新たなS.T.A.G.Eへ - lyrical school one man live 2014@LIQUID ROOM

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【ライブレポ】lyrical school one man live 2014@LIQUIDROOM : 音楽情報ブログ『musicoholic』

■新たなS.T.A.G.Eへ

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2014年11月2日。ヒップホップアイドルグループlyrical school(通称リリスク)の今年2度目となるワンマンライブが開催された。会場は恵比寿LIQUIDROOM。前回2月に行われたワンマンライブの会場だった渋谷WWWからキャパシティはおよそ2倍以上。当初このライブが発表された時、「本当に埋まるのか?」と懐疑的な見方をする人も少なくはなかった。しかし、当日は若干数の当日券も販売されたが、最終的には完売。会場は最後方まで人で埋め尽くされ超満員となった。

 開演30分前の16:30頃、この日オープニングDJを務める九州のアイドルグループLinQ深瀬智聖がステージへと現れる。以前、新宿MARZで行われた『PARADE』のリリース記念イベントにも彼女は出演しており、“S.T.A.G.E”では競演を果たしていた。アイドル界きっての日本語ラップリスナーでもある彼女が最初にかけた1曲目は、EVISBEATSの“揺れる feat.田我流”。熱気と期待が充満したフロアをほぐすかのようなメロウなムードが会場を包む。その後も比較的ゆったりとしたチルな楽曲が続くが、今か今かと爆発を待つ会場との客席の反応を見てか、SUGAR SOULの”今すぐ欲しい”をプレイ中に深瀬は「やっぱこの曲やめるね」と言い途中でKICK THE CAN CREWの”スーパーオリジナル”へとチェンジ。その後は一転攻め曲選曲で客席を沸かしていく。それに呼応するように、フロアも徐々に熱気を帯びていく。時折自身のプレイが今日はイマイチだとこぼす一幕もあったが、終止会場を縦に、横にと揺らし、最後は再びセンチメンタルな楽曲で短い時間ながらもDJタイムを締めくくった。

 前回の渋谷WWWでのワンマンライブの際、同様にオープニングDJを務めたNegiccoのMeguがアイドルソング中心のセットリストだったのとは対象的に、この日の深瀬は終止硬派なHIPHOP中心の選曲だった。だが『PRIDE』というラップチューンをリリースした今のリリスクのモードには、深瀬は適任だったのではないだろうか。HIP HOPのグルーヴの余韻を残し、本日のメインアクトへとバトンを渡して彼女はステージを降りた。 

 

【DJ CHISEI セットリスト】

EVISBEATS / 揺れる feat.田我流

Chara x 韻シスト / I don’t know

RYMESTER / ちょうどいい

SUGAR SOUL / 今すぐ欲しい

KICK THE CAN CREW / スーパーオリジナル

餓鬼レンジャー / ラップ・グラップラー餓鬼

ラッパ我リヤ / Check 1,2

韻踏合組合 / 一網打尽(Remix) Feat. NORIKIYO,SHINGO★西成,漢

SALU / ホームウェイ24号

RIP SLYME / ONE

Charisma.com / Mr. BEER

 

そして開演時刻の17:00。照明が落ちる。

この日のライブのチケットが一番最初に発売されたのは、今年4月に大宮ステラタウンで行われたメンバーmeiの生誕イベントの時だった。最も早くチケットを手に入れたファンからしてみれば、数えれば半年以上。

「この日が来るのを待っていた」

 それはメンバーだけでなく、ファンも同じだった。バックスクリーンに楽屋口からステージへと向かう6人の姿が映し出され、暗転。 

「ナナナナナ ナイスなスクールって誰?」

点滅する激しいフラッシュと共に、アカペラの”brand new day”が場内に響き渡る。この日集まった約1000人の観客は、全員彼女達を見にきたのだ。皆その名を知っている。

リリカルスクール!!!!!!』

ヘッズ(リリスクのファンの呼称)の大歓声と共にリリスク史上最大規模のライブは盛大に幕を開けた。

“Myかわいい日常たち”ではyumiが一瞬顔を下に向け、涙をこらえているような場面もあったが、次に顔を上げた時は満面の笑みで客席を見つめていた。“決戦はフライデー”では歌詞を「決戦のリキッドルーム」と変えるアドリブを見せるなどmeiも絶好調だ。見た事のない数のファンを前に、驚きと喜びと、時折襲ってくる感傷をないまぜにしながら、その全てを塗り替える笑顔のステージがそこには広がっていた。

その後も次々と、全てフル尺で休む事なく曲が畳み掛けられる。バックDJを務めるマネージャーの岩渕の繋ぎも滑らかで、ショートフィルムを見ているかのように情景が移り変わってゆく。
ノンストップで8曲連続歌ったところで、ようやく最初のMCへ。

しかし、自己紹介もそこそこに、すぐさま続いての曲へと彼女たちは進む。

リリスクは普段のインストアイベントでもMCを最小限しか行わない。MCを通して滲み出る彼女達のパーソナリティもリリスクの魅力だと思うが、それ以上に、曲とステージで見る人を惹きつけたい、惹きつけられるという自信が今の彼女達にはあるのだろう。そんな彼女達の気概を代弁するかのように、岩渕もその手を休めることなく曲を繋いでゆく。
MC明けはアーバンな夜の雰囲気へと誘うメロウなパートへと進む。

“しってる/しらない”では曲終盤からメンバー全員がステージの前方の淵に座り、肩を寄せ合い歌い始める。そしてそれに呼応するように、誰が言い出すわけでもなくファンも前方から座り始める。ギュウギュウのライブハウスで、ファンも肩を寄せ合う。 

“抜け駆け”を歌い終わったところで、少しの静寂の後、6人の口からそれぞれ、これまでを回想するモノローグが始まる。

最後に、リーダーのayakaが言う。

今は胸を張ってこう言える

「ラップをするのは楽しいです」

最初は韻が何かもわからなかった。それどころかラップを聴いたこともなかった。そんな彼女達が、幾多のステージを重ね、その楽しさを身を以て体現してくれる、教えてくれる。現在の自分たちを肯定した全能的な”FRESH!!!”は客席を一瞬で沸騰させ、最大幸福値を毎秒更新していくような興奮と喝采の坩堝へと巻き込んでいった。

そして”リボンをきゅっと”→”PARADE”→”プチャヘンザ!”とこれまでリリスクに多くの楽曲を提供してきたtofubeatsの曲が連続してプレイされる。どんな楽しいパーティーもいつかは終わる。でもだからこそ、一瞬一瞬を愛おしく思える。ハンドクラップにコール、振りコピ、そう言ったアイドル然とした楽しみ方に加え、聴き手それぞれが思い思いに流れる音楽に身を委ね、手を掲げ、体を揺らし、心を弾ませる。リリスクが築きあげてきたIDOL RAPのステージが客席をロックしていく。

出会ったときからダンスをする運命なのふたりは

(プチャヘンザ!)

アンセム、”プチャヘンザ!”でライブは一度目のクライマックスを迎える。

しかしこの日はここで終わらない。再びセンチメンタルでゆるやかなセクションへと曲は紡がれてゆく。

この日、滅多に歌われることのなかった曲が歌われた。tengal6時代にリリースされた『CITY』に収録されている“bye bye”だ。上品なジャジーヒップホップにパーティーの終わりを描いたこの曲は、過去にメンバーの卒業ライブなどの機会でしか歌われたことのない曲だった。そのせいか、この曲はどこか特別な意味を持ってしまい、その後普段のライブで歌われることはなかった。

この日、”Akikaze”と”ひとりぼっちのラビリンス”に挟まれる形で、あくまでも切なさや寂寥感を歌った1曲として、グラデーションのように流れていく物語のワンシーンとして歌われた。

この曲のテーマは別れだ。刻一刻と迫るその時が頭をよぎると胸が苦しくなる。でも今日は違う。

「さようなら」ではない、「またね」

また必ず会える。

この日の”bye bye”はそんな確信に満ちた、幸福な”bye bye”だった。

ライブ終盤、“photograph”のイントロが流れる。すると場内のいたるところで次々とサイリウムが焚かれだす。「photographのイントロでリキッドルームを6色のサイリウムで染める」。有志のファンが用意したサイリウムによる、メンバーにも運営にも内緒で用意されたサプライズ企画だった。これまでメンバーの生誕イベントの時などでは、そのメンバーのイメージカラーに客席が1色に染まることはあった。

しかしこの日は6色。ファンからメンバーへ日頃の感謝の気持ちを込めて。

イントロが終わり客席へ振り返った時、6人は皆、目を大きく見開き驚いているようだった。それ以上の感情は歌に溶けていったが、あの瞳にはどんな景色が広がっていたのだろうか。

VJのホンマカズキも急遽のサプライズのサイリウムの演出にも関わらず、バックスクリーンに輝く客席を移す粋な演出を見せていた。
けれど、それをステージから肉眼で見ることができる特権は彼女達だけのものだ。それはこれまで歩んで来た道程への、ささやかなご褒美だったのかもしれない。

また、“photograph”の間奏では毎回meiがフリースタイルを行い、その日のライブに関することや彼女の気持ちを、歌詞を変えて歌うのが定番となっている。この日は当初、4月に行われた自身の生誕イベントで披露した彼女による作詞曲、「一人じゃないよ」のリリックを披露するはずだったようだ。(ライブ翌日のmeiのブログを参照:この日が来るのを待っていた|芽依オフィシャルブログ「芽依の夢旅」Powered by Ameba

しかしフリースタイルの最後、目の前に広がる沢山のヘッズと6色に輝くフロアを見てか、言葉を詰まらせながら彼女は予定されていなかった言葉を絞り出した。

言葉にできない

本当にありがとう

個人的な意見だが、meiはボキャブラリーが豊富なわけでも、特筆してラップが上手いというわけでもないと思っている。

けれど、彼女の言葉は、いつもストレートに胸に突き刺さってくる。

それはきっと、彼女の言葉からは彼女の想いが伝わってくるからだ。 

想いを伝えるために大切なことは何か、

それは「心を込める」ことだ。

あの瞬間、彼女の胸の内を満たしたのは感謝の気持ちだったのだろう。
だからこそ予定調和ではなく、土壇場で、最後の言葉を変えた。
衒いのない、実直で真っすぐな言葉は、彼女の心をそのまま映していた。飾り気のないありふれた言葉は、世界中のどんな言葉を集めても足りない、想いの結晶だった。

滲む視界と頬をつたう熱いものに胸を焦がしながら、ライブは終幕へと加速してゆく。

そして迎えた本編ラストは最新曲”PRIDE”。IDOL RAPとして覚悟と誇りを歌ったこの曲では、フロウとライミング、培ってきたラップのスキルでフロアを湧かせていた。途中のブリッジではリリスクのライブでは初めてではないだろうか、前方エリアでモッシュが起こるなど客席の熱狂もクライマックスを迎える。天に突き上げた拳はかつてない熱気を纏い、本編は幕を下ろした。

ヘッズの鳴り止まないアンコールを受けて、ライブは延長戦へと突入。 

「Drums please!!」

アンコール1曲目を飾るのは”そりゃ夏だ!”。季節外れのサマーソングは、問答無用に客席にジリジリとした熱気と夏の陽気を運んでくる。続いてこの日初披露された”wow♪-okadada remix”では、普段客席を煽ることのない未南が間奏で「セイ wow wow wow!!!」とハイテンションで客席にコールアンドレスポンスを要求するなど、盛り上がりはアンコールへ入ってもとどまる事を知らない。

そしてオープニングDJだった深瀬をステージへと迎え入れ、1年越しに揃った7本のマイク。完全版の“S.T.A.G.E feat.深瀬智聖”。約1年半前、新宿MARZで競演した際は率直に言って深瀬がリリスクのメンバーを圧倒していた。ステージでの胆力から立ち振る舞い、ボーカルからラップのスキルまで、ほんの1ヴァースだがレベルの違いは明らかだった。

しかしあれから一年、深瀬と肩を並べたメンバーは、深瀬に飲み込まれることなく、互いにアジテートし合うように客席を共に揺らしていた。 

彼女達の持ち曲のほぼ全てが歌われたのではないだろうか、そう思っていた矢先、耳馴染みのない、でもどこかで聞いたことのあるピアノのメロディが空気を震わせる。

 “6本のマイク”。

『CITY』にてメンバーが自ら作詞に挑戦した楽曲だ。

元々は卒業したmarikoとerikaを含めたtengal 6時代の楽曲だが、この日のためにhinaとminanだけでなく、ayaka,ami,mei,yumiの4人も歌詞を新たに書き下ろしていた。

バックスクリーンには彼女達の手書きの文字と思われるリリックが、それぞれのヴァースで映し出される。

知らないことばかり 謎だらけ

助けてくれた みんな笑って

(hina)

退屈な日々を抜け出したくて

リリカルスクールの門を叩いた

(minan)

one for all, all for one

チームリリスクNo.1

(ami)

RAPするのは難しい

そんなひとときも 懐かしい

(ayaka)

6マイク プラス 2マイクで

作ったストーリー 一生一緒に

(mei)

みんなの夢が わたしの夢

(yumi)

そのどれもが、今の彼女達でなければ書けないリリックだった。

他のアイドルも同様だが、リリスクはほぼ全ての曲で歌詞が提供されている。
他の誰かの書いた歌詞に、自分の感情を移入していく。それは

「言葉に想いを乗せる」

という行為だ。

 けれど、”6本のマイク“で彼女達は自らの手で作詞をした。それは、

「想いを言葉にする」

ということだ。

minanは自身のパートで込み上げてくるものをこらえきれなかった。

言葉という器から零れ落ちた感情は涙となり、彼女の頬を濡らした。

それほどまでに、彼女達が自ら選んだ言葉には、強い想いが込められていた。

それは”photograph”のmeiのフリースタイル同様、彼女達の心を映し出す鏡となり、きっと、この日あの場所にいた人達に届いているだろう。

途中ayaka,mei,yumiと3人連続で歌詞を一部飛ばすシーンもあったが、拍子抜けするような気の置けなさが、また、彼女達らしくもあり微笑ましかった。

この日MCらしいMCはほとんどなかったが、この”6本のマイク”のリリックが過去を、今を、そして未来を語っていたように思う。

オーラス”tengal 6-アコースティックver.”の優しいメロディに包まれ、2時間半に及ぶリリスクのリキッドルームでのワンマンライブは途方もない充足感と心地いい疲労感とともに終わりを告げた。

リキッドルームでのワンマンライブを成功させたのも束の間、先日、最新シングル『PRIDE』でオリコンウィークリーチャート9位という順位を獲得した。リーダーのayakaのBirthday Partyでmeiの言った言葉が現実のものとなった形だ。

リキッドルームでのワンマンライブの大成功とオリコンウィークリーチャート9位。
今、大きな追い風がリリスクには吹いている。では、このまま彼女達はスターダムに駆け上がっていくか、そう聞かれると現実はきっとそんなに甘くはないのだろう。

今年の夏、ROCK IN JAPAN FESやSUMMER SONICといった日本を代表する音楽フェスに出演した彼女たちだが、夏を終えて彼女達の現場に変化が起きたかと言えば、目に見える大きな影響は見られなかった。青山CAYで開催されたリーダーayakaの生誕も新代田FEVERで行われたメンバーyumiの生誕イベント(平日だったが)も横浜みなとみらいで行われたクルージングパーティーも、全てのライブがSOLD OUTしなかった。メンバーのyumiも自身の生誕時に「夏を終えて成長した気がしたけど、あんまり何も変わらなかった」と言った趣旨の発言をしていた。

でも今回の結果は目に見える形で、少しずつ、確実に、前に進んでいることを教えてくれた。一見意味のないように見えることも、見てくれている誰かは必ずいる。

この日披露された全33曲。初めてのミニアルバム『まちがう』から最新曲『PRIDE』まで。

ちょっと振り返ってる

でもねdon’t stop 次が待ってる

扉あけ 向かう新たなステージへ

まだまだ これから

(6本のマイク)

2年前に生まれたこの曲も、色褪せることなく、今を歌っている。全ての点と点と点と点と点と点は繋がっていく

 ワンマンライブの最中、来年の春にニューアルバムが発売されることが発表された。

リリスクはこれからどこへ向かうのだろうか

それは誰にもわからない。 

なぜなら彼女達はこれまでだって、誰も歩んできたことのないIDOL RAPという道を切り開いてきたのだから

 これからも、きっと誰も辿り着いたことのないような場所へと向かうのだろう。その先に、もっと素敵な景色が待っていると信じて

震える手・心臓 やっぱ怖い

そんな時は

ねぇ一緒に行こう

この日meiが言えなかった言葉

「いつでもここが みんなの居場所」

手を取り合って 歩き出そう

新たなステージへ

次が待ってる 

 

セットリスト

1. brand new day

2. tengal6

3. Myかわいい日常たち

4. 決戦はフライデー

5. perfect☆キラリ

6. Maybe Love

7. ルービックキューブ -Fragment remix

8. もし

9. fallin’ night

10. しってる / しらない

11. でも

12. P.S

13. まちがう

14. 流れる時のように

15. 抜け駆け

16. FRESH!!!

17. リボンをきゅっと

18. PARADE

19. プチャヘンザ!

20. わらって.net

21. Akikaze

22. bye bye

23. ひとりぼっちのラビリンス

24. ケセラケセラ

25. Sing,Sing

26. おいでよ

27. photograph

28. PRIDE

EN.

1. そりゃ夏だ

2. wow♪-okadada remix

3. S.T.A.G.E feat.深瀬智聖

4. 6本のマイク

5. tengal6-アコースティックver.