22│09│Mountain Top

■某日
 「BAND OF FOUR -四節棍-」のライブのためにぴあアリーナへ。10-FEET,BRAHMAN,マキシマム ザ ホルモン,ELLEGARDENと自分が中学、高校生時代から聴いていたバンドによる4マン。一度も使えていなかった夏季休暇を利用し、会社に行く時よりも早く目覚め物販のために横浜に向かう。グッズはエルレのTシャツとハンドタオルだけを買うつもりだったが、いざ会場に着くと、自分と同じようにグッズを身に着けたファンの人やライブ前の高揚感にあてられタオルとショルダーバッグも買ってしまった。多分これが通販だけならおそらくTシャツも買ってない。なのに現地に来てしまうと95%使わないだろうタオルとショルダーバッグも買ってしまう。コロナ禍以降いろんなことがオンラインに移行していったけれど、たくさん人間が同じ場所に集まることで生まれるエネルギーのようなものはあると思う。合理的でも賢くもないけど、これは悪くない。
 
 開演時間を迎え、事前の告知通り10-FEETBRAHMANマキシマム ザ ホルモンの順にライブが進んでいく。どのバンドも20年以上のキャリアを誇るライブバンドだ。10-FEETの人懐っこさと温かさで見る人を包み込むようなステージも、BRAHMANのキリキリと命を削るような切実な問いかけのようなステージも、ホルモンのキャッチ―でタフでハードコアなギャップの織り成すエンターテイメント性に溢れたステージも、三者三様でそれぞれのバンドのカラーの濃さを感じた。10年以上前に聴いていた曲も数多く披露され、懐かしさを感じ、メロディと歌詞が自然と口からこぼれそうにもなる。でもなぜか、モヤモヤした気持ちが心の中に生まれる。

帰るのが寂しいからといって、終わったパーティに居続けるのはみっともない

ヴィンス・ギリガン

 『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』の脚本家ヴィンス・ギリガンの言葉。もしかするとこのライブも終わったパーティーなのかもしれないと思った。周りも見渡せば自分と同年代や年上の人ばかり、同窓会のように10年以上前の曲を「懐かしい」や「青春だった」と言ってノスタルジーに浸る。バンドは今も現在進行形だが、新しい曲よりも昔の曲の方が盛り上がる。過去の曲を聴き、かつての自分を思い出すことで、あの時に持っていた情熱で今の現実に抗っているような気分。高校生の時、一緒にエルレのライブに行った友達は一人は結婚し子どもができた。もう一人はもうどこで何をしているかもわからない。自分だけがずっと同じ場所にとどまり続けているような感覚だ。これはもしかしたらみっともないことなんじゃないか。
 
 どこか集中できない状態でエルレが始まる。どの曲も今も大好きな曲のはずだ。でも目の前でエルレが演奏しているのに今一つテンションが上がらない。結局自分も昔好きだったものを、それを今も失くさずに持っているかのように誤魔化して過去に執着しているだけなんじゃないか。そう思うと全てが虚しくなる。

Sunday is over
We are all going home
No reason to stay here
But no one has made a move

We know that for sure
Nothing lasts forever
But we have too many things gone too fast

Let's a make a wish
Easy one
That you are not the only one
And someone's there next to you holding your hand

休日が終わり
僕らはみんな家に帰る
ここに残る理由もないのに
誰も動こうとはしない

僕らが当たり前に知っていること
いつまでも続くものなんてない
だけどあまりにも多くのものが
早すぎる終わりを迎える

願い事をしようぜ 簡単なやつを
君が一人きりじゃなくて
そばに誰かがいて手を握ってくれるように

Make A Wish


 ライブも終盤に差し掛かる中"Make A Wish"を聴いている時、この歌のようだと思った。楽しかった休日が終わり皆が家に帰る中、まだそこにいる。終わってしまうことが寂しいから。ここに残る理由はないのに。

 エルレに出会ってから19年が経った。この19年間ずっとエルレを聴き続けてきた。ずっと好きでいれるようになんて願い事をしたわけじゃない。それでも、19年経ってもそばにあったのはエルレの曲であり細美さんの言葉だ。これは終わったパーティーなんだろうか。
 「今日久々にステージに立って、自分がどういう人間だったかを思い出したよ。」MCで細美さんが話していた。自分はどういう人間なんだろうか。自分は気持ちを誤魔化していたわけでも、かつての情熱を神聖視しているわけでもないと思えた。当時と同じ気持ちかはわからない。ただ15年以上前に出会った音楽を、今でも大好きな1曲として聴いている。それは傍から見ればノスタルジーかもしれない。みっともないことかもしれない。でも今の自分にとってもそれは大切なものだから。ただそういう人間なんだ自分は。モヤモヤしていた気持ちが少しずつ晴れていく。次の"Salamander"、気持ちが高ぶった。ちゃんと感動できた。涙が出てきた。
 今日のセットリストに”Make A Wish"が入ってなかったら、この場所であの曲が流れなかったら、こんな気持ちにはなっていなかったと思う。全てに意味があるような気がしてくる。

 「新曲聴く?」アンコールで細美さんが話した時、声が出せなくても会場中が色めき立つのがわかった。聴けたらいいなと思っていたが、まさか本当に新曲が聴けるなんて。
 「ずっと過去の思い出とか、楽しかったことの中で生きていく訳にはいかないので、今この場から現役のバンドに戻ります。」、そう言って披露された新曲。だからおれはエルレと細美さんが好きなんだと思った。ノスタルジーと言われても構わないと思ったばかりだったのに、それを否定して、未来を見せてくれる。数えきれないほどファンがいて、再始動フィーバーや伝説のバンドなんて言われていて、そんな中で新曲を作ることがどれだけ過酷なことか自分には想像もつかない。でも自分たちの信念のために挑戦する。世界で一番カッコいいバンドだと思った。

 ライブ終了後、5時間以上立ちっぱなしだったことによる疲労と、今日この場所にいられて本当に良かったという達成感にも似た幸福感でしばらく放心状態になる。今日のイベントでこんな気持ちになるなんて想像もしてなかった。同じようなメンツで同じようなセットリストでも、同じ瞬間は2つとないという当たり前を改めて実感する。

 その後ELLEGARDENの16年ぶりの新曲"Mountain Top"のリリースとMusic Videoの公開、そしてNHKでの特番の放送が発表された。

 "Mountain Top"のWeezerの影響を感じるミドルテンポのイントロと1stアルバムを思い出させるオルタナティブサウンド、そしてどうしようもなく切ないメロディ。まあここだけ抜くとこれは細美さんのカラーなのでMONOEYESにも通じている部分はあるのだけれど、でも歌詞を見た時、これは絶対にエルレじゃなければ出てこなかった歌詞だと思った。

 イベントのアフタートーク内で細美さんが話していた。
「新しいことに挑戦することで未来が生まれる。」

 辿り着くことのない山の頂。でも一歩踏み出したら、その先の景色が待っている。19年前のおれはこの曲を知らない。だから今この曲を大好きだと思う気持ちがノスタルジーなわけがない。6枚目のアルバムは完成間近らしい。過去の楽しかった思い出だけじゃなく、現役のバンドとして、同じ時代を生きて、未来を見せてくれる。

I’m the one who wants to burn out
I’m the one who needs to find out
I’m the one who craves the last match

俺は燃え尽きたい
俺は答えが知りたい
俺は最後の勝負を待ち望んでる

  この旅もいつか必ず終わりがくる。その時はみっともなかろうと寂しさで死ぬまで居座ってしまうかもしれない。でもその未来がくるのは、もう少しだけ先の話だ。

 まだパーティーは終わってはいない。

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