23│05│韓国旅行記3日目

■某日
 朝7時に目を覚ます。今日こそ行きたかったカフェに行ってやるんだ。という気持ちとは裏腹に、昨晩のお酒とご飯がまだ胃の中に残っているのを感じる。コンディションは100点満点中40点。果たしてこの状態でカフェに行って楽しめるのか?というかマジで眠いし疲れてる。しかも外は生憎の雨。少しだけ悩んで、悩んだ時点で答えは決まっていて、昨日のパン屋で買っていたあずきぱんを食べて二度寝することにする。ただ二度寝と言っても国立現代美術館にオープンから行く予定だったので大して眠れず。パフォーマンスの悪い男こと私。

 国立現代美術館に行く前に景福宮寄る。1395年に建設された朝鮮王朝の王宮らしい。いやーマジで興味湧かない。しかしこれはきっと自分の勉強不足のせい。小学生の時に遠足で行った奈良の東大寺のおもしろさがわからなかったのが、大人になって行ったらかなりおもしろかったように、きっと楽しむためには楽しむための準備が必要。歴史や背景の知識がなければ王宮を見ても「へぇー」と思うしかない。まあ次に韓国来た時にまた来たいかと聞かれたら多分行かないけど。

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スケール感じる
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おれの中の沢尻エリカが「別に」を連呼する(心に沢尻エリカを飼うな)
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君の名は

 景福宮を早々に去り徒歩5分ほどで国立近代美術館へ。チケットを買おうとカウンターに行くと「今日はフリーなのよ」と無料でチケットをもらう。どういうなに。しかしこの旅行中の数少ないラッキー。

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国立近代美術館 ソウル館

 『Only the Young: Experimental Art in Korea, 1960s–1970s』を見る。DDPデザインプラザでは1960年代のイギリスのポップアートを見たが、こちらは同年代の韓国のアーティストの展示。いくつかのテーマごとにセクションが分かれているという点で展示方法も似ている。しかし前者がカラフルである種のインスタ映えも意識したような展示だったのに対し、こちらのムードはもう少しシリアス。1960年代というのは経済成長を伴いながら急速に価値観が変容していった時代で、この展示でも社会通念や伝統的な価値観、権力やパブリックなものをテーマにした作品が多い印象。生きるとは闘うことであり、アートは一つの生き方(闘い方)だ。

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カラフルなガスマスク
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リバーアンドストーン
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Lee Kangso『Untitled(Skelton)』。一番好きだったやつ。
自分は骸骨モチーフがすごく好き。
生に直接目を向けるよりも、死を通して生を見ている。

 アーティストでも活動家でもない市井の自分の闘い方ってのはなんなんだろうか。家族に感謝を伝えるとか、仕事をもっと頑張るとか、友達を大切にするとか、好きな人を自分の100%で愛するとか、少しでも理想の自分に近づくために努力を続けるとか、そういう日常に水をやるような、一つ一つ石を積んでいくような毎日を生きることが自分にとっての闘いな気がする。
 とはいえ『戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。』という吉田健一の言葉のような思想を鵜呑みにもしたくない。日々の生活で手一杯だよ。でもこの生活は社会の中にあって、社会が変わってしまったら生活も変わってしまう。だからおれは社会も良くしたい。そして社会っていうのは隣にいる人のことでもある。自分の行いが誰かに良い影響を与えられるなんて烏滸がましくて思えないが、そうなれたらいいなとは願っている。自分のために生きることが誰かのためにもなるような、そんな人間になりたい。
 一つ言えることは、この世に神様はいなくても、自分のことを見ている人は必ずいるということだ。そしてこの闘いは死ぬまで終わらない。

 もう半分のギャラリースペースではゲームをテーマにした展示が行われていた。ゲーム空間を二次元のコミュニティとして、社会空間の一つの代替えとして捉えるのはすごく社会学っぽい。ただ今のゲームはおれには難しすぎる。後輩とswitchのマリオカートやった時にswitchでは1勝もできなかったけどスーファミモードでは後輩をボコボコにするようなアナログ人間なんだおれは。

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シムシティだって捉え方一つでアート。
展示では実際にそのゲームもプレイできる。

 美術館を後にし雨も強まる中、フェイシャルエステを受けに明洞エリアへ。韓国と言えば美容、ということでせっかくならマッサージやらエステやら何か受けてみたいと思い事前にフェイシャルエステを予約した。ノリ。人生にはノリが必要。

 施術の前に面談を受ける。日本に住んでたこともあるという日本語堪能な韓国人女性。おそらくこのクリニックにくるお客さんの10割日本人。まずはお茶でも、と飲む人の体調によって味が変わる(らしい)漢方五味子茶というお茶もらう。自分が飲んだ時はベリーのような甘い味がした。甘い味がする人は膵臓機能が低下し、老廃物が溜まっているらしい。多分これ何言われても「そうなんですねー」って納得する気しかしない。そしてすかさず「このクリニックでも販売していて60袋90,000ウォンで買えますよ」と営業を受ける。恐ろしくスムーズな営業、オレでなきゃ買ってしまうね(全然買っていい)。でも良いお土産にはなりそう。

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五味子茶。
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全てのコースにばっちり日本語メニューがある。

 今回はスタンダードなフェイシャルエステのみを予約していたが、その場でレーザー治療の提案を受ける。『女性はたるみ、男性は毛穴のケアが重要なんですよ。』という言葉の説得力すごい。『日本だと8万円ぐらいするんですが、今日ならフェイシャルエステとセットで3万7,000円で受けれますよ』。いや、マジ絶妙。元々受けるつもりだったらアリな金額だが、急に言われて受けるには絶妙に微妙な金額。そして本当に日本だと8万ぐらいかかるのか全く分からん。ただ感覚としては韓国の物価が上がっているとはいえ、こういう美容施術に関してはまだ韓国で受けた方が安いんだろうなという気はした。ノリが大事といいつつそこまでノリの良くない人間なのでおとなしく最初に予約していたコースのみを受けることにする。ただ次に韓国来たときはレーザー治療とかポテンツァあたり受けてみたい。というか丸一日美容DAYとか健康DAYにして過ごしたい。人生にはノリが必要なので。
 施術は大体1時間ぐらいだったと思うがほぼ寝ていて記憶がない。唯一覚えているのは施術が終わった後、整体受けた後の好転反応のような半端ないダルさを感じてスタッフの人に背中押してもらわなければ起きれないぐらい、泥のように体が重かったこと。疲れすぎだろ。

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明洞駅構内にあるCDショップ。K-POPのみの扱い。
明洞でもう一店舗CDショップに行ったけれどそこはK-POPと韓国ドラマのOSTのみの扱いだったので、レコードショップでもない限り店頭でK-POPOST以外の作品にアクセスするのは非常に難しそう。

 この旅行ではできるだけ韓国っぽいものが食べたかったので、明洞から西村方面に行き参鶏湯屋へ。ここは観光客にも有名なところで1人でも入れると聞いていたので安心して列に並ぶ。クレジットカードも問題なし。観光客多いとこに行くのはつまらないと逆張りしそうになるが、こういうとこの安心感あるのありがたい。

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土俗村の参鶏湯。
人生で初めて参鶏湯食べたが鶏肉の中から高麗人参やなつめが出てきてとにかく体に良さそう。
ただ美味しいかどうかで言えばタッカンマリの方が美味しいし好きだな。

 お次は土俗村から5本ほど歩き0fr. Séoulへ。パリにあるという本屋「0fr.(オーエフアール)のソウル支店。中はお洒落なポストカードにトートバッグ、雑貨、洋書が並び、このエリア一帯で断トツにこのお店だけ人が多い。そしてほぼ9割女性。おそらく2階にmirabelleという雑貨屋も入っているのでセットで見に来人も多いんだろう。確かに野郎向けというよりは女性のセンスに合うようなセレクトのアイテムが多いので、女性が来た方が楽しめるかも。トートバッグを買おうか迷うも、もうバッグ持ってるしなという謎の理性が働き記念にポストカードだけ購入。

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0fr. Séoul。雨の日は傘の置き所に困る。
このお店のあるエリアは小さいギャラリーも多そうで、もっとゆっくり歩いて回ってみたい。
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何か言え。(というカフェ)

 その後は南下して昨日行けなかった美術館と靴屋のために再び龍山へ。改札を出る瞬間にT-moneyカードがエラーを起こし改札が通れなくなり絶望レベル10になる。自力ではどうにもしようがないのがわかるが日本のように駅員が常駐している窓口はない。備え付けのインターホンに「エラーが出て通れないんだ。助けてくれ。」と絶叫し通してもらう。君は知っているか?help meって素直に言うのはちょっと勇気がいることを。

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エラー画面。翻訳したら「既に降車処理されている乗車券です」と出る。
おれはおれの気づかないうちに降車した…のか?

 龍山では行きたかったアモーレパシフィック美術館へ。ここはアモーレパシフィックというinisfreeなどを取り扱うコスメ企業の本社ビル内にあり、元はこの会社の創業者のコレクションを展示していた美術館だったらしい。世界には日の目を見ずに個人の所蔵品としてのみ愛されている美術品が沢山あるとは思うが、天王洲の「WHAT MUSEUM」やロサンゼルスの「The Broad」のように、こうして一般庶民にもオープンにしてもらえるのは大変ありがたい。
 今回の展示は美術館の所蔵作品のコレクション。割と新しい美術館だからか、2000年以降の近代の写真やモダンアートがメインの展示だった。入り口で警備員の人に何か話しかけられるも当然わからず。「韓国語わかんないんだよね」と英語で言うと何かを諦めたようにそのまま通された。諦めてんじゃねぇ!!

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エントランス
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リチャード・アーシュワーガー『ビックリ・マーク』
紙の上の記号が物理的な空間の上を浮遊することで、見る人の認識と感覚の変化を誘導し、
配置された空間によって異質な感じを伝達するらしい。
ちょっと何言ってるかわからないです。
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アンドレアス・グルスキーライン川の写真。
水位の下がっていく川は気候変動への警鐘を表している。
2つの1960年代の展示には気候変動っていうワードはなかったから、この辺は凄い近代的なテーマだ。
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広いし高い。空間の贅沢使いCOMOLI青山店か
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BUT NOW I AM
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あなたは真に違いを生み出すことができる 

 美術館を出た後は徒歩でIYSOのショールーム店へ。韓国に来て一番買いたかったスニーカーで実際に試着するチャンスを狙っていた。雨の中を足早に店に向かう。明確な目的地に向かっている時には雨の中でだって足取りは軽い。しかしもう着いてるはずなんだが、それらしい店が見つからない。何度かマップの示すポイントを通り過ぎる。ふと雨宿りしている人の沢山いる明かりのついていない店舗を覗くと、そこが目的地のIYSOのショールーム店だった。電気の消えたISYOの軒先では雨宿りしている人が8人ほどいて、この無残な敗北の瞬間を写真に収めることも躊躇われたので「いや、別にISYOに来たわけじゃないんで。たまたま近く通ったから覗いてみただけなんで」面(ヅラ)でその場を去る。そんなことある?この日が韓国の祝日だったからか、それか数日後に始まったサンプルセールの準備のためだったか、理由はわからないがとにかく閉まっている。この旅一番の「なんそれ!」を心の中のZAZYが叫ぶ。この旅行中何度も行きたかった店にフラれ続けているが一番ショック。まあそもそも元カノにフラれて一人で始まったこの旅行なのでフラれるのは今に始まったことではないのですがはっはっは(自殺)。

 メンタルと体力が限界を超えていてマジで無理になったので一刻も早くカフェに行って糖分を過剰に摂取したい。夜は知り合いの人と東大門エリアで会う予定があったので、ホテル方面に戻る途中SEOUL COFFEEに寄る。あんバターの有名なお店らしいが、おれはどうしてもここのきなこティラミスが食べたかった。ティラミスのスポンジの部分が水分を吸ってべちゃっとしているのが嫌なのだが、このティラミスはスポンジの柔らかさをキープしたまま、きなこの味が生クリームと混じりつつも存分に感じられ、疲れ切った身体に染み込む甘みはこの旅行で一番と言っていいぐらいの感動があった。これは日本でも物理的には作れるはずなのでマジでどっかのカフェでもメニューに入れてほしい。週一で食べる。韓国っぽいもの食べたいって言って食べてきたけど、結局美味しいのは自分の好きなものだわ。

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なにがしかのクリームラテ(記憶なし)ときなこティラミス。
スタバの新作2本分のカロリーを摂取して天国を知る。まーじで美味しかった。
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狭い路地の入り組む益善洞エリア。ソウルと豪雨で踏める。 

 20時、知り合いの人とポッサムを食べるために東大門エリアで落ち合う。古着屋をやっている人で、たまたまこのタイミングで服の買い付けのために韓国に来ていたよう。この人とも知り合ってから8年?9年?ぐらい経っているけどこうやってゆっくり話すのは初めてかもしれない。仕事の話、プライベートの話、こういう場でしか話せないこと、色々ある。パッと見は自分と全然違うタイプの人に見えるけど、結構似てるとこある気がする。おれには韓国のカラオケバーに一人で突撃してOasis歌う根性は絶対にないけど。しかし韓国に3泊の旅行に来て3人も別々の知り合いの人に会えるなんておれはめちゃくちゃ運がいい。

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ウォンハルモニポッサムのポッサム。
ポッサム初めて食べたけど端的に言うとサムギョプサルの茹でたver.。
ただ茹でることでサムギョプサルよりも油が落ちてさっぱりした味なので、
個人的にはサムギョプサルよりも好きかも。 

 閉店時間まで店で過ごした後、この日は弘大のクラブに行くつもりだったのだが、その人も一緒に行ってくれることに。おれは日本ではクラブに一人で行ってフロアで音楽聴きながらずっとTwitterに勤しむタイプの人間なので、初めての韓国のクラブに一緒に行ってもらえるのはめちゃくちゃ心強い。

 23時過ぎ、弘大に着く。駅に向かう人波に逆走する形でクラブエリアへ向かう。雨のため人がどのくらいいるか不安ではあったもののそれなりに賑わっていそう。韓国のクラブは入場料がフリーの箱も多いので色々回ってみようと、まずはSabotageという箱に入る。

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1軒目に入ったSabotage。Sabotageはクラブ通りに2店舗ありその内の一つ。
店内のスモークの量がえぐい。

 ここが韓国のクラブかーとあたりを見渡すも閑散とした店内。客は男しかいない。音楽を聴いているようにも見えず、仲間内で溜まって談笑している。全く盛り上がっていない。なんだかおれはこの空気を知っている。これは女子と喋りたいけど喋れない男たちが「やっぱ女といるより男といた方が楽しいよなww」と逆張りでツルむ男ノリのあれ(偏見)。隅で固まって、中央をチラチラと伺いながら「あっち側にはなれないすからおれたち」と最初から牽制球投げて斜めから物事見ることでちっぽけなプライドを守ろうとするあれ(偏見)。別に女の子をナンパしに行けとは言わないが、わざわざ雨の土曜日にスカスカのクラブにきて音楽聴くわけでもなくただいつもの連れと固まって酒飲むだけでお前ら本当にいいのか?目を覚ませよ!(ここまで全部偏見)

 ここにいたら男子校時代のおれに戻ってしまうと、5分でSabotageを去り次の箱へ。事前に調べて行きたかったTHE  HENZ CLUBという箱が近くにあったので向かう。ネットで調べた外観が見当たらずに少し迷うも、よく見ると
外看板が変わっていた。鵜呑みにするなインターネット。入場まで少し並ぶ。並んでいるお客さんを見ると、他の箱の前で待っているお客さんとは少し雰囲気が違う。FNMNL読んでそうな感じの客層。THE HENZ CLUBは日本のKID FRESINOやゆるふわギャングもライブをしたことがあるようなヒップホップ箱として有名なクラブで、お客さんもおそらくヒップホップ好きが多いんだろう。日本も韓国もヒップホップ聴く客は服も雰囲気もなんかイケてる感じがする。そして女の子が全員かわいい。ヒップホップは神。ここではチャージ10,000ウォンがかかるが、1,000円ちょいでドリンクチケットももらえるなら無茶苦茶安い。

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THE HENZ CLUB入口。雨の日はどこのクラブもテントを張っている。
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THE HENZ CLUBの入場スタンプはチューリップ。
これがかわちいか…

 ドリンクチケットで頼める飲み物は種類が決まっていたが全部見たことないメニューだったので、そんなアルコール強くないだろという山勘でレモンドロップというお酒を頼む。試験管のような細長いグラスに黄色い液体が注がれ、縁にはソルティドッグのように塩がまぶされている。量が少ない=めちゃくちゃ酒強い(偏見)。完全に失敗したかもしれない。ただ意外にも飲み口は爽やかでレモンの酸味と塩の甘みもしてジュースみたいでだいぶおいしい。その後行く全てのクラブでおれはレモンドロップしか頼まないこととする。(レモンドロップはウォッカベースのカクテルらしく、調子こいて飲んだら多分めちゃくちゃ酔う)。ここは先ほどのSabotageと違い人も多く、男女比は7:3ぐらいで男性が少し多い。フロアの大半はDJブースに向かいみんな音楽を聴いている様子。かかっている曲もチャラいEDMではなくR&Bやソウル、洋楽や韓国のヒップホップが多くかなりイケてて、客のノリも良くちゃんと曲聴いて盛り上がってる。めちゃくちゃ楽しい。そして女の子は全員かわいい。ヒップホップは神。もう朝までここでいい。

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2軒目のTHE HENZ CLUB。弘大で行った5軒のクラブの中で一番みんな音楽を聴きに来てる感じで、曲で盛り上がっててすげぇ楽しかった。ここはまた来たい。

 しかしまだまだ時間は1時過ぎ。せっかくだから他のクラブも行ってみようと一旦出ることに。韓国のクラブは一度入れば基本再入場いつでもOKなので、入場料が無料の箱が多いのと相まってクラブ巡りがしやすい。ピークタイムでもあるからか、雨にも関わらず通りにも人がかなり多くなってきた。一回めちゃくちゃチャラい箱行きたいですね、と3軒目はMADEという箱へ。ここでも入場のために少し並ぶ。並びができている箱は人気があって人も多いので概ね盛り上がっていそう。逆に客引きがいて、待ちもゼロの箱に入るのは結構なギャンブルな気がする。

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MADEの入り口。
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3軒目のMADE。チャラさの権化。

 MADEのフロアは今回行ったクラブで一番チャラかった。フロア内には一段上がったよくわからないお立ち台があり、通路には謎の紙が散乱している。ガンガンのEDMがかかる中、音楽は大して聴いてないだろう男女が踊っている。連れの人が一度お立ち台に上がってみるも、既に上に登っていた男性とその仲間にやんわり下ろされる。システムわからん。しばらくすると、ウェイターのような恰好をした男性スタッフが電飾で光る「MADE」と書かれた看板を持ち、その後ろをコスプレした美女4人が花火のような火花を噴き出す瓶を頭上に掲げながらフロアを練り歩き始めた。又吉の書いた『火花』とは違う"火花"がソウルにはある。最後の花火に今年もなったな。システムがわからないし音楽もよくわからん。連れの人は女の子との接触イベントが発生しているが、おれにそんな甲斐性があればこんな人生は送っていない。一通りチャラいバイブスを感じてお腹いっぱい。もう一つロック系の箱として有名なFFというクラブに移動する。

 FFとその上にある箱にはなぜか海外のお客さんが異様に並んでいる。かかる音楽のセレクトの問題か、ガイドブックにでも載っているのか。案内も英語メインで書かれていて、これまで行った3つの箱とまた全然雰囲気違う。

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FFの入り口。
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4軒目のFF。外国人率がめちゃくちゃ高い。8割外国人。
かかっている曲も洋楽ばっか。

 FFのフロアはとにかくずっと洋楽がかかっている。Bruno Marsでブチ上がり、Coldplayで叫ぶ。ここならOasisの”Don't Look Back in Anger”かかっても全員リアムギャラガーよろしく大合唱いけますよ。この箱は「Emo Night」と称してマイケミやパラモア、ブリンクにBMTHばっかかける日もあるらしい。絶対楽しいじゃん。アラサー以上しか喜ばなそうなラインナップではあるが。客席もナンパ目的というよりはみんな音楽聴いてノッてるのと、あと海外の人と交流したそうなお客さんが多そうで雰囲気よかった。

 もう1軒どっか行ってみますか、と看板が派手そうなクラブに行ってみる。名前はわからないが列できてるし人も多いだろうと思うも、よく見ると男性レーンと女性レーンで分かれている。女性客が少ないのか、女性が来るとファストパスのようにそれまで並んでいる男をごぼう抜きにして箱の中に消えていく。こいつは暗雲立ち込めてる。けれどせっかくならどんな箱か入ってみたい。30分ほど並び、いよいよ身分証確認まで来た。パスポートを見せる。スタッフがなんか言ってくる。韓国語わかんないんだというと、まだ韓国語で何か言っている。とりあえずすんなりは入れなさそう。もう一度すまん、韓国語わからないと言うと『Age limit 29!』と聞こえた。…What?『Age limit 29』。どうやらこれは29歳以下しか入れないってことらしい。おれも連れの人も30 overだったので、二人して門前払い。「なんそれ」と心の中のZAZYが呆然としている。韓国のクラブはドレスコードや身長、厳しいところでは顔判定で弾かれることもあると聞いていたが、ここで年齢制限で弾かれるとは。ドレスコードやなんなら顔も努力と気合とお金でなんとかできるが、年齢という不可逆なものでハードル設けられてるの人生過ぎる。

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29歳以下しか入れずに30分並んだ挙句エントランスで弾かれた箱(名前不明)
30 overの人は行かないように気をつけよう。

 一旦マイホームTHE HENZ CLUBに戻りひとしきり楽しむ。時刻は4時近い。ピークタイムは列がかなり長く入れなそうだったYGが運営するというnb2も列がなくなっていたので、最後はそこに行ってみることに。

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5軒目のnb2。チャージは15,000ウォン(もしくは20,000ウォン。記憶なし)でドリチケ2枚もらえる。
客層は韓国人と外人で半々くらい。YG運営と知ってかK-POPファンっぽい女の子が多い。

 着いたのは4時過ぎとピークタイムは過ぎていたのでメインの時間帯でどんな音楽がかかってるかはわからないが、この時間帯はK-POPもかなり多くかかっていた。韓国のクラブのサウンドシステムで聴くNewJeansやLE SSERAFIMは低音の鳴りが違う。お客さんもK-POPファン多そうでノリも良く、ここもかなり楽しかった。”ANTIFRAGILE”でブチ上がっていると、いきなり肩を組まれる。横を見ると韓国人の男性。盛り上がった勢いで肩組む的なノリか?とも思うが、なんか様子が違うっぽい。もう一度横をみる。めっちゃ見てくる。昔カナダのフェスでDescendentsを見てる時に白人のおじさんにキスされそうになった記憶がフラッシュバックする。女性をナンパもできないのに男性に逆ナンされるのはいくらおれが拗らせていても捻じれがイカツすぎる。自分のナチュラルノリ悪いの29倍ぐらい過剰にテンション低い雰囲気を出して難を逃れる。難もうええて。

 時間はもうすぐ6時近い。そろそろ帰りますかと2人して外に出ると空もだいぶ明るくなっていた。半端ない疲労と、韓国のクラブを結構楽しんだんじゃないかという心地いい達成感を感じながら知り合いの人と別れる。韓国のクラブのナンパを目の当たりにし、おれたちは少しだけナンパに近づいた。人間にとっては小さな一歩だが 人類にとっては偉大な一歩だ。まあおれがクラブで女性をナンパする日が来たとしたら、それはもうおれではないという気もするが。

 ホテルに着いたのは6時頃。今日は帰国日で昼には空港に着いてないといけない。ワンチャン空港前にカフェ行けるか?と一瞬考えるも、なんでこんなに生き急いでいるんだろうなとふと我に返る。流石に22時間動き回ったら疲れるに決まってる。体に少し馴染んできたベッドに飛び込み、気が付くと意識を失っていた。