウスでバカ騒ぎをしていたい。1stアルバム「A Mirage In The Sun」のオープニングを飾ったナンバーは、ハードなリフと地鳴りのような轟音で、今も変わらずにMONOEYESというバンドのアティテュードを表明する。

"明日公園で"では突然スコットがベースを銃に見立て戸高を打つ、すると膝から崩れ落ちる戸高、かと思えばそのままポジションを入れ替え、目の覚めるようなプレイでフロアを煽りに煽る。間奏では戸高がヒリヒリするようなギターソロで琴線を掻き毟り、逆側ではスコットがステージダイブで客席へと飛び込む。無邪気にステージを楽しむ2人が、ハイタッチまで飛び出す抜群のチームワークでライブを更に盛り立てる。

細美「みんな夏の楽しかった思い出があると思うんだけど、そういう楽しかった思い出をべっこう飴みたいに凝縮したような曲ができたんだ。人生で1番好きな曲。だから聞いて。」
「昔好きな女の子をバイクに乗せて海を見に行って、じゃあ帰ろっかってなった時に雨が降り出して、『こんなのすぐ止むよ』って彼女に言って庇の下で雨宿りをして、タバコに火をつけたんだけど、雨は止むどころかどんどん強くなって『ごめん、これは止まないね。』ってなって、そんで彼女を後ろに乗っけってさ。町からちょっと離れたところだったから、ずぶ濡れになりながらバイクで走って、やっとコンビニを見つけて、寒くて震えながらこれでちょっとはマシになるだろって500円のカッパを買ってお互いに着たら、その姿がどうしようもなくおかしくて、お互いに笑い合うような。」
「1番はBRAHMANの宮田俊郎と飲んでる時のことを書いていて、TOSHI-LOWがお店のグラスを全部割ってさ。光るモノが嫌いなゴリラみたいな笑 なんかこういう生き物いたなって笑 手には空のウイスキーのボトル、テーブルの上には割れたグラスがあって。」
サンゴ礁のある海を泳いだことがある人はわかると思うけど、あのあたりにいるような小さな魚は、合図もないのに示し合わせたように同じ方向にクイって進むんだよ。こんなこと言うのはこっぱずかしいんだけど、今日は目の前にいるブスと脳足りんのどうしようもないお前らのために歌います。そんな風に、お前らと一緒におれに年をとらせてくれ。」

"Two Little Fishes"。二匹の小さな魚。
アルバム制作において、1曲オススメの曲があるのは他の曲に失礼だから、それなら全部作り直すべきだ。頑なにそう言っていた細美が、この曲は人生で1番好きな曲と言ってはばからない。ミディアムテンポのパワーポップ。サウンドも詞も、明るく、温かい。

これまで細美の作る音楽は、明るい曲調の裏にも、いつもどこか自己嫌悪や孤独、胸に刺さったままとれないささくれのような痛みを抱えていた。でもだからこそ同時に、自分を認めていいんだと、君は1人じゃないと、痛みは和らぎ、いつか傷跡だけを残しなくなるということも教えてくれた。

彼の音楽は失望を内包することで希望を歌ってきた。 

だが今はそれだけではない。"Make A Wish"で祈った君の幸せ。その隣にいるのは僕じゃなかった。"Two Little Fishes"で歌った僕の願い。君のそばにいるのは、まだ見ぬ誰かじゃない。

Let’s run forever
We get older
Do you think I’m gonna leave
逃げようぜこのまま
僕らは歳をとる
いなくなるわけないだろ

客席を鼓舞し、ファンと一体となり歌う細美。ELLEGARDENの1stアルバムのタイトルは『DON'T TRUST ANYONE BUT US』。自分たち以外は誰も信じない。そこから積み重ねて、失って、そしてまた積み重ねてきた。the HIAUS、東北ライブハウス大作戦のメンバー、TOSHI-LOWとの大きな出会い。仲間と呼べる揺るぎない存在。生まれる確かな信頼。

1stアルバム『A Mirage In The Sun』のリリースツアーでは、ライブ前に細美自らがステージに立ち、ライブの注意事項を説明していた。昨年の「Get Up Tour」では、モッシュやダイブをするファンを時に注意しつつ、常にコミュニケーションを取りながら、MCでも思いやりを持ってと話していた。

このライブではわざわざ注意事項を話すことはしなかった。ダイバーに直接話しかけることもなかった。その必要がなかった。

Wanna make us synchronized like two little fishes
Wanna make a sunset like this last forever
Wanna grow older while you’re here beside me
Tell me when the wind starts blowing into the room
僕らは二匹の小さな魚みたいにシンクロしてたい
この夕日がまるでずっと続くみたいに感じていたい
君がそばにいてくれる間に歳を重ねたいんだ

孤独も喪失もない。幸せな記憶。MONOEYESが鳴らす仲間の歌は、ファンの声と重なり、お互いの想いとシンクロしながら、二匹の小さな魚のように同じ未来を描いていた。

マーチのような"Carry Your Torch"を経てライブは終盤戦へ。 "Run Run"、"Like We've Never Lost"を畳み掛けると、"Borders & Walls"ではJohnsons Motorcarのマーティも参加。ポリティカルな内容を孕みながらも、その憂いを吹き飛ばさんとばかりに、スコットの人懐っこいキャッチーなサウンドにフロアは縦横無尽に入り乱れ、幸福な暴動が起こる。スコットがボーカルの曲では細美もギタリストへと変わり、ギターに全霊をぶつける。

細美「たまにどうしようもなく吠えたくなる時があるんだよ。電車乗ってる時とかコンビニにいる時とか、そういう時に吠えるとパクられるからやらないけど笑 お前らもそうだろ?でも今日は吠えられたんじゃない?」「性別も年齢もルックスも貯金も収入も、そんなものはここには何一つ関係ない。」「世の中がこんな風(ライブハウス)だったらいいのにってずっと思ってるけど、どうやらそうじゃないみたい。あのドアを開けたら、少し窮屈な世界が待ってて、ちょっと違う服を着てたり、人と違うご飯の食べ方をしたら笑われる。そういうことに疲れたら、その時はいつでも遊びに来て。」

いつだってここに帰る場所はあると、細美は語りかける。

Let me see the morning light
Ditch a fake TV smile
And you said to no one there
Like 3, 2, 1 Go
When we see the rising sun
I can feel my body getting warm
朝陽が見たい
テレビ向けの笑顔なんて捨てて
君は誰にも向けずにこう言った
3.2.1 行くよ
すると太陽が昇って
僕は体が暖かくなるのを感じる

正解も不正解もない。沢山の人がそれぞれ違った価値観を持つ社会では、常に批判され、常に折り合いや妥協を求められる。自分の全てが間違っているように感じる時さえある。でも夢に見た世界がある。その場所に辿り着きたい。

タイアップを断り、CDの特典を拒み、ライブハウスにこだわり、どれだけ人気が出てもチケット代は2,600円のまま。多少の怪我はしてもいい、でも誰かに怪我はさせるな。禁止するのではなく、信じることで守りたい。理想の世界は綺麗事だろうか。「そんなのは無理だ。」また声が聞こえる。生半可な戦いじゃない。でも彼は戦い続けてきた。その生き方は彼を知った14年前から変わらない。その姿を見てると、ちっぽけな自分の中にも勇気が湧いてくる。そしてその戦いの先にあるこの場所に来ると、夢に見た世界を実感できる。身体は疼き、汗が滲み出す。体の芯から脳天を突き抜けるような高揚感に鳥肌が立つ。言葉にできなかった想いが熱を持って肉体に溶け出し、目頭が熱くなる。夢を見ていいんだと信じられる。
歳を重ねても、バンドが変わっても、変わらない細美の生き様を、"3,2,1 GO"は写している。

"グラニート"が見せる景色はその信念の先にあるものだ。赤の他人同士が、初めてライブハウスで出会い、同じ音楽を聴いて、肩を組み笑い合う。ルールで縛り合うのではなく、思いやりを持ち寄って、想いに惹かれ合う。

そういう世界があるなら
行ってみたいと思った

そういう世界がここには広がっている。

本編のトリを飾るのは"ボストーク"。『Dim The Lights』の中で唯一収録されている日本語詞の楽曲だ。"グラニート"同様の軽快なドラミングと爽やかなメロディが、ライブハウスに風を運ぶ。ボストークとは1961年にソ連が打ち上げた人類初の有人宇宙飛行船の名だ。これからも、誰も知らない場所へ、この旅は続いていく。

客席のアンコールを受け、すぐにステージに現れた4人。

細美「(袖とステージを)行って帰って来てっていうのは茶番にしか思えないので、あと2曲だけやって帰ります。」「またここで打ち上げやろう。ライブの打ち上げじゃないよ。外の世界では戦って、そして人生の打ち上げを、ここでやろう。」

アンコールのラスト、"Remember Me"で細美は歌詞の中にある「You are still the same.」を「We are still the same.」と歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same
10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

11年前、16歳で初めてライブハウスに行った時、不安で怖かった。でもそれ以上にワクワクして胸が踊った。重いドアを開けたその先では爆音の中、人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、グチャグチャになりながら息をするのも大変だった。でも日常では絶対見ないような光景の中、そこにいるみんなが、笑顔で拳を掲げ、声を上げていた。
そしてステージで歌うその人は、今この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

11年後、27歳になって訪れるライブハウスには不安はなくて、でも11年前と変わらずにワクワクし、そして少しだけ涙が出そうになった。重いドアを開けたその先では爆音の中、相変わらず人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、汗まみれのグチャグチャになりながら、普段どれだけこんな顔ができてるんだろうってくらいの笑顔になれた。
そしてステージで歌うその人は、今も変わらずに、この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

人は変わる。細美が手拍子や「オイ!オイ!」と掛け声を煽るようになる日が来るとは思わなかった。身体は鍛え上げられ、すぐTシャツを脱いでは裸になり、親友との惚気話に頰を緩ませる。
自分も変わった。あの日の学生は社会人になり毎日仕事。昔みたいにライブハウスに来て汗まみれになって暴れることも少なくなった。周りは結婚して子どもができ、会うことも少なくなった友達も多い。
全ての人が年とともに、時代とともに変わっていく。

でも変わらないものもある。

もし君が疲れたら
呼び出して
付き合いきれないものに疲れたら
あの頃に戻って話をしよう
そしたらこの世界のどうしようもない出来事が
音にかき消されて
勇気が湧いてくる

この場所では、今も変わらずに素直でいられる。笑われることも比べ合うこともなく、クソッタレのダメ人間も、外の世界で擦り減ってしまった人も、大好きな音楽を大好きなままで。立ち上がれと、1人じゃないと、その音楽は鳴り続ける。

細美「20年後には64歳のおれに会えるよ。」

逃げようぜこのまま
どれだけ歳をとっても
いなくなるわけないだろ

外の世界で戦って、疲れた時は勇気をもらいに、頑張った時には自分へのご褒美に。
人生の打ち上げをやろう。何度でも。


さあ ライブハウスへ帰ろう


 


MONOEYES - Two Little Fishes(Music Video)

 

セットリスト

1.Free Throw

2.Reasons

3.My Instant Song

4.Roxette

5.Leaving Without Us

6.When I Was A King

7.Get Up

8.Cold Reaction

9.Parking Lot

10.明日公園で

11.Two Little Fishes

12.Carry Your Torch

13.Run Run

14.Like We’ve Never Lost

15.Borders & Walls

16.3, 2, 1, Go

17.グラニート

18.ボストーク

アンコール

19.Somewhere On Fullerton

20.Remember Me

欅坂46「二人セゾン」個人PVレビュー

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石森虹花 『カワッテアゲル』

監督:住田宅英

「あなたじゃ無理」「代わってあげる」

突如現れたもう一人の石森(黒服)を、本当の石森(白服)が追い掛ける。強くなりたい自分と弱気になってしまう自分。ラスト、「私はできる」ともう一人の自分を捕まえて、自信を取り戻すストーリー展開は、現実の欅坂でいまだ一度もフロントに立っていない彼女のリアルな実情を重ねて見ると、結構シビア。「チャンスの順番」を聴いて諦めずに頑張ってほしいなって感じで…。

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今泉佑唯『落ちてきた天使』

監督:タナカシンゴ

あざとい天使のキャラと恥じらいの残る演技が良い塩梅でぶりっ子キャラを掻き立ててる。本人はどちらかと言えばおバカで天然なのだろうけど、乃木坂でいう秋元真夏のようなキャラは欅坂にはまだいないので、ぶりっ子役はこれからも引き受けてほしい。洗濯物を畳む時の畳み方が雑、おまけに料理も下手、そんな愛くるしい天使役が最高にハマってる。

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■尾関梨香『もじもじ探偵尾関ちゃん』

監督:田村啓介

まず服がかわいい。モジモジヘラヘラしながら自己紹介するところがかわいい。文字に関する特殊なトレーニングを受けた(という設定)のもじもじ探偵だけあり、文字を組み合わせる謎解きは意外と凝ってるが、基本的に内容はないので、ただヘラヘラユラユラしている尾関のかわいさを見守る作品。お笑いキャラは織田、天然は今泉、不思議ちゃん・大食いは長沢とキャラ被りの渋滞に巻き込まれ中々クローズアップされず、「欅って、書けない?」での「運動音痴で動きが変」ということが見せ場になることが多いけど、こういうヘラヘラしたかわいさは尾関が一番似合ってる。

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小林由依『こばやし荘は住人十色』

監督:丸橋俊介/阿部至

101号室の住人、かわいい。102号室の住人、神。103号室の住人、かわいい。104号室の住人、やらされてる感がいい。105号室の住人、かわいい。106号室の住人、指がいい。107号室の住人、シンプルに良い。108号室の住人、かわいい。109号室の住人、神。大家、かわいい。端的に言えば小林由依の十変化なのだが、アパートを舞台にホラーとしてのオチがつくのもおもしろい。何よりメイキングが最強に可愛い。優勝。

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佐藤詩織『Ballet』

監督:山本花観

バレエスクールでの本人インタビュー。「なぜアイドルになろうと思ったのか?」という問いへの答えには佐藤詩織の人柄が出ているし、レオタードに身を包んだナチュラルメイクの彼女はかわいいけれど、最後に舞台で衣装を着てバレエを披露するところまでそのまま過ぎる気もする。別に個人PVでこれやらなくていいのでは。

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菅井友香『僕のクラスの学級委員』

監督:ねむことよるこ

菅井友香が学級委員という設定がいい。ゆっかーお姉ちゃんここにあり。内容に関しては正直よくわからない。

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鈴本美愉『鈴本ミユの秘密の告白』

監督:森田亮

鈴本美愉に早口を喋らせた監督は天才だ。映像の9割がお風呂場で展開されるが、全くダレずにあっという間にエンディングを迎える。テレビの前と楽屋でキャラが違うと言われる彼女だが、この作品は後者の彼女を引き出してるんじゃないか。クールでキツめの彼女とは違うおっちょこちょいで愛らしい、これは良いすずもん。

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原田葵『ねぇ ねぇ 聴いて』

監督:上田真紀子

「机を叩く音」、「チョークが黒板をなぞる音」、「バスケットボールが地面を打つ音」、「カスタネットを弾く音」、「クラッカーを開く音」、「紙を丸める音」など、原田葵の様々な音を生むアクションを連続して繋いだ今作。メトロームのような無機質に反復するテンポの上で、一挙手一投足の全てに実年齢以下の幼さの残る原田葵のあどけない魅力と、World’s end Girlfriendや蓮沼執太のバックでもドラムを叩くJimanicaの音楽が不思議な融合を果たしている。Type-B収録の個人PVの中では最もコンテンポラリーな作品で、映像のカットとリズムや音のテンポの良さが視覚と聴覚をくすぐる。しかし原田葵ちゃんは本当に高校生なのだろうか、小学三年生の間違いなんじゃないか。でもこの先絶対もっと可愛くなるし美人になりますよね。あと10年はアイドルをやってくれ、頼む。

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■織田奈々『カッパの好物』

監督:脇坂侑希

白ニットに手料理と、デフォルトなぐらい女の子っぽい織田奈々を見れる。「欅って、書けない?」のお笑いキャラのイメージが強くて、どうしても織田奈々を王道の「かわいい」という目で見れなくなってしまってるけど、当然のことながら美形だしかわいい。このまま欅坂のオカロになってしまうのか。あとカッパとの出会いの場面やキュッキング、エンドロールで使われている音楽が好き。

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■小池美波『転校生探偵・真壁川ナツ』

監督:磐木大

もじもじ探偵と被ってるやん!それはさておき関西弁で自分のことを「ウチ」と言う小池美波ちゃんがかわいい。あと突然関西弁でキレる小池美波ちゃんもかわいい。ドヤ顔の小池美波ちゃんもかわいい。これも特にストーリーに内容はない。尾関の『もじもじ探偵尾関ちゃん』は「モジモジ」を与えることで彼女の持つかわいいを引き出した感じがあったけど、こっちは素の小池の可愛さがそのまま出てる感じ。

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齋藤冬優花『NIGHT RACER FUYUKA』

監督:曽根隼人

オープニングのパルクールを駆使したアクションシーンやCGなど、他のメンバーの作品に比べると映像技術としてはかなり凝って作られている。ミニ四駆が好きだったのでレースシーンはテンション上がる。でもこれ齋藤冬優花さんの必要なくない?主人公そのまんまヨシキくんじゃない?

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土生瑞穂『僕の彼女は吸血鬼』

監督:高木俊貴

吸血鬼という設定と「エピグランマタ」や「ダークシャドウ」からの引用がアクセントになっているが、基本的には「僕の彼女が土生瑞穂だったら」を体感できるガチ恋製造作品。フィルターかかった映像も綺麗で、彼女の美形で整った顔立ちと相まってショートフィルムのよう。セリフや顔のアップのシーン、甘い声で「キス」という単語を連呼し言い寄る場面、土生supreme瑞穂です。

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平手友梨奈『てち浪漫』

監督:豊島圭介

明治時代の異人館平手友梨奈の底知れない魅力に取り憑かれた男の恋文を、侮蔑を込めたかのような声色で平手が朗読する。「子どもで大人」。真っ赤なワンピースは幼く、妖艶。最後の最後に15歳の少女の声と表情を覗かせるが、それすらも"素の平手友梨奈"ではない"15歳の少女"の演技なのだろう。個人PVはそのメンバーの魅力を引き出すものが多いが、この作品は平手友梨奈本人の魅力ではなく、スイッチの入った平手友梨奈の"演じる"凄みを捉えた作品。この作品だけ関わってるスタッフの人数が他のメンバーよりも明らかに多いし、力の入れようが否応なしに伝わってくる。

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守屋茜『KICK'N'CLEAN』

監督:加藤マニ

音楽がいい。服はちょっとダサい。えーっと、あんまり言うことがない。

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■米谷奈々未『文學ガール』

監督:藤枝憲/須藤中也

竹下夢二『秘密』、太宰治『女生徒』、夏目漱石夢十夜』の3つの文学作品を朗読する米谷。自然の中に立つ制服姿の米谷の映像が、その作品の表現の一つ一つをより際立たせている。「美しい目の人と 沢山会ってみたい」、湖の中に入って傘差してるシーンが個人的なハイライト。個人の魅力というよりは、映像と文学との調和の上に成立している作品。米谷は「和」のイメージが強いし、こういう文系路線は非常に好き。あとはもうちょっとだけ舌足らずな語り口がどうにかなれば。

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渡辺梨加『私の好きな人。』

監督:橋本侑次郎

眼鏡かけてる渡辺梨加を見れるだけでもう十分ではあるが、不思議キャラや天然キャラを使ってシュールやポップな方向に逃がすのではなく、正面から"恋する女の子"を渡辺梨加さんに演じさせてくれてありがとうございますって感じで。意外とこういう渡辺梨加は珍しいと思う。ノースリーブのチェックのワンピースに眼鏡、100点。手紙に口紅でハートマークを書くシーン、1000点。

と途中までは思ってけど、オチはやっぱり渡辺梨加だった。でもそこも含めてめちゃくちゃ好き。

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上村莉菜『煙に巻く』

監督:中島望

奔放でわがままな上村莉菜は最高にかわいい。もうとにかくかわいい。そしてタイトルも伏線になっていて、最後に少しドキッとさせられる。なんにせよ、女の子がかわいく撮れてる映像は偉い。

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志田愛佳『ドラムス・シンバル・サバイバル』

監督:川口潤

渡邊理沙とともにザ・クールと言われる志田だが、そのイメージとは異なり内面は熱く、芯の通った信念を持っており、その意志を鼓動という形でドラムのビートで表現した、という風に解釈を勝手にしましたがどうでしょうか。ラスト、振り向いて見せる笑顔を見れば、そんな解釈は瑣末な問題なんですが。

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■長沢菜々香『私の夢』

監督:土屋隆俊

特技のバイオリンを張り詰めた静寂の中、ドレスアップして演奏する長沢菜々香の普段のキャラとのギャップがすごく、非常に女性的な彼女にドキッとさせられる。特技披露と本人コメントという意味では佐藤詩織の『Ballet』と大きく変わらないはずなのに、こちらの方が「おぉ!」という新鮮さがあったのは、個々に対して持ってるイメージとギャップがあったからだろうか。掘れば掘るほど隠し持っている。なー研入りたい。

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■渡邊理沙『Love Letter』

監督:月田茂

ぶっきらぼうで不器用な女子高生が、初めて好きになった人にラブレターを書くも相手から先に告白されてしまう。渡辺梨加の『私の好きな人。』も意中の相手に手紙を書くという話だったが、最後に自分の好きな人が誰かを忘れてしまい「ま、いっか」とすませてしまう渡辺梨加と、好きな人に先に告白され「なんかつまんない」と自分の手紙を破り捨ててしまう渡邊理沙。同じシチュエーションではあるが、お互いのキャラが導く異なる結末が好対照に光る。あと告白された瞬間に「なんか急に世界の音が聴こえだした」と音楽が流れ出す演出、ベタかもしれないけどそこからのカットが正に色が付いたように映ってとてもいい。渡邊理沙の表情には心の内を読ませないミステリアスな魅力がある。

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■長濱ねる『じぶんルール』

監督:柴田啓佑

転校を目前に控え「自分の決めたルールが果たされたら彼に告白する」、と決心するも、中々うまくいかない女の子を演じる長濱ねる。現実の長濱も長崎から上京し、東京の高校に転校したため元々通っていた長崎の高校の卒業式には出られなかった。そして親にアイドルになる道を反対され、一度は夢を諦めた。この物語の主人公は、そんな現実の長濱ねると大きくシンクロしている。作中の彼女が最後「ルールは破るためにある」と、自分で決めたレールを離れた先に待っていた結末。演技も思ったより自然で違和感なく、長濱ねるの良さが120%で出ている最高のビデオだと思う。「余は満足じゃ〜」って周るとこ、最高にかわいい。

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サヨナラの意味 - 橋本奈々未卒業に寄せて

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16thシングル

2016年11月9日。乃木坂46の16枚目のシングル『サヨナラの意味』がリリースされた。この曲は初期より乃木坂46の中心メンバーとしてフロントに立ち続けてきた橋本奈々未が初めてセンターを務めた楽曲であり、そして同時に、彼女の最後のセンターを飾る1曲となった。

表題曲「サヨナラの意味」は、美しいピアノのイントロに始まり、ストリングス、エレキギター、シンセ、そしてボーカル、コーラスと、それぞれのパートが曲が進むにつれ重なり合い、厚みを増していくミディアムバラードだ。「サヨナラに強くなれ」。選抜メンバー19人による重層的な歌声は、ただ悲しみに暮れるのではなく、別れを受け入れ、前に踏み出そうとする凛とした力強さを放っている。それは新しい一歩を踏み出す橋本の背中を押すような力強さと、見送る者の寂しさに寄り添う優しさに満ちている。まるで曲そのものが、彼女の芯の通った、しなやかな人柄そのものを映しているかのように。

昨年の6月に、乃木坂46からは深川麻衣がグループを卒業し、同年3月には彼女を送り出す作品として、乃木坂としては初めて、明確に一人のメンバーの卒業を受けたシングル、『ハルジオンが咲く頃』がリリースされた。同じ卒業ソングながら、この曲は去っていったものが残した慎ましさと逞しさ、温もりを感じさせる作品だった。ハルジオンの花言葉は「追想の愛」。もうここにはいなくても、その淑やかな美しさを何度でも思い出す。メンバーやファンから「聖母」と呼ばれた深川麻衣を思わせる、慈しみをたたえた楽曲だった。どちらも別れをテーマにした曲だが、「サヨナラの意味」には、別れへの揺るぎない決意が宿っていた。

最初で最後の握手会

2016年11月23日。幕張メッセで行われた全国握手会に行った。人生初の乃木坂の握手会。これまで一度も握手会には行かなかったが、橋本奈々未と握手できる最後のチャンスだったので、意を決して始発に乗り込んだ。幕張メッセに着いたのは午前6:30頃。 ミニライブが始まるのは午前11:00。4時間30分の待ち時間。でも不思議と苦ではなかった。これから橋本奈々未に会えるのかと思うと、何を話そうか、何を伝えようか、たった数秒の与えられた時間を使って、後悔ないと思えるほど自分の気持ちを正しく伝えられる言葉は何か、そればかり探していた。

午前11:00、ミニライブが始まった。披露されたのは表題曲「サヨナラの意味」を含めた、シングルに収録されている全7曲。初のライブ歌唱となった「ないものねだり」では、橋本が生歌を披露していた。歌が得意な人ではなかったと思う。緊張で声が震えていたようにも思う。けれど時折音程が不安定になりながら、言葉を綱渡りに紡ぎながら、無事に最後まで歌い切っていた。歌い終えた後、安堵からか、表情が緩み笑顔を見せた橋本の表情が印象的で、その姿を見れたことが嬉しかった。

握手会の列に並び始めたのは13:00頃。そこから握手会の会場に入るまで1時間ほど待つ。深川麻衣の卒業前の最後の全握が4時間待ちと聞いていたので、同じか、それより少しかかる程度の待ち時間は覚悟していた。もとより既に5時間以上待っているので、ここまでくると時間の感覚は麻痺している。

14:00頃、橋本奈々未レーンに入る。彼女との握手を待つ人で途方もない長さの列ができていたものの、「いよいよこれから会えるのか」という期待と緊張の気持ちの方が遙かに勝っていた。橋本がラジオやブログで好きと言ってはばからないSuchmosを聴いてその時を待つ。

待つ。待つ。iPhoneに入ってるSuchmosの曲は全て聴き終えた。アーティストを変える。

待つ。待つ。並び始めて2時間が経つ。幕張メッセの9〜11ホールに横たわる何重にも折り返した巨大な列の半分にも達していない。目を疑うような光景を前に、このままだと握手できるまでどう見積もってもあと4時間はかかると気づく。冗談のような現実を目の当たりにし、自分のやっていることが、途轍もなく罪なことのように感じられ、寒気がした。たった数秒の握手のために6時間待つ、どう考えても普通ではない。何よりも握手のために6時間待つということは、それ以上の時間、彼女はファンと握手をし続けるということだった。その列に並ぶということは、彼女の心と体を酷使することと同じことのように思えた。湧き上がる罪悪感と反吐の出そうになる気分から逃げたくなり、今すぐその場を離れてしまいたくなる。でも「この最後のチャンスを逃してお前は一生後悔しないのか」という声が頭をよぎった。なんのために今日ここに来たのか、これが本当に最後だぞ。そのもう1人の自分の、言い訳のような訴えが頭から離れず、その場から動くことができなかった。

待つ。待つ。どれだけ待っただろうか。楽しみなどという気持ちはとうに消え失せ、申し訳ないという罪悪感が寄せては返す波のように何度も訪れ、それでも並び続ける矛盾した自分を呪い、答えのない葛藤の中振り切った、ここまできたらやるしかないという放棄にも似た決意さえ見失うほど、ただただ時間が流れていった。

20:00、橋本奈々未レーンに入り6時間が過ぎた。最後の一列がやってくる。握手の時が近づくにつれ、それまで疲弊し、神妙な顔をしていたはずの周りのファンがみな、表情が生き返り、目が輝き始めた。もちろん自分もそうだった。「何を話そう」。それまでの6時間がなかったかのようにみな、目と鼻の先までやってきた未来の話に声が弾んだ。"アイドル"という存在の業の深さと、尊さを目の当たりにしたようで、そしてその形容しがたい何千人という人間の清濁併せた感情の渦の全てを、その身一つで受け止めようとする橋本奈々未という人に抱いた感情は、言葉にはなれず、心に溶けていった。

握手の時。間近で見る橋本は、テレビや雑誌で見るよりももっと華奢で、か細く、手も小さかった。椅子に座った彼女と握手をする。握り返す力はないに等しい。目が合う。

「アイドルになってくれてありがとうございます」

『ありがとう』

「ずっと、元気でいてください」

『ありがとう』

時間にして4秒。最初で最後の瞬間は、呆気なく終わった。その声は小さく、吹けば消えてしまいそうだった。ただ次の人と握手をする瞬間まで、離れ行く自分からも、彼女は合わせた目を一度も逸らさなかった。

「アイドルになってくれてありがとう」なんて、残酷な言葉だと思った。アイドルになったせいで経験した嫌なこと、辛いこと、悲しかった、忘れたいことさえ全て肯定してしまうような言葉だと思った。でも、絶対にそれだけではないはずだった。何より自分は、彼女がアイドルになってくれたから出会えた。アイドルだったから好きになれた。だからその選択に感謝したかった。乃木坂46になってからの、彼女のこれまでの全てに感謝したかった。

アイドルになってよかったと、思っていてほしかった。 

20:30、会場を後にする。どうするのが一番正しかったのかは未だにわからない。今なら違う言葉をかけたかもしれない。でも帰り道、「握手することを選んでよかった。」、それだけは確かに感じられた。

その日、橋本奈々未の握手が終了したのは、23:00を回った頃だった。

ラストライブ

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2017年2月20日乃木坂46の5th YEAR BIRTHDAY LIVE初日、そして橋本奈々未の誕生日でもあり、彼女が乃木坂46を卒業し、芸能界を引退する最後の日がやってきた。天気は曇りのち雨。二度と使うことはないとわかっているグッズを鞄に詰め、さいたまスーパーアリーナへ向かう。

場内に入ると、乃木坂のライブでは最大規模の、全面にLEDを配した巨大なメインステージと、会場中央にはセンターステージ、そしてそこから十字に伸びた花道が広がっていた。スタンド席の最上段からメインステージ裏のバックステージ席まで全て解放され、平日の18時開演にも関わらず、さいたまスーパーアリーナのスタジアムモードが35,000人もの人で埋まっていた。チケットの取れなかった人や地方に住む人、仕事や学校、色んな事情のあった人。来たくても来れなかった人が沢山いたであろう中、自分がこの場所にいれることは、少なくない幸運の巡り合わせのおかげなんだと、ふと思った。

開演。オープニング映像が流れる。紅白の楽屋での映像のようだ。みんなで手を繋ぎ円になり、2017年へのカウントダウンをしている。5.4.3.2.1.…「ハッピーニューイヤー!」。新年を祝福する輪の中で、誰かが言った「あと2ヶ月あるよ」。その言葉とともに、涙に目を抑える橋本の姿が映る。 

映像が終わり、センターステージに橋本が1人現れた。静寂の中、深々と一礼する彼女。1曲目は「サヨナラの意味」。最後のライブが始まった。

桜井「今日はどんなライブにしたい?」

橋本「私自身もこういうステージに立つのが最後になるから、この景色を焼き付けつつも、それ以上に、…皆さんが帰った後も、こびりついて離れないようなライブにしたい。」

この日はBIRTHDAY LIVEだったが、従来の時系列で乃木坂の歴史を追っていく曲順とは異なり、デビューから最新曲「サヨナラの意味まで」、曲を橋本自らもセレクトし、それぞれのシングルとアルバムから順番に披露していく「橋本奈々未」という人を振り返るようなセットリストだった。シングル曲は、その曲のセンターのメンバーに加え、橋本もセンターに来るスペシャルなフォーメーションで披露された。「指望遠鏡」、「やさしさとは」、「僕が行かなきゃ誰が行くんだ」、「革命の馬」、「ボーダー」、「制服を脱いでサヨナラを…」、「ここにいる理由」、「君は僕と出会わないほうがよかったのかな…」、「自由の彼方」。どれもシングルのカップリングやアルバム曲だが、どの曲も卒業ライブという別れの日に聴くことで、いつもとは違う意味合いを持ち、別の表情を見せていた。ただ卒業ライブの日であっても、自分の参加していないアンダー曲やユニット曲も関係なく入ったセットリストに、橋本の乃木坂46への想い入れや、その曲をパフォーマンスするメンバーへの愛情を感じた。橋本が乃木坂の曲で1番好きという「生まれたままで」は、同じ2月20日生まれの伊藤万理華とともに、センターステージの最上段で背中合わせになりながらの披露。曲が終わると、サプライズで伊藤万理華への誕生日ケーキが用意されていた。奈々未の卒業コンサートなんだからと、橋本を立てようとしゃがむ伊藤。万理華だって誕生日なんだよと、伊藤を祝おうとしゃがむ橋本。35,000人の中心にいた2人は、誰よりも小さくなり、笑い合っていた。

桜井「めっちゃ息切れてるね。」

橋本「やっぱりね、全てを出し切ろうとすると、息が切れちゃうね。」

桜井「珍しく汗かいてる。」

橋本「本当?」

桜井「綺麗だよ。」

橋本「(照笑)」

桜井「最後だから言っちゃった(笑)」

MCでのメンバーとの何気ないやりとりにも、終わりの時が近づく。

橋本「(センターステージで、行ったり来たりを繰り返す)こうしてみんなを見るのも、これが最後なんだなと思って。」

橋本「次が最後の曲になります。」

メンバーと抱き合いながら、笑顔の「孤独な青空」で、本編は終了した。

アンコール、衣装を着替え、1人現れた橋本。

橋本「私は「ないものねだり」という曲を歌っているけど、「ないものねだりしたくない」って歌っているけど…、こんなに素敵な景色を何度も何度も目の前にしているのに、別の道を進みたいと思うのが、いちばん「ないものねだり」だなと感じてます。」

橋本「私が選んだ道が正解であることを願い、きょう皆さんが私とお別れして、その先に、皆さんの道に、楽しいこと、うれしいこと、幸せなこと、これでよかったと思えることがたくさんあることを願っています。 」

そうして歌われた「ないものねだり」。

歌が得意な人ではなかったと思う。涙で声が震えていたようにも思う。途中、言葉に詰まる瞬間もあった。それでも自分の心の内をファンに伝えるように、揺るがない決心が、揺らぐことのないように、胸を張り、最後まで歌い切っていた。

「ないものねだり」の後のMCでは、サプライズで白石から橋本への手紙が読まれた。白石が泣きながら手紙を読む間、目に涙を浮かべながらも、橋本は白石の目を離さなかった。それは握手会の時、自分の目を見続けてくれたその姿と同じだった。

乃木坂46橋本奈々未、白石麻衣の手紙に号泣 卒業スピーチ&白石手紙全文 | ORICON NEWS

(手紙を読み終えて)

白石・橋本「ティッシュください(泣)」

白石「泣いてる私ブス」

橋本「かわいいよ」

白石「そっちこそ!」

橋本「うっ、やられた(泣)」

※白石と橋本が過去に明治チョコレートのCMに出演した際の2人のやりとり 

そして本当のラストへ。

橋本「アリーナのみんなありがとう。スタンドのみんなありがとう。上の席のみんなありがとう。ステージ裏のみんなありがとう。ペンライトを緑にしてくれてる人ありがとう。今手を上げてくれている人ありがとう。立ってくれてる人ありがとう。今日ここに来て、私を見てくれてありがとう。」

一つ一つに感謝の言葉を告げ、ステージ下手に向かい、移動式のステージに立ち、その時を迎える。アンコール最後の曲は「サヨナラの意味」。

移動式のステージに1人立ち、ファンに手を振りながら場内を一周する彼女。

「後ろ手でピースしながら 歩き出せるだろう」

ファンに背を向け、後ろ手でピースをしてみせる彼女の強さが、眩しかった。

「サヨナラに強くなれ」。乃木坂46全員による歌声は、悲しみを振り払うように、何度も、何度も、繰り返された。

ステージに並んだメンバーが1人ずつ、橋本と別れの言葉を交わし、ステージ裏へ下がっていく。齋藤飛鳥は、橋本の伸ばした手に応えようとせず、彼女の肩で泣いていた。最後の白石とは、マイクにも聞こえない2人だけの会話をし、お互いのこれまでの日々を認め合うように抱き合った。

「おわった!」「さようなら!」

会場上空へと上がっていくゴンドラの上で、最後の瞬間まで深く下げた頭を一度も上げないまま、約3時間半に及ぶライブと、5年半に及んだ橋本奈々未乃木坂46としての最後のステージは、幕を下ろした。

握手会の時に見た橋本奈々未は、散る寸前の花のようだった。華奢な体で、握り返す力も弱くなった小さな手で握手をし、それでも語りかけるファンの目は絶対に離さずに、全ての言葉に頷き、全てに言葉を返していた。その姿はあまりに儚くて、いますぐ散ってしまいそうだった。

でも卒業コンサートで見た橋本奈々未は、沈んでゆく夕陽のようだった。もうすぐ目の前からいなくなってしまうことなんて忘れさせるほどに、どこまでも眩しくて、何よりも輝いていた。人生で見た全ての中で、一番綺麗だった。見る人を照らす太陽は、その姿が彼方に沈んでも、また別の場所で昇り、その褪せることない輝きで、誰かを照らすのだろうと思った。

どうしたらこんな人になれるんだろうか。どうしてアイドルは、最後が一番美しいんだろうか。答えは見つからないまま、涙が止まらなかった。楽しいも、好きも、悲しいも、寂しいも、辛いも、全てが霞んでしまうほど、美しい最後だった。

サヨナラの意味

2017年2月23日。オフィシャルとしては最後の仕事となったSCHOOL OF LOCKの放送。ファンへ残した最後の言葉を聞いて、間に合ってよかった。この人と出会えてよかった。好きになれてよかった。ただ、そう思った。

https://youtu.be/5qkvSvJ5ZGo

 

2017年2月24日。最後のモバメが届いた。これが本当に、本当の最後。あっさりとした文体。簡潔な言葉。オセロの石が、一手で全てひっくり返るような、手にとって触れそうなほどの決意。余りにも軽やかで、そして力強い志を目の当たりにして、いつまでも悲しみを引き連る自分が恥ずかしくなった。握手会の時、瞬き一つせず自分の目を見続けてくれたように、彼女の視線は今、揺らぐことなく、目の前に広がる未来を見ているのだろう。

なんで彼女を好きになったのか考えた。外見の好み、もちろんめちゃくちゃある。可愛い子や綺麗な子は世の中に沢山いる。乃木坂なんて更に可愛くて綺麗な子しかいない。その中でも、顔も髪型も、ショートヘアーもロングヘアーも、ブランドや値段より好きなものを選んで着こなす服装も、所作も、極端なことを言わず自分と相手のことを考えて慎重に言葉を選ぶ言葉遣いも、優しくて、でもメンバーにもファンにも媚びない、人への接し方も、一番好きだった。何かのインタビューで好きな男性のタイプを聞かれた時「言葉がやわらかい人」と言っていて、そういう人間になろうと密かに思った。

音楽の趣味が自分に近いことにも勝手に親近感が湧いていた。以前ブログで好きなアーティストを書いた時、その内の一人に細美武士と書いていた。自分も彼のことが好きで、そしてELLEGARDENthe HIATUSとバンド名ではなく「細美武士」と書くところに、1人シンパシーを感じていた。最近ではSuchmosの話をすることも増えたけど、Suchmosを好きと言いながら、キュウソネコカミに感動する橋本奈々未が好きだった。

他にも好きなところを挙げれば沢山ある。でも、きっと1番好きだったのは、物事の考え方や生き方だったんだと思う。

「自分に正直に生きていたい」。

最後のアップトゥボーイのインタビューで語っていた言葉。客観的に物事を見つつも、ブレない自分の考えや意志をしっかり持っていて、感じたことを、時に素直すぎるほどに表に出す人。モバメでファンに思っていることをぶつけることも少なくなかった。正直そのメールを読むと、しんどい気持ちになることもあった。でも思い返せば、ブログでも昔からファンにもハッキリと思ってことを言っていた人だった。スタッフや関係者には"子供っぽい"ところもあると、メディアで書かれていたこともあったけど、それは自分の気持ちに正直であろうとしたことの裏返しだったんじゃないかと思う。卒業を発表したANNで、桜井と生田を呼んで「(この2人は)ズルくない」と言ったことが、ファンの中で憶測を呼んだこともあった。でもそれも、この2人は自分自身に対して嘘をつかない人だと、言いたかったんじゃないかと思う。ファンの目に見える部分なんてほんの一部で、全てはこちらの都合のいい解釈でしかないけれど、それを信じられるような、まっすぐな人だったと思う。

サヨナラは、その人がいたことの証だ。そしてサヨナラの数だけ、残るものがある。自分にとって、橋本奈々未が残してくれたものは生き様だ。

自分が人生でこの人のようになりたいと思っている人が一人いる。そしてそこに、橋本奈々未も加わって二人になった。それが自分より年下の女性アイドルになるとは思わなかったけど、カッコいいことや美しいこと、尊敬できるということに、年齢も性別も職業も関係ない。人生という道で、何千マイルも先を走る彼女の背中に追いつけるように、自分に正直に、自分らしく、自分の選んだ道を、自分で切り開いていく、そういう風に生きたいと、強く思った。「幸せになってほしい」なんて言葉を彼女にかけるのは100年早かった。まず自分自身が、それに足るふさわしい人間になりたいと思った。

ずっとありがとうございました。本当にお疲れ様でした。

出会えて、好きになれて、心から良かった。

こんな気持ちにさせてもらって、あんなにカッコよくて、美しい卒業を見届けさせてもらった自分は、アイドルファンとして、最大級に幸せなんだと思う。悲しいし、寂しい。それでもなお、これ以上望めないほどに、自分は幸せなファンだと思う。

いつか偶然でも、どこかで会えたらいいな。その時には「あなたのおかげで幸せになれました。」そう目を見て言えるような、正しい人間になっていたい。そんな期待は持つべきではないけど、期待が希望になって、希望が未来に変わるなら、夢見るぐらいは許してほしい。

 

でもそう望んでしまうのはきっと、ないものねだりなんだろう。

 


乃木坂46 『サヨナラの意味』


乃木坂46 橋本奈々未 『ないものねだり』

橋本奈々未 school of lock!最終回

 

 

27

2017年2月7日、27歳になった。2と7づくしだ。 気がつけばそれなりに大人になっていた。中学生や高校生の頃から考えたら27歳なんて完全に大人。仕事をバリバリやって、結婚もして、普通の、"正しい"幸せに向かうレールの上に乗って、あとはその道を走っていればいいだけのはずだった。

けど実際は精神性はロクに成長してないし、好きな仕事をしてると言えば聞こえはいいが、低い給料と不透明な未来を前に、いつか必ずくる決断の時をごまかしながらやり過ごす毎日。結婚どころか彼女もいない。自分が親なら「おまえこのままで大丈夫か?」とマジで心配になってくる。50年後どころか5年後さえ自分がちゃんと生きれてるか、不安を感じない日はない。

でも矛盾してるようだけど、自分のことはそんなに嫌いじゃない。26年間生きてきた中で、今が一番"良い人間"だ。10年前より、5年前より、1年前より、昨日より。「昔」と比べたら「今」の方がいくらかはマシな人間になれている、気でいる。これで人生で一番マシだなんて、今までがどんだけクソでしょうもない奴なんだって話だが、「自分」を誰よりも一番見てきた『自分』としては、間違った方向には進んでないんじゃないかと思う。もちろん、他の人と比べたらダメなところだらけで、自信を持てるところなんて未だ一つもない。それでも、過去のどんな自分よりも、『今の自分』が1番好きだ。

"良い人間"ってなんだろうか。自分で言ってみたものの答えはわからない。優しい人、誠実な人、言葉を選ぶ人、気持ちを伝えられる人、正直な人、自分に嘘をつかない人、大切な人を大切にできる人、努力のできる人、本気になれる人、夢を持ってる人、想像できる人、行動できる人。色々並べてみたけれど、他の人に聞いたら、全く違う答えが返ってくる気がする。

容姿のことで言えば自分はブサイクだ。こういうことは男性も女性も自分から言うものではないが、とはいえ現実問題仕方ないものでもある。でもカッコいい人間になりたいと思ってる。イケメンじゃない。自分の顔も好きじゃない。ただそれでも、いやそれならせめて、生き方のカッコいい人間にはなりたい。そう思ってしまっている。

優しい人間じゃない。何かしたって「人によく思われたい」「嫌われたくない」、そういった感情の裏返し。卑しい自分に"自分"が気づくと吐きそうになる。「自分のため」と割り切ることで、なんとか見て見ぬフリをしてる。でも少しでいい。何の感情も葛藤もなく、全てそうあることが当然のように、優しい人間になりたい。そう思ってしまっている。

口先だけのやつほどカッコ悪いものはない。綺麗事を並べてただ傍観してるだけでは信用に値しない。そういう人間にはなりたくない。吐いた言葉の1/10000にも満たない等身大の自分。迷いだらけの一歩を踏み出してみる。ダサくて、カッコ悪くて、情けなくて、惨めで、恥ずかしくて、痛々しい。頭の中で描いた妄想は何一つ叶わない。大したことのない人間。落ち込んで、傷ついて、呼吸が苦しくなる。思い出す度に羞恥心と自己嫌悪が全身を蝕む。もうこんな思いはしたくない。それでも、その踏み出した一歩の分だけは、マシな人間になれたんじゃないか。そう思ってしまっている。

結局"良い人間"なんてものに答えはなくて、目指すべきはただ「自分の"なりたい"自分」、それだけなんだろう。

「どういう人間になりたいか」、その姿を描ければ、進むべき方角に向かって歩んでいける。その道すがら、遠回りをしたり、迷ったり、立ち止まったり、つまづいたり、引き返したりすることもあるかもしれない。それでも、その霧の、その雲の向こう側に見える山の頂を見失わずにいられたら、今どんな場所にいたとしても、視線の先は揺るがずにいられる。

けど生きてれば雨の日もあれば嵐の日もある。目指したはずの頂を見失って、どこに進めばいいかわからなくなる日が来る。ただそんな時にだって、気づいていないだけで、誰よりも自分自身こそが、進むべき道を知っている。嬉しい、楽しい、悔しい、悲しい、むかつく、かっこいい、ダサい、寂しい、尊敬、憧れ、嫌悪、感謝、嫌い、好き。何度となく胸の内に灯る理屈を超えた心のサイン。昔馴染みの感情から、いまだ名前を知らないその想いまで。その心のサインが、進むべき方角を教えてくれる。「自分はどう生きたいか」。たとえ迷いや悩みの中にいても、その気持ちに正直に従えば、その先にはきっと、目指すべき山の頂が待ってる。

そして絶対に辿り着くことのないその山の頂を、死ぬまで目指すことを止めない人間になりたいと思う。完璧になれる日なんて永遠に来ない。でも死ぬ時、息を引き取るその最後の瞬間にこそ、自分の人生史上、一番良い人間になれてたらいいと思う。その山の頂に最も近い場所か自分の人生を眺めて、「悪くなかった」と思って死にたい。その時だって周りの人と比べたらクソ野郎のままかもしれない。それでもその時には27歳になった今の自分の、9000倍ぐらいは良い人間になっていたい。

音楽によって自分の人生は変わった。そう思える曲がある。そして自分の人生を変えた曲が、自分の生き方そのものになっている。

<いつかそんな言葉が 僕のものになりますように>

綺麗事を"綺麗事"と言う人がいる。でもやはり、物事がそうなっていく方がいいと、思ってしまっている自分がいる。

27歳、気がつけばそれなりに大人になっていた。言っても自分はロックスターじゃないからきっと27歳じゃ死なない。才能も能力も魅力もないしょうもない人間。だからこそ、まだ死ねない。良い人間になりたい。答えのない山の頂は果てがない。辿り着くことのない「いつか」。

でも"いつか"、そんな日が来ることを信じてる。

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無題

『マチネの終わりに』という本を読んだ。芥川賞作家の平野啓一郎氏の著書で、アメトーークの読書芸人でも取り上げられ、話題となっている作品だ。内容に関しての詳しい言及は避けるが、この作品は「愛」の物語であり、そこには運命的に相手を愛するも、深く、深く相手を想うあまりすれ違ってしまう男女が出てくる。そしてこの本を読んで、Mr.Children桜井和寿が「愛とは想像すること」と語ったいつかのライブでのMCを思い出した。

個人的な話になるが、最近失恋をした。正確に言うと失恋は続いているのだが。自分の行いにあまり悔いはない。自分の気持ちと行動に自分で説明がつけられるし、フラれたこと自体は辛いが、納得できる。

そして今までであれば、納得していれば、その果ての結果が"失敗"であっても「仕方がない」と受け入れ、諦めることができた。自分でも驚くほどに潔く。

しかし今回は違った。納得し、後悔もないにも関わらず、いまだ全く心の中から退場しようとしない自分のその子への好意を、持て余し、どうすればいいかわからなくなっている。そして、「後悔」ではない「未練」という言葉の意味を、おそらく人生で初めて体感している。

 「未練」という居候との生活の中で、色々なことが頭をよぎった。

今までなんとも思っていなかったback numberの曲を聴いた。雷に打たれたような衝撃が走った。「これおれのことやん!!!!!」back numberを聴いてる人たちは、少なからずみんなそうなったことがあるのかな。ただ自分にはその子との、指折り数えるようなたいした思い出はないのだが。

母親を亡くした人のことを思い出した。もう2度と会えなくなってしまった肉親を想うその人と、ただ好きな人にフラれたのに諦めきれてないだけの自分の気持ちを重ねるなんて、その人に失礼極まりないし、一緒にするなとブン殴られても文句は言えない。でもその重さも色も形も深さも、何もかも違うけど、その胸を締め付ける苦さは、同じ名前をしている気がする。

その子にフラれた次の日、会社の人と朝の3:30までお酒を飲んだ。これまでお酒に走る人の気持ちはわからなかったが、確かにお酒を飲んでいると辛い気持ちを忘れられる。お酒も良いものかもしれないと、酔いと吐き気に塗れながら、始発まで仮眠しようと会社に帰った。しかしふと冷静になると、チクチク胸を刺すような気持ちが一瞬で心を満たしていき、気がつくとTwitterのアカウントを消していた。7秒後、そんなことをしても何の解決にもならないことに気づいた。いや、そんなことは知っていた。本当はただお酒のせいにしたかっただけだ。でもきっと衝動というものは、時に浅はかなのかもしれない。

「愛とは想像することだ」と大風呂敷を広げ、他人の気持ちをわかったような顔をすることは、ひどく傲慢かつ尊大だと思う。けれど未練を知ったことで、「あの人もこういう気持ちなのだろうか」と、それまでは陽炎のようだった"想像する"という行為が、その輪郭を表し、少なくとも視界に捉えられるぐらいには、実感できた。

先週MONOEYESのライブを見た。今まで目の前で他の客が肩車をしたりサークルを作ったりすると、一瞬だが、心の中で舌打ちをしたくなるような気持ちになっていた。邪魔だし、自分には理解できないと。けれどその日初めて、目の前で何が行われようと、どんな目に逢おうと、ただの一度もイヤな気持ちにならなかった。細美が言った。「おれたちはみんな違う人間で、それぞれ楽しみ方も違えば、価値観も違う。でも思いやりは忘れるな。」

思いやりが何を指すのかはわからない。でもきっとここにいる人たちはみんなMONOEYESが好きで、このライブを最高に楽しんでいて、そして自分もMONOEYESが好きで、今このライブを最高に楽しんでいる。その場にじっと立ってる人もいれば、手拍子をしてる人もいる。大声で歌っている人もいれば、踊ってる人もいて、サークルを作る人も肩車をする人もいる。

ただ「好き」や「楽しい」という気持ちの表現の仕方が、みんな違うだけなんだ。そしてきっと、その「好き」や「楽しい」と思うその気持ちそのものは、みんな同じなんじゃないか、そう思った。自分と、サークルを作る人や肩車をする人たちが、同じようにこの場所に抱えてきた気持ちを想像した。「楽しみだ。」「ワクワクするな。」「良い夜になるといいな。」合ってるかはわからない。でも想像してみた。初めて、心からそう考えることができた。同じ気持ちを持っていた。涙が止まらなかった。

みんな、違う人間だ。好きなものも、嫌いなものも、好きなものを好きなポイントも、嫌いなものを嫌いなポイントも違う。見え方も、その受け取り方も、考え方も、価値観も、そしてそれを表現する方法も違う。

でももしかしたら、その1番始まりの場所にある、気持ちそのものは、そんなに違わないかもしれない。好きなものを「好き」と思う気持ちや、嫌いなものを「嫌い」と思う気持ち、喜び、怒り、悲しみ。もちろん完璧に一緒ではないかもしれない。でも心の中にあるそれは、自分たちが思ってるよりもずっと同じかもしれない。

みんな、違う人間だ。でも同じ人間だ。そう思うと、なんだかいくらでもわかりあえるような気がしてきた。

花が咲いていたら、もちろん、花に目がいってしまう。同じ場所にそれぞれ違う花が咲いていたら、その花の色や形の違いに気を取られてしまう。でもそのそれぞれ違う花も、同じ太陽の光を浴びて、同じ雨に打たれ、同じ地面に根を張っている。目には見えないけど、きっとそうなんだと思う。

想像してみようと思う。想像したところで、人の気持ちなんて一生わからない。そもそもその想像が足りてるかもわからない。想像して出した答えが、望まれているものと違うかもしれない。でも、想像してみようと思う。

自分と一緒にいて楽しいのか、その子がどう思ってるのか、不安だった。でもそう想像した瞬間から、本当は始まっていたのかもしれない。そう想像した瞬間から、彼女のことが好きだったのかもしれない。

最近パクチーを食べれるようになった。前までは本当に苦手で、唯一嫌いな食べ物とまで言っていた。でもその子がパクチーを好きと言っていたから、どこが好きなんだろうと想像するために、食べてみた。結局その子がパクチーの何が好きなのかはわからずじまいで、口の中にはあのクセのある味と香りが広がるだけだった。でも気がつくと、パクチーを食べれるようになっていた。

そしてそれは、悪いことではないんじゃないかと思ってる。

2015年 年間ベストディスク10枚

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【総括】カヲルが選ぶ2015年 年間ベストディスク10枚 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

 

10位 mol-74『越冬のマーチ』

 京都の3人組オルタナティブバンド、mol-74(読みはモルカルマイナスナナジュウヨン)。
北欧のバンドのような冬の刺すような冷たい空気を思わせる透明感と静けさを持ち、そしてボーカル武市のハイトーンボイスが奏でる美しいメロディが幻想的な雰囲気を生み出している。初の全国流通盤の今作は3rdミニアルバムとなり、「冬」そのものと春に至るまでの「過程」としての『冬』を表現しているという。編成は3ピースだが、"冬の海のスーベニア”では浜辺に寄せる波の音も流れ、多彩な音が"冬"を演出している。アルバム全体の色はモノトーンで、エレキギターに鉄琴、ピアノやシンバル、ハイハットの冷たい感触の音使いが冴え渡っている。しかし、だからこそ時にアコースティックギターの有機的な音色は聴く者の心に温もりを添えている。また、喪失や孤独を歌う武市のボーカルも時に冷たく、時に優しく、そのどちらにも表情を変えている。
 聴いてテンションが上がるわけでも下がるわけでもない。特に歌詞に共感したり新しい気づきがあったわけでもない。でもなぜか今年出会ってから、ふと脳裏に浮かんでは何度も聴いた1枚。それも寒い冬の日ほどなんだか聴きたくなってくる不思議。mol-74は今年「まるで幻の月を見ていたような」というミニアルバムをもう1枚リリースしているが、この『越冬のマーチ』の方がよく聴いていた。これから冬が訪れるたびに思い出しそうなアルバム。


mol-74 - グレイッシュ 【MV】

9位 乃木坂46『透明な色』

 デビュー作"ぐるぐるカーテン"から10thシングル"何度目の青空か"までのシングルに新曲を加えたDISC1と、これまで発表されたカップリング曲の中からファンの人気投票で選ばれた上位10曲を収録したDISC2との2枚組の今作(通常盤はDISC1のみ)。AKBグループの王道としてはエレキギターに泣きの入ったメロ、疾走感のある曲が多いが、乃木坂の楽曲にはファルセットの効いたユニゾン、丸みのあるシンセやストリングス、そして(特に)ピアノが多用されている。その路線は"君の名は希望"で確立され、AKB48の公式ライバルとして生まれた乃木坂46だが、今では差別化に成功し完全に自分たちのオリジナリティを獲得した(最新シングル「今、話したい誰かがいる」の収録曲のイントロピアノで始まり過ぎ問題なども起きているが)。
 ほぼほぼベストアルバムのような内容でコアなファンにとっては新曲以外物足りない内容かもしれないが、僕のようなライトファンにとっては「とりあえずこのアルバムを聴けば乃木坂の曲はある程度は押さえられる」という網羅性の高さがありがたかった。また、このアルバムを聴いて"おいてシャンプー"や"私のために 誰かのために"など、シングルがリリースされた当時にはそこまで気にしていなかった曲の良さに新たに気づくことができた。加えて乃木坂の楽曲、そして彼女たち自身の持つ"清廉さ"、"透明感"、"奥ゆかしさ"を1枚を通して感じることができ、改めて乃木坂を好きになった。そんな"再発見"と"再確認"ができたのも個人的には非常に良かった。あとDISC2のカップリングの人気投票1位曲が"他の星から"っていうのがホント良い(自分が好きなだけ)。2016年は乃木坂専ヲタになるぞって感じで。


他の星から.

8位 RYUTistRYUTist HOME LIVE』

 2011年に結成された新潟市古町を中心に活動する4人組アイドルグループRYUTist。メンバーは全員新潟生まれ新潟育ちで、グループ名も新潟を表す「柳都(りゅうと)」という言葉に「アーティスト」を加え「新潟のアーティスト」という意味を込め名付けられた。普段は「LIVE HOUSE 新潟SHOWCASE』で定期的に公演を行っており、県外でライブを行うのは年に数回と非常に限られている。そんな彼女達の初のフルアルバムとなる今作は、その彼女達の定期公演「HOME LIVE」をそのままパッケージしたような構成となっている。入場時のSEや自己紹介のMCは臨場感を与え、終盤に向けドラマチックに盛り上がっていく流れは、1枚を通して聴くことで、まるで彼女達のライブ会場に足を運んでいるような感覚になれる。収録されている楽曲は80's〜90'sを彷彿とさせる純度の高いポップスばかりで、上質なメロディとメンバーそれぞれのボーカルがお互いにコーラスしながら伸びやかに広がっている。そしてそのどれもに、素直で真っすぐな想い、ひたむきかつ真摯な姿勢が表れている。
 今のアイドルシーンは雑多なジャンルの音楽が混ざり合い、中には奇を衒ったものも少なくないが、ここまで逃げずに正面から"アイドルのポップス"を全うしているRYUTistの存在は尊い。"Beat Goes On! 〜約束の場所〜"、"ラリリレル"は聴いていると泣きそうになってしまう。日々の小さな幸せを、新潟と古町への愛を、曇りのない希望を、ステージの上で喜びとともに表現するRYUTist。一生の内4/5ぐらいはRYUTistを見てる時の気持ちで過ごしたい。


【PV】 Beat Goes On~約束の場所~ RYUTist(りゅーてぃすと)| 新潟市古町生まれのアイドルユニット!

7位 田我流とカイザーソゼ『田我流とカイザーソゼ』

 山梨を中心に活動するラッパー田我流によるバンドプロジェクトのスタジオアルバム。「田我流とカイザーソゼ」という名前だが別にカイザーソゼというアーティストとコラボしている訳ではない(僕は名前を見た当初完全にそう思った)。田我流とstimというバンドを母体とした計10名による今作は田我流の既存曲をバンドアレンジで再録した楽曲に新曲を加えた計9曲を収録している。田我流のソロと比べると生バンドになったことでジャズやソウル寄りのアプローチが強くなっており、アルバムを通してバンドセッションによる心地いいグルーヴを感じられる。また、田我流のラップも言葉のメッセージはそのままにサウンドの一つとしても音に溶けこんでおり、非常にリラックスしたままあっという間に1枚を聴き終えてしまう。名曲"ゆれる"も別アレンジとなり新たに収録されているが、少ない音数である種の緊張感を放ちながら"言葉"の立っていたオリジナルよりも、言葉も音に包まれより丸みを帯び、聴けば自然と体の揺れるアレンジへと変貌している(どちらのバージョンも素晴らしい)。
 CDショップで試聴して「これは!!!」と鳥肌が立ち即購入した今年数少ない作品。日々のBGMとして一人の時間を楽しむもよし、耳に飛び込んでくる田我流の言葉と向き合い己を省みるもよし。気を張らずに何度でも聴ける、聴きたくなる。


LIVE FILE : 田我流とカイザーソゼ

6位 RAU DEF『Escallete II』

 2010年にRAUDEFが20歳の時にリリースしたアルバム『Escallete』の続編と言える今作。SKY-HIの主宰するBULLMOOSEからの移籍第一弾作品となり、『Escallete』同様PUNPEEがトータルプロデュースを担当している。SKY-HI、PUNPEE、5lack、MARIA(SIMI LAB)、ZORNを客演に呼んだ華のあるアルバムだが、とにもかくにもRAU DEFのラップが凄まじい。「Escallete』をリリースした際のインタビューで「リリックよりもカッコいいラップをすることが大前提」と言っていたRAU DEFだが、彼の持つ滑らかなフロウと語感の噛み合った抜群の気持ちよさを感じさせるラップは、連続した音の波となって次々と鼓膜に打ち寄せてくる。また、リリック面でも自身の紆余曲折のこれまでが経験として反映され、言葉の重みが増している。特にSKY-HIとの"Victory Decision"、"Sugbabe(PUNPEE)がフィーチャリングした"FREEZE!!!"ではリリシストとしての成長が伺え、"Gr8ful Sky"では『Escallete』収録の"DREAM SKY"からの引用もあり、継承と進化を見せている。
 アルバムの要所要所でPUNPEEのボップセンスが遺憾なく発揮されており、通して聴いた時の耳馴染みも良い。収録曲も適度で1枚を通して聴きやすく、HIPHOPリスナーだけでなく幅広い層に好まれるであろう作品。聴き終えた後、爽やかな爽快感さえ感じられる。今作のリリースに伴ったライブは予定されていないようだが、彼のラップを生で聴ける日が待ち遠しい。

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5位 MONOEYES『A Mirage In The Sun』

 ELLEGARDEN/ the HIATUSのボーカルである細美武士がフロントマンを務める新バンドMONOEYESの1stアルバム。結果としてバンド名義の作品となったが、元々細美はソロとしてアルバムを作る予定だったため、このアルバムに関しては作詞・作曲はもちろん全ての曲の指揮を細美がとっており"細美武士のアルバム"と言っても過言ではない。ELLEGARDENを知っている者はその名を思い出さずにはいられないような、ストレートでメロディアスな楽曲群。しかし、カラっとしたパンクサウンドというよりはどちらかと言えば重厚でタフなロックアルバムとなっている。そして<I'm against the new world.>と歌う"Cold Reaction"から始まる今作には、ELLEGARDEの頃から変わらずに貫き続けてきた細美の潔癖なまでの美学と闘争、生き様が刻みこまれている。
 正直言ってこのアルバムを年間ベストに入れるかは迷った。しかし今年を振り返った時、これほどリリースを待ち望んだ作品はなかったし、12年前にELLEGARDENと出会って人生が変わった自分にとって、12年後の今も細美武士が変わらないアティテュードで歌い続けているという事実が持つ意味は途方もなく大きかった。おそらくこれからの人生、ELLEGARDENを聴き続けてきたように、MONOEYESのこのアルバムも聴き続けるだろう。こんだけ書いといて5位かよって感じだけど、自分にとってはとても大切なアルバム。


MONOEYES - My Instant Song(Music Video)

4位 校庭カメラガール『Leningrad Loud Girlz』

 他ジャンルの音楽とアイドルポップスを掛け合わせ、音楽ファンへ目配せしつつ市場にアプローチするアイドルが次々と現れた結果、今では焼け野原となってしまった現在のアイドルシーン。そんな荒野に現れたのが6人組のラップアイドルグループ、校庭カメラガール(通称:コウテカ)。彼女たちは「ラップアイドル」ではあるが『ヒップホップアイドル』ではない。ラップという「手段」を駆使し全く新しい音楽を鳴らそうとしている。そのサウンドはジャズにファンク、ジャジーヒップホップにエレクトロやテクノ、跳ねるようなビートと近未来的なシンセ、アブストラクトな音像からアニソンのようなバンドサウンドまでもが渾然一体として存在し、ジャンルでは説明不能なミュータントと化している。
 今年コウテカは『Ghost Cat』というミニアルバムをもう1枚リリースしており、そちらでもその奇天烈な音楽性は発揮されているが、このアルバムとの違いは『Leningrad Loud Girlz』にはコウテカの"アイドル"としての物語が投影されていることだ。オリジナルメンバーであるましゅり どますてぃの卒業という現実の出来事によって、幸か不幸かコウテカのリリックにはグループのストーリーが宿り、その感情の渦はダイレクトに曲に跳ね返っている。<ここで歌ったこと 覚えててね 私がいなくなっても >と歌う"Last Glasgow"のエモーショナルは前作にはなかったものだ。混沌としたサウンドと"アイドル"が持つ刹那のドラマが合致したこのアルバムは、2015年のアイドルシーンの中でも異質な存在感を放っている。ラスト<諦めたあの娘の分も走るよ 僕が>と歌う"Lost In Sequence"がめっちゃ泣ける。ここまでやってしまって次があるのかという気もするが、そのぐらい他の追随を許さない1枚。

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3位 KOHH『梔子』

 2012年に発表したMIXCD『YELLOW T△PE』が注目を集め、昨年リリースされた2ndアルバム『MONOCROME』により一気にシーンの寵児としての頭角を現した現在25歳のKOHHの1stアルバム(1stアルバムより先に2ndアルバムがリリースされている)。「自分の中にある言葉しか使わない」というKOHHのリリックは平易な単語や話言葉で綴られており、そのテーマはライフスタイルや地元の仲間、自身の価値観、ふと浮かんだテーマまでもがインスピレーションのままに、高い瞬発力でもって落とし込まれている。先に発表された『MONOCROME』では作詞においてこれまでにないシリアスな面を見せていたが、今作は初期のKOHHのイメージに近いフロアでも映えるチャラさや適当さも残っている(今作に収録されている"Junji Tkada"に至っては本人曰く全て「適当」で30分でできたそうだ)。ポストダブステップやトラップの重いナイーブなトラックに乗る、メロディと同居した音を伸ばす彼のフロウは心地よさも備えている。
 今年KOHHは3rdアルバムの『DIRT』もリリースしているが、全体的に暗くダウナーなサウンド、死生観の強くなったリリックに叫ぶようなフロウが目立つ『DIRT』よりも『梔子』の方を好んでよく聴いていた。メロディアスかつ、軽さとシリアスさのバランスの取れたこの『梔子』はKOHHの作品の中でも最も聴きやすいアルバムだろう。特に"飛行機"は今年のHIPHOPで一番を争うくらい何度も聴いた。KOHHを見ているとタトゥーやドラッグ、SEXのような危ういテーマも、それが飾らないありのままの彼の姿であることがわかる。その人生から滲み出た言葉は、確信を持った説得力とともに聴く人の先入観を飛び越えていく。こんな入れ墨だらけの、見るからにヤバそうな人の音楽を、悪そうなやつは大体友達じゃない青春時代を送った自分がこんなに聴くとは思わなかた。

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2位 OMSB『Think Good』

 ヒップホップグループSIMI LABのMCとしても知られるOMSBの3作目となるソロアルバム(1枚はビートアルバム)。この『Think Good』は全17曲(interlude含む)、彼の中に溜め込まれたマグマのようなフラストレーションとも言うべき感情が、黒く太いビートとなりうねりを上げ、マグナム銃のような強度のラップとともにひたすらに突き刺さってくる目の覚めるようなアルバムだ。特に今作における彼のラップの強度は半端じゃない。もちろん、リリックではニクい引用や彼自身のラフな言葉で巧みに韻も踏んでいるし、大蛇のように獰猛なフロウと相まい、ただビートとラップを聴いているだけでも、その放たれるエネルギーに当てられ体温の上がってくるような曲ばかりである。しかし、歌詞カードなしで聴いても、気がつけば詩の一つ一つが次々と頭を殴りつけてき、否が応でも彼の言葉に耳を傾けざるを得なくなってしまっている。
 1stアルバム『Mr."All Bad Jordan"』では彼の内にあったフラストレーションはどちらかと言えば「怒り」の感情となって発露されていたように思う。一方、今作では『Think Good』というタイトルが示す通り、内省を経て、ポジティブな原動力へと変換されている。葛藤を経て吐き出された彼の言葉は全てがパンチラインと言っても過言ではない。中でもアルバムタイトルと同じ名前を冠した"Think Good"はverseやHookといった定型を破壊し、6分4秒間、OMSBの内部から溢れ出たドロドロとした感情の塊が、尋常ではない熱量とエネルギーを放出しながら、自己を肯定していく前向きなメッセージとして迸っている。このアルバムを聴くと自分の中にある燻っているものに火がつき、目の醒めるような感覚になる。ジャンルでは決して説明できない、殺気さえ感じる情熱が生んだ傑作。

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1位 bacho『最高新記憶』

 2015年に初めてその存在を知り、そして2015年最も聴いたバンド。兵庫県を中心に活動する4人組バンドbacho、その10年以上の活動期間の中で初めてのフルアルバム『最高新記憶』。4人編成のシンプルで無骨なバンドは、ハードコアバンドのような激しさとダイナミズム、つんざくようなエモーショナル、日本語パンクのような哀愁と泥臭さをぶちまけている。そして4人のバンドマンは最後の一振りかのようにドラムを叩き、全霊を込めるかのようにベースを叩き付け、むさぼるようにギターを搔き鳴らし、音楽にしがみつくように歌う。彼らは自分たちの音楽を「負けた者の音楽」と言っている。メンバーは平日は別の仕事をしており、週末にバンド活動を行っている。言ってしまえば音楽だけでは食べることの出来ていないバンドマンだ。しかし、メンバーチェンジを経ながらも結成してからの13年間、音楽を愛し、信じ続けた。そしてそんな音楽を愛し、信じた自分たち自身を諦めきれず、信じ続け、そして今もバンドを続けている。物事において続けることが常に偉いわけではない。けれど、続けてきた彼らにしか出来ない音楽、歌えない歌がある。そしてこのアルバムには、そんな彼らの歩みとも言える挫折や葛藤、打ち拉がれた想い、それでも諦めきれない信念と決意、眩しいほどの情熱と覚悟が1枚のアルバムとして結実している。それは音楽ではなくとも、同じように日々を生きる僕らリスナーの心を奮い立たせ、勇気付け、立ち上がる力をくれる。
 2015年の日本の音楽シーンを振り返った時、後に語られるのは星野源の『YELLOW DANCER』かもしれない。しかし、bachoのこの『最高新記憶』は、一人の人間の人生を変え、死ぬまで一緒に歩み続けてくれるアルバムだ。おれたちの幸せはこんなもんじゃない。拳を突き上げ共に歌おう。更新する未来、最高の新記憶。自分の人生を諦めていない全ての人に贈りたい1枚。

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【雑感】

 選んだ年間の10枚を振り返ると基準は「何度も聴いた」がテーマだった気がします。

 今年は多くのサブスクリプションサービスが正式にローンチした年だったとも思いますが、僕は先日やっとApple Musicに登録しはじめたぐらいで、正直この手のサービスは全然使いませんでした。(今Apple Music使ってて「これ凄くない?」と思い始めてるので来年はめっちゃ使うかもしれませんが)。あと年間ベストアルバムとして10枚選びましたけど、枚数自体は全然聴いてません。おそらく5,60枚ぐらいしか聴いてないと思います。でもその少ない中でも印象に残ったもの、何度も聴いたものが年間ベストを決める時には頭に浮かんだ気がします。bachoとか、本当何十回も聴きました。

 もちろん世の中には知らない音楽が無数にあって、その中に自分が好きになれたり、それこそ人生を変えるような音楽があるかもしれないので、サブスクもYouTubeもレンタルも全部使って新しい音楽は気にしてたいですが、「好きなものを好きなだけ聴く」というリスナーとして当たり前の感覚は忘れずに、来年も良い音楽に出会えればいいなと思います。

2015年お疲れ様でした。皆様よいお年を。

 

musicoholic presents『This song vol.3』@下北沢モナレコード act: MC KOSHI(O.A)、SANABAGUN、仮谷せいら、GOMESS

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【ライブレポ】musicoholic presents『This song vol.3』 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

■20150215

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2月15日、musicoholic3度目となる自主企画『This song vol.3』が下北沢モナレコードにて行われた。『This song』とはmusicoholicのメンバーであるヤットが中心となり「今、この音楽を聴いてほしい!」という想いをもとに、ジャンルやシーンを問わず、ライブを生で見て欲しいというアーティストを招いて行うイベントである。
 2012年10月にONPA MOUNTAIN、BRADIO、barbalip、With A Splash、ill hiss cloverを呼んで池袋マンホールにて開催された第1回、2014年6月にShiggy Jr.、HOLIDAYS OF SEVENTEEN、R (from FAT PROP)の3組が、アコースティックセットで下北沢モナレコードに集った第2回を経て、今回で3度目の開催となった。
 まず一組目、オープニングアクトとして登場したのは、HIPHOPアイドルグループlyrical schoolのバックDJや作詞で活躍する岩渕竜也ことMC KOSHI。 過去にラッパーとしても活動していたが、本人曰くライブをするのは3年振りとのこと。何度かlyrical schoolのイベントではフリースタイルを披露し、自身のsoundcloudには音源を上げていたが、おそらくほとんどの人にとってそのライブはベールに包まれたものだったろう。
 そんな中1曲目に歌われたのは"そういう男に"。イベント前夜にYouTubeの彼のアカウントにリハスタでの映像が突如アップされた楽曲だ。これまでlyrical schoolに提供してきた彼の歌詞は、あくまで女性(アイドル)が歌うことを考えて作られた「男性の考える女性目線の歌詞」だった。しかし、この曲では「辛い悩みから決して逃げない 深い闇から目を逸らさない」と、彼の内面を反映させたような男性目線の硬派なリリックが、決意表明のように力強く歌われている。
 その後も「昨日はバレンタインデーだったので」と歌われたメロウなラブソング"君のせい”など、ゆったりとしたトラックと堅実なライミングを披露、初見でまだ固かった観客も次第に音に身を任せ揺れ始める。"リクルート"では、自身の就職活動とHIPHOPの道に進むきっかけとなった瞬間をメロディアスにラップした。その曲の最後、バックDJの浅野(lyrical schoolスタッフ)が次の曲への繋ぎを失敗してしまうハプニングもあったが、「いいんだぜ間違えたって。間違いながら何かに逆らうんだぜ。」と"リクルート"の歌詞を引用しながらすぐさまフリースタイルでフォローを入れる一幕も見られた。全6曲。短い時間ではあったが、岩渕竜也ではなく一人のラッパーとして、3年ぶりとなるMC KOSHのライブIはステージに華を添えた。

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MC KOSHI セットリスト
1. そういう男に
2. platinum days
3. 封筒
4. 君のせい(原曲:Midnight / Midnight DEMO by KOSHI-03 | Free Listening on SoundCloud
5. リクルート
6. see you again

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続いて登場したのはSANABAGUN。渋谷で毎週ストリートライブ(現在はお休み中)を行う8人組のジャズHIPHOPバンドだ。この日、saxの 谷本大河が入院治療中のため欠席となり7人でのステージとなったが、お馴染みのオープニングナンバー"Son of A Gun Theme"、"M・S"と続けた、その後は新曲をお披露目、ジャズシンガーの高岩遼の色気のあるボーカルの活きたブルージーな一曲にモナレコードの木目の温かい雰囲気がよく似合っていた。
 しかし、そんなムードある曲で聴かせたと思えば、次の"大渋滞"では縦ノリのタイトなリズムに乗せ、MCの岩間俊樹が「みんな金払って今日来てるんだろ?」とステージからフロアに降り客席を煽り立てる。かと思えば"Stuck In Traffic"では高岩が物販エリアまでやってき、ユーモアを交えながらグッズの売り子を始めだす(この日欠席していた谷本大河の生写真が通常は5000円?のところ300円で販売されていた)など、変幻自在のSANABAGUNペースで客席を掴んでいく。そして終盤"Hsu What"では再びジャジーな横揺れのグルーブで客席を魅了し、「メイクマニーしてる間に まず墓」という不思議なフレーズのコール&レスポンスと合掌の振り付けで観客を一つにする"まずは「墓」。"で本編トップバッターを締めてみせた。
 SANABAGUNは全員が平成生まれであり、自分達でも「レペゼンゆとり世代」を公言している。しかし、彼らはそれぞれ微妙に年齢も出身地も異なり、まだ若いながらも各々が別々の音楽活動を行っていた下積み時代も経験しているグループだ。その8人が今SANABAGUNとなり、ジャズやブルースとHIPHOPを巧みに折り合わせたグルーブと人を惹き付けるキャラクターで、渋谷のストリートから徐々に旋風を巻き起こしつつある。彼らのその確信犯的なシニカルさと即興性の高いエンターテイメント力のあるステージは、雨にも負けず、風にも負けず、警察にも負けず、ストリートでその場を通り過ぎていく人並相手に鍛え上げられた度胸と経験、そしてそれぞれの下積み時代に培われた技術に裏打ちされたものだ。それがストリートでも、ライブハウスでも、モナレコードでも、変わらないSANABAGUNのライブを支えている。
 この日はモナレコードという会場の雰囲気に合わせてか、持ち曲の中でも比較的BPMも抑えめの曲が多く、普段よりも「聴かせる」一面を見せてくれたが、どの場所でライブをしようとSANABAGUNはSANABAGUN。そんな確かな演奏力と変わらぬエンターテイメント性を感じさせるようなステージだった。 

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SANABAGUN セットリスト
1. Son of A Gun Theme
2. M・S
3. 新曲
4. 新曲
5. 大渋滞
6. Stuck In Traffic
7. Hsu What
8. まずは「墓」。

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3組目に登場したのは仮谷せいら。この日のHIPHOP色の強い並びの中では、唯一、紅一点のポップスシンガー・ソングライターだ。彼女の真っすぐで伸びのある歌声と、彼女が描くその等身大の詩世界が、それまでのモナレコードの雰囲気をガラっと変える。"NMD"では「お金がないから 遊びに行けないね。外は晴れでも 誰にも会えずに。」とお金のないことが生む寂寥感を赤裸裸に綴っている。そんなありのままの彼女のメッセージは、きっと誰もが一度は体験したことのあるであろう普遍的な感情と重なり、聞く人を選ばずその心にすっと入りこみ、胸を包んでゆく。また、レーベルメイトのgive me walletsとのコラボソング"Yes,I Do."ではシンセポップをバックに全編英語詩を歌い上げ、「おそらく最初で最後」と彼女が作詞として参加したFaint★StarのEDMナンバー"メナイ"の自身によるカバーも披露するなど、ウェットや艶を感じさせる歌声も披露された。彼女が高校1年生の時に書いたという"大人になる前に"は、彼女が21歳となった今も、大人への階段を昇っている彼女の「今」の言葉として響き、聴く人の背中をそっと押してくれる。ステージの上で手拍子を煽る彼女の笑顔に、客席も自然と顔をほころばせる。最後はtofubeatsの1stアルバム『lost decade』に収録されている"SO WHAT!?"で爽やかな幸福感を残し、自身初の9曲となるロングセットのライブをやり遂げた。
 彼女の音楽を端的に表すのであれば「ポップス」という言葉になるのだろう。繊細な心の機微をストレートな歌声とシンプルな言葉で表現してゆく。しかし彼女の場合それはジャンルや音楽性だけではなく、彼女のステージでの笑顔、振る舞い、明るさや持って生まれた気質も「ポップス」として大きく作用しているのだろう。彼女のライブではファンは皆自然と笑顔になり、時にクラップし、体を揺らしながら、不思議な充足感に満ちたその空間に身を委ねる。まだ正式な音源化のなされていない曲も多いが("大人になる前に"と"SO WHAT!?"はiTunesで購入可能)、その音がリリースされた時、彼女の「ポップス」は更に広がってゆくだろう。現在音源を鋭意制作中とのことなので、その時を楽しみに待ちたい。

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仮谷せいら セットリスト
1. HOPPER
2. NMD mix
3. Yes I Do
4. 心の中に...Avec Avec ver.
5. そばにいる
6. メナイ(original by Faint★Star
7. フロアの隅で
8. 大人になる前に
9. SO WHAT!?

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そしてこの日のトリを飾ったのはGOMESS。仮谷せいらのライブで皆が朗らかな気持ちになっていた中、会場の照明も十分に点けぬまま「悪いけどおれに盛り上げる曲は1曲もねぇ」と、いきなり新曲の"箱庭"を披露。3月発売予定のニューアルバム『し』に収録予定のこの曲で歌われたのは、絶望と世界の終わりだった。更に「Twitter不眠症の歌を作ってくださいと言われたので作りました。」と、こちらも新曲の"THE MOON"と続けざまに新曲を繰り出す。ポエトリーリーディングのようなスタイルで、時にまるで呻き声のように、GOMESSの口からは次々と言葉が吐き出されてく。不穏で、物悲しく、退廃的だが、その嘘のない言葉の欠片は、聴く者の心に少しずつ突き刺さってゆく。それは曲間のMCでも変わらず、フリースタイルでGOMESSはずっと言葉を紡ぎ続ける。そして次の曲は、リハーサルの段階では本来別の曲をプレイする予定だったのだが、「今日リリスクの"brand new day"をやるつもりだったんだけど、フックを歌って絶望したから...今日はやらない。」とGOMESSが話したのを機に、観客からは"brand new day"への熱いリクエストが飛ぶ。それを受け急遽その場でセットリストを変更し、lyrical schoolの"brand new day"のカバーを披露。しかしカバーと言ってもヴァースは全てGOMESSのオリジナルであり、そこでは「HIPHOP」というものに対するGOMESSの想いと信念が歌われた。「アイドルラップって言葉が嫌いだ。ジャンルって言葉が嫌いだ。壁を作った日本人が嫌いだ。おれはGOMESSというジャンルだ。」と「HIPHOP」に救われたからこそ抱く「HIPHOP」への憤りや葛藤を、GOMESSはステージの上でラップする。
 その後もGOMESSと同じLOW HIGH WHO?のレーベルメイトである黒柳鉄男を招いての"アイドルオタクライミング”、「地獄はまだ続くぜ」と自虐的なMCの後には、ライムベリーの"IN THE HOUSE"のGOMESS ver.、現在Maison book girlをプロデュースするサクライケンタ作曲の、まだ未発売の『世界の終わりのいずこねこ』のサウンドトラックに乗せてのフリースタイルなど、普段のセットリストでは滅多に見られない曲が続いた。ただそのためか、MCのまとまりがなくなってしまったり、少しグダついてしまうシーンの見られる曲もあった。
 しかし、彼は言う。「皆さんに言いますよ。2015年今日が一番かっこいいライブです。」GOMESSがHIPHOPのライブで好きな場面はラッパーがリリックを飛ばすシーンだそうだ。歌詞を飛ばしたラッパーはどうするか、次の瞬間にはさも最初からそれを予定したかのようにフリースタイルで言葉を並べ、ステージ上では最高にクールに振る舞ってみせる。
 失敗を曝け出せるのがステージ、完璧なんてありえないし、そんなものは必要ない。お客さんを楽しませること、その場にいる人を喜ばせられればそれでいい。そんなGOMESSのライブは常にフリースタイルで、彼の口から溢れる言葉は、その瞬間の彼の気持ちであり、宇宙にもその瞬間にしか存在しない文字通り唯一無二のものだ。だからこそ彼の言葉には想いが宿り、その重さだけ聴く者の心に届き、こびりつくのだろう。ラスト"人間失格"でマイクを通さずにシャウトしたGOMESSの言葉は、初めて彼を見た人の胸にも、きっと何かを残したはずだ。
 "人間失格"を歌い終えたところで、MC KOSHIとSANABAGUNの岩間もステージに上がり、アンコールとしてtofubeatsの"水星"に乗せて3人のフリースタイルセッションが行われた。予定調和ではないその場にしか生まれないもの、酔っぱらったり、ふざけあったり、「こんな感じがフリースタイル。」かっこ良くはないかもしれない。しかしそういうものが、時に人の心を動かし、笑顔にし、忘れられない記憶を刻むこともある。
 「今の音楽シーンは中々言いたいことが言えない、規制規制で言えない世の中だけど、今日ヤバいやつらがいたってことをちゃんと伝えていこうぜ。」岩間は最後にこう言った。その目で確かめなければわからないことが、ライブにはある。
 20150215、紛れもなくこの夜にしか生まれなかった縁をそれぞれの心に残し、『This song vol.3』の宴は幕を閉じた。

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GOMESS セットリスト
1. 箱庭
2. THE MOON
3. brand new day(original by lyrical school
4. アイドルオタクライミング with 黒柳鉄男
5. IN THE HOUSE(original by ライムベリー)
6. し
7. 一歩 ※フリースタイル
8. 人間失格
en. 水星 feat. MC KOSHI、岩間俊樹 from SANABAGUN(original by tofubeats