君は1人じゃない - 2018.8.15 ELLEGARDEN - THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018 FINAL w/ ONE OK ROCK

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■君は1人じゃない

 2018年8月15日、前週の新木場公演が台風に見舞われたのとは打って変わった晴天の下、ELLEGARDEN活動再開ツアー「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」はファイナルの日を迎えた。

 

マリンスタジアムには早朝のグッズ販売時から本当に沢山の人が集まっていた。今でこそTwitterFacebookもあるが、エルレが活動していた当時は今のSNSのようなものはミクシィぐらいしかなく、そのミクシィもやっていなかった自分は日常生活でエルレを好きな人にほとんど会ったことがなかった。それがこの日は日本中からエルレを観るために集まったファンが続々と幕張に訪れてくる。「エルレを好きな人ってこんなにいたんだ」。もちろん中にはこの場所に来れなかった人もいるだろう。でも目の前に集まったファンを見て、CD の売り上げ枚数を聞いても持てなかった実感が湧いてきた。部屋で1人で歌詞カードを見ながら、MDウォークマンエルレを聴いてたあの頃の自分がこの景色を見たら、なんて言うんだろうか。

 

ここマリンスタジアムでも、チケットを求め海浜幕張駅から会場まで、かなりの数の人がボードを持って立っていた。音漏れのために遠方から駆けつけた人も多くいる。自分は新木場公演に続きマリンスタジアム幸運にもチケットを譲ってもらうことができたが、一箇所も行けない人がいると思うと、罪悪感は拭い去れない。でも後悔しない選択を考えたら、答えは一つだった。心にのしかかる重圧は今日という日の重みだ。その重みとともに4人の姿を目に焼きつける。17時を回った頃、場内に向かう。

 

場所はアリーナLブロック。広い。マリンスタジアムにはサマソニで来たことはあったけれどやはり広い。けれどステージの左右には巨大なモニターも設置されている。これなら、メンバーの表情もよく見えそうだ。この会場がELLEGARDENを待ち望んだ人たちで埋まる、その時を待つ。

 

18時を少し過ぎたところで、会場のBGMの音量が上がり、モニターには「ONE OK ROCK」の文字が。そしてSEへ。

 

ONE OK ROCK

 

Taka「みなさん熱中症になる準備はできてますか!?敬意をもって、このステージの上で自分たちを見せて帰りたいと思います。」

 

1曲目"Taking Off"。スクリーンに映るTakaは早くも瞳を潤ませている。 このツアーで、いやこのツアーが始まる前から、エルレへの愛と尊敬を何度も口にしていたTakaだからこそ、このツアーの喜びと同じだけ、それが終わってしまう寂しさも大きいのだろう。他の3人の気迫もピリピリと伝わってくるようだ。ライブハウスよりもアリーナやドームといった大箱が主戦場となったONE OK ROCKサウンドマリンスタジアムとがっちりと噛み合う。

 

そこから"The Beginning"、"Clock Strikes"とセットリストは新木場と同じ流れ。しかし新木場で見た時はあまり印象に残らなかった"Clock Strikes"でのTakaのハイトーンのロングシャウトの伸びは凄まじく、こういった大きな会場でこそその壮大なスケールは存分に発揮されるのだと思い知る。ファンの大合唱と合わさったその歌は、スタジアムを超え、会場の外にまで届かんばかりに響き渡る。

 

Taka「ELLEGARDENおかえりなさい。10年前彼らが活動を休止した時、僕らはバンでバンド活動をしていました。日本中を車で回って、彼らの音楽を聴きながら色んな想いにふけって、いつかあんなでっかいバンドになってやるって気持ちを常に持ちながら活動していました。バンド活動を始めて13年、色んなことが混ざりに混ざって、今日という日を迎えることができてます。」

 

"Take what you want"の前奏に乗せTakaが語る。改めて、エルレとの対バンが自分たちにとってどういう意味を持つのか。エルレとファンへのリスペクトを忘れずに、熱い気持ちをぶつける。この日も"Take what you want"でのTakaのロングシャウトには鳥肌が立ち、涙が出そうになった。歌声だけでここまで惹きつけられるボーカリストはそうそういない。

 

続く"I was King"でもTakaの振り絞るような歌声が、エモーショナルに心を揺さぶってくる。ブレない上に伸びのあるTakaのボーカルとどっしりと構えた3人の楽器隊の演奏が、客席のコーラスを巻き込み、渦巻くようにスタジアム広がっていく。

 

Taka「エルレが大好きで、本来ならおれらもみんなと同じチケット買ってそっちで見たいくらいなんです。でもこのツアーが決まった時、絶対にチケット取れないだろうなと思って、でもどうしても見たかったからオープニングアクトとして使ってもらおうと思って、隙間を狙ってね笑。僕がやっと細美くんと対等に話せるようになって、正直にエルレがまた見たい!と言い続けました。それから2年経って、色々な問題を乗り越えて今日を迎えられています。ONE OK ROCK知らない人もたくさんいると思いますけど、今日は僕に感謝してください。……冗談です笑。」

Taka「皆さんの気持ちを彼らにぶつければ彼らの未来も、皆さんの未来も変わるかもしれません。届くかはわかりませんが。ELLEGARDENと同じステージに立てたということは僕らにとって財産です。僕らはこの宝物を背負って、これからも自分たちの道を進んでいきます。でも今日が最後だから言うけど、あと1本だけ、ツアーやってもらいたい。だってまだ見たいんだもん。」

 

ここまでTakaの瞳はずっと潤んでいるように見えた。それはエルレとの対バンツアーがファイナルを迎えたことの感慨や感傷からくるものだと思っていた。でもこのMCを聞いて、それが悲しさや寂しさからくるもののように見えた。「最後」という言葉の意味が何を指すのかはわからない。けれどTakaのMCは、切実な訴えのようにも聞こえた。

 

Taka「ここからまだ盛り上がっていけますか?」

 

自身の気持ちを切り替えるようなTakaの一言から"Mighty Long Fall"へ。巨大なサークルが作られ、モッシュ、ヘドバン、シンガロンガが各所で次々と起こる。ToruTomoyaもステージいっぱいを使い客席を煽るように激しくプレイする。熱を帯びた空気が、一体感を生み出していく。

 

Taka「これだけ言わせてもらうけど色んな時代に色んなバンドがいると思うけど、ハイスタでもなく、BOØWYでもなく、僕たちにとってのヒーローはELLEGARDENなんです。他のバンドをディスってるとかじゃなくてね。辛い時や悩んだ時音楽に救われて、みんなもそうだと思うけど、おれたちも同じなんだよ。彼らの音楽に救われて、自分たちも音楽やって、音楽で名を轟かしてやろうって思えた。」

Taka「普段はステージの上では先輩後輩関係なく誰にも負けないって気持ちでライブやってるけど、ELLEGARDENみたいなレジェンド級のバンドが来たらどう表現したらいいかわからなくて。」

 

"We are"でTakaはステージ下手からアリーナへと降り、後方のスタンド席へ駆け出した。スタンド席に立ち、アリーナからスタンド最上段まで、全員の気持ちを煽る。新木場では小さかった合唱が少しずつ大きくなり、マリンスタジアムに集まった人たちを繋げていく。

 

Taka「次エルレが来るんだぞ、おまえらそんなんでいいのか!!!」

 

"We are"の余韻の消えない中、最後の曲"完全感覚Dreamer"へ。RyotaToruTomoyaも、最後の曲に全てをぶつけるように身体全てを使った演奏を見せる。Takaはスタンドから再びステージへ、全力のボーカルと全速のステージングで、マリンスタジアムONE OK ROCKというバンドの存在を証明していた。

 

新木場で見たONE OK ROCKが見せたのは、ELLEGARDENが復活し、そして同じステージに立てることの喜びと、エルレとファンへの敬意と愛に溢れた、祝福を体現したロックキッズのステージだった。でもマリンスタジアムで見たONE OK ROCKは、感謝と尊敬を胸に日本のトップバンドとしての圧倒的なスケールでその矜持と覚悟を見せていた。しかしそれ以上に、このツアーが終わることへの抗いようのない寂しさを振り払うかのような、願いが込められたステージだった。

 

ONE OK ROCK セットリスト

1.Taking Off

2.The Beginning

3.Clock Strikes

4.Take what you want

5'I Was King

6.Mighty Long Fall

7.We are

8.完全感覚Dreamer

 

ワンオクのライブを見て、TakaのMCを聞いて、「エルレはこのツアーで解散するのかもしれない。」という考えがふとよぎった。誰の証言も、何の確証もないが。一度生まれた疑念は消えず、エルレの出番を前に重く苦しい気持ちが心に広がっていく。「こんなに好きなバンド他にいないのにどうするんだよ。」SEが鳴り始めても、憂鬱な気持ちは晴れない。「考えても答えは出ないし、今は今を楽しもう。」無理矢理そう自分に言い聞かせる。新木場と同じ、SEの後に少しの間。

 

ELLEGARDEN

 

Nothing I can do as well
But to dream her all the time
I'm a fuckup and I'm nuts so she's gone

1曲目は約束の曲"Supernova"。新木場ではいきなりイントロから入るアレンジだったが、今日は細美のギターと歌から始まるアレンジだった。それはこの10年間、何百回とライブ映像で見た、何百回と頭の中で描いたELLEGARDENの復活ライブのオープニングだった。完全な不意打ち。「えっ?」。新木場と違う?そんな頭の混乱をよそに、細美の歌に生形のギターと高田のベース、高橋のドラムを聴けば、否が応でも気持ちは昂ぶる。何百回と聴いた"Supernova"は、いつも空だって飛べるんじゃないかってくらい、心に翼をくれた。実際に空を飛べる日なんて一度も来なかったけど、でもこんな自分にも、一歩踏み出す力をくれた。ふと周りを見渡す。みんな泣いていた。みんなこの日を待っていた。それは自分もそうだったはずだ。この10年、ただこの日をずっと待ってたんだ。未来のことを考えるのは今じゃない。さっきまで心を覆っていた雲は振り払われていた。気がつけば全力で拳を上げ、モッシュの渦へと身体は吸い込まれていく。

 

"No.13"から"Pizza Man"へと新木場と同じ流れ。でも今日は3万8000人の観客がいる。"No.13"のジャンプも"Pizza Man"での大合唱も、波がうねるように大きな力になり、その熱とエネルギーが会場中に伝播していく。

 

細美「こんばんは、ELLEGARDENです!!…………ただいま。」

細美「(指に手を当てて)シーっ、静かにして。子ども以外黙ってて。『よー!外で聴いてる連中よー!!!怪我すんなよ!!!』(場内の人を指差しながら)お前らも怪我すんなよ。」

 

会場の外にいる音漏れを聴きにきた大勢のファンに呼びかける細美。 場内に届いてくる歓声。いつだって、ファンのことをこのバンドは考えてきた。やり方が常に正しかったわけではないかもしれない。でも自分たちのスタンスを貫きながら、それでいてファンも幸せにする方法はないか、みんなを笑顔にする方法はないかを考えてきた。その声は、会場の外で音漏れを聴いていたファンに間違いなく届いたはずだ。

 

会場の外のファンとも繋がった勢いのままに"Fire Cracker"へ。

To find it floating in my static dream

僕のスタティックな夢の中にはそいつが浮かんでるってのを見つけ出すために

Just sing it, sing it

ただ歌うんだ 歌うんだ

Even though I've never said the words

僕が口に出して言わなくったって

Don't fake it, no more

もうごまかすのはやめにするんだ

To find it floating in your static dream

君のスタティックな夢の中にはそいつが浮かんでるってのを見つけ出すために

Just sing it, sing it

ただ歌うんだ 歌うんだ

Even though you've never said the words

君が口に出して言わなくったって

I feel right now

感じてるんだ

サビに出てくる「そいつ」がなんなのか、リリースされた当時はよくわからなかった。でもきっと「そいつ」っていうのは、自分がずっと持っていて、でも自分では気づけていなかった信念のようなものだと思った。自分の正直な気持ちの見つけ方はエルレの音楽が教えてくれた。エルレと出会って15年、失敗や遠回り、自己嫌悪した夜は数え切れない。でも情けない自分でも、少しでもマシになりたいと、エルレの音楽とともに生きてきたつもりだった。自分の信じたものを信じ、そしてそれを信じる自分を信じた。全てのピースが揃って、自分のことを初めて愛せるような、そんな奇跡みたいなこの夜を連れてきたのは、エルレの音楽であり、そして自分自身だ。今日までの人生は間違ってなかったのかもしれない。夢のような現実がここにはある。自分として生まれて、自分として生きてきたことがこんなに誇らしく思える日は初めてだった。

 

"Space Sonic"、オルタナティブなコードと展開を当時のヒットチャートへ送り込んだこの曲でエルレを知った人も多いだろう。イントロが鳴るとまるで日本中を沸かせたミリオンヒットのように迎えられる。"高架線"では手拍子とともに優しい一体感に包まれる。


細美「なんも言うことないんだよな。なぜならただのバンドだから。意外と普通でしょ?こんな感じよ?今日はしこたま酒飲むから、二日酔いか三日酔いから醒めたら、今日がどういう日だったか、4人でメシでも行って話そうと思います。雄一はなんかある?」

高田「特にないです。(全員無反応)……………誰も助けてくれないんですね。」

高橋「気持ちの10%は雄一の髪型の後ろがキャプテン翼みたいになってて、それが気になって仕方がない。」

生形「10年………、こんなに待ってくれた人がいて、外にもいて、今日来れなかった人もいて。おれたちは幸せなバンドです。」

 

細美「懐かしい曲をやります。」

 

そうして始まったのは"Missing"。新木場ではサビの歌詞を間違えていた細美だが、今日は完璧に歌っている。最後のサビでは、スタジアム中の合唱を両手で煽る。これは「仲間の歌」だ。間違っても、失っても、彷徨っても、この場所に来れば1人じゃない。そしてこの記憶があれば、また明日を迎えられる。

 

"スターフィッシュ"、"Autumn Song"とエルレの中でも特に人気の高い曲たちが惜しげもなく披露される。満面の笑みで歌う細美。モニターに映る生形と高田と高橋の表情からも、充実感や喜びが伝わってくる。

One thing I miss at the center of my heart

ハートの真ん中にひとつだけ足りないんだ 

どうしようもない孤独を歌った"Autumn Song"も、みんなと一緒なら、こんなにも笑顔で歌える。


"風の日"では一際大きな合唱が起こる。細美の歌声とファンの歌声が重なる。間奏では細美の「生形ー!!」という叫びとともに、生形のギターソロへ。キャッチーで耳に残り、曲の表情を決定づけるようなフレーズの数々。エルレのギタリストはやはり生形しかいない。

 

細美「初めて会う奴が、多分半分ぐらいいると思うんだよ。子どもの頃両親が車の中で聞いてたって奴らや、中学生の時に『高校生になったらライブ行こう』って思ってたら活動休止しちゃった、そんな奴らばっかりだと思う。ここにいるのがELLEGARDENで、おれたちはこんな感じです。以後お見知りおきを。そして相変わらず綺麗ごとも言えずに、10年経っても周りになじめず浮き狂ってるお前らオールドファンにこの曲を捧げます。」

 

そうして歌われたのは"Middle Of Nowhere"。エルレを活動休止後、細美はthe HIATUSを結成した。パンクから距離を置いたオルタナティブで内省的な楽曲を表現していく中で、細美のボーカルもより深く、より遠くに、その表情は陰影を湛え研ぎ澄まされていった。そんな細美の歌声で歌われる"Middle Of Nowhere"は、マリンスタジアムに集った3万8000人の一人一人の心の奥底に届くような、完璧なスタジアムロックとして鳴っていた。

 

細美「ワンオクに一緒にやろうって誘ってもらって、2年前から8月15日にマリンスタジアムでライブをやることが決まっていて。おれたちこんな広いスタジアムでライブをやるようなロックスターになりたいなんて一度も思ったことないんだよ。でも最初で最後のスタジアムライブだから、今日だけはロックスターになってもいいかな?(他の3人を見ながら)な、やってみようぜ。 」

細美「1分だけもらっていい?…(言葉に詰まりながら)こんな日が来たら全部報われちゃうな。全部………。………………………おれ1分もらって何言おうとしてたんだっけ?笑。生形にパスします。」

 

ファンそれぞれの10年以上に、当事者であるメンバー4人は本当に沢山の想いを感じていたはずだ。その感慨を噛みしめるように話す細美。途中で感極まり、言葉を詰まらせる。

 

生形「おれたちね、そこの西船橋から車ですぐのとこで結成してね。週3日、1日8時間スタジオ入ってて。細美さんがその頃、この辺住んでたから、練習終わったあと車で細美さんを家まで送って行ったりしたこと思い出してた。」

 

細美のパスを受けた生形も、彼にしか見えない景色を思い浮かべたのか、目を細めていた。

 

MC明けの"Surfrider Association"は夏がこれから始まるような、第2のオープニングナンバーのように十分に温まった客席にさらに火をつけ、"Marry Me"はこれまでの片想いのほろ苦い記憶を思い出させた。そんな時もこの曲はそばに居てくれたことも。"Lonesome"のアウトロ、細美と高橋は見つめ合いながら演奏する。高橋の瞳は潤んでいるように見えた。言葉のない時間、音楽を通して、お互いの10年を語り合っているように見えた。

 

夜空の下で聴く"金星"は、夢に見たような世界が存在するということを、より強く感じさせてくれる。

 

細美「(金星を終えて)良い歌詞だよな。この曲を作った頃、正直者は馬鹿を見るってしたり顔で言ってきた周りの大人が言うように、世界がそうじゃかったらどうしようって思ってたんだけど、誇らしく思うよ。今日この日に見合う努力をおれたちがやってこれたかはわからないけど、おれたちは4人とも正直に生きてきたつもりだよ。正直に生きてきたから10年もかかったんだよ。」

細美「今日は幸せになっていいですかね? 」

細美「おれたちミュージシャンの仕事は、 お前らみてぇな臆病者共の背中をちょっとだけ押したりとか、 お前らバカ共に『大丈夫だぞ、1人じゃねぇぞ』って言ってやることだからさ。」

 

そんな細美のMCから歌われる"サンタクロース"は、ELLEGARDENからファンへの贈り物のようだった。

I'm Santa Claus 君に千個のプレゼント
どれもこれも安物なんだけど
Santa Claus 一年に一度だけだから
Santa Claus 君に全部あげるよ

これまで何度も、エルレの音楽に背中を押され、1人じゃないと思わせてもらった。そうやってエルレにもらったものをもう1度、一つ一つ確かめながら、改めて贈られたプレゼントを受け取り、言葉にし尽くせない感謝は、涙になって瞳から溢れていく。

 

"サンタクロース"の余韻も消えない中、生形のギターの音が鳴る。イントロを前に確信し、次の瞬間には身体は前方に駆け出してた。一度もライブで聴いたことがなく、ずっとずっと聴きたかった曲、"モンスター"。意識よりも先に、喜びが身体を走らせる。

そういう二つとない宝物を集めて
優しくも揺れてる声と合わせて
一つ一つ片付けてく僕らは
不確かなまま駆けてく

正解なんてものはないし、周りも自分自身も変わってく。きっと死ぬまでそうだ。でもその中で出会ったものが自分を支えてくれているし、救ってくれた声は今も胸に残っている。これはエルレの音楽と生きていく自分の人生のBGMだ。そうして生きてきた。そしてこれからも。


細美「最後のMCになっちまったな。ちなみに沢山カメラが入ってるけど、今日のライブはDVDにはなりません。ワンオクとのこの旅、別に長旅じゃねぇけどまるで映画みたいな旅で。 その映画のハッピーエンドみたいな日がここにあって。お前らそれぞれの10年の物語があって、これはそのほんの先っちょにひっついてるだけだろ?お前らそれぞれの10年をおれたちの10年で上書きするのはよくないと思うんだよ。お前たちの10年はさ、今度ゆっくり聞かせてくれよ。お前ら今日が人生最高のライブだって言うかもしれないけど、人間は忘れていくものだし、この先もっと楽しいことがあるよ。おれたちの頂点はここじゃない。でも、今日が人生で一番幸せな日です。ありがとうございました。」

 

この10年、「エルレの活動再開ライブを見るまでは死ねない」と半分は冗談、でも半分は本気でそう思って生きてきた。だから今日が来るのが本当に楽しみだったと同時に、終わってしまうのが嫌だった。明日から誰かとの約束のない日々を頑張って生きていけるんだろうか。でも細葉が言ってくれた。「ここが頂点じゃないよ」。生きててよかったと心から思わされた。でもそれだけじゃなく、また今日のような日が訪れることを信じたくなる言葉をもらった。本当にそんな日がまた来るかはわからない。でも信じることで、これからも続く道を歩いていける。

 

生方「おれはもう沢山喋らせてもらったから。本当に今日はありがとう。」

高橋「おれはこの4人が集まってやることはもうないのかなと思ってた。なんの確証もないけし、みんなで活動休止と約束したけど。でも今日このステージに立てて、まおれは座ってるんだけど笑、本当に嬉しい。ここから見えるみんなの顔見てたら、懐かしいなーって。楽屋で色々言うこと考えてたんだけど、全部飛んじゃった。」

高田「初台WALLでのライブばっか出てたんですけど、今日このステージに立って勘違いしてしまいそうです。今度からは初台WALLのブッキング断っちゃうもしれません。ありがとうございました。」

 

4人の声を受け、ライブは最後のブロックへ。"Red Hot"が流れると、ライブ終盤にも関わらずフロアの狂騒は何度目かのピークを迎える。就職活動で冗談抜きに何十社も落ちてた時、毎朝この曲を聴いて力をもらっていた。

ヘビーなサウンドと細美のファルセットが美しい"Salamander"が胸を掻き毟る。そう言えばこの曲のMVを見て、細美と同じVANSのスニーカーを買いに行ったんだ。

過去の思い出が曲とともに鮮明に蘇ってくる。でもこの胸を熱くさせるのは、ノスタルジーではなく目の前の4人から放出される熱量だ。

 

細美が右手の人差し指を空に向けて伸ばす。"ジターバグ"。 15年前に、この曲で自分はELLEGARDENに出会った。この曲がなかったら、今の自分はいない。

たった一つのことが今を迷わせてるんだ
誰を信じたらいいのか気づけば楽なのに

当時中学生だった自分は、細美武士を信じていた。ずっと心の中にあって、でも自分では見つけられていなかったものを歌ってくれる彼の言葉に何度も救われた。もっと自分を大事にしてあげて。君は間違っていない。君は一人じゃない。その声はいつだって、暗闇を切り裂いてくれた。あんな人になりたいと思った。でも15年経った今ならわかる。信じるべきは自分自身なんだ。彼を信じた自分を信じた。自分の信じたELLEGARDENというバンドは、約束を守って帰ってきてくれた。自分を信じて生きてきてよかったこれまでの全てが報われていくようだった。そしていつか、そんな言葉を自分も言えるようになりたいと思った。

 

本編の最後は"虹"。

迷わずにすむ道もあった

どこにでも行ける自由を

失う方がもっと怖かった

 
細美「そうだろ?」

サビの前で、客席に問いかける細美。

 

この日歌われたエルレの曲を聴いていたら、まるでこんな日が来ることがわかっていたかのような曲ばかりで驚く。

 

10年、短くはない。でも、自分に正直に生きることを諦めなかったからこそ、それまでの全てが報われるような、こんな日が迎えられたんだと思う。それはメンバーも、ファンもきっとそうだ。積み重ねた思い出が音を立てて崩れたって、僕らはまた今日を記憶に変えていける。間違いやすれ違いが僕らを切り離したって、僕らはまた今日を記憶に変えていける。最後に笑うのは、正直な奴だけだ。

 

本編が終了し半ば放心状態のままアンコールへ。アンコールはこの曲。

 

細美「こんなに人のいるとこでさ、もうちょっと最後にお前らの声聞きたいんだよな。2018年8月15日。おれたちの再結成ツアーのファイナルでもあるけど、今日は終戦記念日でもあります。昔はこれっぽっちも考えなかったけど、ミュージシャンが愛や平和を歌うのは大事だなって。お前の隣にいる奴が、1人になりませんように、今日の帰り、誰かが傍にいてくれますように、すげー簡単だろ?どうせお前ら日頃そんなこと考えて生きてねーだろ?おれもだよ笑。だけどこの3分だけ、付き合ってくんねーかな、おれたちに。」

 

"Make A Wish"。アリーナには巨大なサークルが作られ、知らない人同士で肩を組み、大声で歌っている。こういう時照れくさくて、自分はその輪には参加しなかった。でもこの歌を、力の限り歌った。例え肩を組まなくても、場内の3万8000人、音漏れを聴きに来た人たち、今日この場所に来れなかった人たちも、みんな気持ちは同じはず。

願い事をしようぜ
簡単なやつを
君が一人きりじゃなくて
そばに誰かがいて手を握ってくれるように

願い事をしようぜ
君が無事でいて
悲しませるものもなくて
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように

君が歩く道すがら
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように

エルレの音楽がずっとそばにいてくれたこと。そしてエルレの音楽が、自分と似たような人がこんなに沢山世の中にはいることを教えてくれた。そして繋げてくれたこと。歌が現実になっていく。

 

細美「あともう1曲だけやらせて」

 

そして月の真下で"月"が披露される。スタジアムでも、2番にさしかかると全員がしゃがむのを促す細美。

 

細美「無理しないでいいからね、全員座るまで待ってるから。」

細美「流石に全員が座るのは無理があるな笑」

 

笑いながらも、全員がしゃがむのを待つ。こんなにも沢山の人が同じことを一緒にしている不思議。居心地は悪くない。月は綺麗で、夜風が気持ちいい。この曲の言う通りだ。こういうものには、きっと勝てない。

 

ダブルアンコールは"BBQ Riot Song"。湿っぽい終わりは似合わないと言うかのように、最後の最後までカラッとしたアッパーな曲で客席の笑顔を誘う。

Time is always passing by

時間はいつも過ぎ去るだけ

May not be the only way

そうじゃなかったらいいのにさ

I remember you

今でも君を思い出すよ

See you some time on the beach

またいつかビーチで会おうね

 曲が終わると不意にマリンスタジアムの空に花火が上がった。夏の夜を彩る花火は本当に綺麗だ。「晴れてよかったな」。今更そんなことを思う。でも、綺麗だと見惚れている内にあっという間に終わってしまったそれは、このエルレの復活劇のようだった。ワンオクを含めて約3時間。ELLEGARDENの活動再開の旅は幕を下ろした。

 

周りにエルレを知ってる人は誰もいなかった中学生の頃。友達にエルレを聴かせて「この曲良いね!」と言われると、自分を認めてもらえたみたいで嬉しくなった。そして段々とみんなが知らない音楽を探すうちに、同時に周りのやつを見て「おれは他の奴とはちょっと違うんだぞ」って、勘違いも生まれていった。でも高校生の時エルレのライブに来て、自分みたいな人は沢山いることを知る。自分は何も特別じゃない。ごく普通の高校生。でも同時に、自分みたいな人が沢山いることに安心した。今自分の周りに同じ気持ちの人がいなくても、自分は1人じゃないんだ。10年後の今、マリンスタジアムの景色を見て、それを再確認する。

 

エルレがこれからどうなるか、それはわからない。メンバーの中で答えは出ているかもしれないないし、出ていないかもしれない。出ていたとしても、未来のことは誰にもわからない。

 

もしまたいなくなってしまったら、その時は10年前の9月7日のように、寂しさにポッカリと心に穴が空いたような気持ちになるんだろう。泣いたって何も変わらないけど、でも泣いてしまうかもしれない。

もしまた4人でライブをしてくれるとしたら、その時は今年の5月10日のように、すれ違う人全員とハイタッチしたくなるような、生きててよかったなと、自分が報われるような気持ちになれるんだろう。嬉しさのあまり、泣いてしまうかもしれない。

 

でもどんな未来が待っていたって、一つだけ確かなことがある。周りから浮いてたって、話ができなかったって、理解されなくたって、馬鹿にされたって、絶対に揺るがない確かなこと。

 

 

君は1人じゃない

 

 

隣に誰もいなくても、それを感じられる。それはこの10年、活動していなくたってエルレの音楽がずっと心に在り続けたように、君が一人きりじゃなくて、そばに誰かがいて手を握ってくれるように、これからも変わることはない。

 

でも今回待っていたけど見れなかった人が沢山いるから、やっぱりまたツアーをやってほしいな。待っていた人たちみんなが笑顔になれるように。そしてライブハウスで会えた時は、みんなの10年間を聞きたい。本当にそう思う。

 

待つのには慣れてる。

だからまたいつか、ライブハウスで会えるその日まで。

ELLEGARDENを愛するみんなとともに、その日を信じてる。

 


ELLEGARDEN - Make A Wish

 

 

ELLEGARDEN セットリスト

1.Supernova

2.No.13

3.PizzaMan

4.Fire Cracker

5.Space Sonic

6.高架線

7.Missing

8.スターフィッシュ

9.Autumn Song

10.風の日

11.Middle Of Nowhere

12.Surfrider Association

13.Marry Me

14.Lonesome

15.金星

16.サンタクロース

17.モンスター

18.Red Hot

19.Salamander

20.ジターバグ

21.虹

EN.

22.MakeAWish

23.月

EN.

24.BBQ Riot Song

 

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約束 - 2018.8.8 ELLEGARDEN - THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018 w/ ONE OK ROCK

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■約束 

2008年9月7日、ELLEGARDEN活動休止前最後のライブが新木場スタジオコーストで行われた。当時大学生だった自分は大阪に住んでいたが、大阪でのツアーのチケットは取れず、その最後の姿を見ることも、活動が止まる実感もないままその日を迎えた。活動休止をアナウンスし、メンバーそれぞれの個人活動のリンクが張られたホームページを見た時ようやく、「本当に活動休止なんだな」と胸に穴の空いたような寂しさがやってきた。人づてにチケット希望のボードを持った人で新木場の駅から会場までの道が埋め尽くされてたという話を聞いたのは、それからずっと後の話だ。

 

2018年8月8日、あの日から約10年。この日が遂にやって来た。近づく台風の影響により2日前に先行物販が中止になるなど、当日の状況は依然不透明だったが、ライブが行われることを信じ、合羽を手に新木場へと向かう。

 

新木場駅に着いたのは15:30頃。駅を出ると、台風の影響で強い風と激しい雨が打ちつけていた。しかしそれよりも目に飛び込んで来たのは、チケットの同行希望のボードを持ったファンの多さだった。皆それぞれの想いをボードに込め、祈るようにその場所に立っている。伝わってくる痛いほど切実な思いに、目を合わせられない。もし自分がチケットがなかったらどうしてただろうか。自分のこの10年と目の前の人たちの10年、天秤にかけたらどちらが重いんだろうか。「待ち続けた全ての人がライブを見れたらいいのに」、チケットを持ってる人間が言ったら、それはやはり綺麗ごとなんだろうか。

 

16:00過ぎ、新木場スタジオコーストに着く。コーストの看板に掲げられた「ELLEGARDEN」という文字。それまであまり湧かなかった実感がフツフツと湧いてくる。「本当にエルレを見れるんだ」。依然雨と風は体を打ちつけているが、それ以上に込み上げてくる興奮と期待に逸る気持ちがそれを忘れさせた。

 

16:30、入場が始まる。17時過ぎに中に入ると既に物販待ちの長蛇の列ができていた。場内にこんなに物販の列ができることはおそらく異例で、何度かコーストには来たことがあるが初めて見た光景だった。約1時間程の並びの後、物販売り場へ。その時点でキャップのグレーと黒のコラボTシャツが売り切れていたが、先行物販が中止になった影響か、多くのグッズの在庫はまだあるようで、希望していたものはある程度買えた。台風が来ず先行物販があったら買えなかったかもしれなかったという安堵感と、台風が来ていなかったらグッズだけでも欲しいという人たちも買えたんじゃないかという罪悪感。雨と風の中、祈るような表情でボードを持っていた人たちの顔がよぎる。こういう時どうすればいいのか、何を思えばいいのか、答えはわからない。自分にできることは、今日この場に来れなかった人たちがいるということを忘れず、このライブに全力で向き合うことだと、自分に言い聞かせる。

 

ロッカーに荷物を預け、フロアでその時を待つ。開演時刻が迫るにつれ緊張感は増していき段々と吐きそうになってくる。もう二度と訪れない瞬間の重みがプレッシャーになる。こんな気持ちで見るライブは、生まれて初めてだ。そしてできれば、もう二度と勘弁してもらいたい。

 

開演予定の19時を少し過ぎた頃、「ドドドド」という地響きが入り口の方から聞こえる。人がなだれ込み、ドアが固く閉ざされる。そして暗転。

 

ONE OK ROCK

先行はONE OK ROCK

 

入場のSEとともに、ToruTomoyaRyotaが各々のポジションにつく。そしてTakaがステージに現れるや否や叫ぶ。

 

Taka「おまえらこの日をずーっと待ってたんだろ!!!おれたちも同じだよ!!!今日はみんなにとって最高の一日になってます。まずはONE OK ROCKで体温めてください。」

 

入場のSEも鳴り止まぬ中、Takaの渾身の言葉が会場に轟く。エルレを待ったファンに対し、同じようにエルレを待ち続けた1人として向き合うTakaの真っ直ぐな言葉にいきなり胸ぐらを掴まれる。

 

オープニングナンバーは"Taking Off"。今では幾多の大会場を次々とソールドアウトさせ、日本のみならず海外でも圧倒的なスケールのライブを魅せるワンオクが、今夜はエルレのためにこのライブハウスに帰ってきた。

 

Taka「ELLEGARDEN復活おめでとうございます!おこがましくも、ファンの一部として、細美くんに会った時『エルレいつ復活するんですか?』って聞き続けて、そしてようやく、色んな問題を乗り越えてこの日を迎えられました。でもこの日を導いたのは、みなさん一人一人がいたからだと思います。本当にありがとうございます。ELLEGARDENのことを話し始めたら5時間ぐらい喋っちゃうから笑、曲やります。」

 

"The Beginning"、"Clock Strikes"と近年の代表曲が惜しげもなく披露される。現在進行形の本気のワンオクのライブだ。アリーナやスタジアムクラスの射程を持つ楽曲達に、新木場スタジオコーストがとても狭く感じられる。

 

Taka「はじめましてONE OK ROCKと言います。ELLEGARDENが10年前この場所で活動を休止した当時、僕らはバンド結成3年目。エルレの背中を追って、エルレを聴いて育って来た僕たちが今の地位を築き上げて、10年後同じステージに立てる喜びは計り知れません。」

 

"Take what you want"の前奏に乗せTakaが語る。エルレのことを話すTakaは本当に純粋な1人のキッズだった。この日を同じように待ったファンの1人として、驕らず、謙虚に、丁寧に言葉を選びながら、全霊のパフォーマンスでこの日を祝福していた。"Take what you want"でのロングシャウトはその場に立ち尽くしてしまうほど圧巻で、自然と涙が出てくるような魂の込もった叫びだった。

 

Taka「地球って惑星がこの宇宙に存在すること自体が奇跡と言ってもいいのに、その中でも今日ここにきてる皆さんは、奇跡を超えた何かを持ってるんだと思います。台風なのに会場に入れなくても外に来てる人たちにも届くように、バンドだけじゃなく、みなさんも想いを出し尽くしていきましょう。」

 

後半戦へと向かうライブのボルテージを更に上げる"Mighty Long Fall"。モッシュはより激化し、エルレの昔のTシャツを着たファンも少しずつ巻き込み、会場の熱はラストスパートへ向け高まっていく。

 

Taka「もうエルレだけやればいいって、僕たちもそう思ってますよ笑。今日はキッズに戻りたいので、これが終わったらそっち(客席を指差しながら)に行きます。正直今日はそれをしにきました。なので僕を見つけても声をかけないでください。だってELLEGARDEN全然ゲストいれないんだもん。一緒にやらないと、見れないんだもん。」

 

Taka「知ってる人はよかったら一緒に歌ってください。」

 

 "We are"。会場に来ていたファンのほとんどはおそらくエルレのファンで、自分がライブ映像で見ていたような会場中を震わせるような大合唱は起きていなかった。それでも客席にマイクを向け続け、ファンの声に耳をすますTakaの眼差しが、バンドの揺るがない信念を感じさせた。

 

Taka「僕たちはこの曲のおかげで細美武士という人に出会えました!最後にその曲をやります。」

 

最後の曲は"完全感覚Dreamer"。この曲ばかりはエルレファンも次々と前線に突っ込んで行き、モッシュやダイブが次々と発生する。思えば8年前、初めてONE OK ROCKのライブを見たのは今はもうなくなってしまったZepp Osakaだった。"This is my own judgment" TOUR。自分がワンオクのライブに行くきっかけになったのもこの曲だった。そしてその場所は、自分が初めてエルレを見たライブハウスでもあった。そこから8年、この曲とともに階段を駆け上がってきたワンオクをもう一度ライブハウスで、しかもエルレの活動再開ツアーで見る日が来るなんて。Takaはステージを縦横無尽に駆け回り、Tomoyaの「新木場ぁぁぁ!!!」という叫びはライブハウスに響き渡る。

 

海外ツアーを精力的に周り、国内ではドームツアーを即完させるほど文字通り日本のトップバンドへと登りつめたONE OK ROCKがこの日このライブハウスで見せたのは、ゲストバンドとしての清々しいほどの潔さと、この日を待ち望んだファンへの敬意、そしてELLEGARDENというバンドへの深い、深い愛情だった。

 

セットリスト

1.Taking Off

2.The Beginning

3.Clock Strikes

4.Take what you want

5.I was King

6.Mighty Long Fall

7.We are

8.完全感覚Dreamer

 

ELLEGARDEN

 

ワンオクの文句無しのパフォーマンスに心打たれたのも束の間、頭はすぐに目前に迫った現実を認識し始めた。

 

「もうすぐELLEGARDENが観れる。」

 

何百回と妄想した、あの瞬間が、目と鼻の先に近づく。暗転する。きた!!SEは10年前と同じ。まだ夢のようで実感がわかない。客席の「オイ!オイ!」というコールに合わせるように、バックドロップが迫り上がってくる。何度もライブDVDで見た、10年前に新木場スタジオコーストに掲げられたものと同じ、「ELLEGARDEN」と刻まれたバックドロップだ。夢でも幻でもない。音が鳴り止んだ。少しの間が空く。

 

1曲目は約束の曲"Supernova"。2014年9月7日に更新された細美のブログに書かれた言葉を信じ、この日を、どれだけの人が待っただろうか

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アルペジオから入るのか、それともいきなりサビの歌い出しからか。しかしそんな何百回と重ねた妄想シュミレーションを裏切るように、ベストアルバムと同じいきなりイントロに突入するアレンジでライブはスタートした。完全な不意打ち。「えっ?」。混乱する頭。でもすぐに、身体と心に染み付いたギターとリズムに自然と手足が動き始める。突き上がる拳。細美のボーカルに自分の声を重ねる。夢じゃないんだな。気づけば涙が溢れてくる。頭で考えるよりも先に、モッシュピットへと身体は走り出していた。

 

2曲目は"No.13"。もうどの曲が来たって、待ってましただけど、この曲は殊更に特別だ。この10年間、毎年9月9日はこの曲を聴いて、彼らの帰りを待った。同じようにこの曲を聴いて待っている人たちがいることに、心が和らいだ。そして今、目の前にはその曲を演奏する4人がいる。さっきから泣きっぱなしだ。でも悲しい涙じゃない。弾けるような喜びそのままに、笑顔で飛び跳ねる。

 

続く"Pizzaman"では溜めに溜めたこの10年の気持ちを爆発させるように「Pepperoni Quattro!!!!!」のシンガロンガに込めた。

 

たった3曲で早くも信じられない熱量に達するライブに我を忘れて完全にハイになっていた。

 

細美「楽しすぎてわけわかんなくなる前に言わせて。まずは10年間待たせてしまって本当に申し訳ない。そして足元の悪い中来てくれてありがとう。ワンオクのメンバーとスタッフの皆さんも本当にありがとう。もうなんて言えばいいかわかんないから、今日は全てを受け入れる。」

 

細美「なんだろーな。この気持ちをどういう風に言えばいいかわかんないんだよ。明日ぐらいになってやっとどういうことかわかってくるのかな。どうよ?(他のメンバーを見ながら)」

雄一「難しい質問ですね。こんな序盤に振られると思ってなかった。ちょっと前半でパニクってて。」

高橋「おれもパニクってる。」

生形「思うことは色々あるけど、本当に今日は来てくれてありがとう。今はそれだけ。」

 

細美「こういう時感動的なことでも言えたらいいと思って、2年前から今日何を話そうかってずっと考えてたんだけど、なーんにも思いつかなかった。なぜならおれたちはただのバンドだから。パーっと派手にやるだけ。ただ今日が少し特別なのは、普通だったら半年とか3ヶ月とか頑張れば、またあの場所に帰れるっていうものが10年待たせてしまったってこと。今日はその10年間我慢したオナニーのように溜まりに溜まって感度ビンビンになった……はっはっは、結局これかー笑。(高田の方を見て)大丈夫かな?こんなんで?(そして頷く高田)。」

 

10年という感慨を感じさせながらも、そこに流れるのは自然体の4人の空気だ。あくまでバンド、あくまでライブ。4人が言葉を交わしあう光景をもう一度この目で見れたことが嬉しい。

 

そしてライブは次のセクションへ。始まりは"Fire Cracker"。獰猛なギターリフ、跳ね上がるような曲展開と爆発力に、頭のネジは更に飛び散っていく。

Now I've got this far anyway
結局こんなところまで来ちまった

And I finally turn to my last page
ようやく最後のページに辿り着いたよ

These countless memories still holding me back
無数の思い出がまだ支えてくれている

Am I sick ?
いかれてるかな

Not anymore
もう大丈夫

How could I be tonight ?
今夜に限っては大丈夫だよ

 

We can be as one as well
僕らは一つになれるから

エルレの活動再開ライブを見るまでは死なない」。半分は冗談、でも半分は本気でそんなことを考えていた。エルレの曲に支えられながら、そうやってここまでの日々を乗り越えてきた。12年前にリリースされたこの曲は、こんな夜のためにあったんじゃないか。今日何回泣かされるんだチクショウ。

 

"Space Sonic"、"高架線"とアルバム『ELEVEN FIRE CRACKERS』の楽曲が続く。シリアスでウェットに富んだ曲の中にも、やさしさや切なさが顔を覗かせる。

思うよりあなたはずっと強いからね

"高架線"のこの言葉にも、何度も勇気をもらった。

 

ファン「結婚して子どもができたよ!」

MCに入りフロアから飛ぶ声にも、月日を感じさせる。

 

細美「10年間色々あったよな。おれたちも色々あったよ。ただ一つ言えることは、この色々あった10年間があったから、強くなれました。色々あったこの10年間、話し出したらTakaが言ってたように何時間も話せるから、おれたちの10年間はこの曲に込めるから、お前らの色々あった10年間も思い出しながら聴いてください。過去を今に、現在進行形に、時を戻そうぜ。」

 

そうして演奏されたのは"Missing"、「仲間の歌」とリリース当時細美は語っていた。一緒に歌うように客席を煽る細美。最後のサビではスタンドマイクを客席に向け、ファンの歌に声を重ねる。

重なって 少し楽になって

見つかっては ここに逃げ込んで

笑ったこと 思い出して

We're Missing

We're Missing

We're Missing

細美はサビの「重なって少し楽になって」が1番も2番もどうしても出て来ず歌えなかった。でも細美が歌えなくてもファンが歌える。これまでだってそうやってきた。

 

"スターフィッシュ"、"Autumn Song"、"風の日"と、エルレの曲でも特に人気の高い曲たちが次々と披露される。フロアは嵐のよう。止まらない合唱。日本語詞も英語詞も関係ない。10年以上前、学校からの帰り道、カラオケボックス、自分の部屋、いつも口ずさんでいた曲たちの輝きは全く色褪せない。

 

細美「この気持ちの正体が段々わかってきた。おれこんなに嬉しいのが初めてだからなんて言ったらいいかわかんないんだよ。」

 

細美「濃いいオールドスクールなファンに向けて、心を込めてこの曲をやります。」

 

"Middle Of Nowhere"。間奏の生形のギターソロはなく、音源に忠実なアレンジとなっていたが、より伸びやかに、円熟味を増した細美のボーカルが描くこの曲の孤独と優しさが深く、深く突き刺さる。

 

細美「ここMCいらなかったな笑。直前に色々変更になって申し訳ない。でもおれたち本当にここに来るファンの人たちだけのことを考えたんだよ。おれたちは相変わらず完璧じゃないし、バカばっかだけど、バカなりに本当に考えたんだよ。グチグチ言う奴らもいるかもしれないけど、これがおれたちの精一杯です。」

 

今回のエルレの活動再開はライブとは別のところで様々な物議を醸した。チケットもグッズも、全ての立場からの意見に応えられる完璧な正解はない。それでも「ファンのことを考えてくれている」、その気持ちが嬉しかった。

 

細美「まだいける?あと半分ぐらいあるけど。」

 

暴風雨のような前半から更なる暴風雨の後半戦へ。カラッとした夏を感じさせる"Surfrider Association"、センチメンタルなメロディと歌詞が胸を締め付ける"Marry Me"と、休む暇が全くない。"Lonesome"のアウトロでは生形のギターソロが唸る。この曲はベストアルバムにも入っていない隠れた名曲だと思う。この曲も聴けるなんて。

 

そして"金星"へ。

最後に笑うのは正直な奴だけだ
出し抜いて 立ち回って
手に入れたものはみんな
すぐに消えた

上手くいかないことや傷つき、傷つけてしまうことも沢山ある。挫けそうな時、迷いそうな時も何度だって訪れる。そんな時はいつもこの歌詞を思い出した。自分を良い人間だなんて思ったことはない。それでも、自分に恥じないように、自分に正直に生きていたいと思った。そんな風に生きたエルレを思い出しながら、自分もそう在りたいと願ったこの10年。10年前よりはちょっとだけ、マシな人間になれたと思う。

 

細美「色んな物語があると思う。小学生の時、両親が車の中で聞いてました、活動休止してから知りましたって人。おれたちがここでバッチバチにライブやってた頃、自分みたいなやつらがいるんだって思ってたら、ある日突然そのバンドがいなくなっちまって、四苦八苦しながら毎日を過ごして気づいたら今日を迎えてたやつら。久しぶりにバンドやろうよって声かけて集まった、地元の連れのおっさん4人とかね笑。一人一人色んな物語があると思う。だから一言ではまとめれないと思うんだけど、おれにとってはね、諦めないでよかったなって。苦しくて、辛くて、自分が壊れるぐらいのドン底があったから、人生が良くなったと、そう言える日が来てよかったです。」

 

細美「(高田を見ながら)お前はトリな。」

生形「7月下旬からリハーサルを始めて、いい意味で感動がなかったんだよ。こんな感じなんだって。でも今日ライブしてて、(少し間を空けて)…やっぱライブなんだよ。」

高橋「おれはもう二度とこの4人でやれないと思ってたの。確証はなかったしわかんなかったけどね。でも一方で心の中でやれるとも思ってて、その日のためにドラム上手くなんないとなって、体力落とさないようにしないとなって、それがあったからここまでやってこれた。」

細美「じゃあ高田メタルが炎上しそうな発言で締めて」

高田「&cqg#/」

細美「ん?滑舌悪くて聞こえねぇ笑」

高田「ワンオクが『おれたちちょっと温めてくるだけなんで』みたいな感じで最初出てったらバッチバチのライブやってて。危うく騙されるとこだった。あと2公演仙台と千葉、油断しないでやりたいと思います。」

 

最後のMCを終えライブも残すところあとわずか。

 

ここにきて"Red Hot"、"Salamander"と火に油を注ぐような鉄板曲を容赦なく畳み掛けてくる。理性もおぼろげに、コントロールを忘れ全力で楽しんだせいか、少し息が切れ始める。10年分歳もとったからな。息が苦しい。でも楽しい。本当に楽しい。フロアはずっとカオスだ。でもどこもかしこも、笑顔しかない。ステージの4人も、ずっと楽しそうに笑顔でプレイしている。そうだ。自分が好きなったELLEGARDENってバンドは、世界で一番幸せそうにライブをするバンドだった。

 

そして細美が人差し指を上に向ける。"ジターバグ"。15年前、この曲で自分はエルレと出会った。この曲のおかげで自分の人生は変わった。この曲がなければ今の自分はない。この15年間、この曲と一緒に生きてきた。何度となく救われた。曲が始まった瞬間、涙が出た。悲しいわけじゃない。ただ涙が止まらなかった。こんな気持ちになったのは初めてだ。

遠回りする度に見えてきたこともあって
早く着くことが全てと僕には思えなかった
間違ったことがいつか君を救うから
数え切れないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ

10年前にELLEGARDENは活動を休止した。でも活動休止があったから、それぞれの新しい旅が始まった。自分にも沢山の出会いがあり、見たことのない景色を見れた。何が正しかったかは誰にもわからない。エルレがあのまま続いていた未来。エルレに出会ってない未来。それぞれの道に幸せと苦難があったと思う。その先の答えを知ることはできないけれど、でも今、この場所に4人が集まり、また音を鳴らしている。自分も15年前に彼らに出会った時と同じ気持ちで、この場所に立てている。これまでの自分の人生の選択、こういう人間になったこと。良い人間になれてるかはわからない。でも遠回りしたことも間違ったことも、全てがこの場所に繋がっていた。そう思うと、報われた気がした。自分のことを愛せる気がした。生きててよかったと、心から思った。

 

細美「最後はこの曲だと思うんだよな」

本編の最後は"虹"。

積み重ねた 思い出とか
音を立てて崩れたって
僕らはまた 今日を記憶に変えていける
間違いとか すれ違いが
僕らを切り離したって
僕らはまた 今日を記憶に変えていける

「自分が壊れるぐらいのドン底があったから、人生が良くなったと、そう言える日が来てよかった。」細美は言っていた。この曲が全てを表していた。

 

夢のような時間が終わり、メンバー4人はステージを後にする。

 

まだあの曲をやっていない。客席は当然のようにアンコールを求める。再び登場する4人。

 

細美「あと2曲やります。今日何度やっても『さまよっては君に出会って』が出てこなかったな笑 (実際に出てこなかったのは『重なって少し楽になって』だったが)。でもそれ以外は今までのエルレのライブの中でも一番ちゃんと歌えた気がする。前とか歌詞わかんない時ニャンニャン言ってたよな。適当だったよなー笑」

 

細美「7年前に東日本大震災があって、その1ヶ月後に初めて弾き語りをやることになって、メンバーにこの曲やっていいかなって聞いたんだよ。本当に活動休止してから久しぶりに連絡とって。な?(生形を見ながら)。そしたらやってくれ、聴きたいやつがいるならなんなら他の曲もやってくれって言ってくれて。良い奴らなんだよ。」

 

アンコールの1曲目は"Make A Wish"。細美と生形のギターから静かに始まる。エルレが活動を休止した後も、多くの人の心を支え続けた1曲。細美の歌と客席の歌が一つになる。

 

細美「泣いてんじゃねぇよ!笑え!笑」

 

泣いている客席を見て細美が笑顔で喝を入れる。そして大団円の大サビへ。荒れ狂う人波の中、いてもたってもいられず最前付近へと向かう。この日一番近い距離で4人を見る。自分が大好きで、憧れてやまなかったELLEGARDENがそこにいた。今日何度目だろう。また目頭が熱くなる。

 

2曲目は"月"。この曲もまさかやってくれるとは思わなかった。2番の途中でお決まりのあのコーナーへ。

 

細美「無理しないでいいからね。出来る範囲でいいから。」

 

客席が少しずつ後ろに下がり、ゆっくりと全員がしゃがんでいく。しゃがんでしゃがんで、2番のサビで全員でジャンプだ。

 

細美「懐かしいなーこの光景」

 

ライブハウスの中で肩を寄せ合って小さくなった目の前のファンを見て、細美は笑った。

 

フロアにしゃがんでいた時、急に自分の目の前の男性がくるっと振り返る。汗まみれで、でも満面の笑みで頷きかけてくる。辺りを見渡してみる。みんな髪も化粧もボロボロで、Tシャツは汗でべっとりと肌にへばりついてる。熱気でサウナの中にいるみたいだ。でもその汗の一粒一粒がライトに照らされ、瞳に潤んだ涙が光を反射して、本当にキラキラと輝いていた。初めて行ったエルレのライブを思い出した。人がひしめき合って、頭の上を誰かが転がって、むさ苦しく息苦しい。なのに楽しくて、笑顔になれて、扉の外では味わえないような興奮と感動がそこにはあった。ステージに目をやる。そこには自分たちと同じようにキラキラと輝いた、ヒーローがいた。2サビでみんなで一斉にジャンプをする。バカみたいだ。でもなんでこんなに楽しいんだろう。この時間が終わって欲しくなかった。

 

アンコールを終えても、ダブルアンコールを待ちその場を離れない客席。こっちはまだまだ終わらせる気はない。そう思ってた。再び出てきた4人。

 

細美「この曲が終わったらもうどんなアンコールがあっても絶対に出てこないからな。出てこないっていったら出てこないからな。」

 

細美「おれたちは約束を守るバンドなんだよ」

 

10年前、「これが最後じゃないから」と言った細美の言葉を信じた。その約束をポケットにいれ、今日まで生きてきた。そう、ELLEGARDENは約束を守るバンドなんだ。次が本当に最後の曲。本当のラスト、"BBQ Riot Song"へ。最後の最後まで休ませてくれない。ヘトヘトな身体をよそに、気持ちは身体の中で暴れ回っている。

Time is always passing by

時間はいつも過ぎ去るだけ

May not be the only way

そうじゃなかったらいいのにさ

I remember you

今でも君を思い出すよ

See you some time on the beach

またいつかビーチで会おうね

 時間はあっという間に過ぎ去っていく。でもこの先ずっと、この日のことを思い出すんだろう。また会える日を信じて。

 

細美「仙台やマリンスタジアムに来る奴らのためにセットリストはネットに流さないで。まあそう言ってもやるやつはいるんだろうけど。もしネットに上がり始めたらそしたら適当に嘘のセットリスト流しておいて。"My Bloody Holiday"やったとか、1曲目は"おやすみ"でしたとか笑。」

 

去り際、客席にそう残し去っていった。最後まで目の前のファンだけじゃない。ファンみんなのことを、このバンドは想ってくれている。

 

ONE OK ROCKを含め約2時間40分。夢のような時間は幕を閉じた。

 

もっとボロボロになるまで泣くかと思った。いや、実際にはボロボロ泣いていたんだけど、でもそれ以上に楽しかった。懐かしいなんて1曲も思わなかった。この10年、いつも自分の側にいてくれた曲たち。10年前の約束。時に重荷になっていたかもしれない。でも自分はその約束があったから、自分を捨てずに生きてこられた。これまで守れなかった約束も守られなかった約束も、いくつも経験してきた。信じる者が必ず救われるわけじゃない。でも果たされる約束があることを知ってしまった。自分の人生にこんな日が来るなんて思わなかった。細美はこの気持ちを「どう言葉にしていいかわからない。」と言っていた。でも自分ならこう言う。「生きててよかった」と。

 

ELLEGARDEN

本当にありがとう。おかえりなさい。

そして願わくば、信じてきた人たちみんなが笑顔になれますように。

 でもきっと大丈夫。だってELLEGARDENは、約束を守るバンドだから。

 

「全員笑顔にすっかんな:-)」

 

約束はまだ、そのポケットに残っている。

 


エルレガーデン supernova

 

セットリスト

1.Supernova

2.No.13

3.PizzaMan

4.Fire Cracker

5.Space Sonic

6.高架線

7.Missing

8.スターフィッシュ

9.Autumn Song

10.風の日

11.Middle Of Nowhere

12.Surfrider Association

13.Marry Me

14.Lonesome

15.金星

16Red Hot

17.Salamander

18.ジターバグ

19.虹

EN.

20.MakeAWish

21.月

EN.

22.BBQ Riot Song

 

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そんな言葉 -ELLEGARDENがくれたもの-

13歳の時、家で流れていたスペースシャワーTVである15秒のCMを見た。ライブハウスと思しき場所で演奏するバンド。画面が曇りそうなほど充満する熱気。当時「インディーズ」という言葉も「パンク」という言葉も知らなかった自分にはその音楽は衝撃的で、「なんだこの音楽は!!!」と釘付けになった。心を鷲掴みにされ、体中を電流が走る。呆気にとられていたら、何の情報もわからないままCMは終わってしまった。「あの曲をもう一度聴きたい」。そこから3時間、再びそのCMを見るためにテレビの前に張り付いた。きた!!!今度は見逃さないように、画面を凝視する。CMの最後、なんとか目に入った「ジターバグ」という言葉とトーテムポールのような黒色のキャラのイメージを頭に焼き付け、すぐにインターネットで調べた。見つけた。

 

それがELLEGARDENとの出会いだった。 

 

その後すぐに隣駅にある地元のCDショップへ自転車を飛ばした。"ジターバグ"が入っているからと買った初めての彼らのCD『BRING YOUR BOARD!!』。帯をゴミだと思っていてすぐゴミ箱に捨てていたその頃の自分は、「英語の曲は何を言ってるかわからないから聴かない」と割と本気で決めつけていた。でもこのアルバムに入ってる曲はなんだか好きだ。ライナーノーツというものを読むのも初めて。アルバムを聴いて、ライナーノーツを読んで、歌詞を目で追う。「こんな世界があるんだ」。不思議な感覚だった。

 

そこから少しずつエルレにのめり込んでいった。スペシャを見て、雑誌を読んで、CDショップに行った。周りに彼らを知ってる人は誰もいなかったけれど、そのおかげでエルレは自分だけが知っている秘密の宝物のようだった。パソコンもほとんど触らなければ、今のようなSNSもない。誰とも共有できない。ただ自分の部屋で聴くだけのその音楽は、自分のためだけに鳴らされているように感じた。その歌は、自分の中にずっと眠っていて、自分自身さえ気づいていなかったことを教えてくれるようだった。そう思って聴いてるわけじゃない。でも歌われる全てが自分にとっての"答え"に思えた。

ステージの上の細美さんは、いつも世界で一番幸せそうな表情で歌っていて、その姿が眩しくて、どうしようもなくカッコよくて、憧れの人になった。

 

『Pepperoni Quattro』は地元のTSUTAYAに買いに行った。相変わらずまだ帯はゴミだと思っていてすぐに捨てた。けどブックレットに挟まれてたステッカーは、もったいなくて今も使えずにずっととってある。

 

『Missing』のリリース日、学校の行事で遊園地に来ていた。でも内心は早く家に帰ってCDを買いに行きたいとずっと思っていた。

"Missing"を聴かせて「良い曲やな」と言ってくれた同級生が、CDTVのチャートに『Missing』がランクインした次の日、「エルレ入ってたな!」と学校で声を掛けてくれた。自分は何もしてないけど、自分自身も認められたようで、なんだか誇らしかった。 

 

高校に入って友達ができるか不安だった。でも自分の一つ後ろの席の奴が『RIOT ON THE GRILL』を知っていて仲良くなった。

 

"Salamander"のMVを見て、細美さんが履いている靴が欲しいと、母親に教えてもらい初めてVANSのスニーカーを買った。格好からでもいい、少しでも近づきたかったんだと思う。今若い世代の子が好きなバンドマンの格好を真似てるのを見ると、その気持ちがよくわかる。

 

『ELEVEN FIRE CRACKERS』はクラスの1/3の人間に貸してくれと言われた。本屋で平積みにされたエルレが表紙のロッキンオンジャパンに女子高生が群がってるのを見て、「おれはもっと前から知ってたんだぞ!」と、今思えば青臭い気持ちを抱いていた。

 

17歳の時、初めてエルレのライブに行った。高校に入学して出会った一つ後ろの席のアイツと。ELEVEN FIRE CRACKERS TOURの、今はもうないZepp Osakaでの公演。ライブハウスという場所に行くのも初めてで、更に生で彼らを観れる興奮も相まって浮かれていた自分は「前の方空いてるじゃん!」と、空いてるスペースへとどんどん進んでいった。SEが鳴った瞬間、それが間違いだったと気づく。一気に前方へ密集するファン。人の上を人が転がり、流され、揉みくちゃにされ、フロアの人の海で溺れ死にそうになった。正直、最初の6曲ぐらいは息をするのに必死だったこと以外全く覚えていない。それでも、細美さんが「明日のことなんて忘れて派手にやっちまおうぜ!」と叫んだ時、思わず自分も拳を突き上げたくなるような衝動に駆られたこと。"Marie"を聴いて、CDで何度も聴いたはずのその曲が、初めてCDで聴いた時以上の感動とともに全身を駆け巡って鳥肌が立ったこと。今でも覚えている。

 

07-08ツアーにも運良く行けた。前回のツアーではやらなかった"Jamie"と"Lonsome"をやってくれたのが忘れられない。特に「大阪のイベンターの人が好きだと言ってくれたから」と演奏された大好きな"Lonsome"を生で聴けたことは密かな自慢になった。

 

2008年5月2日、ホームページでそれを知った。「活動休止」。でも不思議とそこまでショックを受けなかった。彼らがいなくても、彼らからもらったものはなくならない。この音楽がこれから先もずっと、自分の中に深く残り続けていくことがわかっていたからかもしれない。

 

活動休止前最後のツアー、チケットは取れなかった。その時は「自分よりエルレを好きな人が他に沢山いて、自分の好きな気持ちがまだ足りないからチケットが取れなかったんだ」と割と本気で考えていた。痩せ我慢のような強がりだったかもしれない。でも自分の取れなかったチケットで誰かが笑顔になってると思い込めば、少し救われた。

 

エルレが休止してから、それぞれのメンバーが新たに始めたバンドを聴いた。the HIATUSもNothing's Carved In StoneもMEANINGもScars BoroughもMONOEYESも。

 

特に細美さんのバンドはこの9年追い続けた。

 

the HIATUSの"Centipede"を聴いた時、「3人組を見失ってしまった」という歌詞に、その3人を思い浮かべた。

 

2014年のthe HIATUSの武道館公演の日、「エルレが止まったおかげでこいつら(the HIATUS)に出会えた。」と語る細美さんを見て、the HIATUSとして積み重ねてきたものを感じた。

 

MONOEYESが結成され、"My Instant Song"を聴いた。懐かしいような、そのピュアな音楽に、少しだけエルレの影を重ねた。

 

去年のMONOEYESのDim The Lights Tourで、"Remember Me"の一節を細美さんは「We are still the same.」と変えて歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same


10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

自分も、周りも、沢山のものが変わっていく中で、ずっと変わらないものもある。

 

エルレのことを忘れたことは一度もなかった。

 

9月7日。一年に一度、細美さんがエルレの活動休止についてのブログを更新する日。過去9度綴られたその言葉は、今は会えない遠く離れた場所にいる友達から届く手紙のようで、その度にポケットにしまわれた約束を思い出しながら、いつか訪れると信じるその日と、流れていった月日を想った。

 

9月9日。毎年" No.13"を聴いた。

I'm waiting here You might not be back
I don't think I'm irrational
I'm waiting here You might not be back
I'm still at No.13


僕はここで待っている
君は多分戻ってこない
別におかしくないだろ
僕はここで待っている
君は多分戻ってこない
僕はまだ13番地にいる

(No.13)

まるで自分たちの気持ちを代弁しているかのような詩。その日はいつも夏の匂いが残っていて、快晴じゃない日もあったけど、同じようにこの曲を聴いてその日を待っている人がいると思うと、心は晴れやかになった。

 

活動休止前の最後の新木場スタジオコーストでのライブで細美さんが言った「これが最後じゃないからね」。その言葉を信じて、10年間待った。時々、ライブが見たいなって寂しくなる時はあったけど、活動再開を疑ったことは一度もなかった。

 

この世界には叶わない願いもあれば、果たされない約束もある。でも同じように、叶う願いもあれば、果たされる約束もある。結局は自分が信じるか信じないか、それだけなんだと思う。

 

10年前に活動を休止したELLEGARDENというバンドの話は、自分にとってはいつだって未来の話だった。

 

2018年5月10日、ELLEGARDENは帰ってきた。

また一つ、信じるものを信じられる理由をもらった。

 

"人には誰にもその人だけに贈られたギフトがある"

去年、18年ぶりにニューアルバムを出したどこかの3人組が言っていた。

 

エルレと出会うまでの自分は、学校で言うとこの典型的な"いい子"で、自分の意見は主張せず、妥協して、目立たず、迷惑をかけないように、物分かりのいい子どもでいようとしていた。でも彼らの音楽に出会って教わった。もっと自分のことを好きになっていいということ。自分の信念を大切にすること。過ぎ去ったことは笑い話になる。失ったとしても、また拾い集めればいい。周りの人と違っていたって、それは君が間違っているということじゃない。雨の日には濡れて、晴れた日には乾いて、寒い日には震えているのなんて当たり前だろう。

 

エルレの曲は、別れの歌や自己嫌悪、ネガティブな歌詞が並ぶ事が多い。でも別れを歌うのは、その人が大切だったからだ。自分を卑下して傷つけるのは、本当は自分のことを好きになりたいからだ。この世界がクソだと嘆くのは、この世界の美しさを知っていて、誰よりもそれを望んでいるからだ。絶望を歌うことは、希望を描くことだ。誰に何を言われようと、バカみたいな綺麗事を信じて闘う姿に、何度も勇気をもらった。

 

エルレに出会っていなければ、今みたいな人間になっていない。

エルレに出会っていなければ、今みたいな人生を送っていない。

エルレに出会っていなければ、今まで出会った人たちのほとんどに出会っていない。

 

君の手に 上手く馴染むもの
君の目に綺麗に映るもの
それだけでいい 君の手が今も暖かく
君の目が今も綺麗なら
ただそれだけで 僕は笑う

いらないもの 重たいもの ここに置いて行こう
誰もが みな 過ぎ去るなか
君だけが足を止めた そういうことさ

(ロストワールド)

 

彼らを知らない人は世の中に沢山いるし、彼らの音楽を聴いても何がいいか全然わかんないって人も大勢いる。でも自分にとっては、ELLEGARDENというバンドに出会えたことが、このたった一度の人生に与えられたギフトなんだと思う。

 

自分はクソッタレのダメ人間。初めて彼らと出会った15年前から変わらず今も。でも、昔よりずっと自分のことを好きになれた。今がこれまでの人生で一番良い人間だとさえ思える。それでもまだ憧れた背中は遥か彼方。

いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように
そうなりますように

(ジターバグ)

自分を救ってくれた言葉を、自分も同じように誰かに言える人間になりたい。なれるかはわからない。でもそうなりたいと、きっと死ぬまで、その背中を追い続けるんだろう。

 

10年越しに発表された3カ所のツアー。沢山の人が待っていた。きっとチケットは争奪戦。チケットが取れない人や、そもそもその日に行けない人もいるだろうし、もしくはもう二度と会えなくなってしまった人もいるかもしれない。それでも、この日をずーっと待ってた人みんなが笑顔になれたらいいと思う。昔からのファンも、休止してから知ったファンも、ダイブやモッシュが好きな人も、手拍子したい人も、サークルを作りたい人も、デカい声で歌うのが好きな人も、静かにじっと見るのが好きな人も、初めてライブハウスに来る人も。きっと色んな人がいる。でも根っこの部分、「エルレが好きだ」って気持ちはみんな同じはずで、だとしたら、諦めなければ、その場所に辿り着けるかもしれない。

 

「全員笑顔にすっかんな:-)」 

 

情熱がかき消されそうな時、現実に飲み込まれそうな時、いつだってその音楽が救ってくれた。

 

THE BOYS ARE BACK IN TOWN

今度は自分たちが、帰ってくる彼らを笑顔にしたい。

 

誰1人の笑顔を諦めることない

そんな言葉で。 

 


PV ELLEGARDEN ジターバグ(Live Ver)

 

P.S. チケットの転売の話を聞く。いろんな意見があって、何が正しくて何が間違っているのか、一概に正義や悪を決めつけられるようなことではないように思える。高額で転売されてるのを見ると確かに腹は立つけど「転売◯ね」ってヘイトを撒き散らしても世の中からそういう人間はいなくならないし、「転売しないで」って買っている側に考え方を押しつけても何十万出してでも行きたいっていう人の想いを自分のものさしで否定すんのかってなるし、その道の先には出口がない気がする。

そういうことよりもただ自分は、エルレがなぜチケット代をこれほど安くしているのか、そのために何をしているのか、それを知っている人間として転売はしたくない。自分はメンバーに会った時、胸を張って「大好きです。」と言いたい。そう言える自分でいたい。自分が転売をしようがしまいがそんなことは誰も気にしないかもしれない。でも一度でもしてしまったことは、誰の記憶に残っていなくても、なかったことにはならない。だから自分は転売はしない。それでいいと思う。

これが正しいか間違ってるかはわからない。誰かは嘲笑うかもしれないし、誰かは薄気味悪がるかもしれない。でも大事なことは"自分がどういう人間になりたいか"だ。カッコよくないからこそカッコつけて生きて、1ミリでも本当にカッコいい人間に近づきたい。それが誰かにとっては間違いでも、自分にとっては正しい選択かもしれない。

We never are the saints
But we don't wanna hide
There are many things that are out of our control
Just don't lose your smile
Though someone puts you down
'Cause that is what I love
Give them the middle finger
All we have to say is "We will never be like you"

 

僕らは全然清く正しくない
だからってコソコソしたくはないんだ
コントロール出来ないことなんて
山ほどあるよ
だけど笑顔だけはなくさないでくれ
たとえ誰かに罵られてもさ
僕はそういうとこが好きなんだ
そいつらに中指たてて
「あんたらみたいにはならないよ」
って言ってやろうぜ

(Perfect Days) 

 

「最後に笑うのは正直な奴だけだ。」

 

本当にそうかはわからない。でも自分はそうだと信じてる。

 

そういうことなんだと思う。

 

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'Cause I'm on the run - 2017.11.28 the HIATUS Bend the Lens Tour 2017

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▪️'Cause I'm on the run

the HIATUSの単独ツアー「Bend the Lens Tour 2017」、そのセミファイナルとなった新木場スタジオコースト2日目。今回のツアーはthe HIATUSとしては初めて作品のリリースなしで回るワンマンツアーとなり、セットリストは全くの未知。どんなライブになるのか予想もつかないまま、高鳴る鼓動と収まらぬ妄想を秘め会場へと向かう。

場内ではインダストリアルなダンスミュージックやオルタナティブな楽曲が流れる中、ふとJack's Mannequinの"Crashin'"が流れた。10年以上前に細美が雑誌で影響を受けたアルバムや最近聴いた作品を5枚挙げるコーナーの中に、WeezerThird Eye BlindとともにJack's Mannequinの1st Albumがあったのを今でも覚えている。初期のthe HIATUSにも通ずる流麗で美しいピアノのメロディーは水面を走る光のようで、その懐かしさとともに、今夜がいつものライブとは違うものになる予感を感じた。

開演時間の19時ちょうど、暗転。流れてきたのはJoey Beltramの"The Start It Up"。the HIATUSの入場のSEは過去二度変わっており今は三代目にあたるが、"The Start It Up"はthe HIATUSの結成当時から初期のライブを支えてきた最初のSE曲だ。不穏でトライバルなビートが会場を後戻りできぬカタルシスへと手招きする。期待は大気の中で熱を帯び、目に見えそうなほどに膨らんでいく。

オープニングナンバーは"堕天"。イントロが流れた瞬間、その意外な選曲に不意を突かれた。1st Album『Trash We'd Love』に収録されたこの曲は、2nd Album『ANOMALY』のリリース以降はほとんどライブでは披露されていない曲のはずだった。真っ赤に染まる照明の中、苦しみの中に光を見出すような、ボロボロの翼で羽ばたくような、陰鬱で退廃的な世界が描かれる。地の底から遠くの光へ手を伸ばす"堕天"でライブの幕は切って落とされた。続く序盤は"The Flare"、"Storm Racers"、"Monkeys"と、激情を叩きつけるようなダイナミクスを持った曲が並び、フロアはモッシュとダイブの嵐が巻き起こる。MONOEYESのライブが終始ピースフルな空気なのに対し、the HIATUSのライブには非常にヒリヒリとした緊張感と切迫感がある。四位一体となり突き進むMONOEYESとは対照的に、the HIATUSは卓越したスキルを持った5人の"個"が精神と肉体を削りながら激しくぶつかり合い、化学反応を巻き起こしながら見たことのない強烈なエネルギーを放出しているかのようだ。こちらも久々のプレイとなった"My Own Worst Enemy"では、細美の力強いボーカルは悲痛な響きを伴って、会場にこだまする。

こんばんは、the HIATUSです!

それまでのダークでナイーブ世界観から一転、キラキラと輝くピアノの旋律とともに"Clone"へ。それまでの鬱屈としていた暗闇を切り裂き、雲間から光が射していくような、瑞々しい救いの歌が鳴らされる。心を締め付けた日々も、困難に晒された夜も、いつだってそばにいた自分自身が、いつか君を救う。苦難の末に訪れた、ある素晴らしい一日

東京の音楽好きなやつらってスカしてるやつが多いイメージだけど、エイタスのライブに来るやつは全然違うな笑
知らない人からしたら何やってるかわからない時間があと2時間ぐらい続きますが、おれたちのことを好きなやつは心の底から楽しんでください。

そして細美はギターを置き、シンセとハンドマイクのゾーンへ。"Let Me Fall"、"Thirst"、"Unhurt"、"Bonfire"と、the HIATUSの歴史の中では新しい曲たちが並ぶ。マイク一つで自由に動き回る細美は身振り手振りを交え、客席を鼓舞していく。

オン ドラムス!柏倉隆史

"Thirst"では柏倉の独特のリズムから生み出される凄まじいドラムが、曲をよりスリルへと駆り立てていく。

オン ベース!ウエノコウジ!!

"Bonfire"では柏倉と伊澤のバチバチと火花散るようなピアノとドラムのせめぎ合いの最中、強烈な個性を支えるように豊潤なベースで支えるウエノの腕が光る。

8年って結構だよね。再来年で10周年か。なんかそういうのはただの数字で関係ねぇよって思ってたんだけど、この前ACIDMANのSAIに出て、ああいうのも良いなって思えた。(10周年の時は)なんかやろう。武道館はやっちゃったし、さいたまスーパーアリーナ?埋まるわけねぇだろ!でもなんかやろう、やったことのないこと。
こんな難解な音楽に8年も付き合ってくれてありがとう。でもわかり始めるとジワジワこない?堕天とか、最初聴いた時よくわかんねぇなって思うだろうけど。一度覚えると、もうそれでしかないというか。

このアルバムはおれたちの8年の歴史の中でも本当に大切な一枚で、『A World パンデモニウム』、言えてないね笑。今はおれがギター持ってるけど、レコードでは柏倉が弾いてます。
猟犬のように、水も電気もなくなって、かつて野生動物のいなかった都会が荒廃して、そこを野良犬が駆け回っているような、そんな景色を空から見ると、なんだかこういうのも悪くないんじゃねぇかって。そんな風に、いつかお前らが全ての拘束から解き放たれ、野生動物のように駆け回る姿をおれはステージから見てみたい。

アコースティックギターを抱えた細美が鳴らすのは"Deerhounds"。3rd Album『A World Of Pandemonium』はthe HIATUSの転機となった一枚だった。これまでの細美のネタを広げる作曲から、メンバー全員のセッションによる作曲へ。その結果the HIATUSの音楽は新鮮な光と水を吸ってどこまでも伸びてゆく緑のような、これまでにない有機性と音楽的広がりを得た。その解き放たれた姿は、大きな空の下を自由に駆け回る野生の姿そのものだ。"Bittersweet /Hatching Mayflies"では幽玄的なサウンドスケープがどこまでも広がっていき、"Horse Riding"では跳ねるような細美のギターと伊澤のピアノがマーチのように行進していく。そして沈んでゆく夕陽のように煌めく"Shimmer"と、『A World Of Pandemonium』の楽曲が惜しみなく披露されていく。

今回のツアーはリリースツアーじゃないから何やってもいいんでしょ?マニアックな曲もやっていいんでしょ?ってこのツアーでやってほしいとラジオにリクエストをもらった中で得票数第一位の曲をやります。得票数はなんと…20票!20票で1位になれる世界素晴らしい笑

小さい頃、もっと空が綺麗に見えてたあの時、夏の気配を感じて「これ夏だ!」ってワクワクするような。あの頃はこの先に冒険が待っていて、剣を手に取りドラゴンと闘うような日々が待っていると思っていたんだけど、待ってなかったね笑 この曲はあの頃の自分に歌ってほしいと思ってこのツアーを回ってるんだけど、あいつはもういなかった、記憶はあるんだけどね。
もちろんおれはこの世界も好きだよ。超ダメなやつとか見ると、人間っておもしれぇなって思う。でもあの頃、もっと夜空の星がよく見えていたあの頃の自分をなんとか呼べねぇかなって。
歳をとるとどんどん痛覚が麻痺していくのか、痛みをあまり感じなくなるんだけど、それでも時々ズキンって痛む時があって、子供の頃はその痛みがずっと続いていたんだけど。44歳のおれの中にも超ナイーブな面はあって、それはおれの本質で、皮を一つ一つ向いてくと、きっと(あの頃の自分と)繋がってるんだよ。だからおれはその繋がりを探しながらこの曲を歌うから、お前らも自分の中にあるあの頃の自分との繋がりを探しながら聴いてほしい。

そうして歌われたのは"Little Odyssey"。ピアノと歌だけの世界。息を飲むような静寂の中、悲しみとも慈しみとも取れる細美のボーカルは優しく、全てを包み込むように響き渡る。

オン ピアノ!伊澤一葉

伊澤のピアノも寂しさを埋め合うように、細美の歌に寄り添うように、奏でられていく。

"Sunset Off The Coastline"、"Something Ever After"と、ボーカリストとしての細美の歌が冴える楽曲が続いていく。細美のボーカルは曲ごとに表情を変え、瞼の裏に情景を呼び起こし、脳裏に浮かぶ歌の世界へと聴き手を引き込み、誘っていく。余韻は永遠に続くような気さえしてくる。

the HIATUSにおける細美は紛うことなき"ボーカリスト"だ。the HIATUSの成り立ち、凄腕のミュージシャンが集まった中で、細美は自分の役割をボーカリストとして位置付けた。ELLEGARDENの活動休止直前のインタビューで、細美は「声をもっと遠くへ飛ばす方法を掴めそうだと」、ボーカリストとしての進化の兆しを話していた。そしてその兆しは、他の4人のアンサンブルの中で、時にはギターも置き、ボーカリストとして歌と向き合い続けたことで、the HIATUSというバンドで完全に花開いた。 初期メンバーの堀江に「救いのある声」と評された歌声は、the HIATUSの音楽の持つ痛みと慈しみを、美しさと醜さを、光と影を体現している。

そしてライブはクライマックスへ。"Insomnia"では「Save me(助けて)」の大合唱が起きれば、"Lone Train Running"では今度は「Away now(遠くへ)」の大合唱が起こる。悲壮な"Insomnia"と始まりの"Lone Train Running"は、同じだけの絶望と希望を等しく歌っている。

オン ギター!マサ!

"Lone Train Running"のmasasucksのギターソロはどこまでもエモーショナルに疾走し、それは歌のメッセージを代弁する切実な決意のようだ。そして"紺碧の夜に"では祝福のサークルが巻き起こり、客席には笑顔が溢れる。嘆くような、混沌とした、陰のある曲の多いthe HIATUSのライブに訪れる幸福の瞬間。絶望があるから希望を感じられる。

本編ラストは"Sunburn"。楽しい時間はいつか終わる。その切なさは夏の陽炎のようにゆらゆらと揺れ、けれど思い出を心に残し、次の旅へまた走り出していく。

the HIATUSの音楽は暗い、嘆いてる。部屋で一人で嘆くような、話しかけんなゴルァっていうような曲が多い。でも人生いいこともあれば悪いこともあるじゃん。山あり谷ありで、山の時はハッピーな音楽を聴いてればいいけど、谷底でどん底で、息も吸えないって感じたその時は、おれたちのライブに来い。

ライブハウス好きだけど、来年はちょっとライブハウスを出ていこうかなと、いろんなところへお前らを連れていきたいと思います。

もう話すことなんもねぇわ。なぁマサ。

アンコール1曲目、masasucksが弾くギターに「それやっちゃう?いいよ」と細美。その様子を見たウエノはスタッフにベースの交換の合図を出し、セットチェンジを図る。おそらく予定ではなかったアンコール1曲目は"Silver Birch"。この曲はThe Afterglow Tourでもう一度蘇ったように思う。仲間の歌。ピュアなあの頃の自分は、今もここにいる。そしてオーラス"ベテルギウスの灯"へ。The Afterglow Tourでファンとメンバーから堀江に捧げられたこの曲は、the HIATUSの今も続く歩みを映しているようだった。

オン ボーカル!細美武士!!!

masasucksが仲間を誇るように高らかに叫ぶ。

動かない客先と鳴り止まないダブルアンコールの手拍子が鳴り響く中、約2時間の熱演は終了した。

8年間。気づけばそれなりの季節が過ぎ去っていた。『Trash We'd Love』はELLEGARDENとは違う曲作りの形から始まり、そして『ANOMALY』では苦悩した。しかし『A World Of Pandemonium』で、5人のセッションから生まれた曲たちはthe HIATUSに新たな可能性を与え、『The Afterglow Tour』ではオーケストラを交えた17人の音楽団として芽生えた種に水をやり、花を咲かせた。そして堀江とのしばしの別れ。『Keeper Of The Flame』では、全員のセッションとともにプログラミングを用いた細美と柏倉の作曲も加わり、そして長いツアーという旅を経て、5人は"バンド"となった。『Hands Of Gravity』ではMONOEYESとの両立によりバランスを取ることから解放され、細美と柏倉に伊澤も加えた3人のネタから生まれた曲たちは、5人の鉄壁の信頼関係が反映された素直で真っ直ぐな曲たちだった。

the HIATUSはその作品ごとに、制作スタイルが変わり、それに応じて音楽性が変わってきたバンドだ。当初細美は自分を貫くだけではない方法で最高の音楽を作ることを志向した。それはELLEGARDENの止まってしまった細美が出した、別の答えだった。しかしthe HIATUSを続ける中で、仲間を信頼し、仲間に信頼され、自分自身にもう一度還っていった。もう苦悶の表情で苦しそうに歌う細美はいない。例え音楽は嘆いていても、心は上を向いている。ステージの上にあるのは誇りと笑顔だ。このツアーはそんなthe HIATUSというバンドの8年の歩みを見せるようなものだった。全てのアルバムから満遍なく行われたセットリストは、違和感なく、むしろ完璧な流れでthe HIATUSというバンドの歴史を証明していた。

過ぎ去る日々のように
君は俺に信じさせたがる
過ぎ去る日々のように
許せばいいって君は言う
過ぎ去る日々のように
君は俺を君の世界に連れてってくれる
過ぎ去る日々のように
夜明けまでゾクゾクさせてくれ

だから何度も聞かないでくれ
だから何度もさ 何度も聞かないでくれ
俺は駆け抜けてるんだ
過ぎ去る日々のような速さで

the HIATUSは常に変化を続けてきた。しかし根底にあるものは変わらない。光があるところに影が生まれるように、影を描くことは光が在ることと同じだ。飽くなき音楽への探究心と、可能性への挑戦。新たに実った音楽の果実を仲間と分け合う日々が、この先にも待っている。来年も再来年もその先も、旅は続いていく。そして過ぎ去っていく日々が、降りしきる雪のように、心に積み重なって、また痕を残していく。こんな夜のように、いつか訪れるその日まで。

 

ただ駆け抜けてるんだ。

過ぎ去る日々のような速さで。

 

2017.11.28 the HIATUS Bend The Lens Tour 2017@新木場STUDIO COAST Day2

01.堕天
02.The Flare
03.Storm Racers
04.Monkeys
05.My Own Worst Enemy
06.Clone
07.Let Me Fall
08.Thirst
09.Unhurt
10.Bonfire
11.Deerhounds
12.Bittersweet /Hatching Mayflies
13.Horse Riding
14.Shimmer
15.Little Odyssey
16.Sunset Off The Coastline
17.Something Ever After
18.Insomnia
19.Lone Train Running
20.紺碧の夜に
21.Sunburn
en.

22.Silver Birch
23.ベテルギウスの灯

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The Flare / the HIATUS


ベテルギウスの灯 - the HIATUS


the HIATUS - Deerhounds [The Afterglow - A World Of Pandemonium]


the HIATUS - Thirst(Music Video)


the HIATUS - Clone(Music Video)

 

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We are still the same - 2017.10.10 MONOEYES Dim The Lights Tour 2017

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■We are still the same

7月5日にリリースされたMONOEYESの2ndアルバム『Dim The Lights』。このアルバムを引っさげ7月から始まった全国ツアーも、追加公演のいわきと最終日の沖縄を残すのみ。10月10日、事実上のツアーファイナルとなる新木場スタジオコーストの2DAYSの初日を迎えた。

ゲストのJohnsons Motorcarがライブを終えると、お馴染みとなったスターウォーズのテーマソングをSEにMONOEYESの4人が登場する。

Wildlife in the sandy land
Barking at the rising moon
That’s what my body feels like doing
You are someone like me
砂だらけの陸地で動物たちが
昇る月に吠えている
僕の体が欲しているのはそれ
君と僕は似てる

「Dim the lights = 灯りを落とす」。暗闇の中でこそ浮かび上がる野生。重い扉を開け、日常とは毛並みの違うライブハウスという空間でだけ露わになる本能。MONOEYESのライブが呼び起こすのは、日々の社会や規範の中では羽を伸ばせない衝動と純真だ。ルールではなく思いやりを持って。それさえあればこのライブハウスでは誰もが平等で自由だ。

It’s you and me again
もう一度 君と僕だ

『Dim The Lights』の核心に触れるリードトラック、"Free Throw"でライブの幕は切って落とされた。 

続く"Reasons"でフロアが更に熱を帯びていくと、3曲目で早くも"My Instant Song"が投下される。

全て失ったと感じるときは
これ以上もちこたえられないと感じるときは
暗がりにいると感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
息を飲む瞬間には
夢みたいだと思うときには
飛び込むのが怖いと感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
いつだってやめられる
即興の歌さ

2年前、MONOEYESはこの曲とともに始まった。「ただ歌うだけ」、いつだってやめられると口ずさんだ即興の歌が、会場をポジティブなエネルギーで満たしていく。ステージも客席も、見渡す限り一面の笑顔が、赴くままに身体を宙へ弾ませる。

 

細美「本日1発目スコットがキメるぜぇ!!」

 

細美のシャウトを皮切りに"Roxette"が披露される。スコットらしい伸びやかなメロディとほろ苦い歌が、細美の曲とはまた違う風通しの良さで、MONOEYESのライブに新しい色を加えていく。

細美「千葉LOOKから始まり、東北を散々回って、九州を巡り、北陸を回り、ようやくここまでたどり着けました。追加公演のいわきと沖縄を残して、事実上のツアーファイナルなんだけど、ファイナルだからと言って特別なことは何もありません。だからおれたちがこれまで回ってきたところと同じライブをするよ。」

"Leaving Without Us"、"When I Was A King"で一瀬の2ビートが激しい疾走感とダイナミズムを起こしたかと思えば、続く"Get Up"では「Get Up」の合唱が優しくも力強いサウンドスケープを描いていく。

「東京でやるのはすごい久々の曲をやります。」

 

そうして演奏されたのは"Cold Reaction"。

I'm against the new world
僕は新しい世界なんていらない

大きい会場でライブがやりたいわけじゃない。ただ、自分たちのこの場所(ライブハウス)をこれからも守っていきたい。MONOEYESは東北で細美が1人で弾き語りを行なっていた時、ライブに来る人たちがもっとスカッと暴れられるようにバンドで来たいと、ソロアルバムを作り始めたことをきっかけに生まれたバンドだ。ただ仲間とともに、ライブハウスでバカ騒ぎをしていたい。1stアルバム「A Mirage In The Sun」のオープニングを飾ったナンバーは、ハードなリフと地鳴りのような轟音で、今も変わらずにMONOEYESというバンドのアティテュードを表明する。

"明日公園で"では突然スコットがベースを銃に見立て戸高を打つ、すると膝から崩れ落ちる戸高、かと思えばそのままポジションを入れ替え、目の覚めるようなプレイでフロアを煽りに煽る。間奏では戸高がヒリヒリするようなギターソロで琴線を掻き毟り、逆側ではスコットがステージダイブで客席へと飛び込む。無邪気にステージを楽しむ2人が、ハイタッチまで飛び出す抜群のチームワークでライブを更に盛り立てる。

細美「みんな夏の楽しかった思い出があると思うんだけど、そういう楽しかった思い出をべっこう飴みたいに凝縮したような曲ができたんだ。人生で1番好きな曲。だから聞いて。」
「昔好きな女の子をバイクに乗せて海を見に行って、じゃあ帰ろっかってなった時に雨が降り出して、『こんなのすぐ止むよ』って彼女に言って庇の下で雨宿りをして、タバコに火をつけたんだけど、雨は止むどころかどんどん強くなって『ごめん、これは止まないね。』ってなって、そんで彼女を後ろに乗っけってさ。町からちょっと離れたところだったから、ずぶ濡れになりながらバイクで走って、やっとコンビニを見つけて、寒くて震えながらこれでちょっとはマシになるだろって500円のカッパを買ってお互いに着たら、その姿がどうしようもなくおかしくて、お互いに笑い合うような。」
「1番はBRAHMANの宮田俊郎と飲んでる時のことを書いていて、TOSHI-LOWがお店のグラスを全部割ってさ。光るモノが嫌いなゴリラみたいな笑 なんかこういう生き物いたなって笑 手には空のウイスキーのボトル、テーブルの上には割れたグラスがあって。」
サンゴ礁のある海を泳いだことがある人はわかると思うけど、あのあたりにいるような小さな魚は、合図もないのに示し合わせたように同じ方向にクイって進むんだよ。こんなこと言うのはこっぱずかしいんだけど、今日は目の前にいるブスと脳足りんのどうしようもないお前らのために歌います。そんな風に、お前らと一緒におれに年をとらせてくれ。」

"Two Little Fishes"。二匹の小さな魚。
アルバム制作において、1曲オススメの曲があるのは他の曲に失礼だから、それなら全部作り直すべきだ。頑なにそう言っていた細美が、この曲は人生で1番好きな曲と言ってはばからない。ミディアムテンポのパワーポップ。サウンドも詞も、明るく、温かい。

これまで細美の作る音楽は、明るい曲調の裏にも、いつもどこか自己嫌悪や孤独、胸に刺さったままとれないささくれのような痛みを抱えていた。でもだからこそ同時に、自分を認めていいんだと、君は1人じゃないと、痛みは和らぎ、いつか傷跡だけを残しなくなるということも教えてくれた。

彼の音楽は失望を内包することで希望を歌ってきた。 

だが今はそれだけではない。"Make A Wish"で祈った君の幸せ。その隣にいるのは僕じゃなかった。"Two Little Fishes"で歌った僕の願い。君のそばにいるのは、まだ見ぬ誰かじゃない。

Let’s run forever
We get older
Do you think I’m gonna leave
逃げようぜこのまま
僕らは歳をとる
いなくなるわけないだろ

客席を鼓舞し、ファンと一体となり歌う細美。ELLEGARDENの1stアルバムのタイトルは『DON'T TRUST ANYONE BUT US』。自分たち以外は誰も信じない。そこから積み重ねて、失って、そしてまた積み重ねてきた。the HIAUS、東北ライブハウス大作戦のメンバー、TOSHI-LOWとの大きな出会い。仲間と呼べる揺るぎない存在。生まれる確かな信頼。

1stアルバム『A Mirage In The Sun』のリリースツアーでは、ライブ前に細美自らがステージに立ち、ライブの注意事項を説明していた。昨年の「Get Up Tour」では、モッシュやダイブをするファンを時に注意しつつ、常にコミュニケーションを取りながら、MCでも思いやりを持ってと話していた。

このライブではわざわざ注意事項を話すことはしなかった。ダイバーに直接話しかけることもなかった。その必要がなかった。

Wanna make us synchronized like two little fishes
Wanna make a sunset like this last forever
Wanna grow older while you’re here beside me
Tell me when the wind starts blowing into the room
僕らは二匹の小さな魚みたいにシンクロしてたい
この夕日がまるでずっと続くみたいに感じていたい
君がそばにいてくれる間に歳を重ねたいんだ

孤独も喪失もない。幸せな記憶。MONOEYESが鳴らす仲間の歌は、ファンの声と重なり、お互いの想いとシンクロしながら、二匹の小さな魚のように同じ未来を描いていた。

マーチのような"Carry Your Torch"を経てライブは終盤戦へ。 "Run Run"、"Like We've Never Lost"を畳み掛けると、"Borders & Walls"ではJohnsons Motorcarのマーティも参加。ポリティカルな内容を孕みながらも、その憂いを吹き飛ばさんとばかりに、スコットの人懐っこいキャッチーなサウンドにフロアは縦横無尽に入り乱れ、幸福な暴動が起こる。スコットがボーカルの曲では細美もギタリストへと変わり、ギターに全霊をぶつける。

細美「たまにどうしようもなく吠えたくなる時があるんだよ。電車乗ってる時とかコンビニにいる時とか、そういう時に吠えるとパクられるからやらないけど笑 お前らもそうだろ?でも今日は吠えられたんじゃない?」「性別も年齢もルックスも貯金も収入も、そんなものはここには何一つ関係ない。」「世の中がこんな風(ライブハウス)だったらいいのにってずっと思ってるけど、どうやらそうじゃないみたい。あのドアを開けたら、少し窮屈な世界が待ってて、ちょっと違う服を着てたり、人と違うご飯の食べ方をしたら笑われる。そういうことに疲れたら、その時はいつでも遊びに来て。」

いつだってここに帰る場所はあると、細美は語りかける。

Let me see the morning light
Ditch a fake TV smile
And you said to no one there
Like 3, 2, 1 Go
When we see the rising sun
I can feel my body getting warm
朝陽が見たい
テレビ向けの笑顔なんて捨てて
君は誰にも向けずにこう言った
3.2.1 行くよ
すると太陽が昇って
僕は体が暖かくなるのを感じる

正解も不正解もない。沢山の人がそれぞれ違った価値観を持つ社会では、常に批判され、常に折り合いや妥協を求められる。自分の全てが間違っているように感じる時さえある。でも夢に見た世界がある。その場所に辿り着きたい。

タイアップを断り、CDの特典を拒み、ライブハウスにこだわり、どれだけ人気が出てもチケット代は2,600円のまま。多少の怪我はしてもいい、でも誰かに怪我はさせるな。禁止するのではなく、信じることで守りたい。理想の世界は綺麗事だろうか。「そんなのは無理だ。」また声が聞こえる。生半可な戦いじゃない。でも彼は戦い続けてきた。その生き方は彼を知った14年前から変わらない。その姿を見てると、ちっぽけな自分の中にも勇気が湧いてくる。そしてその戦いの先にあるこの場所に来ると、夢に見た世界を実感できる。身体は疼き、汗が滲み出す。体の芯から脳天を突き抜けるような高揚感に鳥肌が立つ。言葉にできなかった想いが熱を持って肉体に溶け出し、目頭が熱くなる。夢を見ていいんだと信じられる。
歳を重ねても、バンドが変わっても、変わらない細美の生き様を、"3,2,1 GO"は写している。

"グラニート"が見せる景色はその信念の先にあるものだ。赤の他人同士が、初めてライブハウスで出会い、同じ音楽を聴いて、肩を組み笑い合う。ルールで縛り合うのではなく、思いやりを持ち寄って、想いに惹かれ合う。

そういう世界があるなら
行ってみたいと思った

そういう世界がここには広がっている。

本編のトリを飾るのは"ボストーク"。『Dim The Lights』の中で唯一収録されている日本語詞の楽曲だ。"グラニート"同様の軽快なドラミングと爽やかなメロディが、ライブハウスに風を運ぶ。ボストークとは1961年にソ連が打ち上げた人類初の有人宇宙飛行船の名だ。これからも、誰も知らない場所へ、この旅は続いていく。

客席のアンコールを受け、すぐにステージに現れた4人。

細美「(袖とステージを)行って帰って来てっていうのは茶番にしか思えないので、あと2曲だけやって帰ります。」「またここで打ち上げやろう。ライブの打ち上げじゃないよ。外の世界では戦って、そして人生の打ち上げを、ここでやろう。」

アンコールのラスト、"Remember Me"で細美は歌詞の中にある「You are still the same.」を「We are still the same.」と歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same
10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

11年前、16歳で初めてライブハウスに行った時、不安で怖かった。でもそれ以上にワクワクして胸が踊った。重いドアを開けたその先では爆音の中、人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、グチャグチャになりながら息をするのも大変だった。でも日常では絶対見ないような光景の中、そこにいるみんなが、笑顔で拳を掲げ、声を上げていた。
そしてステージで歌うその人は、今この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

11年後、27歳になって訪れるライブハウスには不安はなくて、でも11年前と変わらずにワクワクし、そして少しだけ涙が出そうになった。重いドアを開けたその先では爆音の中、相変わらず人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、汗まみれのグチャグチャになりながら、普段どれだけこんな顔ができてるんだろうってくらいの笑顔になれた。
そしてステージで歌うその人は、今も変わらずに、この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

人は変わる。細美が手拍子や「オイ!オイ!」と掛け声を煽るようになる日が来るとは思わなかった。身体は鍛え上げられ、すぐTシャツを脱いでは裸になり、親友との惚気話に頰を緩ませる。
自分も変わった。あの日の学生は社会人になり毎日仕事。昔みたいにライブハウスに来て汗まみれになって暴れることも少なくなった。周りは結婚して子どもができ、会うことも少なくなった友達も多い。
全ての人が年とともに、時代とともに変わっていく。

でも変わらないものもある。

もし君が疲れたら
呼び出して
付き合いきれないものに疲れたら
あの頃に戻って話をしよう
そしたらこの世界のどうしようもない出来事が
音にかき消されて
勇気が湧いてくる

この場所では、今も変わらずに素直でいられる。笑われることも比べ合うこともなく、クソッタレのダメ人間も、外の世界で擦り減ってしまった人も、大好きな音楽を大好きなままで。立ち上がれと、1人じゃないと、その音楽は鳴り続ける。

細美「20年後には64歳のおれに会えるよ。」

逃げようぜこのまま
どれだけ歳をとっても
いなくなるわけないだろ

外の世界で戦って、疲れた時は勇気をもらいに、頑張った時には自分へのご褒美に。
人生の打ち上げをやろう。何度でも。


さあ ライブハウスへ帰ろう


 


MONOEYES - Two Little Fishes(Music Video)

 

セットリスト

1.Free Throw

2.Reasons

3.My Instant Song

4.Roxette

5.Leaving Without Us

6.When I Was A King

7.Get Up

8.Cold Reaction

9.Parking Lot

10.明日公園で

11.Two Little Fishes

12.Carry Your Torch

13.Run Run

14.Like We’ve Never Lost

15.Borders & Walls

16.3, 2, 1, Go

17.グラニート

18.ボストーク

アンコール

19.Somewhere On Fullerton

20.Remember Me

2015年 年間ベストディスク10枚

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【総括】カヲルが選ぶ2015年 年間ベストディスク10枚 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

 

10位 mol-74『越冬のマーチ』

 京都の3人組オルタナティブバンド、mol-74(読みはモルカルマイナスナナジュウヨン)。
北欧のバンドのような冬の刺すような冷たい空気を思わせる透明感と静けさを持ち、そしてボーカル武市のハイトーンボイスが奏でる美しいメロディが幻想的な雰囲気を生み出している。初の全国流通盤の今作は3rdミニアルバムとなり、「冬」そのものと春に至るまでの「過程」としての『冬』を表現しているという。編成は3ピースだが、"冬の海のスーベニア”では浜辺に寄せる波の音も流れ、多彩な音が"冬"を演出している。アルバム全体の色はモノトーンで、エレキギターに鉄琴、ピアノやシンバル、ハイハットの冷たい感触の音使いが冴え渡っている。しかし、だからこそ時にアコースティックギターの有機的な音色は聴く者の心に温もりを添えている。また、喪失や孤独を歌う武市のボーカルも時に冷たく、時に優しく、そのどちらにも表情を変えている。
 聴いてテンションが上がるわけでも下がるわけでもない。特に歌詞に共感したり新しい気づきがあったわけでもない。でもなぜか今年出会ってから、ふと脳裏に浮かんでは何度も聴いた1枚。それも寒い冬の日ほどなんだか聴きたくなってくる不思議。mol-74は今年「まるで幻の月を見ていたような」というミニアルバムをもう1枚リリースしているが、この『越冬のマーチ』の方がよく聴いていた。これから冬が訪れるたびに思い出しそうなアルバム。


mol-74 - グレイッシュ 【MV】

9位 乃木坂46『透明な色』

 デビュー作"ぐるぐるカーテン"から10thシングル"何度目の青空か"までのシングルに新曲を加えたDISC1と、これまで発表されたカップリング曲の中からファンの人気投票で選ばれた上位10曲を収録したDISC2との2枚組の今作(通常盤はDISC1のみ)。AKBグループの王道としてはエレキギターに泣きの入ったメロ、疾走感のある曲が多いが、乃木坂の楽曲にはファルセットの効いたユニゾン、丸みのあるシンセやストリングス、そして(特に)ピアノが多用されている。その路線は"君の名は希望"で確立され、AKB48の公式ライバルとして生まれた乃木坂46だが、今では差別化に成功し完全に自分たちのオリジナリティを獲得した(最新シングル「今、話したい誰かがいる」の収録曲のイントロピアノで始まり過ぎ問題なども起きているが)。
 ほぼほぼベストアルバムのような内容でコアなファンにとっては新曲以外物足りない内容かもしれないが、僕のようなライトファンにとっては「とりあえずこのアルバムを聴けば乃木坂の曲はある程度は押さえられる」という網羅性の高さがありがたかった。また、このアルバムを聴いて"おいてシャンプー"や"私のために 誰かのために"など、シングルがリリースされた当時にはそこまで気にしていなかった曲の良さに新たに気づくことができた。加えて乃木坂の楽曲、そして彼女たち自身の持つ"清廉さ"、"透明感"、"奥ゆかしさ"を1枚を通して感じることができ、改めて乃木坂を好きになった。そんな"再発見"と"再確認"ができたのも個人的には非常に良かった。あとDISC2のカップリングの人気投票1位曲が"他の星から"っていうのがホント良い(自分が好きなだけ)。2016年は乃木坂専ヲタになるぞって感じで。


他の星から.

8位 RYUTistRYUTist HOME LIVE』

 2011年に結成された新潟市古町を中心に活動する4人組アイドルグループRYUTist。メンバーは全員新潟生まれ新潟育ちで、グループ名も新潟を表す「柳都(りゅうと)」という言葉に「アーティスト」を加え「新潟のアーティスト」という意味を込め名付けられた。普段は「LIVE HOUSE 新潟SHOWCASE』で定期的に公演を行っており、県外でライブを行うのは年に数回と非常に限られている。そんな彼女達の初のフルアルバムとなる今作は、その彼女達の定期公演「HOME LIVE」をそのままパッケージしたような構成となっている。入場時のSEや自己紹介のMCは臨場感を与え、終盤に向けドラマチックに盛り上がっていく流れは、1枚を通して聴くことで、まるで彼女達のライブ会場に足を運んでいるような感覚になれる。収録されている楽曲は80's〜90'sを彷彿とさせる純度の高いポップスばかりで、上質なメロディとメンバーそれぞれのボーカルがお互いにコーラスしながら伸びやかに広がっている。そしてそのどれもに、素直で真っすぐな想い、ひたむきかつ真摯な姿勢が表れている。
 今のアイドルシーンは雑多なジャンルの音楽が混ざり合い、中には奇を衒ったものも少なくないが、ここまで逃げずに正面から"アイドルのポップス"を全うしているRYUTistの存在は尊い。"Beat Goes On! 〜約束の場所〜"、"ラリリレル"は聴いていると泣きそうになってしまう。日々の小さな幸せを、新潟と古町への愛を、曇りのない希望を、ステージの上で喜びとともに表現するRYUTist。一生の内4/5ぐらいはRYUTistを見てる時の気持ちで過ごしたい。


【PV】 Beat Goes On~約束の場所~ RYUTist(りゅーてぃすと)| 新潟市古町生まれのアイドルユニット!

7位 田我流とカイザーソゼ『田我流とカイザーソゼ』

 山梨を中心に活動するラッパー田我流によるバンドプロジェクトのスタジオアルバム。「田我流とカイザーソゼ」という名前だが別にカイザーソゼというアーティストとコラボしている訳ではない(僕は名前を見た当初完全にそう思った)。田我流とstimというバンドを母体とした計10名による今作は田我流の既存曲をバンドアレンジで再録した楽曲に新曲を加えた計9曲を収録している。田我流のソロと比べると生バンドになったことでジャズやソウル寄りのアプローチが強くなっており、アルバムを通してバンドセッションによる心地いいグルーヴを感じられる。また、田我流のラップも言葉のメッセージはそのままにサウンドの一つとしても音に溶けこんでおり、非常にリラックスしたままあっという間に1枚を聴き終えてしまう。名曲"ゆれる"も別アレンジとなり新たに収録されているが、少ない音数である種の緊張感を放ちながら"言葉"の立っていたオリジナルよりも、言葉も音に包まれより丸みを帯び、聴けば自然と体の揺れるアレンジへと変貌している(どちらのバージョンも素晴らしい)。
 CDショップで試聴して「これは!!!」と鳥肌が立ち即購入した今年数少ない作品。日々のBGMとして一人の時間を楽しむもよし、耳に飛び込んでくる田我流の言葉と向き合い己を省みるもよし。気を張らずに何度でも聴ける、聴きたくなる。


LIVE FILE : 田我流とカイザーソゼ

6位 RAU DEF『Escallete II』

 2010年にRAUDEFが20歳の時にリリースしたアルバム『Escallete』の続編と言える今作。SKY-HIの主宰するBULLMOOSEからの移籍第一弾作品となり、『Escallete』同様PUNPEEがトータルプロデュースを担当している。SKY-HI、PUNPEE、5lack、MARIA(SIMI LAB)、ZORNを客演に呼んだ華のあるアルバムだが、とにもかくにもRAU DEFのラップが凄まじい。「Escallete』をリリースした際のインタビューで「リリックよりもカッコいいラップをすることが大前提」と言っていたRAU DEFだが、彼の持つ滑らかなフロウと語感の噛み合った抜群の気持ちよさを感じさせるラップは、連続した音の波となって次々と鼓膜に打ち寄せてくる。また、リリック面でも自身の紆余曲折のこれまでが経験として反映され、言葉の重みが増している。特にSKY-HIとの"Victory Decision"、"Sugbabe(PUNPEE)がフィーチャリングした"FREEZE!!!"ではリリシストとしての成長が伺え、"Gr8ful Sky"では『Escallete』収録の"DREAM SKY"からの引用もあり、継承と進化を見せている。
 アルバムの要所要所でPUNPEEのボップセンスが遺憾なく発揮されており、通して聴いた時の耳馴染みも良い。収録曲も適度で1枚を通して聴きやすく、HIPHOPリスナーだけでなく幅広い層に好まれるであろう作品。聴き終えた後、爽やかな爽快感さえ感じられる。今作のリリースに伴ったライブは予定されていないようだが、彼のラップを生で聴ける日が待ち遠しい。

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5位 MONOEYES『A Mirage In The Sun』

 ELLEGARDEN/ the HIATUSのボーカルである細美武士がフロントマンを務める新バンドMONOEYESの1stアルバム。結果としてバンド名義の作品となったが、元々細美はソロとしてアルバムを作る予定だったため、このアルバムに関しては作詞・作曲はもちろん全ての曲の指揮を細美がとっており"細美武士のアルバム"と言っても過言ではない。ELLEGARDENを知っている者はその名を思い出さずにはいられないような、ストレートでメロディアスな楽曲群。しかし、カラっとしたパンクサウンドというよりはどちらかと言えば重厚でタフなロックアルバムとなっている。そして<I'm against the new world.>と歌う"Cold Reaction"から始まる今作には、ELLEGARDEの頃から変わらずに貫き続けてきた細美の潔癖なまでの美学と闘争、生き様が刻みこまれている。
 正直言ってこのアルバムを年間ベストに入れるかは迷った。しかし今年を振り返った時、これほどリリースを待ち望んだ作品はなかったし、12年前にELLEGARDENと出会って人生が変わった自分にとって、12年後の今も細美武士が変わらないアティテュードで歌い続けているという事実が持つ意味は途方もなく大きかった。おそらくこれからの人生、ELLEGARDENを聴き続けてきたように、MONOEYESのこのアルバムも聴き続けるだろう。こんだけ書いといて5位かよって感じだけど、自分にとってはとても大切なアルバム。


MONOEYES - My Instant Song(Music Video)

4位 校庭カメラガール『Leningrad Loud Girlz』

 他ジャンルの音楽とアイドルポップスを掛け合わせ、音楽ファンへ目配せしつつ市場にアプローチするアイドルが次々と現れた結果、今では焼け野原となってしまった現在のアイドルシーン。そんな荒野に現れたのが6人組のラップアイドルグループ、校庭カメラガール(通称:コウテカ)。彼女たちは「ラップアイドル」ではあるが『ヒップホップアイドル』ではない。ラップという「手段」を駆使し全く新しい音楽を鳴らそうとしている。そのサウンドはジャズにファンク、ジャジーヒップホップにエレクトロやテクノ、跳ねるようなビートと近未来的なシンセ、アブストラクトな音像からアニソンのようなバンドサウンドまでもが渾然一体として存在し、ジャンルでは説明不能なミュータントと化している。
 今年コウテカは『Ghost Cat』というミニアルバムをもう1枚リリースしており、そちらでもその奇天烈な音楽性は発揮されているが、このアルバムとの違いは『Leningrad Loud Girlz』にはコウテカの"アイドル"としての物語が投影されていることだ。オリジナルメンバーであるましゅり どますてぃの卒業という現実の出来事によって、幸か不幸かコウテカのリリックにはグループのストーリーが宿り、その感情の渦はダイレクトに曲に跳ね返っている。<ここで歌ったこと 覚えててね 私がいなくなっても >と歌う"Last Glasgow"のエモーショナルは前作にはなかったものだ。混沌としたサウンドと"アイドル"が持つ刹那のドラマが合致したこのアルバムは、2015年のアイドルシーンの中でも異質な存在感を放っている。ラスト<諦めたあの娘の分も走るよ 僕が>と歌う"Lost In Sequence"がめっちゃ泣ける。ここまでやってしまって次があるのかという気もするが、そのぐらい他の追随を許さない1枚。

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3位 KOHH『梔子』

 2012年に発表したMIXCD『YELLOW T△PE』が注目を集め、昨年リリースされた2ndアルバム『MONOCROME』により一気にシーンの寵児としての頭角を現した現在25歳のKOHHの1stアルバム(1stアルバムより先に2ndアルバムがリリースされている)。「自分の中にある言葉しか使わない」というKOHHのリリックは平易な単語や話言葉で綴られており、そのテーマはライフスタイルや地元の仲間、自身の価値観、ふと浮かんだテーマまでもがインスピレーションのままに、高い瞬発力でもって落とし込まれている。先に発表された『MONOCROME』では作詞においてこれまでにないシリアスな面を見せていたが、今作は初期のKOHHのイメージに近いフロアでも映えるチャラさや適当さも残っている(今作に収録されている"Junji Tkada"に至っては本人曰く全て「適当」で30分でできたそうだ)。ポストダブステップやトラップの重いナイーブなトラックに乗る、メロディと同居した音を伸ばす彼のフロウは心地よさも備えている。
 今年KOHHは3rdアルバムの『DIRT』もリリースしているが、全体的に暗くダウナーなサウンド、死生観の強くなったリリックに叫ぶようなフロウが目立つ『DIRT』よりも『梔子』の方を好んでよく聴いていた。メロディアスかつ、軽さとシリアスさのバランスの取れたこの『梔子』はKOHHの作品の中でも最も聴きやすいアルバムだろう。特に"飛行機"は今年のHIPHOPで一番を争うくらい何度も聴いた。KOHHを見ているとタトゥーやドラッグ、SEXのような危ういテーマも、それが飾らないありのままの彼の姿であることがわかる。その人生から滲み出た言葉は、確信を持った説得力とともに聴く人の先入観を飛び越えていく。こんな入れ墨だらけの、見るからにヤバそうな人の音楽を、悪そうなやつは大体友達じゃない青春時代を送った自分がこんなに聴くとは思わなかた。

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2位 OMSB『Think Good』

 ヒップホップグループSIMI LABのMCとしても知られるOMSBの3作目となるソロアルバム(1枚はビートアルバム)。この『Think Good』は全17曲(interlude含む)、彼の中に溜め込まれたマグマのようなフラストレーションとも言うべき感情が、黒く太いビートとなりうねりを上げ、マグナム銃のような強度のラップとともにひたすらに突き刺さってくる目の覚めるようなアルバムだ。特に今作における彼のラップの強度は半端じゃない。もちろん、リリックではニクい引用や彼自身のラフな言葉で巧みに韻も踏んでいるし、大蛇のように獰猛なフロウと相まい、ただビートとラップを聴いているだけでも、その放たれるエネルギーに当てられ体温の上がってくるような曲ばかりである。しかし、歌詞カードなしで聴いても、気がつけば詩の一つ一つが次々と頭を殴りつけてき、否が応でも彼の言葉に耳を傾けざるを得なくなってしまっている。
 1stアルバム『Mr."All Bad Jordan"』では彼の内にあったフラストレーションはどちらかと言えば「怒り」の感情となって発露されていたように思う。一方、今作では『Think Good』というタイトルが示す通り、内省を経て、ポジティブな原動力へと変換されている。葛藤を経て吐き出された彼の言葉は全てがパンチラインと言っても過言ではない。中でもアルバムタイトルと同じ名前を冠した"Think Good"はverseやHookといった定型を破壊し、6分4秒間、OMSBの内部から溢れ出たドロドロとした感情の塊が、尋常ではない熱量とエネルギーを放出しながら、自己を肯定していく前向きなメッセージとして迸っている。このアルバムを聴くと自分の中にある燻っているものに火がつき、目の醒めるような感覚になる。ジャンルでは決して説明できない、殺気さえ感じる情熱が生んだ傑作。

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1位 bacho『最高新記憶』

 2015年に初めてその存在を知り、そして2015年最も聴いたバンド。兵庫県を中心に活動する4人組バンドbacho、その10年以上の活動期間の中で初めてのフルアルバム『最高新記憶』。4人編成のシンプルで無骨なバンドは、ハードコアバンドのような激しさとダイナミズム、つんざくようなエモーショナル、日本語パンクのような哀愁と泥臭さをぶちまけている。そして4人のバンドマンは最後の一振りかのようにドラムを叩き、全霊を込めるかのようにベースを叩き付け、むさぼるようにギターを搔き鳴らし、音楽にしがみつくように歌う。彼らは自分たちの音楽を「負けた者の音楽」と言っている。メンバーは平日は別の仕事をしており、週末にバンド活動を行っている。言ってしまえば音楽だけでは食べることの出来ていないバンドマンだ。しかし、メンバーチェンジを経ながらも結成してからの13年間、音楽を愛し、信じ続けた。そしてそんな音楽を愛し、信じた自分たち自身を諦めきれず、信じ続け、そして今もバンドを続けている。物事において続けることが常に偉いわけではない。けれど、続けてきた彼らにしか出来ない音楽、歌えない歌がある。そしてこのアルバムには、そんな彼らの歩みとも言える挫折や葛藤、打ち拉がれた想い、それでも諦めきれない信念と決意、眩しいほどの情熱と覚悟が1枚のアルバムとして結実している。それは音楽ではなくとも、同じように日々を生きる僕らリスナーの心を奮い立たせ、勇気付け、立ち上がる力をくれる。
 2015年の日本の音楽シーンを振り返った時、後に語られるのは星野源の『YELLOW DANCER』かもしれない。しかし、bachoのこの『最高新記憶』は、一人の人間の人生を変え、死ぬまで一緒に歩み続けてくれるアルバムだ。おれたちの幸せはこんなもんじゃない。拳を突き上げ共に歌おう。更新する未来、最高の新記憶。自分の人生を諦めていない全ての人に贈りたい1枚。

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【雑感】

 選んだ年間の10枚を振り返ると基準は「何度も聴いた」がテーマだった気がします。

 今年は多くのサブスクリプションサービスが正式にローンチした年だったとも思いますが、僕は先日やっとApple Musicに登録しはじめたぐらいで、正直この手のサービスは全然使いませんでした。(今Apple Music使ってて「これ凄くない?」と思い始めてるので来年はめっちゃ使うかもしれませんが)。あと年間ベストアルバムとして10枚選びましたけど、枚数自体は全然聴いてません。おそらく5,60枚ぐらいしか聴いてないと思います。でもその少ない中でも印象に残ったもの、何度も聴いたものが年間ベストを決める時には頭に浮かんだ気がします。bachoとか、本当何十回も聴きました。

 もちろん世の中には知らない音楽が無数にあって、その中に自分が好きになれたり、それこそ人生を変えるような音楽があるかもしれないので、サブスクもYouTubeもレンタルも全部使って新しい音楽は気にしてたいですが、「好きなものを好きなだけ聴く」というリスナーとして当たり前の感覚は忘れずに、来年も良い音楽に出会えればいいなと思います。

2015年お疲れ様でした。皆様よいお年を。

 

musicoholic presents『This song vol.3』@下北沢モナレコード act: MC KOSHI(O.A)、SANABAGUN、仮谷せいら、GOMESS

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【ライブレポ】musicoholic presents『This song vol.3』 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

■20150215

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2月15日、musicoholic3度目となる自主企画『This song vol.3』が下北沢モナレコードにて行われた。『This song』とはmusicoholicのメンバーであるヤットが中心となり「今、この音楽を聴いてほしい!」という想いをもとに、ジャンルやシーンを問わず、ライブを生で見て欲しいというアーティストを招いて行うイベントである。
 2012年10月にONPA MOUNTAIN、BRADIO、barbalip、With A Splash、ill hiss cloverを呼んで池袋マンホールにて開催された第1回、2014年6月にShiggy Jr.、HOLIDAYS OF SEVENTEEN、R (from FAT PROP)の3組が、アコースティックセットで下北沢モナレコードに集った第2回を経て、今回で3度目の開催となった。
 まず一組目、オープニングアクトとして登場したのは、HIPHOPアイドルグループlyrical schoolのバックDJや作詞で活躍する岩渕竜也ことMC KOSHI。 過去にラッパーとしても活動していたが、本人曰くライブをするのは3年振りとのこと。何度かlyrical schoolのイベントではフリースタイルを披露し、自身のsoundcloudには音源を上げていたが、おそらくほとんどの人にとってそのライブはベールに包まれたものだったろう。
 そんな中1曲目に歌われたのは"そういう男に"。イベント前夜にYouTubeの彼のアカウントにリハスタでの映像が突如アップされた楽曲だ。これまでlyrical schoolに提供してきた彼の歌詞は、あくまで女性(アイドル)が歌うことを考えて作られた「男性の考える女性目線の歌詞」だった。しかし、この曲では「辛い悩みから決して逃げない 深い闇から目を逸らさない」と、彼の内面を反映させたような男性目線の硬派なリリックが、決意表明のように力強く歌われている。
 その後も「昨日はバレンタインデーだったので」と歌われたメロウなラブソング"君のせい”など、ゆったりとしたトラックと堅実なライミングを披露、初見でまだ固かった観客も次第に音に身を任せ揺れ始める。"リクルート"では、自身の就職活動とHIPHOPの道に進むきっかけとなった瞬間をメロディアスにラップした。その曲の最後、バックDJの浅野(lyrical schoolスタッフ)が次の曲への繋ぎを失敗してしまうハプニングもあったが、「いいんだぜ間違えたって。間違いながら何かに逆らうんだぜ。」と"リクルート"の歌詞を引用しながらすぐさまフリースタイルでフォローを入れる一幕も見られた。全6曲。短い時間ではあったが、岩渕竜也ではなく一人のラッパーとして、3年ぶりとなるMC KOSHのライブIはステージに華を添えた。

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MC KOSHI セットリスト
1. そういう男に
2. platinum days
3. 封筒
4. 君のせい(原曲:Midnight / Midnight DEMO by KOSHI-03 | Free Listening on SoundCloud
5. リクルート
6. see you again

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続いて登場したのはSANABAGUN。渋谷で毎週ストリートライブ(現在はお休み中)を行う8人組のジャズHIPHOPバンドだ。この日、saxの 谷本大河が入院治療中のため欠席となり7人でのステージとなったが、お馴染みのオープニングナンバー"Son of A Gun Theme"、"M・S"と続けた、その後は新曲をお披露目、ジャズシンガーの高岩遼の色気のあるボーカルの活きたブルージーな一曲にモナレコードの木目の温かい雰囲気がよく似合っていた。
 しかし、そんなムードある曲で聴かせたと思えば、次の"大渋滞"では縦ノリのタイトなリズムに乗せ、MCの岩間俊樹が「みんな金払って今日来てるんだろ?」とステージからフロアに降り客席を煽り立てる。かと思えば"Stuck In Traffic"では高岩が物販エリアまでやってき、ユーモアを交えながらグッズの売り子を始めだす(この日欠席していた谷本大河の生写真が通常は5000円?のところ300円で販売されていた)など、変幻自在のSANABAGUNペースで客席を掴んでいく。そして終盤"Hsu What"では再びジャジーな横揺れのグルーブで客席を魅了し、「メイクマニーしてる間に まず墓」という不思議なフレーズのコール&レスポンスと合掌の振り付けで観客を一つにする"まずは「墓」。"で本編トップバッターを締めてみせた。
 SANABAGUNは全員が平成生まれであり、自分達でも「レペゼンゆとり世代」を公言している。しかし、彼らはそれぞれ微妙に年齢も出身地も異なり、まだ若いながらも各々が別々の音楽活動を行っていた下積み時代も経験しているグループだ。その8人が今SANABAGUNとなり、ジャズやブルースとHIPHOPを巧みに折り合わせたグルーブと人を惹き付けるキャラクターで、渋谷のストリートから徐々に旋風を巻き起こしつつある。彼らのその確信犯的なシニカルさと即興性の高いエンターテイメント力のあるステージは、雨にも負けず、風にも負けず、警察にも負けず、ストリートでその場を通り過ぎていく人並相手に鍛え上げられた度胸と経験、そしてそれぞれの下積み時代に培われた技術に裏打ちされたものだ。それがストリートでも、ライブハウスでも、モナレコードでも、変わらないSANABAGUNのライブを支えている。
 この日はモナレコードという会場の雰囲気に合わせてか、持ち曲の中でも比較的BPMも抑えめの曲が多く、普段よりも「聴かせる」一面を見せてくれたが、どの場所でライブをしようとSANABAGUNはSANABAGUN。そんな確かな演奏力と変わらぬエンターテイメント性を感じさせるようなステージだった。 

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SANABAGUN セットリスト
1. Son of A Gun Theme
2. M・S
3. 新曲
4. 新曲
5. 大渋滞
6. Stuck In Traffic
7. Hsu What
8. まずは「墓」。

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3組目に登場したのは仮谷せいら。この日のHIPHOP色の強い並びの中では、唯一、紅一点のポップスシンガー・ソングライターだ。彼女の真っすぐで伸びのある歌声と、彼女が描くその等身大の詩世界が、それまでのモナレコードの雰囲気をガラっと変える。"NMD"では「お金がないから 遊びに行けないね。外は晴れでも 誰にも会えずに。」とお金のないことが生む寂寥感を赤裸裸に綴っている。そんなありのままの彼女のメッセージは、きっと誰もが一度は体験したことのあるであろう普遍的な感情と重なり、聞く人を選ばずその心にすっと入りこみ、胸を包んでゆく。また、レーベルメイトのgive me walletsとのコラボソング"Yes,I Do."ではシンセポップをバックに全編英語詩を歌い上げ、「おそらく最初で最後」と彼女が作詞として参加したFaint★StarのEDMナンバー"メナイ"の自身によるカバーも披露するなど、ウェットや艶を感じさせる歌声も披露された。彼女が高校1年生の時に書いたという"大人になる前に"は、彼女が21歳となった今も、大人への階段を昇っている彼女の「今」の言葉として響き、聴く人の背中をそっと押してくれる。ステージの上で手拍子を煽る彼女の笑顔に、客席も自然と顔をほころばせる。最後はtofubeatsの1stアルバム『lost decade』に収録されている"SO WHAT!?"で爽やかな幸福感を残し、自身初の9曲となるロングセットのライブをやり遂げた。
 彼女の音楽を端的に表すのであれば「ポップス」という言葉になるのだろう。繊細な心の機微をストレートな歌声とシンプルな言葉で表現してゆく。しかし彼女の場合それはジャンルや音楽性だけではなく、彼女のステージでの笑顔、振る舞い、明るさや持って生まれた気質も「ポップス」として大きく作用しているのだろう。彼女のライブではファンは皆自然と笑顔になり、時にクラップし、体を揺らしながら、不思議な充足感に満ちたその空間に身を委ねる。まだ正式な音源化のなされていない曲も多いが("大人になる前に"と"SO WHAT!?"はiTunesで購入可能)、その音がリリースされた時、彼女の「ポップス」は更に広がってゆくだろう。現在音源を鋭意制作中とのことなので、その時を楽しみに待ちたい。

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仮谷せいら セットリスト
1. HOPPER
2. NMD mix
3. Yes I Do
4. 心の中に...Avec Avec ver.
5. そばにいる
6. メナイ(original by Faint★Star
7. フロアの隅で
8. 大人になる前に
9. SO WHAT!?

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そしてこの日のトリを飾ったのはGOMESS。仮谷せいらのライブで皆が朗らかな気持ちになっていた中、会場の照明も十分に点けぬまま「悪いけどおれに盛り上げる曲は1曲もねぇ」と、いきなり新曲の"箱庭"を披露。3月発売予定のニューアルバム『し』に収録予定のこの曲で歌われたのは、絶望と世界の終わりだった。更に「Twitter不眠症の歌を作ってくださいと言われたので作りました。」と、こちらも新曲の"THE MOON"と続けざまに新曲を繰り出す。ポエトリーリーディングのようなスタイルで、時にまるで呻き声のように、GOMESSの口からは次々と言葉が吐き出されてく。不穏で、物悲しく、退廃的だが、その嘘のない言葉の欠片は、聴く者の心に少しずつ突き刺さってゆく。それは曲間のMCでも変わらず、フリースタイルでGOMESSはずっと言葉を紡ぎ続ける。そして次の曲は、リハーサルの段階では本来別の曲をプレイする予定だったのだが、「今日リリスクの"brand new day"をやるつもりだったんだけど、フックを歌って絶望したから...今日はやらない。」とGOMESSが話したのを機に、観客からは"brand new day"への熱いリクエストが飛ぶ。それを受け急遽その場でセットリストを変更し、lyrical schoolの"brand new day"のカバーを披露。しかしカバーと言ってもヴァースは全てGOMESSのオリジナルであり、そこでは「HIPHOP」というものに対するGOMESSの想いと信念が歌われた。「アイドルラップって言葉が嫌いだ。ジャンルって言葉が嫌いだ。壁を作った日本人が嫌いだ。おれはGOMESSというジャンルだ。」と「HIPHOP」に救われたからこそ抱く「HIPHOP」への憤りや葛藤を、GOMESSはステージの上でラップする。
 その後もGOMESSと同じLOW HIGH WHO?のレーベルメイトである黒柳鉄男を招いての"アイドルオタクライミング”、「地獄はまだ続くぜ」と自虐的なMCの後には、ライムベリーの"IN THE HOUSE"のGOMESS ver.、現在Maison book girlをプロデュースするサクライケンタ作曲の、まだ未発売の『世界の終わりのいずこねこ』のサウンドトラックに乗せてのフリースタイルなど、普段のセットリストでは滅多に見られない曲が続いた。ただそのためか、MCのまとまりがなくなってしまったり、少しグダついてしまうシーンの見られる曲もあった。
 しかし、彼は言う。「皆さんに言いますよ。2015年今日が一番かっこいいライブです。」GOMESSがHIPHOPのライブで好きな場面はラッパーがリリックを飛ばすシーンだそうだ。歌詞を飛ばしたラッパーはどうするか、次の瞬間にはさも最初からそれを予定したかのようにフリースタイルで言葉を並べ、ステージ上では最高にクールに振る舞ってみせる。
 失敗を曝け出せるのがステージ、完璧なんてありえないし、そんなものは必要ない。お客さんを楽しませること、その場にいる人を喜ばせられればそれでいい。そんなGOMESSのライブは常にフリースタイルで、彼の口から溢れる言葉は、その瞬間の彼の気持ちであり、宇宙にもその瞬間にしか存在しない文字通り唯一無二のものだ。だからこそ彼の言葉には想いが宿り、その重さだけ聴く者の心に届き、こびりつくのだろう。ラスト"人間失格"でマイクを通さずにシャウトしたGOMESSの言葉は、初めて彼を見た人の胸にも、きっと何かを残したはずだ。
 "人間失格"を歌い終えたところで、MC KOSHIとSANABAGUNの岩間もステージに上がり、アンコールとしてtofubeatsの"水星"に乗せて3人のフリースタイルセッションが行われた。予定調和ではないその場にしか生まれないもの、酔っぱらったり、ふざけあったり、「こんな感じがフリースタイル。」かっこ良くはないかもしれない。しかしそういうものが、時に人の心を動かし、笑顔にし、忘れられない記憶を刻むこともある。
 「今の音楽シーンは中々言いたいことが言えない、規制規制で言えない世の中だけど、今日ヤバいやつらがいたってことをちゃんと伝えていこうぜ。」岩間は最後にこう言った。その目で確かめなければわからないことが、ライブにはある。
 20150215、紛れもなくこの夜にしか生まれなかった縁をそれぞれの心に残し、『This song vol.3』の宴は幕を閉じた。

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GOMESS セットリスト
1. 箱庭
2. THE MOON
3. brand new day(original by lyrical school
4. アイドルオタクライミング with 黒柳鉄男
5. IN THE HOUSE(original by ライムベリー)
6. し
7. 一歩 ※フリースタイル
8. 人間失格
en. 水星 feat. MC KOSHI、岩間俊樹 from SANABAGUN(original by tofubeats