はじまりか、 - 伊藤万理華の脳内博覧会 in 北野天満宮

(ネタバレを含んでいるので見に行く予定のある方は注意してください。)

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◾️はじまりか、

年内で乃木坂46からの卒業が決まっている伊藤万理華による初の個展、『伊藤万理華の脳内博覧会』。東京での会期を終え場所を京都に移し、現在は北野天満宮で開催中の「KYOTO NIPPON FESTIVAL」の一企画として出展されている。(11月17日からは福岡PARCOでも開催されている。)

自分は特別伊藤万理華推しというわけではなかったが、たまたま大阪に行く機会があり、卒業を控えた彼女の初の個展ということもあってせっかくならと足を伸ばすことにした。

北野天満宮へは京都駅からバスで30分ほど。平日でも京都市内は観光客で賑わっており、北野天満宮でも多くの観光客が降りていく。

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脳内博覧会の会場は北野天満宮内にある「もみじ苑」という園内庭園の中の施設を使っており、展示を見るためには必然的にもみじ苑の中に入場することになる。(もみじ苑の入園料もチケット代には含まれている。) 紅葉シーズンを迎えているのか、まだ一部緑が残っているものの、もみじ苑の中は黄色や赤に染まった多くのもみじで彩られていた。時刻は15時を回り、傾き始めた太陽は早くなった日の入りを知らせる。人は多いが、どこか静かで日常とは切り離された静謐で厳かな空間。移りゆくもみじに反射したやわらかい西日は、儚い時の流れと卒業が突きつける感傷を映すようで、その眩しさに目を細めた。

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会場は1Fが同時開催中の永島千裕による個展『神のまにまに』、B1が『伊藤万理華の脳内博覧会』の展示スペースとなっていた。地下への階段を下り、小さな部屋に入ると大きく3つのブロックに分かれた展示スペースが広がる。

1.写真展(伊藤万理華ソロ)

最初のブロックは伊藤万理華のソロ写真展とも言えるファッションシューティングのブロック。大判の写真が規則的に並ぶオーソドックスな展示だが、写真はカメラマンとヘアメイクを変え、大きく2つのコーナーに分かれており、その全ての写真のスタイリングは伊藤万理華本人により行われている。

1つ目のコーナーはカメラマンを間仲宇、ヘアメイクを宇藤梨紗が務めている。
メインビジュアルにもなっている紫のジャケットを着て、前髪を分けた伊藤の写真を筆頭に、スタイリングごとにヘアメイクも変えた"モデル"伊藤万理華の写真が並んでいる。今回の人選は「自身の私服をメインにしたファッション系の写真が撮りたい」という伊藤の希望から間仲氏に白羽の矢が立った。間仲氏曰く伊藤は「パッと写真の中に入ってくれるから撮りやすい。」とのことで、そこには写真ごとに纏う雰囲気を変える伊藤万理華がいた。モデルのような高身長なスタイルではないかもしれない。けれど誰よりもその服をモノにしているのは伊藤万理華だと言わんばかりの佇まいに自然と引き込まれる。

2つ目はカメラマン:前康輔とヘアメイク:吉田真佐美によるコーナー。こちらはスタジオではなく葉山や渋谷など野外で撮影が行われており、化粧も控えめかつ表情もナチュラルで、「もし伊藤万理華のソロ写真集が発売されたら」という妄想を掻き立てる。前氏曰く「(伊藤は)スッと景色に入って紛れ込むのが上手。それを追いかけてるだけでこっちが楽しくなる。」とのことで、写真もくるくると動く素の伊藤万理華を切り取っているように見られた。

また写真展ブロックのスピーカーからは、この展覧会のために収録されたラジオ番組「MdN Presents RADIO DE meets CREATORS 」が流れていた。様々なクリエイターに伊藤が会いに行くというMdNで連載中の同名の企画を、番外編ということでラジオ番組として収録。これまで伊藤に関わってきたカメラマン、スタイリスト、監督、振付師と、様々な人に伊藤が一対一でインタビューを行い、初めての出会いからお互いの印象、この展覧会に至るまで、伊藤万理華にまつわるクリエイティブを話してゆく。そこからはアイドルとスタッフではなく、表現者としてお互いに認め合うクリエイター同士の言葉があった。

2.写真展(犬会)、スケッチ、脳内ROOM

2つ目のブロックは犬会の写真展と脳内ROOMのスペース。犬会は舞台『すべての犬は天国に行く』に出演した通称“犬メン“のメンバーがお正月に集まりパーティーを開くという設定。メンバーは伊藤万理華生駒里奈井上小百合斉藤優里桜井玲香新内眞衣松村沙友理若月佑美。各メンバーのスタイリングにはテーマがあり(斉藤はギャル、伊藤はヒッピー等)、スタイリストの市野沢雄大氏がそのデコボコした個性を一つの家族として統一感を持たせコーディネイトしている。写ルンですで撮影された写真は独特の色合いを浮かべ、何よりこの撮影を「この一年で一番笑ったかも」と伊藤が話すように、気の置けない仲だからこそ出てくる表情や無防備なほどの笑顔からは、メンバー同士の信頼関係が目にみえるようだった。

蝶々と展覧会のビジュアルにもなっている鉱石と苔の本人の原画を挟み、脳内ROOMへ。乱雑に置かれたバッグやぬいぐるみ、多種多様な小物類も全て伊藤の私物であり、彼女の趣味嗜好をぶちまけたようなカオスな展示だ。更にその隣の壁には沢山の私服が所狭しと並んでおり、そこにはメインビジュアルで着用された紫のジャケットも飾られていた。どの服もただそこにあるだけでは何の変哲もない古着の一つだが、伊藤が身につけ、プロのカメラマンが撮影を行うとあれだけの存在感が出るのかと、プロのマジックを感じた瞬間でもあった。

3.ショートムービー

そして最後のブロックはショートムービー。そこでは『トイ』と京都で初公開となった新作『はじまりか、』の2つの作品と、過去の個人PVの上映が行われていた。

 

■『トイ』

監督:柳沢翔

深夜、うらぶれたガソリンスタンドに止まる一台の車。その中で揉み合う男女。助手席のドアから押し出されるように出てきたのは派手な服装とメイクに身を包んだ伊藤万理華。水溜りに身体を投げ出しボロボロになりながらも、空元気にも見える笑顔を運転席の男に投げかけると、化粧を直すために伊藤はトイレへと向かう。水で顔を洗い気を静める。しかしふと見上げたガラスに映った自分の顔に不安を覚え、何かに追い立てられるように何度も口紅を塗り直す。すると外でエンジン音が聞こえ出す。慌てて飛び出すも、そこにはアイスクリームでベタベタに汚れたバッグが捨てられ、車は伊藤をガソリンスタンドに置き去りにしたまま走り去って行った。肩を落とし身動き一つないまま途方にくれる伊藤。しかし次の瞬間、彼女は何かに目覚めたように突如闇夜の中でダンスを踊り始める。怒りも、悲しみも、憤りも、寂しさも、全てを放出し尽くすようなダンス。通りすがりの車を気にもせず車道へ飛び出し、ボンネットに乗り上げ、感情のままに、腕をなびかせ、身体を預け、ステップを踏む。街灯に照らされながら、闇夜に溶け込みながら。身体の中が空っぽになってしまうほどの、自身を放出する鬼気迫るダンス。気がつくと夜は明け、地平線の先には太陽が昇り始めていた。うらぶれたガソリンスタンドには、変わらず1人。捨てられた。何もない。けれど、解き放たれた。関係から、しがらみから、自分自身から。暗闇が晴れ、青みがかる少し前の、乳白色の美しき空がどこまでも続いていた。その限りない広さを前にした彼女は、自由だった。雲の先、永遠とも呼べる空を前に、彼女の瞳には涙が溢れていた。

 柳沢監督に「最後のショートムービーをダンスメインにしたのはなぜか?」と聞かれた伊藤は「ダンスで想いを伝えるっていうのをやってみたかった。」と答えた。アイドルには歌という手段もあるが、それとは違う形で、自身の感情を表現する方法として彼女が選んだのがダンスだった。

そしてそれに対し柳沢監督は非常にダークな内容で応えた。重い内容にしたのは、追い込んだ方が伊藤の感情をより引き出せるからだと。インスパイアされたのは『アナと雪の女王』。あの「Let It Go」も住み慣れた国を追われ、一人ぼっちになった時に歌われた曲だ。それはある意味では不幸なシーンとも呼べる。しかし失うことで得た自由がある。もう誰の目も気にしなくていい。私は私のままでいい。新しい一歩を踏み出す時、私は自由だ。

柳沢監督は伊藤万理華の『トイ』で、彼女の自由を謳い祈った。

 

■『はじまりか、』

監督:福島真希

15の時に乃木坂の オーディションを受けた
まさかの合格!?ハッピー!も束の間
選抜発表で名前は 呼ばれなかった
どうしたらいい?何が足りない?
焦りは空回り まわりまわりぐるぐる巡り
誰かが付けた順番に 泣いて眠れない夜もあった
周りを見ればみんなキラキラ 羨ましいないいないいな
でも違うんだ それはあの子だから出来ること
私にはできない ひとりひとりの眩しい輝き
ようやく認めた時に 何かが開けた!
 
自信なんて無い 不安定な歌声
何でアイドルに?アイドルになったのか?
ずっとずっと コンプレックスだった
でも「味、味」って あなたが言ってくれたから
あなたがあの日 言ってくれたから!
 
ファッションも趣味も全然 アイドルぽくなくて
こんな変な私だけど 見つけてくれてありがとう
どうして私を選んだの?
どこから巡って辿り着いたの?
どうしてそんなに優しく笑ってくれるの?
 
あの時あなたが手を 差し伸べてくれた
あなたの言葉にたくさん 支えられてきた
見ていてくれた
ブログ読んでくれた
コメントくれた
声援くれた
りっかタオル
緑と紫のサイリウム
ありがとうありがとう 全部全部ありがとう
会いに来て手を繋いでくれて ありがとう
 
ここじゃなきゃ出会えなかった 大好きな大好きな大好きなメンバー
みんなすごくない?最高じゃない?
私ここにいて いれて本当によかった
1,2,3,4,5,6年
私の誇り私の青春 一生の宝物
前から3列目のだいたい端っこ
真ん中にはなれなかったけど ここが私らしいかなって
目の前と左に広がる みんなを景色を輝きを
ファンのみんなの声を ずっとずっと忘れない
忘れないから!
 
苔とか石とか鉱物とか アイドルぽくなくて
こんな変な私だけど 見つけてくれてありがとう
どうして私を選んだの?
どこから巡って辿り着いたの?
どうしてそんなに優しく笑ってくれるの?
 
あの時あなたが手を 差し伸べてくれた
あなたの言葉にたくさん 支えられてきた
見ていてくれた
ブログ読んでくれた
コメントくれた
声援くれた
りっかコール
緑と紫のサイリウム
星みたいですごく綺麗だった
広い宇宙にあなたと私
ここで出会えた奇跡に ありがとう
 
もっと話したい まだまだ足りない
離れるのは寂しいけど 違う私も見てほしい
良かったらもし良かったら 一緒に来ませんか?
あなたの未来と 私の未来
どこかでまた交わることができたらいいな
新しい私 これからのタワシ、ってタワシ!?
 
進もう一歩一歩
迷いながらでもいいから
悩んだり森を迷ったり
定期とケーキを間違えたり(べちゃ)
シロクマになったり
アン・ドゥ・トロワ!!で髪を切ったり
でもすぐ伸びたり
たまに「まいっか」って言いながら
 
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ありがとうありがとう あなたと会えてありがとう
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ここからここから 私が始まる
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ありがとうありがとう 全部全部ありがとう
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ここからここから 私が始まる
ここからここからここから
「はじまりか、」

りっかの名付け親でもある福島真希監督による、乃木坂46伊藤万理華として最後の作品。最後は真希ちゃんじゃないとダメと、伊藤からの指名で制作された今作は乃木坂の街角を伊藤が歩き、歌い、踊る姿をワンカットによる長回しで撮影している。音楽は福島真希の夫でもあるOngakushitsuの福島節が担当。綺麗な音色とエモーションを重ねていくストリングスが琴線に触れていく。キュートな振り付けとともに、リズムに合わせ、街中を踊る伊藤は、ままごとの舞台「わたしの星」で用いられたようなラップ調の歌と不安定だが真摯な歌声で、卒業を迎えた今の心境とファンへの想いを歌う。『トイ』のダークで陰のある内容とは打って変わり、軽快なテンポでストレートにその想いの丈を解き放つ伊藤の姿は、清々しく澄み渡っている。

自信なんて無い 不安定な歌声
何でアイドルに?アイドルになったのか?
ずっとずっと コンプレックスだった
でも「味、味」って あなたが言ってくれたから
あなたがあの日 言ってくれたから!

身に纏っていたコートを脱ぎ、衣装へと姿を変える伊藤。そこには紛れもない"アイドル"伊藤万理華がいた。
映像の最後、タイトルコールで締めようとした伊藤の背後の暗幕が下がると、そこには緑と紫のペンライトを手にしたファンの姿が。伊藤へのサプライズ。驚きとそれ以上の喜びをたたえた満面の笑顔で、映像は終わる。

脳内博覧会を見ていて、伊藤万理華橋本奈々未と似てると思った。2人はともに2月20日生まれ。意志の強さと潔さ、そしてファンへの想い。

自分は橋本奈々未推しで、彼女の最後は掛け値なく素晴らしく、ファンとして望外の感動をもらい、生きてきて一番美しいものを見たとさえ思った。けれど、一番彼女の口から聞きたかった言葉は最後まで聞けなかった。もちろん本人の本心はわからないが、それでも、最後に聞きたかった言葉があった。

『はじまりか、』にはそれがある。自分の好きなアイドルが、いつかアイドルをやめるその時、もし叶うのなら言って欲しい言葉の全てがそこにはある。何百人何千人何万人いるかわからない乃木坂46のファン、そして伊藤万理華のファン。この歌はそんな「ファン」という括りではなく、紛れもなくたった1人の「あなた」に贈られたものだ。自分はその「あなた」ではないだろう。それでも、伊藤万理華の人柄とまっすぐな想いに、自然と涙が頬をつたっていた。

『はじまりか、』を見ていてふと橋本奈々未のことを思い出し、そして伊藤万理華推しの人たちは絶対に幸せだろうなと、違う形の答えに、ほんの少しだけ羨ましくなった。

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伊藤万理華の卒業ライブは乃木坂46初の東京ドームコンサートの2日目となった。ラストソングはともに年内で卒業する中元日芽香とのダブルセンターによる"きっかけ"。

中元日芽香は、オリエンタルラジオと共演していたラジオ番組『らじらー』で先日最後の活動を終えた。中元のために制作された"LAST NUMBER feat.中元日芽香"とともに、最後までアイドル中元日芽香としてその活動を全うした。

www.youtube.com (ファンの人による自作MV)

伊藤万理華乃木坂46としての最後の活動は12月23日の仙台の握手会を予定している。

卒業ソングがないことは不公平か、卒業ライブがないのは不運か、握手会で別れを告げられないのは不幸か、わからない。でも伊藤万理華中元日芽香も、それぞれの場所で、それぞれのやり方で、それぞれの最後を全うしている。他の誰にも真似できない愛され方で。正解はない。きっとアイドルは、アイドルを辞める時初めて、何を残したかがわかるんだろう。

「ありがとう」以上の別れの言葉はあるのだろうか。新しい場所へと旅立つ2人の残した同じ言葉は、形は違えど、必ず、「あなた」の心を掬っていく。それはどうしようもないほどハッピーエンドで、そしてどうしようもなく切ない。

www.youtube.com

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伊藤万理華の脳内博覧会の様子は一部ナタリーでも見れます

【イベントレポート】乃木坂46伊藤万理華、初の個展開催に「やっと自分の存在意義を皆さんに伝えられる」(写真12枚) - 音楽ナタリー

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