22│07│The Worst Person in the World

※『リコリス・ピザ』『ハケンアニメ』『わたしは最悪。』の内容に若干触れている部分があるので、未見で情報を入れたくない方は鑑賞後に読んでください。

■某日
 映画『リコリス・ピザ』を見る。巨匠ポール・トーマス・アンダーソンの最新作ということで、評論家や映画好きの間ではかなり高評価な今作。ただ自分の初見の感想は「面白かったけどピンとこない」。象徴的なシーンはいくつもあったけれど、全体的にフワッとしていて自分の中にこの作品の落としどころをまだ見つけられていない。
 こういう映画を見て初見でピンとこなかった時、自分は映画偏差値が低いんだろうなといつも感じる。自分がその映画を良いと思うかどうかはストーリーと脚本に依拠する部分が大きく、それ以外の魅力を読み取る力があまりないのだろう。ネットで感想を検索して「そういう見方があるのか」と、後から発見があることばかり。とはいえピンと来ていなくても美しいシーンというものは記憶に残っているもので、この映画における"shit"は、今まで見た中で最も美しいshitの一つだったと思う。


■某日
 映画『ハケンアニメ!』を見る。"アニメ業界で闘う者たちを描いた、熱血エンタテインメント!"というキャッチコピーに嘘偽りはなく、創作に情熱を捧げる人間の矜持が随所に感じられ、音楽業界の端っこで働く人間としても大いに感情移入しながら見てしまった。エンタメ業界はやりがい搾取と言われることも多く、もちろんサービス残業や劣悪な労働環境や待遇を擁護するつもりはないが、杓子定規なものからはみ出した"情熱"や"こだわり"が作品に命を吹き込み、人の心を動かすことがあるというのは紛れもない事実だ。そのロマンを美化するような作風をどう受け取るかは個人の自由だが、この作品にはクリエイターだけでなく、その周りで働くスタッフの背中を押すパワーが間違いなくあると思う。実際見ててちょっと泣いた。あと作中に出てくる架空のアニメ「サウンドバック」と「リデルライト」のどちらも切り取った場面場面しか流れないにも関わらず、本当に存在するなら見てみたいと思うほどのハイクオリティだった。
 ただ最後のタクシーのシーンは原作にあったゆえに入れ込んだのだろうか。あの映画の流れだと唐突感があったので、あの場面はなくてもよかったような気はした。
 
 帰宅後ダウ90000の単独を配信で見る。コントが1本終わるたびに思わず拍手してしまうような設定の妙と8人の掛け合いにめちゃくちゃ笑ってしまうと同時に、自分がもし芸人や劇団をやっていたら嫉妬で脳みその神経がブチ切れていたんじゃないかという気持ちになる。大学生と思しき男女グループが設定になることが多いのでそんな大学生活を1秒も送っていないので設定にシンプルに嫉妬、共感0、イチャイチャするな、でも面白いなマジで。
 そういえばこの単独を見に行くと言っていた、マッチングアプリで知り合って一度だけご飯に行ってその後音信不通になったあの子は元気にしているかな。趣味が合うから上手くいくわけじゃないって『花束みたいな恋をした』は本当に正しい映画だよ。


■某日
 映画『わたしは最悪。』を見る。突然3日連続で映画館に行く謎のテンション。ただこれは一過性の発作のようなもので、1~2か月で映画を1本も見ない時もあるので自分でも自分のことが未だによくわからない。
 「20代から30代の自分の軸が定まらない中で出会った男性との恋の顛末」、なんて言うとすごくチープだけれど、『南瓜とマヨネーズ』を見た時も自分は「出会って別れるだけの映画」と言っていたことを思い出す。『わたしは最悪。』も『リコリス・ピザ』と同様、印象的なシーンは数多くあったが、全体の印象としてはまとまらずフワッと自分の中に軟着陸を果たす。
 これはおそらく自分がオチや結末を重要視しすぎているからなのではないか。子供の頃、母親が焼きそばを作ってくれた時、具として入っていた野菜を先に全部食べて、具を全部食べ終わってから麺だけを食べていた。そうやって「終わりよければ全てよし」ではないが、一番おいしい部分を最後に残す性格ゆえに「どうオチをつけるか(どういうメッセージを残すか)」という部分が自分にとって作品の評価に影響を与えすぎているからなのだと思う。オチは大事だが、その途中のプロセス、もっと言うと意味をもたなくても美しいシーンがあれば、それそのものにもっと感動すべきなのだろう。
 "The Worst Person in the World"。もしユリアがそうなら、自分も最悪の人間だ。そういった解釈しかできないから、生き辛そうとか言われるのかもしれない。


■某日
 Bring Me The HorizonとThe 1975という自分が海外のアーティストで1,2ぐらいに好きなバンドが立て続けに新曲を発表した。自然と自分が惹かれる音楽はアメリカよりもイギリスの方がなぜか多い。こうやってどうしようもない世の中だと嘆きながらも、好きなものに心躍らせながらまた今日をやり過ごしている。


■某日
 参議院議員選挙のため投票に行く。投票所は家から徒歩5分程度の距離にある小学校でありがたいことに自分の家からは非常に近いが、これがもっと遠い距離なら、この暑さの中わざわざものの数分のために投票所まで足を運ぶ気になれるだろうか。汗ばむような気温の中、投票所の小学校へと向かう。
 夜、投票結果が開示される。予想できた結果だったが、あと何度これを繰り返すのだろうか。ただどんな結果であれこれからも生活は続いていく。自分にできることは冷笑することでも匙を投げることでもなく、学び行動し続けることだろう。「終わった」と言ったところで終わらないから、また今日から続けていく。