23│04│ジターバグ

■某日
 失恋ブログを書くのは半年ぶりだ。

 いや、お前はいったいあと何回失恋ブログを書いたら気が済むんだよ。この半年ブログの更新が疎かになり、久々に書いたと思ったら傷心ポエム。情けないにも程がある。ただ一人では今はちょっと抱えきれなくて、その気持ち書いたものを誰か読んでくれたらそれで少しは救われるっていう、そういう独りよがりな、寂しくて辛いっていうかまってちゃん気質が自分の中にはあるんだろう。Twitterも不幸な時の方が筆が走る。

 付き合った期間は短かった。でも付き合った3日後には「この人と結婚したいな」と思ってた。生きてきてそう思った人は初めてだった。なんでって聞かれても「そう思ったから」としか言えない。理由は後から言語化しようと思えばできる。でも最初から一点の曇りもなく、100%の確信をもってそう思えてたから、この気持ちは本物だったと自分ではわかる。理屈ではない。
 今まで人間関係は友情も恋愛も、合うか合わないかでしかないと思っていて、人間の形はパズルのピースのように決まっていて、その形がハマる人と一緒にいることが幸せだと思っていた。でも彼女と付き合ってから自分という人間の形がぐにゃぐにゃと変わっていった。
 今年から料理を始めたが、それは彼女が料理をしない人だったから。彼女がしないならおれが料理できるようになった方がいいななんて考えて、頼まれもしないのに勝手に始めた。彼女が食べたいと言ったものを事前に試作してから彼女に作ったりした。今までの自分なら想像すらしたことない。
 彼女に最初にプレゼントしたのは花瓶だった。付き合うことはゴールではなくて人の気持ちは変わるものだから。だから彼女に好きでいてもらうためにはどうしたらいいのか、もっと言えば自分の好きって気持ちが変わる可能性もあるから、自分の初心を忘れないようにするためどうしたらいいのか、そんなことを考えて、それから月1回ぐらいのペースで会う度に花を渡していた。頼まれもしないのに勝手に渡していた。
 彼女と付き合う前は休みの日も1人で過ごすのが好きだったはずなのに、気が付いたら仕事のない休日は全部空けていた。もう休みの日一人でどうやって過ごしていたか思い出せない。それもおれが勝手にしたことだ。彼女に頼まれてやったことは一つもない。
 こうやって書くと激重人間で、その重さが彼女にプレッシャーを与えていた可能性は大いにある。でもだからといってどうしたらよかったかわからないから、後悔のしようはない。少なくとも、自分ていう人間は本当はこんな奴だったんだと、これまで「自分はこういう人間だ」と思い込んでたものほとんど全部どうでもいいと思えた人は初めてだった。人を好きになるってことは自分が変わるってことかもしれないと思った。

 ただ人間関係なんてのは自分一人がどれだけ想ったところで相手の気持ちがなければ意味がない。お互いの気持ちがかみ合わなければどちらかが無理しなければいけなくなる。本当のところは彼女にしかわからないし、彼女にさえわからないかもしれないが、なんにせよ終わってしまった。
 ラブソングの「君さえいれば何もいらない」みたいな歌詞を聴くたびに内容薄いと思っていたけれど、あれは本当だ。女々しすぎてバカだなと思う。でも今のおれの気持ちはあれ。そして彼女に出会って自分という人間の形が変わった結果、元々自分がどういう人間だったかわからなくなってしまった。

 今のこの辛さは、もちろんそのぐらい好きな彼女と別れたことで1,000回死にたいくらい辛いのもあるけど、同じくらい、自分がこの先なんのために生きていけばいいかわからなくなってることが大きい。
 もう一度このぐらい好きだと思える人に出会える確率は奇跡みたいなもんだ。そしてその人が自分のことを好きになってくれるなんて奇跡×奇跡で、その上でお互いに好きという気持ちを持ちながら、それが結婚という形かはわからないけれど、死ぬまで一緒に生きていくなんて一生に一度の奇跡を何回起こさないといけないんだ。
 この先生きていてそんなことができるなんて今はとてもじゃないけど思えない。というか無理。結婚しない男女が増えてるなんて当たり前だろ。おれからすればそんな奇跡がバンバン起きてる方が非現実的だ。
 じゃあ一人で生きていくしかないとする。残りの人生で何がしたいか?思いつかない。好きだったはずのものへの興味も薄れてしまった。お金と時間がもっとあったとしたら?したいことが思いつかない。自分を形づくっていたほとんどのものが重要ではなかったことに気づいた今、自分の中に残ってるものは何があるんだろうか。どこに行きたいとか何がしたいかとかなくて、ただ彼女と一緒にいたいだけだった。ここまで書いてこの恋愛の状態は結構不健康だったなと今ならわかるけど、失ってからじゃないとそういうのはわからないもんだ。
 理由がなくても人は生きていくものかもしれない。でもしたいことも目標もわからず、自分がどういう人間かわからず、ただ時間だけを浪費して年齢だけ重ねていく人生はおれにはかなりきつい。この辛い状態の中でもう一度、自分はどういう人間なのか、何がしたいのか、燃えカスになった灰の中にわずかに残っている興味や好奇心、情熱の在りかを手探りで探すことからやり直さないといけない。
 しんどい。正直今が人生で一番、正真正銘死にたい。生きてる意味がわからないから。ボタン押せば楽に死ねるなら、マジで押してしまいたい。
 でも押さない。押したらこの現実に負けた気がするから。現実に呑まれて自暴自棄になることをカッコ悪いと思っているから。「諦めたらそこで試合終了ですよ」って一生思ってる。この超スーパー自意識過剰人間がカッコつける相手は自分自身。自分のことを好きでいるために。自分という人間の形が変わっても、この期に及んでクソの役にも立たないプライドは残ってる。自分はこんなもんではないと、訳も分からず中指を立てている。きっとこれが自分の根幹なんだと思う。

遠回りする度に見えてきたこともあって
早く着くことが全てと僕には思えなかった
間違ったことがいつか君を救うから
数え切れないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ

 「ジターバグ」っていうのは扱いが難しくて全然魚が釣れないことで有名なルアーのことらしい。ただ扱いが難しいからこそ、釣れた時の喜びは大きい。

 仕事も恋愛も人間関係も、自分の人生全部遠回りしてる。他の人がとっくの昔に気づいてることも、周回遅れで自分で経験しないと気づけない。もう何回失敗したか数えきれない。進んでると思っていた人生ゲームはいつも振り出しに戻る。

 でも遠回りして気づいたことも確かにある。失敗したから自分が変われたことも。今いる場所がゴールなんて思わない。でも自分には過去の過ちも全部必要なことだった。そんな経験せずに生きれるに越したことはないけど、自分はダメな人間だからきっと、そういう風にはできていない。だからきっと彼女と出会って付き合ったことも、意味はある。

 失恋ブログだと言って、彼女のことだけ書いたらきっと7,000字は書けるぐらいには未練タラタラ。でも未練タラタラで、いつか彼女が心変わりするんじゃないかって思いながら生きるのはダサい。死ぬほど悲しいことを死なずに受け止めて、少しでもマシな人間になって、自分にとっての幸せに向かって一歩ずつでも向かっていける人間をカッコいいと思う。間違ったことがいつか君を救うから、数え切れないほど無くしてまた拾い集めるしかない。いつかそんな人間になるために。今はカッコ悪くて情けないだけだけれど、カッコ悪い中でカッコつけることが、今自分という燃えカスの灰の中に残ってるものだ。大丈夫じゃないけど大丈夫だよ。

大丈夫じゃないけど 大丈夫なんだよ

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