そんな言葉 -ELLEGARDENがくれたもの-

13歳の時、家で流れていたスペースシャワーTVである15秒のCMを見た。ライブハウスと思しき場所で演奏するバンド。画面が曇りそうなほど充満する熱気。当時「インディーズ」という言葉も「パンク」という言葉も知らなかった自分にはその音楽は衝撃的で、「なんだこの音楽は!!!」と釘付けになった。心を鷲掴みにされ、体中を電流が走る。呆気にとられていたら、何の情報もわからないままCMは終わってしまった。「あの曲をもう一度聴きたい」。そこから3時間、再びそのCMを見るためにテレビの前に張り付いた。きた!!!今度は見逃さないように、画面を凝視する。CMの最後、なんとか目に入った「ジターバグ」という言葉とトーテムポールのような黒色のキャラのイメージを頭に焼き付け、すぐにインターネットで調べた。見つけた。

 

それがELLEGARDENとの出会いだった。 

 

その後すぐに隣駅にある地元のCDショップへ自転車を飛ばした。"ジターバグ"が入っているからと買った初めての彼らのCD『BRING YOUR BOARD!!』。帯をゴミだと思っていてすぐゴミ箱に捨てていたその頃の自分は、「英語の曲は何を言ってるかわからないから聴かない」と割と本気で決めつけていた。でもこのアルバムに入ってる曲はなんだか好きだ。ライナーノーツというものを読むのも初めて。アルバムを聴いて、ライナーノーツを読んで、歌詞を目で追う。「こんな世界があるんだ」。不思議な感覚だった。

 

そこから少しずつエルレにのめり込んでいった。スペシャを見て、雑誌を読んで、CDショップに行った。周りに彼らを知ってる人は誰もいなかったけれど、そのおかげでエルレは自分だけが知っている秘密の宝物のようだった。パソコンもほとんど触らなければ、今のようなSNSもない。誰とも共有できない。ただ自分の部屋で聴くだけのその音楽は、自分のためだけに鳴らされているように感じた。その歌は、自分の中にずっと眠っていて、自分自身さえ気づいていなかったことを教えてくれるようだった。そう思って聴いてるわけじゃない。でも歌われる全てが自分にとっての"答え"に思えた。

ステージの上の細美さんは、いつも世界で一番幸せそうな表情で歌っていて、その姿が眩しくて、どうしようもなくカッコよくて、憧れの人になった。

 

『Pepperoni Quattro』は地元のTSUTAYAに買いに行った。相変わらずまだ帯はゴミだと思っていてすぐに捨てた。けどブックレットに挟まれてたステッカーは、もったいなくて今も使えずにずっととってある。

 

『Missing』のリリース日、学校の行事で遊園地に来ていた。でも内心は早く家に帰ってCDを買いに行きたいとずっと思っていた。

"Missing"を聴かせて「良い曲やな」と言ってくれた同級生が、CDTVのチャートに『Missing』がランクインした次の日、「エルレ入ってたな!」と学校で声を掛けてくれた。自分は何もしてないけど、自分自身も認められたようで、なんだか誇らしかった。 

 

高校に入って友達ができるか不安だった。でも自分の一つ後ろの席の奴が『RIOT ON THE GRILL』を知っていて仲良くなった。

 

"Salamander"のMVを見て、細美さんが履いている靴が欲しいと、母親に教えてもらい初めてVANSのスニーカーを買った。格好からでもいい、少しでも近づきたかったんだと思う。今若い世代の子が好きなバンドマンの格好を真似てるのを見ると、その気持ちがよくわかる。

 

『ELEVEN FIRE CRACKERS』はクラスの1/3の人間に貸してくれと言われた。本屋で平積みにされたエルレが表紙のロッキンオンジャパンに女子高生が群がってるのを見て、「おれはもっと前から知ってたんだぞ!」と、今思えば青臭い気持ちを抱いていた。

 

17歳の時、初めてエルレのライブに行った。高校に入学して出会った一つ後ろの席のアイツと。ELEVEN FIRE CRACKERS TOURの、今はもうないZepp Osakaでの公演。ライブハウスという場所に行くのも初めてで、更に生で彼らを観れる興奮も相まって浮かれていた自分は「前の方空いてるじゃん!」と、空いてるスペースへとどんどん進んでいった。SEが鳴った瞬間、それが間違いだったと気づく。一気に前方へ密集するファン。人の上を人が転がり、流され、揉みくちゃにされ、フロアの人の海で溺れ死にそうになった。正直、最初の6曲ぐらいは息をするのに必死だったこと以外全く覚えていない。それでも、細美さんが「明日のことなんて忘れて派手にやっちまおうぜ!」と叫んだ時、思わず自分も拳を突き上げたくなるような衝動に駆られたこと。"Marie"を聴いて、CDで何度も聴いたはずのその曲が、初めてCDで聴いた時以上の感動とともに全身を駆け巡って鳥肌が立ったこと。今でも覚えている。

 

07-08ツアーにも運良く行けた。前回のツアーではやらなかった"Jamie"と"Lonsome"をやってくれたのが忘れられない。特に「大阪のイベンターの人が好きだと言ってくれたから」と演奏された大好きな"Lonsome"を生で聴けたことは密かな自慢になった。

 

2008年5月2日、ホームページでそれを知った。「活動休止」。でも不思議とそこまでショックを受けなかった。彼らがいなくても、彼らからもらったものはなくならない。この音楽がこれから先もずっと、自分の中に深く残り続けていくことがわかっていたからかもしれない。

 

活動休止前最後のツアー、チケットは取れなかった。その時は「自分よりエルレを好きな人が他に沢山いて、自分の好きな気持ちがまだ足りないからチケットが取れなかったんだ」と割と本気で考えていた。痩せ我慢のような強がりだったかもしれない。でも自分の取れなかったチケットで誰かが笑顔になってると思い込めば、少し救われた。

 

エルレが休止してから、それぞれのメンバーが新たに始めたバンドを聴いた。the HIATUSもNothing's Carved In StoneもMEANINGもScars BoroughもMONOEYESも。

 

特に細美さんのバンドはこの9年追い続けた。

 

the HIATUSの"Centipede"を聴いた時、「3人組を見失ってしまった」という歌詞に、その3人を思い浮かべた。

 

2014年のthe HIATUSの武道館公演の日、「エルレが止まったおかげでこいつら(the HIATUS)に出会えた。」と語る細美さんを見て、the HIATUSとして積み重ねてきたものを感じた。

 

MONOEYESが結成され、"My Instant Song"を聴いた。懐かしいような、そのピュアな音楽に、少しだけエルレの影を重ねた。

 

去年のMONOEYESのDim The Lights Tourで、"Remember Me"の一節を細美さんは「We are still the same.」と変えて歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same


10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

自分も、周りも、沢山のものが変わっていく中で、ずっと変わらないものもある。

 

エルレのことを忘れたことは一度もなかった。

 

9月7日。一年に一度、細美さんがエルレの活動休止についてのブログを更新する日。過去9度綴られたその言葉は、今は会えない遠く離れた場所にいる友達から届く手紙のようで、その度にポケットにしまわれた約束を思い出しながら、いつか訪れると信じるその日と、流れていった月日を想った。

 

9月9日。毎年" No.13"を聴いた。

I'm waiting here You might not be back
I don't think I'm irrational
I'm waiting here You might not be back
I'm still at No.13


僕はここで待っている
君は多分戻ってこない
別におかしくないだろ
僕はここで待っている
君は多分戻ってこない
僕はまだ13番地にいる

(No.13)

まるで自分たちの気持ちを代弁しているかのような詩。その日はいつも夏の匂いが残っていて、快晴じゃない日もあったけど、同じようにこの曲を聴いてその日を待っている人がいると思うと、心は晴れやかになった。

 

活動休止前の最後の新木場スタジオコーストでのライブで細美さんが言った「これが最後じゃないからね」。その言葉を信じて、10年間待った。時々、ライブが見たいなって寂しくなる時はあったけど、活動再開を疑ったことは一度もなかった。

 

この世界には叶わない願いもあれば、果たされない約束もある。でも同じように、叶う願いもあれば、果たされる約束もある。結局は自分が信じるか信じないか、それだけなんだと思う。

 

10年前に活動を休止したELLEGARDENというバンドの話は、自分にとってはいつだって未来の話だった。

 

2018年5月10日、ELLEGARDENは帰ってきた。

また一つ、信じるものを信じられる理由をもらった。

 

"人には誰にもその人だけに贈られたギフトがある"

去年、18年ぶりにニューアルバムを出したどこかの3人組が言っていた。

 

エルレと出会うまでの自分は、学校で言うとこの典型的な"いい子"で、自分の意見は主張せず、妥協して、目立たず、迷惑をかけないように、物分かりのいい子どもでいようとしていた。でも彼らの音楽に出会って教わった。もっと自分のことを好きになっていいということ。自分の信念を大切にすること。過ぎ去ったことは笑い話になる。失ったとしても、また拾い集めればいい。周りの人と違っていたって、それは君が間違っているということじゃない。雨の日には濡れて、晴れた日には乾いて、寒い日には震えているのなんて当たり前だろう。

 

エルレの曲は、別れの歌や自己嫌悪、ネガティブな歌詞が並ぶ事が多い。でも別れを歌うのは、その人が大切だったからだ。自分を卑下して傷つけるのは、本当は自分のことを好きになりたいからだ。この世界がクソだと嘆くのは、この世界の美しさを知っていて、誰よりもそれを望んでいるからだ。絶望を歌うことは、希望を描くことだ。誰に何を言われようと、バカみたいな綺麗事を信じて闘う姿に、何度も勇気をもらった。

 

エルレに出会っていなければ、今みたいな人間になっていない。

エルレに出会っていなければ、今みたいな人生を送っていない。

エルレに出会っていなければ、今まで出会った人たちのほとんどに出会っていない。

 

君の手に 上手く馴染むもの
君の目に綺麗に映るもの
それだけでいい 君の手が今も暖かく
君の目が今も綺麗なら
ただそれだけで 僕は笑う

いらないもの 重たいもの ここに置いて行こう
誰もが みな 過ぎ去るなか
君だけが足を止めた そういうことさ

(ロストワールド)

 

彼らを知らない人は世の中に沢山いるし、彼らの音楽を聴いても何がいいか全然わかんないって人も大勢いる。でも自分にとっては、ELLEGARDENというバンドに出会えたことが、このたった一度の人生に与えられたギフトなんだと思う。

 

自分はクソッタレのダメ人間。初めて彼らと出会った15年前から変わらず今も。でも、昔よりずっと自分のことを好きになれた。今がこれまでの人生で一番良い人間だとさえ思える。それでもまだ憧れた背中は遥か彼方。

いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように
そうなりますように

(ジターバグ)

自分を救ってくれた言葉を、自分も同じように誰かに言える人間になりたい。なれるかはわからない。でもそうなりたいと、きっと死ぬまで、その背中を追い続けるんだろう。

 

10年越しに発表された3カ所のツアー。沢山の人が待っていた。きっとチケットは争奪戦。チケットが取れない人や、そもそもその日に行けない人もいるだろうし、もしくはもう二度と会えなくなってしまった人もいるかもしれない。それでも、この日をずーっと待ってた人みんなが笑顔になれたらいいと思う。昔からのファンも、休止してから知ったファンも、ダイブやモッシュが好きな人も、手拍子したい人も、サークルを作りたい人も、デカい声で歌うのが好きな人も、静かにじっと見るのが好きな人も、初めてライブハウスに来る人も。きっと色んな人がいる。でも根っこの部分、「エルレが好きだ」って気持ちはみんな同じはずで、だとしたら、諦めなければ、その場所に辿り着けるかもしれない。

 

「全員笑顔にすっかんな:-)」 

 

情熱がかき消されそうな時、現実に飲み込まれそうな時、いつだってその音楽が救ってくれた。

 

THE BOYS ARE BACK IN TOWN

今度は自分たちが、帰ってくる彼らを笑顔にしたい。

 

誰1人の笑顔を諦めることない

そんな言葉で。 

 


PV ELLEGARDEN ジターバグ(Live Ver)

 

P.S. チケットの転売の話を聞く。いろんな意見があって、何が正しくて何が間違っているのか、一概に正義や悪を決めつけられるようなことではないように思える。高額で転売されてるのを見ると確かに腹は立つけど「転売◯ね」ってヘイトを撒き散らしても世の中からそういう人間はいなくならないし、「転売しないで」って買っている側に考え方を押しつけても何十万出してでも行きたいっていう人の想いを自分のものさしで否定すんのかってなるし、その道の先には出口がない気がする。

そういうことよりもただ自分は、エルレがなぜチケット代をこれほど安くしているのか、そのために何をしているのか、それを知っている人間として転売はしたくない。自分はメンバーに会った時、胸を張って「大好きです。」と言いたい。そう言える自分でいたい。自分が転売をしようがしまいがそんなことは誰も気にしないかもしれない。でも一度でもしてしまったことは、誰の記憶に残っていなくても、なかったことにはならない。だから自分は転売はしない。それでいいと思う。

これが正しいか間違ってるかはわからない。誰かは嘲笑うかもしれないし、誰かは薄気味悪がるかもしれない。でも大事なことは"自分がどういう人間になりたいか"だ。カッコよくないからこそカッコつけて生きて、1ミリでも本当にカッコいい人間に近づきたい。それが誰かにとっては間違いでも、自分にとっては正しい選択かもしれない。

We never are the saints
But we don't wanna hide
There are many things that are out of our control
Just don't lose your smile
Though someone puts you down
'Cause that is what I love
Give them the middle finger
All we have to say is "We will never be like you"

 

僕らは全然清く正しくない
だからってコソコソしたくはないんだ
コントロール出来ないことなんて
山ほどあるよ
だけど笑顔だけはなくさないでくれ
たとえ誰かに罵られてもさ
僕はそういうとこが好きなんだ
そいつらに中指たてて
「あんたらみたいにはならないよ」
って言ってやろうぜ

(Perfect Days) 

 

「最後に笑うのは正直な奴だけだ。」

 

本当にそうかはわからない。でも自分はそうだと信じてる。

 

そういうことなんだと思う。

 

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'Cause I'm on the run - 2017.11.28 the HIATUS Bend the Lens Tour 2017

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▪️'Cause I'm on the run

the HIATUSの単独ツアー「Bend the Lens Tour 2017」、そのセミファイナルとなった新木場スタジオコースト2日目。今回のツアーはthe HIATUSとしては初めて作品のリリースなしで回るワンマンツアーとなり、セットリストは全くの未知。どんなライブになるのか予想もつかないまま、高鳴る鼓動と収まらぬ妄想を秘め会場へと向かう。

場内ではインダストリアルなダンスミュージックやオルタナティブな楽曲が流れる中、ふとJack's Mannequinの"Crashin'"が流れた。10年以上前に細美が雑誌で影響を受けたアルバムや最近聴いた作品を5枚挙げるコーナーの中に、WeezerThird Eye BlindとともにJack's Mannequinの1st Albumがあったのを今でも覚えている。初期のthe HIATUSにも通ずる流麗で美しいピアノのメロディーは水面を走る光のようで、その懐かしさとともに、今夜がいつものライブとは違うものになる予感を感じた。

開演時間の19時ちょうど、暗転。流れてきたのはJoey Beltramの"The Start It Up"。the HIATUSの入場のSEは過去二度変わっており今は三代目にあたるが、"The Start It Up"はthe HIATUSの結成当時から初期のライブを支えてきた最初のSE曲だ。不穏でトライバルなビートが会場を後戻りできぬカタルシスへと手招きする。期待は大気の中で熱を帯び、目に見えそうなほどに膨らんでいく。

オープニングナンバーは"堕天"。イントロが流れた瞬間、その意外な選曲に不意を突かれた。1st Album『Trash We'd Love』に収録されたこの曲は、2nd Album『ANOMALY』のリリース以降はほとんどライブでは披露されていない曲のはずだった。真っ赤に染まる照明の中、苦しみの中に光を見出すような、ボロボロの翼で羽ばたくような、陰鬱で退廃的な世界が描かれる。地の底から遠くの光へ手を伸ばす"堕天"でライブの幕は切って落とされた。続く序盤は"The Flare"、"Storm Racers"、"Monkeys"と、激情を叩きつけるようなダイナミクスを持った曲が並び、フロアはモッシュとダイブの嵐が巻き起こる。MONOEYESのライブが終始ピースフルな空気なのに対し、the HIATUSのライブには非常にヒリヒリとした緊張感と切迫感がある。四位一体となり突き進むMONOEYESとは対照的に、the HIATUSは卓越したスキルを持った5人の"個"が精神と肉体を削りながら激しくぶつかり合い、化学反応を巻き起こしながら見たことのない強烈なエネルギーを放出しているかのようだ。こちらも久々のプレイとなった"My Own Worst Enemy"では、細美の力強いボーカルは悲痛な響きを伴って、会場にこだまする。

こんばんは、the HIATUSです!

それまでのダークでナイーブ世界観から一転、キラキラと輝くピアノの旋律とともに"Clone"へ。それまでの鬱屈としていた暗闇を切り裂き、雲間から光が射していくような、瑞々しい救いの歌が鳴らされる。心を締め付けた日々も、困難に晒された夜も、いつだってそばにいた自分自身が、いつか君を救う。苦難の末に訪れた、ある素晴らしい一日

東京の音楽好きなやつらってスカしてるやつが多いイメージだけど、エイタスのライブに来るやつは全然違うな笑
知らない人からしたら何やってるかわからない時間があと2時間ぐらい続きますが、おれたちのことを好きなやつは心の底から楽しんでください。

そして細美はギターを置き、シンセとハンドマイクのゾーンへ。"Let Me Fall"、"Thirst"、"Unhurt"、"Bonfire"と、the HIATUSの歴史の中では新しい曲たちが並ぶ。マイク一つで自由に動き回る細美は身振り手振りを交え、客席を鼓舞していく。

オン ドラムス!柏倉隆史

"Thirst"では柏倉の独特のリズムから生み出される凄まじいドラムが、曲をよりスリルへと駆り立てていく。

オン ベース!ウエノコウジ!!

"Bonfire"では柏倉と伊澤のバチバチと火花散るようなピアノとドラムのせめぎ合いの最中、強烈な個性を支えるように豊潤なベースで支えるウエノの腕が光る。

8年って結構だよね。再来年で10周年か。なんかそういうのはただの数字で関係ねぇよって思ってたんだけど、この前ACIDMANのSAIに出て、ああいうのも良いなって思えた。(10周年の時は)なんかやろう。武道館はやっちゃったし、さいたまスーパーアリーナ?埋まるわけねぇだろ!でもなんかやろう、やったことのないこと。
こんな難解な音楽に8年も付き合ってくれてありがとう。でもわかり始めるとジワジワこない?堕天とか、最初聴いた時よくわかんねぇなって思うだろうけど。一度覚えると、もうそれでしかないというか。

このアルバムはおれたちの8年の歴史の中でも本当に大切な一枚で、『A World パンデモニウム』、言えてないね笑。今はおれがギター持ってるけど、レコードでは柏倉が弾いてます。
猟犬のように、水も電気もなくなって、かつて野生動物のいなかった都会が荒廃して、そこを野良犬が駆け回っているような、そんな景色を空から見ると、なんだかこういうのも悪くないんじゃねぇかって。そんな風に、いつかお前らが全ての拘束から解き放たれ、野生動物のように駆け回る姿をおれはステージから見てみたい。

アコースティックギターを抱えた細美が鳴らすのは"Deerhounds"。3rd Album『A World Of Pandemonium』はthe HIATUSの転機となった一枚だった。これまでの細美のネタを広げる作曲から、メンバー全員のセッションによる作曲へ。その結果the HIATUSの音楽は新鮮な光と水を吸ってどこまでも伸びてゆく緑のような、これまでにない有機性と音楽的広がりを得た。その解き放たれた姿は、大きな空の下を自由に駆け回る野生の姿そのものだ。"Bittersweet /Hatching Mayflies"では幽玄的なサウンドスケープがどこまでも広がっていき、"Horse Riding"では跳ねるような細美のギターと伊澤のピアノがマーチのように行進していく。そして沈んでゆく夕陽のように煌めく"Shimmer"と、『A World Of Pandemonium』の楽曲が惜しみなく披露されていく。

今回のツアーはリリースツアーじゃないから何やってもいいんでしょ?マニアックな曲もやっていいんでしょ?ってこのツアーでやってほしいとラジオにリクエストをもらった中で得票数第一位の曲をやります。得票数はなんと…20票!20票で1位になれる世界素晴らしい笑

小さい頃、もっと空が綺麗に見えてたあの時、夏の気配を感じて「これ夏だ!」ってワクワクするような。あの頃はこの先に冒険が待っていて、剣を手に取りドラゴンと闘うような日々が待っていると思っていたんだけど、待ってなかったね笑 この曲はあの頃の自分に歌ってほしいと思ってこのツアーを回ってるんだけど、あいつはもういなかった、記憶はあるんだけどね。
もちろんおれはこの世界も好きだよ。超ダメなやつとか見ると、人間っておもしれぇなって思う。でもあの頃、もっと夜空の星がよく見えていたあの頃の自分をなんとか呼べねぇかなって。
歳をとるとどんどん痛覚が麻痺していくのか、痛みをあまり感じなくなるんだけど、それでも時々ズキンって痛む時があって、子供の頃はその痛みがずっと続いていたんだけど。44歳のおれの中にも超ナイーブな面はあって、それはおれの本質で、皮を一つ一つ向いてくと、きっと(あの頃の自分と)繋がってるんだよ。だからおれはその繋がりを探しながらこの曲を歌うから、お前らも自分の中にあるあの頃の自分との繋がりを探しながら聴いてほしい。

そうして歌われたのは"Little Odyssey"。ピアノと歌だけの世界。息を飲むような静寂の中、悲しみとも慈しみとも取れる細美のボーカルは優しく、全てを包み込むように響き渡る。

オン ピアノ!伊澤一葉

伊澤のピアノも寂しさを埋め合うように、細美の歌に寄り添うように、奏でられていく。

"Sunset Off The Coastline"、"Something Ever After"と、ボーカリストとしての細美の歌が冴える楽曲が続いていく。細美のボーカルは曲ごとに表情を変え、瞼の裏に情景を呼び起こし、脳裏に浮かぶ歌の世界へと聴き手を引き込み、誘っていく。余韻は永遠に続くような気さえしてくる。

the HIATUSにおける細美は紛うことなき"ボーカリスト"だ。the HIATUSの成り立ち、凄腕のミュージシャンが集まった中で、細美は自分の役割をボーカリストとして位置付けた。ELLEGARDENの活動休止直前のインタビューで、細美は「声をもっと遠くへ飛ばす方法を掴めそうだと」、ボーカリストとしての進化の兆しを話していた。そしてその兆しは、他の4人のアンサンブルの中で、時にはギターも置き、ボーカリストとして歌と向き合い続けたことで、the HIATUSというバンドで完全に花開いた。 初期メンバーの堀江に「救いのある声」と評された歌声は、the HIATUSの音楽の持つ痛みと慈しみを、美しさと醜さを、光と影を体現している。

そしてライブはクライマックスへ。"Insomnia"では「Save me(助けて)」の大合唱が起きれば、"Lone Train Running"では今度は「Away now(遠くへ)」の大合唱が起こる。悲壮な"Insomnia"と始まりの"Lone Train Running"は、同じだけの絶望と希望を等しく歌っている。

オン ギター!マサ!

"Lone Train Running"のmasasucksのギターソロはどこまでもエモーショナルに疾走し、それは歌のメッセージを代弁する切実な決意のようだ。そして"紺碧の夜に"では祝福のサークルが巻き起こり、客席には笑顔が溢れる。嘆くような、混沌とした、陰のある曲の多いthe HIATUSのライブに訪れる幸福の瞬間。絶望があるから希望を感じられる。

本編ラストは"Sunburn"。楽しい時間はいつか終わる。その切なさは夏の陽炎のようにゆらゆらと揺れ、けれど思い出を心に残し、次の旅へまた走り出していく。

the HIATUSの音楽は暗い、嘆いてる。部屋で一人で嘆くような、話しかけんなゴルァっていうような曲が多い。でも人生いいこともあれば悪いこともあるじゃん。山あり谷ありで、山の時はハッピーな音楽を聴いてればいいけど、谷底でどん底で、息も吸えないって感じたその時は、おれたちのライブに来い。

ライブハウス好きだけど、来年はちょっとライブハウスを出ていこうかなと、いろんなところへお前らを連れていきたいと思います。

もう話すことなんもねぇわ。なぁマサ。

アンコール1曲目、masasucksが弾くギターに「それやっちゃう?いいよ」と細美。その様子を見たウエノはスタッフにベースの交換の合図を出し、セットチェンジを図る。おそらく予定ではなかったアンコール1曲目は"Silver Birch"。この曲はThe Afterglow Tourでもう一度蘇ったように思う。仲間の歌。ピュアなあの頃の自分は、今もここにいる。そしてオーラス"ベテルギウスの灯"へ。The Afterglow Tourでファンとメンバーから堀江に捧げられたこの曲は、the HIATUSの今も続く歩みを映しているようだった。

オン ボーカル!細美武士!!!

masasucksが仲間を誇るように高らかに叫ぶ。

動かない客先と鳴り止まないダブルアンコールの手拍子が鳴り響く中、約2時間の熱演は終了した。

8年間。気づけばそれなりの季節が過ぎ去っていた。『Trash We'd Love』はELLEGARDENとは違う曲作りの形から始まり、そして『ANOMALY』では苦悩した。しかし『A World Of Pandemonium』で、5人のセッションから生まれた曲たちはthe HIATUSに新たな可能性を与え、『The Afterglow Tour』ではオーケストラを交えた17人の音楽団として芽生えた種に水をやり、花を咲かせた。そして堀江とのしばしの別れ。『Keeper Of The Flame』では、全員のセッションとともにプログラミングを用いた細美と柏倉の作曲も加わり、そして長いツアーという旅を経て、5人は"バンド"となった。『Hands Of Gravity』ではMONOEYESとの両立によりバランスを取ることから解放され、細美と柏倉に伊澤も加えた3人のネタから生まれた曲たちは、5人の鉄壁の信頼関係が反映された素直で真っ直ぐな曲たちだった。

the HIATUSはその作品ごとに、制作スタイルが変わり、それに応じて音楽性が変わってきたバンドだ。当初細美は自分を貫くだけではない方法で最高の音楽を作ることを志向した。それはELLEGARDENの止まってしまった細美が出した、別の答えだった。しかしthe HIATUSを続ける中で、仲間を信頼し、仲間に信頼され、自分自身にもう一度還っていった。もう苦悶の表情で苦しそうに歌う細美はいない。例え音楽は嘆いていても、心は上を向いている。ステージの上にあるのは誇りと笑顔だ。このツアーはそんなthe HIATUSというバンドの8年の歩みを見せるようなものだった。全てのアルバムから満遍なく行われたセットリストは、違和感なく、むしろ完璧な流れでthe HIATUSというバンドの歴史を証明していた。

過ぎ去る日々のように
君は俺に信じさせたがる
過ぎ去る日々のように
許せばいいって君は言う
過ぎ去る日々のように
君は俺を君の世界に連れてってくれる
過ぎ去る日々のように
夜明けまでゾクゾクさせてくれ

だから何度も聞かないでくれ
だから何度もさ 何度も聞かないでくれ
俺は駆け抜けてるんだ
過ぎ去る日々のような速さで

the HIATUSは常に変化を続けてきた。しかし根底にあるものは変わらない。光があるところに影が生まれるように、影を描くことは光が在ることと同じだ。飽くなき音楽への探究心と、可能性への挑戦。新たに実った音楽の果実を仲間と分け合う日々が、この先にも待っている。来年も再来年もその先も、旅は続いていく。そして過ぎ去っていく日々が、降りしきる雪のように、心に積み重なって、また痕を残していく。こんな夜のように、いつか訪れるその日まで。

 

ただ駆け抜けてるんだ。

過ぎ去る日々のような速さで。

 

2017.11.28 the HIATUS Bend The Lens Tour 2017@新木場STUDIO COAST Day2

01.堕天
02.The Flare
03.Storm Racers
04.Monkeys
05.My Own Worst Enemy
06.Clone
07.Let Me Fall
08.Thirst
09.Unhurt
10.Bonfire
11.Deerhounds
12.Bittersweet /Hatching Mayflies
13.Horse Riding
14.Shimmer
15.Little Odyssey
16.Sunset Off The Coastline
17.Something Ever After
18.Insomnia
19.Lone Train Running
20.紺碧の夜に
21.Sunburn
en.

22.Silver Birch
23.ベテルギウスの灯

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The Flare / the HIATUS


ベテルギウスの灯 - the HIATUS


the HIATUS - Deerhounds [The Afterglow - A World Of Pandemonium]


the HIATUS - Thirst(Music Video)


the HIATUS - Clone(Music Video)

 

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We are still the same - 2017.10.10 MONOEYES Dim The Lights Tour 2017

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■We are still the same

7月5日にリリースされたMONOEYESの2ndアルバム『Dim The Lights』。このアルバムを引っさげ7月から始まった全国ツアーも、追加公演のいわきと最終日の沖縄を残すのみ。10月10日、事実上のツアーファイナルとなる新木場スタジオコーストの2DAYSの初日を迎えた。

ゲストのJohnsons Motorcarがライブを終えると、お馴染みとなったスターウォーズのテーマソングをSEにMONOEYESの4人が登場する。

Wildlife in the sandy land
Barking at the rising moon
That’s what my body feels like doing
You are someone like me
砂だらけの陸地で動物たちが
昇る月に吠えている
僕の体が欲しているのはそれ
君と僕は似てる

「Dim the lights = 灯りを落とす」。暗闇の中でこそ浮かび上がる野生。重い扉を開け、日常とは毛並みの違うライブハウスという空間でだけ露わになる本能。MONOEYESのライブが呼び起こすのは、日々の社会や規範の中では羽を伸ばせない衝動と純真だ。ルールではなく思いやりを持って。それさえあればこのライブハウスでは誰もが平等で自由だ。

It’s you and me again
もう一度 君と僕だ

『Dim The Lights』の核心に触れるリードトラック、"Free Throw"でライブの幕は切って落とされた。 

続く"Reasons"でフロアが更に熱を帯びていくと、3曲目で早くも"My Instant Song"が投下される。

全て失ったと感じるときは
これ以上もちこたえられないと感じるときは
暗がりにいると感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
息を飲む瞬間には
夢みたいだと思うときには
飛び込むのが怖いと感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
いつだってやめられる
即興の歌さ

2年前、MONOEYESはこの曲とともに始まった。「ただ歌うだけ」、いつだってやめられると口ずさんだ即興の歌が、会場をポジティブなエネルギーで満たしていく。ステージも客席も、見渡す限り一面の笑顔が、赴くままに身体を宙へ弾ませる。

 

細美「本日1発目スコットがキメるぜぇ!!」

 

細美のシャウトを皮切りに"Roxette"が披露される。スコットらしい伸びやかなメロディとほろ苦い歌が、細美の曲とはまた違う風通しの良さで、MONOEYESのライブに新しい色を加えていく。

細美「千葉LOOKから始まり、東北を散々回って、九州を巡り、北陸を回り、ようやくここまでたどり着けました。追加公演のいわきと沖縄を残して、事実上のツアーファイナルなんだけど、ファイナルだからと言って特別なことは何もありません。だからおれたちがこれまで回ってきたところと同じライブをするよ。」

"Leaving Without Us"、"When I Was A King"で一瀬の2ビートが激しい疾走感とダイナミズムを起こしたかと思えば、続く"Get Up"では「Get Up」の合唱が優しくも力強いサウンドスケープを描いていく。

「東京でやるのはすごい久々の曲をやります。」

 

そうして演奏されたのは"Cold Reaction"。

I'm against the new world
僕は新しい世界なんていらない

大きい会場でライブがやりたいわけじゃない。ただ、自分たちのこの場所(ライブハウス)をこれからも守っていきたい。MONOEYESは東北で細美が1人で弾き語りを行なっていた時、ライブに来る人たちがもっとスカッと暴れられるようにバンドで来たいと、ソロアルバムを作り始めたことをきっかけに生まれたバンドだ。ただ仲間とともに、ライブハウスでバカ騒ぎをしていたい。1stアルバム「A Mirage In The Sun」のオープニングを飾ったナンバーは、ハードなリフと地鳴りのような轟音で、今も変わらずにMONOEYESというバンドのアティテュードを表明する。

"明日公園で"では突然スコットがベースを銃に見立て戸高を打つ、すると膝から崩れ落ちる戸高、かと思えばそのままポジションを入れ替え、目の覚めるようなプレイでフロアを煽りに煽る。間奏では戸高がヒリヒリするようなギターソロで琴線を掻き毟り、逆側ではスコットがステージダイブで客席へと飛び込む。無邪気にステージを楽しむ2人が、ハイタッチまで飛び出す抜群のチームワークでライブを更に盛り立てる。

細美「みんな夏の楽しかった思い出があると思うんだけど、そういう楽しかった思い出をべっこう飴みたいに凝縮したような曲ができたんだ。人生で1番好きな曲。だから聞いて。」
「昔好きな女の子をバイクに乗せて海を見に行って、じゃあ帰ろっかってなった時に雨が降り出して、『こんなのすぐ止むよ』って彼女に言って庇の下で雨宿りをして、タバコに火をつけたんだけど、雨は止むどころかどんどん強くなって『ごめん、これは止まないね。』ってなって、そんで彼女を後ろに乗っけってさ。町からちょっと離れたところだったから、ずぶ濡れになりながらバイクで走って、やっとコンビニを見つけて、寒くて震えながらこれでちょっとはマシになるだろって500円のカッパを買ってお互いに着たら、その姿がどうしようもなくおかしくて、お互いに笑い合うような。」
「1番はBRAHMANの宮田俊郎と飲んでる時のことを書いていて、TOSHI-LOWがお店のグラスを全部割ってさ。光るモノが嫌いなゴリラみたいな笑 なんかこういう生き物いたなって笑 手には空のウイスキーのボトル、テーブルの上には割れたグラスがあって。」
サンゴ礁のある海を泳いだことがある人はわかると思うけど、あのあたりにいるような小さな魚は、合図もないのに示し合わせたように同じ方向にクイって進むんだよ。こんなこと言うのはこっぱずかしいんだけど、今日は目の前にいるブスと脳足りんのどうしようもないお前らのために歌います。そんな風に、お前らと一緒におれに年をとらせてくれ。」

"Two Little Fishes"。二匹の小さな魚。
アルバム制作において、1曲オススメの曲があるのは他の曲に失礼だから、それなら全部作り直すべきだ。頑なにそう言っていた細美が、この曲は人生で1番好きな曲と言ってはばからない。ミディアムテンポのパワーポップ。サウンドも詞も、明るく、温かい。

これまで細美の作る音楽は、明るい曲調の裏にも、いつもどこか自己嫌悪や孤独、胸に刺さったままとれないささくれのような痛みを抱えていた。でもだからこそ同時に、自分を認めていいんだと、君は1人じゃないと、痛みは和らぎ、いつか傷跡だけを残しなくなるということも教えてくれた。

彼の音楽は失望を内包することで希望を歌ってきた。 

だが今はそれだけではない。"Make A Wish"で祈った君の幸せ。その隣にいるのは僕じゃなかった。"Two Little Fishes"で歌った僕の願い。君のそばにいるのは、まだ見ぬ誰かじゃない。

Let’s run forever
We get older
Do you think I’m gonna leave
逃げようぜこのまま
僕らは歳をとる
いなくなるわけないだろ

客席を鼓舞し、ファンと一体となり歌う細美。ELLEGARDENの1stアルバムのタイトルは『DON'T TRUST ANYONE BUT US』。自分たち以外は誰も信じない。そこから積み重ねて、失って、そしてまた積み重ねてきた。the HIAUS、東北ライブハウス大作戦のメンバー、TOSHI-LOWとの大きな出会い。仲間と呼べる揺るぎない存在。生まれる確かな信頼。

1stアルバム『A Mirage In The Sun』のリリースツアーでは、ライブ前に細美自らがステージに立ち、ライブの注意事項を説明していた。昨年の「Get Up Tour」では、モッシュやダイブをするファンを時に注意しつつ、常にコミュニケーションを取りながら、MCでも思いやりを持ってと話していた。

このライブではわざわざ注意事項を話すことはしなかった。ダイバーに直接話しかけることもなかった。その必要がなかった。

Wanna make us synchronized like two little fishes
Wanna make a sunset like this last forever
Wanna grow older while you’re here beside me
Tell me when the wind starts blowing into the room
僕らは二匹の小さな魚みたいにシンクロしてたい
この夕日がまるでずっと続くみたいに感じていたい
君がそばにいてくれる間に歳を重ねたいんだ

孤独も喪失もない。幸せな記憶。MONOEYESが鳴らす仲間の歌は、ファンの声と重なり、お互いの想いとシンクロしながら、二匹の小さな魚のように同じ未来を描いていた。

マーチのような"Carry Your Torch"を経てライブは終盤戦へ。 "Run Run"、"Like We've Never Lost"を畳み掛けると、"Borders & Walls"ではJohnsons Motorcarのマーティも参加。ポリティカルな内容を孕みながらも、その憂いを吹き飛ばさんとばかりに、スコットの人懐っこいキャッチーなサウンドにフロアは縦横無尽に入り乱れ、幸福な暴動が起こる。スコットがボーカルの曲では細美もギタリストへと変わり、ギターに全霊をぶつける。

細美「たまにどうしようもなく吠えたくなる時があるんだよ。電車乗ってる時とかコンビニにいる時とか、そういう時に吠えるとパクられるからやらないけど笑 お前らもそうだろ?でも今日は吠えられたんじゃない?」「性別も年齢もルックスも貯金も収入も、そんなものはここには何一つ関係ない。」「世の中がこんな風(ライブハウス)だったらいいのにってずっと思ってるけど、どうやらそうじゃないみたい。あのドアを開けたら、少し窮屈な世界が待ってて、ちょっと違う服を着てたり、人と違うご飯の食べ方をしたら笑われる。そういうことに疲れたら、その時はいつでも遊びに来て。」

いつだってここに帰る場所はあると、細美は語りかける。

Let me see the morning light
Ditch a fake TV smile
And you said to no one there
Like 3, 2, 1 Go
When we see the rising sun
I can feel my body getting warm
朝陽が見たい
テレビ向けの笑顔なんて捨てて
君は誰にも向けずにこう言った
3.2.1 行くよ
すると太陽が昇って
僕は体が暖かくなるのを感じる

正解も不正解もない。沢山の人がそれぞれ違った価値観を持つ社会では、常に批判され、常に折り合いや妥協を求められる。自分の全てが間違っているように感じる時さえある。でも夢に見た世界がある。その場所に辿り着きたい。

タイアップを断り、CDの特典を拒み、ライブハウスにこだわり、どれだけ人気が出てもチケット代は2,600円のまま。多少の怪我はしてもいい、でも誰かに怪我はさせるな。禁止するのではなく、信じることで守りたい。理想の世界は綺麗事だろうか。「そんなのは無理だ。」また声が聞こえる。生半可な戦いじゃない。でも彼は戦い続けてきた。その生き方は彼を知った14年前から変わらない。その姿を見てると、ちっぽけな自分の中にも勇気が湧いてくる。そしてその戦いの先にあるこの場所に来ると、夢に見た世界を実感できる。身体は疼き、汗が滲み出す。体の芯から脳天を突き抜けるような高揚感に鳥肌が立つ。言葉にできなかった想いが熱を持って肉体に溶け出し、目頭が熱くなる。夢を見ていいんだと信じられる。
歳を重ねても、バンドが変わっても、変わらない細美の生き様を、"3,2,1 GO"は写している。

"グラニート"が見せる景色はその信念の先にあるものだ。赤の他人同士が、初めてライブハウスで出会い、同じ音楽を聴いて、肩を組み笑い合う。ルールで縛り合うのではなく、思いやりを持ち寄って、想いに惹かれ合う。

そういう世界があるなら
行ってみたいと思った

そういう世界がここには広がっている。

本編のトリを飾るのは"ボストーク"。『Dim The Lights』の中で唯一収録されている日本語詞の楽曲だ。"グラニート"同様の軽快なドラミングと爽やかなメロディが、ライブハウスに風を運ぶ。ボストークとは1961年にソ連が打ち上げた人類初の有人宇宙飛行船の名だ。これからも、誰も知らない場所へ、この旅は続いていく。

客席のアンコールを受け、すぐにステージに現れた4人。

細美「(袖とステージを)行って帰って来てっていうのは茶番にしか思えないので、あと2曲だけやって帰ります。」「またここで打ち上げやろう。ライブの打ち上げじゃないよ。外の世界では戦って、そして人生の打ち上げを、ここでやろう。」

アンコールのラスト、"Remember Me"で細美は歌詞の中にある「You are still the same.」を「We are still the same.」と歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same
10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

11年前、16歳で初めてライブハウスに行った時、不安で怖かった。でもそれ以上にワクワクして胸が踊った。重いドアを開けたその先では爆音の中、人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、グチャグチャになりながら息をするのも大変だった。でも日常では絶対見ないような光景の中、そこにいるみんなが、笑顔で拳を掲げ、声を上げていた。
そしてステージで歌うその人は、今この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

11年後、27歳になって訪れるライブハウスには不安はなくて、でも11年前と変わらずにワクワクし、そして少しだけ涙が出そうになった。重いドアを開けたその先では爆音の中、相変わらず人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、汗まみれのグチャグチャになりながら、普段どれだけこんな顔ができてるんだろうってくらいの笑顔になれた。
そしてステージで歌うその人は、今も変わらずに、この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

人は変わる。細美が手拍子や「オイ!オイ!」と掛け声を煽るようになる日が来るとは思わなかった。身体は鍛え上げられ、すぐTシャツを脱いでは裸になり、親友との惚気話に頰を緩ませる。
自分も変わった。あの日の学生は社会人になり毎日仕事。昔みたいにライブハウスに来て汗まみれになって暴れることも少なくなった。周りは結婚して子どもができ、会うことも少なくなった友達も多い。
全ての人が年とともに、時代とともに変わっていく。

でも変わらないものもある。

もし君が疲れたら
呼び出して
付き合いきれないものに疲れたら
あの頃に戻って話をしよう
そしたらこの世界のどうしようもない出来事が
音にかき消されて
勇気が湧いてくる

この場所では、今も変わらずに素直でいられる。笑われることも比べ合うこともなく、クソッタレのダメ人間も、外の世界で擦り減ってしまった人も、大好きな音楽を大好きなままで。立ち上がれと、1人じゃないと、その音楽は鳴り続ける。

細美「20年後には64歳のおれに会えるよ。」

逃げようぜこのまま
どれだけ歳をとっても
いなくなるわけないだろ

外の世界で戦って、疲れた時は勇気をもらいに、頑張った時には自分へのご褒美に。
人生の打ち上げをやろう。何度でも。


さあ ライブハウスへ帰ろう


 


MONOEYES - Two Little Fishes(Music Video)

 

セットリスト

1.Free Throw

2.Reasons

3.My Instant Song

4.Roxette

5.Leaving Without Us

6.When I Was A King

7.Get Up

8.Cold Reaction

9.Parking Lot

10.明日公園で

11.Two Little Fishes

12.Carry Your Torch

13.Run Run

14.Like We’ve Never Lost

15.Borders & Walls

16.3, 2, 1, Go

17.グラニート

18.ボストーク

アンコール

19.Somewhere On Fullerton

20.Remember Me

2015年 年間ベストディスク10枚

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【総括】カヲルが選ぶ2015年 年間ベストディスク10枚 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

 

10位 mol-74『越冬のマーチ』

 京都の3人組オルタナティブバンド、mol-74(読みはモルカルマイナスナナジュウヨン)。
北欧のバンドのような冬の刺すような冷たい空気を思わせる透明感と静けさを持ち、そしてボーカル武市のハイトーンボイスが奏でる美しいメロディが幻想的な雰囲気を生み出している。初の全国流通盤の今作は3rdミニアルバムとなり、「冬」そのものと春に至るまでの「過程」としての『冬』を表現しているという。編成は3ピースだが、"冬の海のスーベニア”では浜辺に寄せる波の音も流れ、多彩な音が"冬"を演出している。アルバム全体の色はモノトーンで、エレキギターに鉄琴、ピアノやシンバル、ハイハットの冷たい感触の音使いが冴え渡っている。しかし、だからこそ時にアコースティックギターの有機的な音色は聴く者の心に温もりを添えている。また、喪失や孤独を歌う武市のボーカルも時に冷たく、時に優しく、そのどちらにも表情を変えている。
 聴いてテンションが上がるわけでも下がるわけでもない。特に歌詞に共感したり新しい気づきがあったわけでもない。でもなぜか今年出会ってから、ふと脳裏に浮かんでは何度も聴いた1枚。それも寒い冬の日ほどなんだか聴きたくなってくる不思議。mol-74は今年「まるで幻の月を見ていたような」というミニアルバムをもう1枚リリースしているが、この『越冬のマーチ』の方がよく聴いていた。これから冬が訪れるたびに思い出しそうなアルバム。


mol-74 - グレイッシュ 【MV】

9位 乃木坂46『透明な色』

 デビュー作"ぐるぐるカーテン"から10thシングル"何度目の青空か"までのシングルに新曲を加えたDISC1と、これまで発表されたカップリング曲の中からファンの人気投票で選ばれた上位10曲を収録したDISC2との2枚組の今作(通常盤はDISC1のみ)。AKBグループの王道としてはエレキギターに泣きの入ったメロ、疾走感のある曲が多いが、乃木坂の楽曲にはファルセットの効いたユニゾン、丸みのあるシンセやストリングス、そして(特に)ピアノが多用されている。その路線は"君の名は希望"で確立され、AKB48の公式ライバルとして生まれた乃木坂46だが、今では差別化に成功し完全に自分たちのオリジナリティを獲得した(最新シングル「今、話したい誰かがいる」の収録曲のイントロピアノで始まり過ぎ問題なども起きているが)。
 ほぼほぼベストアルバムのような内容でコアなファンにとっては新曲以外物足りない内容かもしれないが、僕のようなライトファンにとっては「とりあえずこのアルバムを聴けば乃木坂の曲はある程度は押さえられる」という網羅性の高さがありがたかった。また、このアルバムを聴いて"おいてシャンプー"や"私のために 誰かのために"など、シングルがリリースされた当時にはそこまで気にしていなかった曲の良さに新たに気づくことができた。加えて乃木坂の楽曲、そして彼女たち自身の持つ"清廉さ"、"透明感"、"奥ゆかしさ"を1枚を通して感じることができ、改めて乃木坂を好きになった。そんな"再発見"と"再確認"ができたのも個人的には非常に良かった。あとDISC2のカップリングの人気投票1位曲が"他の星から"っていうのがホント良い(自分が好きなだけ)。2016年は乃木坂専ヲタになるぞって感じで。


他の星から.

8位 RYUTistRYUTist HOME LIVE』

 2011年に結成された新潟市古町を中心に活動する4人組アイドルグループRYUTist。メンバーは全員新潟生まれ新潟育ちで、グループ名も新潟を表す「柳都(りゅうと)」という言葉に「アーティスト」を加え「新潟のアーティスト」という意味を込め名付けられた。普段は「LIVE HOUSE 新潟SHOWCASE』で定期的に公演を行っており、県外でライブを行うのは年に数回と非常に限られている。そんな彼女達の初のフルアルバムとなる今作は、その彼女達の定期公演「HOME LIVE」をそのままパッケージしたような構成となっている。入場時のSEや自己紹介のMCは臨場感を与え、終盤に向けドラマチックに盛り上がっていく流れは、1枚を通して聴くことで、まるで彼女達のライブ会場に足を運んでいるような感覚になれる。収録されている楽曲は80's〜90'sを彷彿とさせる純度の高いポップスばかりで、上質なメロディとメンバーそれぞれのボーカルがお互いにコーラスしながら伸びやかに広がっている。そしてそのどれもに、素直で真っすぐな想い、ひたむきかつ真摯な姿勢が表れている。
 今のアイドルシーンは雑多なジャンルの音楽が混ざり合い、中には奇を衒ったものも少なくないが、ここまで逃げずに正面から"アイドルのポップス"を全うしているRYUTistの存在は尊い。"Beat Goes On! 〜約束の場所〜"、"ラリリレル"は聴いていると泣きそうになってしまう。日々の小さな幸せを、新潟と古町への愛を、曇りのない希望を、ステージの上で喜びとともに表現するRYUTist。一生の内4/5ぐらいはRYUTistを見てる時の気持ちで過ごしたい。


【PV】 Beat Goes On~約束の場所~ RYUTist(りゅーてぃすと)| 新潟市古町生まれのアイドルユニット!

7位 田我流とカイザーソゼ『田我流とカイザーソゼ』

 山梨を中心に活動するラッパー田我流によるバンドプロジェクトのスタジオアルバム。「田我流とカイザーソゼ」という名前だが別にカイザーソゼというアーティストとコラボしている訳ではない(僕は名前を見た当初完全にそう思った)。田我流とstimというバンドを母体とした計10名による今作は田我流の既存曲をバンドアレンジで再録した楽曲に新曲を加えた計9曲を収録している。田我流のソロと比べると生バンドになったことでジャズやソウル寄りのアプローチが強くなっており、アルバムを通してバンドセッションによる心地いいグルーヴを感じられる。また、田我流のラップも言葉のメッセージはそのままにサウンドの一つとしても音に溶けこんでおり、非常にリラックスしたままあっという間に1枚を聴き終えてしまう。名曲"ゆれる"も別アレンジとなり新たに収録されているが、少ない音数である種の緊張感を放ちながら"言葉"の立っていたオリジナルよりも、言葉も音に包まれより丸みを帯び、聴けば自然と体の揺れるアレンジへと変貌している(どちらのバージョンも素晴らしい)。
 CDショップで試聴して「これは!!!」と鳥肌が立ち即購入した今年数少ない作品。日々のBGMとして一人の時間を楽しむもよし、耳に飛び込んでくる田我流の言葉と向き合い己を省みるもよし。気を張らずに何度でも聴ける、聴きたくなる。


LIVE FILE : 田我流とカイザーソゼ

6位 RAU DEF『Escallete II』

 2010年にRAUDEFが20歳の時にリリースしたアルバム『Escallete』の続編と言える今作。SKY-HIの主宰するBULLMOOSEからの移籍第一弾作品となり、『Escallete』同様PUNPEEがトータルプロデュースを担当している。SKY-HI、PUNPEE、5lack、MARIA(SIMI LAB)、ZORNを客演に呼んだ華のあるアルバムだが、とにもかくにもRAU DEFのラップが凄まじい。「Escallete』をリリースした際のインタビューで「リリックよりもカッコいいラップをすることが大前提」と言っていたRAU DEFだが、彼の持つ滑らかなフロウと語感の噛み合った抜群の気持ちよさを感じさせるラップは、連続した音の波となって次々と鼓膜に打ち寄せてくる。また、リリック面でも自身の紆余曲折のこれまでが経験として反映され、言葉の重みが増している。特にSKY-HIとの"Victory Decision"、"Sugbabe(PUNPEE)がフィーチャリングした"FREEZE!!!"ではリリシストとしての成長が伺え、"Gr8ful Sky"では『Escallete』収録の"DREAM SKY"からの引用もあり、継承と進化を見せている。
 アルバムの要所要所でPUNPEEのボップセンスが遺憾なく発揮されており、通して聴いた時の耳馴染みも良い。収録曲も適度で1枚を通して聴きやすく、HIPHOPリスナーだけでなく幅広い層に好まれるであろう作品。聴き終えた後、爽やかな爽快感さえ感じられる。今作のリリースに伴ったライブは予定されていないようだが、彼のラップを生で聴ける日が待ち遠しい。

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5位 MONOEYES『A Mirage In The Sun』

 ELLEGARDEN/ the HIATUSのボーカルである細美武士がフロントマンを務める新バンドMONOEYESの1stアルバム。結果としてバンド名義の作品となったが、元々細美はソロとしてアルバムを作る予定だったため、このアルバムに関しては作詞・作曲はもちろん全ての曲の指揮を細美がとっており"細美武士のアルバム"と言っても過言ではない。ELLEGARDENを知っている者はその名を思い出さずにはいられないような、ストレートでメロディアスな楽曲群。しかし、カラっとしたパンクサウンドというよりはどちらかと言えば重厚でタフなロックアルバムとなっている。そして<I'm against the new world.>と歌う"Cold Reaction"から始まる今作には、ELLEGARDEの頃から変わらずに貫き続けてきた細美の潔癖なまでの美学と闘争、生き様が刻みこまれている。
 正直言ってこのアルバムを年間ベストに入れるかは迷った。しかし今年を振り返った時、これほどリリースを待ち望んだ作品はなかったし、12年前にELLEGARDENと出会って人生が変わった自分にとって、12年後の今も細美武士が変わらないアティテュードで歌い続けているという事実が持つ意味は途方もなく大きかった。おそらくこれからの人生、ELLEGARDENを聴き続けてきたように、MONOEYESのこのアルバムも聴き続けるだろう。こんだけ書いといて5位かよって感じだけど、自分にとってはとても大切なアルバム。


MONOEYES - My Instant Song(Music Video)

4位 校庭カメラガール『Leningrad Loud Girlz』

 他ジャンルの音楽とアイドルポップスを掛け合わせ、音楽ファンへ目配せしつつ市場にアプローチするアイドルが次々と現れた結果、今では焼け野原となってしまった現在のアイドルシーン。そんな荒野に現れたのが6人組のラップアイドルグループ、校庭カメラガール(通称:コウテカ)。彼女たちは「ラップアイドル」ではあるが『ヒップホップアイドル』ではない。ラップという「手段」を駆使し全く新しい音楽を鳴らそうとしている。そのサウンドはジャズにファンク、ジャジーヒップホップにエレクトロやテクノ、跳ねるようなビートと近未来的なシンセ、アブストラクトな音像からアニソンのようなバンドサウンドまでもが渾然一体として存在し、ジャンルでは説明不能なミュータントと化している。
 今年コウテカは『Ghost Cat』というミニアルバムをもう1枚リリースしており、そちらでもその奇天烈な音楽性は発揮されているが、このアルバムとの違いは『Leningrad Loud Girlz』にはコウテカの"アイドル"としての物語が投影されていることだ。オリジナルメンバーであるましゅり どますてぃの卒業という現実の出来事によって、幸か不幸かコウテカのリリックにはグループのストーリーが宿り、その感情の渦はダイレクトに曲に跳ね返っている。<ここで歌ったこと 覚えててね 私がいなくなっても >と歌う"Last Glasgow"のエモーショナルは前作にはなかったものだ。混沌としたサウンドと"アイドル"が持つ刹那のドラマが合致したこのアルバムは、2015年のアイドルシーンの中でも異質な存在感を放っている。ラスト<諦めたあの娘の分も走るよ 僕が>と歌う"Lost In Sequence"がめっちゃ泣ける。ここまでやってしまって次があるのかという気もするが、そのぐらい他の追随を許さない1枚。

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3位 KOHH『梔子』

 2012年に発表したMIXCD『YELLOW T△PE』が注目を集め、昨年リリースされた2ndアルバム『MONOCROME』により一気にシーンの寵児としての頭角を現した現在25歳のKOHHの1stアルバム(1stアルバムより先に2ndアルバムがリリースされている)。「自分の中にある言葉しか使わない」というKOHHのリリックは平易な単語や話言葉で綴られており、そのテーマはライフスタイルや地元の仲間、自身の価値観、ふと浮かんだテーマまでもがインスピレーションのままに、高い瞬発力でもって落とし込まれている。先に発表された『MONOCROME』では作詞においてこれまでにないシリアスな面を見せていたが、今作は初期のKOHHのイメージに近いフロアでも映えるチャラさや適当さも残っている(今作に収録されている"Junji Tkada"に至っては本人曰く全て「適当」で30分でできたそうだ)。ポストダブステップやトラップの重いナイーブなトラックに乗る、メロディと同居した音を伸ばす彼のフロウは心地よさも備えている。
 今年KOHHは3rdアルバムの『DIRT』もリリースしているが、全体的に暗くダウナーなサウンド、死生観の強くなったリリックに叫ぶようなフロウが目立つ『DIRT』よりも『梔子』の方を好んでよく聴いていた。メロディアスかつ、軽さとシリアスさのバランスの取れたこの『梔子』はKOHHの作品の中でも最も聴きやすいアルバムだろう。特に"飛行機"は今年のHIPHOPで一番を争うくらい何度も聴いた。KOHHを見ているとタトゥーやドラッグ、SEXのような危ういテーマも、それが飾らないありのままの彼の姿であることがわかる。その人生から滲み出た言葉は、確信を持った説得力とともに聴く人の先入観を飛び越えていく。こんな入れ墨だらけの、見るからにヤバそうな人の音楽を、悪そうなやつは大体友達じゃない青春時代を送った自分がこんなに聴くとは思わなかた。

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2位 OMSB『Think Good』

 ヒップホップグループSIMI LABのMCとしても知られるOMSBの3作目となるソロアルバム(1枚はビートアルバム)。この『Think Good』は全17曲(interlude含む)、彼の中に溜め込まれたマグマのようなフラストレーションとも言うべき感情が、黒く太いビートとなりうねりを上げ、マグナム銃のような強度のラップとともにひたすらに突き刺さってくる目の覚めるようなアルバムだ。特に今作における彼のラップの強度は半端じゃない。もちろん、リリックではニクい引用や彼自身のラフな言葉で巧みに韻も踏んでいるし、大蛇のように獰猛なフロウと相まい、ただビートとラップを聴いているだけでも、その放たれるエネルギーに当てられ体温の上がってくるような曲ばかりである。しかし、歌詞カードなしで聴いても、気がつけば詩の一つ一つが次々と頭を殴りつけてき、否が応でも彼の言葉に耳を傾けざるを得なくなってしまっている。
 1stアルバム『Mr."All Bad Jordan"』では彼の内にあったフラストレーションはどちらかと言えば「怒り」の感情となって発露されていたように思う。一方、今作では『Think Good』というタイトルが示す通り、内省を経て、ポジティブな原動力へと変換されている。葛藤を経て吐き出された彼の言葉は全てがパンチラインと言っても過言ではない。中でもアルバムタイトルと同じ名前を冠した"Think Good"はverseやHookといった定型を破壊し、6分4秒間、OMSBの内部から溢れ出たドロドロとした感情の塊が、尋常ではない熱量とエネルギーを放出しながら、自己を肯定していく前向きなメッセージとして迸っている。このアルバムを聴くと自分の中にある燻っているものに火がつき、目の醒めるような感覚になる。ジャンルでは決して説明できない、殺気さえ感じる情熱が生んだ傑作。

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1位 bacho『最高新記憶』

 2015年に初めてその存在を知り、そして2015年最も聴いたバンド。兵庫県を中心に活動する4人組バンドbacho、その10年以上の活動期間の中で初めてのフルアルバム『最高新記憶』。4人編成のシンプルで無骨なバンドは、ハードコアバンドのような激しさとダイナミズム、つんざくようなエモーショナル、日本語パンクのような哀愁と泥臭さをぶちまけている。そして4人のバンドマンは最後の一振りかのようにドラムを叩き、全霊を込めるかのようにベースを叩き付け、むさぼるようにギターを搔き鳴らし、音楽にしがみつくように歌う。彼らは自分たちの音楽を「負けた者の音楽」と言っている。メンバーは平日は別の仕事をしており、週末にバンド活動を行っている。言ってしまえば音楽だけでは食べることの出来ていないバンドマンだ。しかし、メンバーチェンジを経ながらも結成してからの13年間、音楽を愛し、信じ続けた。そしてそんな音楽を愛し、信じた自分たち自身を諦めきれず、信じ続け、そして今もバンドを続けている。物事において続けることが常に偉いわけではない。けれど、続けてきた彼らにしか出来ない音楽、歌えない歌がある。そしてこのアルバムには、そんな彼らの歩みとも言える挫折や葛藤、打ち拉がれた想い、それでも諦めきれない信念と決意、眩しいほどの情熱と覚悟が1枚のアルバムとして結実している。それは音楽ではなくとも、同じように日々を生きる僕らリスナーの心を奮い立たせ、勇気付け、立ち上がる力をくれる。
 2015年の日本の音楽シーンを振り返った時、後に語られるのは星野源の『YELLOW DANCER』かもしれない。しかし、bachoのこの『最高新記憶』は、一人の人間の人生を変え、死ぬまで一緒に歩み続けてくれるアルバムだ。おれたちの幸せはこんなもんじゃない。拳を突き上げ共に歌おう。更新する未来、最高の新記憶。自分の人生を諦めていない全ての人に贈りたい1枚。

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【雑感】

 選んだ年間の10枚を振り返ると基準は「何度も聴いた」がテーマだった気がします。

 今年は多くのサブスクリプションサービスが正式にローンチした年だったとも思いますが、僕は先日やっとApple Musicに登録しはじめたぐらいで、正直この手のサービスは全然使いませんでした。(今Apple Music使ってて「これ凄くない?」と思い始めてるので来年はめっちゃ使うかもしれませんが)。あと年間ベストアルバムとして10枚選びましたけど、枚数自体は全然聴いてません。おそらく5,60枚ぐらいしか聴いてないと思います。でもその少ない中でも印象に残ったもの、何度も聴いたものが年間ベストを決める時には頭に浮かんだ気がします。bachoとか、本当何十回も聴きました。

 もちろん世の中には知らない音楽が無数にあって、その中に自分が好きになれたり、それこそ人生を変えるような音楽があるかもしれないので、サブスクもYouTubeもレンタルも全部使って新しい音楽は気にしてたいですが、「好きなものを好きなだけ聴く」というリスナーとして当たり前の感覚は忘れずに、来年も良い音楽に出会えればいいなと思います。

2015年お疲れ様でした。皆様よいお年を。

 

musicoholic presents『This song vol.3』@下北沢モナレコード act: MC KOSHI(O.A)、SANABAGUN、仮谷せいら、GOMESS

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』

【ライブレポ】musicoholic presents『This song vol.3』 : 音楽情報ブログ『musicoholic』

■20150215

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2月15日、musicoholic3度目となる自主企画『This song vol.3』が下北沢モナレコードにて行われた。『This song』とはmusicoholicのメンバーであるヤットが中心となり「今、この音楽を聴いてほしい!」という想いをもとに、ジャンルやシーンを問わず、ライブを生で見て欲しいというアーティストを招いて行うイベントである。
 2012年10月にONPA MOUNTAIN、BRADIO、barbalip、With A Splash、ill hiss cloverを呼んで池袋マンホールにて開催された第1回、2014年6月にShiggy Jr.、HOLIDAYS OF SEVENTEEN、R (from FAT PROP)の3組が、アコースティックセットで下北沢モナレコードに集った第2回を経て、今回で3度目の開催となった。
 まず一組目、オープニングアクトとして登場したのは、HIPHOPアイドルグループlyrical schoolのバックDJや作詞で活躍する岩渕竜也ことMC KOSHI。 過去にラッパーとしても活動していたが、本人曰くライブをするのは3年振りとのこと。何度かlyrical schoolのイベントではフリースタイルを披露し、自身のsoundcloudには音源を上げていたが、おそらくほとんどの人にとってそのライブはベールに包まれたものだったろう。
 そんな中1曲目に歌われたのは"そういう男に"。イベント前夜にYouTubeの彼のアカウントにリハスタでの映像が突如アップされた楽曲だ。これまでlyrical schoolに提供してきた彼の歌詞は、あくまで女性(アイドル)が歌うことを考えて作られた「男性の考える女性目線の歌詞」だった。しかし、この曲では「辛い悩みから決して逃げない 深い闇から目を逸らさない」と、彼の内面を反映させたような男性目線の硬派なリリックが、決意表明のように力強く歌われている。
 その後も「昨日はバレンタインデーだったので」と歌われたメロウなラブソング"君のせい”など、ゆったりとしたトラックと堅実なライミングを披露、初見でまだ固かった観客も次第に音に身を任せ揺れ始める。"リクルート"では、自身の就職活動とHIPHOPの道に進むきっかけとなった瞬間をメロディアスにラップした。その曲の最後、バックDJの浅野(lyrical schoolスタッフ)が次の曲への繋ぎを失敗してしまうハプニングもあったが、「いいんだぜ間違えたって。間違いながら何かに逆らうんだぜ。」と"リクルート"の歌詞を引用しながらすぐさまフリースタイルでフォローを入れる一幕も見られた。全6曲。短い時間ではあったが、岩渕竜也ではなく一人のラッパーとして、3年ぶりとなるMC KOSHのライブIはステージに華を添えた。

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MC KOSHI セットリスト
1. そういう男に
2. platinum days
3. 封筒
4. 君のせい(原曲:Midnight / Midnight DEMO by KOSHI-03 | Free Listening on SoundCloud
5. リクルート
6. see you again

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続いて登場したのはSANABAGUN。渋谷で毎週ストリートライブ(現在はお休み中)を行う8人組のジャズHIPHOPバンドだ。この日、saxの 谷本大河が入院治療中のため欠席となり7人でのステージとなったが、お馴染みのオープニングナンバー"Son of A Gun Theme"、"M・S"と続けた、その後は新曲をお披露目、ジャズシンガーの高岩遼の色気のあるボーカルの活きたブルージーな一曲にモナレコードの木目の温かい雰囲気がよく似合っていた。
 しかし、そんなムードある曲で聴かせたと思えば、次の"大渋滞"では縦ノリのタイトなリズムに乗せ、MCの岩間俊樹が「みんな金払って今日来てるんだろ?」とステージからフロアに降り客席を煽り立てる。かと思えば"Stuck In Traffic"では高岩が物販エリアまでやってき、ユーモアを交えながらグッズの売り子を始めだす(この日欠席していた谷本大河の生写真が通常は5000円?のところ300円で販売されていた)など、変幻自在のSANABAGUNペースで客席を掴んでいく。そして終盤"Hsu What"では再びジャジーな横揺れのグルーブで客席を魅了し、「メイクマニーしてる間に まず墓」という不思議なフレーズのコール&レスポンスと合掌の振り付けで観客を一つにする"まずは「墓」。"で本編トップバッターを締めてみせた。
 SANABAGUNは全員が平成生まれであり、自分達でも「レペゼンゆとり世代」を公言している。しかし、彼らはそれぞれ微妙に年齢も出身地も異なり、まだ若いながらも各々が別々の音楽活動を行っていた下積み時代も経験しているグループだ。その8人が今SANABAGUNとなり、ジャズやブルースとHIPHOPを巧みに折り合わせたグルーブと人を惹き付けるキャラクターで、渋谷のストリートから徐々に旋風を巻き起こしつつある。彼らのその確信犯的なシニカルさと即興性の高いエンターテイメント力のあるステージは、雨にも負けず、風にも負けず、警察にも負けず、ストリートでその場を通り過ぎていく人並相手に鍛え上げられた度胸と経験、そしてそれぞれの下積み時代に培われた技術に裏打ちされたものだ。それがストリートでも、ライブハウスでも、モナレコードでも、変わらないSANABAGUNのライブを支えている。
 この日はモナレコードという会場の雰囲気に合わせてか、持ち曲の中でも比較的BPMも抑えめの曲が多く、普段よりも「聴かせる」一面を見せてくれたが、どの場所でライブをしようとSANABAGUNはSANABAGUN。そんな確かな演奏力と変わらぬエンターテイメント性を感じさせるようなステージだった。 

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SANABAGUN セットリスト
1. Son of A Gun Theme
2. M・S
3. 新曲
4. 新曲
5. 大渋滞
6. Stuck In Traffic
7. Hsu What
8. まずは「墓」。

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3組目に登場したのは仮谷せいら。この日のHIPHOP色の強い並びの中では、唯一、紅一点のポップスシンガー・ソングライターだ。彼女の真っすぐで伸びのある歌声と、彼女が描くその等身大の詩世界が、それまでのモナレコードの雰囲気をガラっと変える。"NMD"では「お金がないから 遊びに行けないね。外は晴れでも 誰にも会えずに。」とお金のないことが生む寂寥感を赤裸裸に綴っている。そんなありのままの彼女のメッセージは、きっと誰もが一度は体験したことのあるであろう普遍的な感情と重なり、聞く人を選ばずその心にすっと入りこみ、胸を包んでゆく。また、レーベルメイトのgive me walletsとのコラボソング"Yes,I Do."ではシンセポップをバックに全編英語詩を歌い上げ、「おそらく最初で最後」と彼女が作詞として参加したFaint★StarのEDMナンバー"メナイ"の自身によるカバーも披露するなど、ウェットや艶を感じさせる歌声も披露された。彼女が高校1年生の時に書いたという"大人になる前に"は、彼女が21歳となった今も、大人への階段を昇っている彼女の「今」の言葉として響き、聴く人の背中をそっと押してくれる。ステージの上で手拍子を煽る彼女の笑顔に、客席も自然と顔をほころばせる。最後はtofubeatsの1stアルバム『lost decade』に収録されている"SO WHAT!?"で爽やかな幸福感を残し、自身初の9曲となるロングセットのライブをやり遂げた。
 彼女の音楽を端的に表すのであれば「ポップス」という言葉になるのだろう。繊細な心の機微をストレートな歌声とシンプルな言葉で表現してゆく。しかし彼女の場合それはジャンルや音楽性だけではなく、彼女のステージでの笑顔、振る舞い、明るさや持って生まれた気質も「ポップス」として大きく作用しているのだろう。彼女のライブではファンは皆自然と笑顔になり、時にクラップし、体を揺らしながら、不思議な充足感に満ちたその空間に身を委ねる。まだ正式な音源化のなされていない曲も多いが("大人になる前に"と"SO WHAT!?"はiTunesで購入可能)、その音がリリースされた時、彼女の「ポップス」は更に広がってゆくだろう。現在音源を鋭意制作中とのことなので、その時を楽しみに待ちたい。

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仮谷せいら セットリスト
1. HOPPER
2. NMD mix
3. Yes I Do
4. 心の中に...Avec Avec ver.
5. そばにいる
6. メナイ(original by Faint★Star
7. フロアの隅で
8. 大人になる前に
9. SO WHAT!?

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そしてこの日のトリを飾ったのはGOMESS。仮谷せいらのライブで皆が朗らかな気持ちになっていた中、会場の照明も十分に点けぬまま「悪いけどおれに盛り上げる曲は1曲もねぇ」と、いきなり新曲の"箱庭"を披露。3月発売予定のニューアルバム『し』に収録予定のこの曲で歌われたのは、絶望と世界の終わりだった。更に「Twitter不眠症の歌を作ってくださいと言われたので作りました。」と、こちらも新曲の"THE MOON"と続けざまに新曲を繰り出す。ポエトリーリーディングのようなスタイルで、時にまるで呻き声のように、GOMESSの口からは次々と言葉が吐き出されてく。不穏で、物悲しく、退廃的だが、その嘘のない言葉の欠片は、聴く者の心に少しずつ突き刺さってゆく。それは曲間のMCでも変わらず、フリースタイルでGOMESSはずっと言葉を紡ぎ続ける。そして次の曲は、リハーサルの段階では本来別の曲をプレイする予定だったのだが、「今日リリスクの"brand new day"をやるつもりだったんだけど、フックを歌って絶望したから...今日はやらない。」とGOMESSが話したのを機に、観客からは"brand new day"への熱いリクエストが飛ぶ。それを受け急遽その場でセットリストを変更し、lyrical schoolの"brand new day"のカバーを披露。しかしカバーと言ってもヴァースは全てGOMESSのオリジナルであり、そこでは「HIPHOP」というものに対するGOMESSの想いと信念が歌われた。「アイドルラップって言葉が嫌いだ。ジャンルって言葉が嫌いだ。壁を作った日本人が嫌いだ。おれはGOMESSというジャンルだ。」と「HIPHOP」に救われたからこそ抱く「HIPHOP」への憤りや葛藤を、GOMESSはステージの上でラップする。
 その後もGOMESSと同じLOW HIGH WHO?のレーベルメイトである黒柳鉄男を招いての"アイドルオタクライミング”、「地獄はまだ続くぜ」と自虐的なMCの後には、ライムベリーの"IN THE HOUSE"のGOMESS ver.、現在Maison book girlをプロデュースするサクライケンタ作曲の、まだ未発売の『世界の終わりのいずこねこ』のサウンドトラックに乗せてのフリースタイルなど、普段のセットリストでは滅多に見られない曲が続いた。ただそのためか、MCのまとまりがなくなってしまったり、少しグダついてしまうシーンの見られる曲もあった。
 しかし、彼は言う。「皆さんに言いますよ。2015年今日が一番かっこいいライブです。」GOMESSがHIPHOPのライブで好きな場面はラッパーがリリックを飛ばすシーンだそうだ。歌詞を飛ばしたラッパーはどうするか、次の瞬間にはさも最初からそれを予定したかのようにフリースタイルで言葉を並べ、ステージ上では最高にクールに振る舞ってみせる。
 失敗を曝け出せるのがステージ、完璧なんてありえないし、そんなものは必要ない。お客さんを楽しませること、その場にいる人を喜ばせられればそれでいい。そんなGOMESSのライブは常にフリースタイルで、彼の口から溢れる言葉は、その瞬間の彼の気持ちであり、宇宙にもその瞬間にしか存在しない文字通り唯一無二のものだ。だからこそ彼の言葉には想いが宿り、その重さだけ聴く者の心に届き、こびりつくのだろう。ラスト"人間失格"でマイクを通さずにシャウトしたGOMESSの言葉は、初めて彼を見た人の胸にも、きっと何かを残したはずだ。
 "人間失格"を歌い終えたところで、MC KOSHIとSANABAGUNの岩間もステージに上がり、アンコールとしてtofubeatsの"水星"に乗せて3人のフリースタイルセッションが行われた。予定調和ではないその場にしか生まれないもの、酔っぱらったり、ふざけあったり、「こんな感じがフリースタイル。」かっこ良くはないかもしれない。しかしそういうものが、時に人の心を動かし、笑顔にし、忘れられない記憶を刻むこともある。
 「今の音楽シーンは中々言いたいことが言えない、規制規制で言えない世の中だけど、今日ヤバいやつらがいたってことをちゃんと伝えていこうぜ。」岩間は最後にこう言った。その目で確かめなければわからないことが、ライブにはある。
 20150215、紛れもなくこの夜にしか生まれなかった縁をそれぞれの心に残し、『This song vol.3』の宴は幕を閉じた。

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GOMESS セットリスト
1. 箱庭
2. THE MOON
3. brand new day(original by lyrical school
4. アイドルオタクライミング with 黒柳鉄男
5. IN THE HOUSE(original by ライムベリー)
6. し
7. 一歩 ※フリースタイル
8. 人間失格
en. 水星 feat. MC KOSHI、岩間俊樹 from SANABAGUN(original by tofubeats

いつも通りの、特別な夜 - the HIATUS Closing Night -Keeper Of The Flame TOUR 2014-

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』http://bit.ly/2msAX8f

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■いつも通りの、特別な夜

2014年12月22日(月)、the HIATUSがバンドとして初となる日本武道館公演を行った。
この日のチケットは2階席最上段に立ち見席まで用意されたが全てソールドアウト。the HIATUS自体は特に武道館公演をバンドの目標としていたわけではない。それに動員だけで見れば、フェスやイベントでは何万人規模のメインステージを既に何度も埋めている。

しかしことワンマンライブとなると、この規模でのライブは過去一度もない。記念碑としてではなく、あくまでもバンド史上最長となった「Keeper Of The Flame Tour 2014」の追加公演という位置づけではあったこの日のライブだが、ツアーとは一味違う夜を期待し胸を膨らませたファンで、会場は入場前から独特の高揚感に包まれていた。

場内に入ると、日本武道館の中にはいくつものチャリティブースが設置されていた。「東北ライブハウス大作戦」「幡ヶ谷再生大学」「earth garden」「FUTURE TIMES」、そしてカメラマン石井麻木による東北ライブハウス大作戦の活動の様子を収めたミニパネル写真展。東日本大震災以降、ボーカルの細美はよく東北に行くようになった。細美はそれを「ただ何かがしたいという衝動だけ」と言う。そしてそれをまた「自分のため」とも言う。けれど、そうした東北での活動の中で生まれていった人との繋がりという一つ一つの点が、線となって今日この場所へと繋がっていた。チャリティブースも特別を意識したわけではない。ただ、一心不乱に歩んで来た道がここに続いていただけだ。

通路を抜け客席へ出ると、目に入ってきたのはLEDパネルを備えた巨大な漆黒のステージ。さらに大きな透明のスクリーンがステージを隠すように天井から吊るされており、ステージの両サイドには人丈ほどのLEDの柱も14本ずつ設置されていた。

客席は時刻が進むにつれ次々にやってくる人、人、人の波で開演時間の19時を迎える頃にはアリーナから2階の最上段までもパンパンに人が入っていた。これほどの人で埋め尽くされた武道館を見たことがない。

そして開演予定時刻の19時をすこし過ぎた頃、暗転。

最新アルバム『Keeper Of The Flame』に収録されている「Interlude」が静かに流れ出す。すると客席上空から吊るされたスクリーン中央部に小さな光が現れる。その光の周囲を青い光の粒子が次々と漂い、流れ、昇り、落ちていく。目の前に深い海の中のような、幻想的で、静謐な世界が広がる。

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スクリーンの映像に目を奪われていると1曲目、「Roller Coaster Ride Memories」が始まる。伊澤が奏でる重厚なピアノと細美の太く、伸びのある歌声が、心の底に降り積もっていく。曲中も吊るされたままの幕には光の粒子が溢れ、色を変え、形を変えながら、LEDの光の柱とともにステージを染め上げていく。そしてスクリーン越しには、陽炎のように揺れる5つのシルエットが浮かぶ。そして不意に幕が下りメンバーが姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こる。

1曲目から火の点いた観客が余韻に浸る間もなく次にプレイされたのは「The Ivy」。不気味な赤い照明が禍々しさを醸し出し、不協和音のような轟音と息を呑むような静寂が繰り返される。そして柏倉の鬼気迫る怒濤のドラミングとストロボのように激しい点滅を繰り返す照明が合わさり、まるでステージが爆発する惑星のように光で燃え上がる「The Flare」、深々と沈んでいく重厚な世界観に引き込まれてゆく「My Own Worst Enemy」と、混沌と美しさの同居したthe HIATUSのシリアスな曲が連続して披露される。

ステージの上の5人は普段通りプレイしているつもりだっただろう。しかし、すり鉢上の広大な日本武道館の空間と次々と色を変えるLEDの照明が、the HIATUSの持つ曲のパワーをより引き出し、拡張していた。

少し間を空けてこの日初めてのMCへ。

「テンション上がり狂ってわけわかんなくなっちゃう前に言っておくわ。今日は俺たちをここ武道館に連れて来てくれてどうもありがとう!」

細美はいつもと変わらない調子で、この日訪れたファンに感謝を告げた。

MC後は一転して「Storm Racers」、「Centipede」、「Monkeys」とmasasucksと細美のツインギターが唸るアグレッシブなナンバーを立て続けに投下。ソリッドなギターは膨張してゆく客席の熱量を受けてダイナミズムを増しながらドライブしてゆく。アリーナエリアではダイブやモッシュが至るところで起こり、フロアの熱もステージと呼応するようにヒートアップしてゆく。

そんな中意外な選曲だったのは「Centipede」だ。1stアルバムに収録されていたこの曲だが、ライブで聴いたのは4、5年ぶりではないだろうか。記憶は定かではないが、おそらく2ndアルバムの『ANOMALY』がリリースされて以降は全くと言っていいほど歌われてこなかった曲のはずである。

エモーショナルなギターの隙間を埋めるように儚く鳴るピアノ。
切なさを内包しながら疾走してゆくメロディ。
喪失をともなった歌。

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And have lost sight of a trinity

3人組を見失ってしまった
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それは単なる歌詞の一片かもしれない。
架空の物語の1ページに過ぎないかもしれない。

それでも、ELLEGARDENが活動を休止した後、the HIATUSとして初めてリリースされたアルバムでこの曲を聴いた時、どうしてもその3人を想像してしまわずにはいられなかった。

しかし、そんな痛みを感じさせるこの曲も、この日の武道館では他の曲と同様に並列に演奏された。それは勝手な想像に過ぎないかもしれない。しかし『乗り越えた』、そう感じさせるような新たな決意を感じた“Centipede”だった。

「おれさ、お前らが楽しそうに笑ってる顔を見るのがこの世で一番好きなんだけどさ。普段だったらさ、こっち(アリーナエリアを指す)にしかねぇんだけど今日はさ、横見ても上見ても。おれ、超好きかもしんないこの景色。」

再びのMCを挟み、細美はギターをアコースティックギターに持ち替え、「Deerhounds」、「Bitter Sweet / Hatching Mayflies」、「Superblock」と3rdアルバム『A World Of Pandemonium』の楽曲を演奏する。

音楽であることにより自由になったこのアルバムは、これまでよりも更に一回り大きなスケールを獲得し、有機的で色彩豊かな音色を奏でている。収録されている曲はどれも瑞々しい生命力に溢れており、まるでたった今この世界に産み落とされたばかりのようだ。

「Superblock」を終えたところで細美から5年ほど前に矢野顕子さんから1通の電子メールをもらったという話がされる。そこには「とても素敵よ」という言葉とともにURLが貼られており、そのURLの先にはある海外のフェスで客席に聴覚障害者の人のためのブロックを作り、手話通訳士の方が音楽に合わせてその聴覚障害者の人達のために手話をする動画が映っていたという。

「今日はそれをやってみようかなと思って、手話通訳者を呼んでいます。」

その細美の言葉を受けステージに招かれたのは、手話通訳士のペン子。
彼女と共に演奏する曲は「Horse Riding」。
跳ねるようなアコースティックギターのサウンドと大地を駆けるようなドラム、流れる清流のように澄んだピアノの旋律が青く、美しい一曲。

そんな「Horse Riding」に合わせてステージの一角で曲に合わせ、リリックの一つ一つを丁寧に手話で伝えていくペン子の一つ一つの所作は、とても緩やかで、穏やかで、そして優雅だった。踊りとはそれ自体何かを表現したものだが、その手話は歌に挟みこまれた祈りを体現した舞いのようだった。

それは雄弁な踊り子のように、歌詞の一つ一つに込められた情景を見る者の瞼の裏に映し出し、伝承される神話のように、人々の記憶に焼き付いただろう。

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Revolution needs a soundtrack
革命にはサウンドトラックが必要だろ
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 細美がそう歌う傍らで、ペン子は右手を胸に当てていた。そして、左手から伸びた一差し指と彼女の眼差しは、武道館の舞台に立つ5人の男達に向けられていた。

晴れやかな「Horse Riding」を終えたところで、細美は再びゲストを招き入れる。
『A World Of Pandemonium』に収録されていた「Souls」で共演を果たし、何度かライブでも顔を合わせているRentalsのJamie Blakeだ。

Jamieを迎えて披露されたのは「Tales Of Sorrow Street」。細美の擦り切れてしまいそうな切実なボーカルに、Jamieの力強いコーラスが重なる。2人の慈しみを纏った歌声がサウンドスケープを描き、会場を包む。ペン子の手話も、我が子に絵本を読むかのように温かく、客席へ語りかけていた。そして続く「Souls」祈りは花開き、会場は祝祭的な幸福感に満ち溢れていた。

2人のゲストを送りだした後、e-bowの不穏な響きが漂う中幕を開けた「Thirst」では、ハイパーなシンセの高速ビートでアリーナは一転してダンスフロアへと変貌し、柏倉の変幻自在のリズムと溶け合いどこにもないカタルシスを生みだした。

そして「Unhurt」へ。この曲ではメンバーへ照明が当てられることはなく、妖しく光る緑と紫の照明が、暗がりに包まれたステージと会場を警戒灯のように照らし続ける。BPMが速いわけでも音数の多い派手な曲なわけでもない。しかし浮遊感のあるシンセ、逞しいベース、確信に満ちたボーカルが、終盤に向かうにつれドラマチックに重なり、加速してゆく。身体の奥底で眠る何かが核爆発を繰り返すように、閉じ込められていた感情が引きずり出されるように、全身が躍動する。それはダンスミュージックの機能ではなく、ロックミュージックの本能で訴えかけてくる。

この曲を初めて聴いた時、細美がこの歌詞を書いているということに大きな衝撃を受けた。

「Unhurt」の歌詞の中にこんなフレーズがある。

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We never know who wins this game again
誰がこのゲームに勝つのかはわからない
-----------------------------------------------------------

今までの細美なら、きっとここまでしか言わなかったはずだ。

誰がこのゲームに勝つのかはわからない。
明日がどうなるかなんて誰にもわからない。
永遠に続くものなんてない。

この日演奏された「Centipede」の一節もこうだ。

-----------------------------------------------------------
But who knows the game goes on today
今日もゲームが続くなんて誰が言ったんだ
-----------------------------------------------------------

今日もゲームが続くなんてわからない 。

だからこそ「今」、その瞬間に命を燃やすことにどこまでも本気な男。
それが細美武士という人間だ。

だが「Unhurt」のラスト、言葉はこう書き換えられている。

-----------------------------------------------------------
We never knew to win this game again
to win this game again
このゲームに勝てるかなんてわからなかった
勝てるかなんて
-----------------------------------------------------------

細美はずっと「希望」 を歌ってきた。

それはある意味では、常に孤独や絶望と隣り合わせだったということかもしれない。
でもこの曲は違う。

これは紛れもない「勝利」の歌だ。

一度は全てを失った。この日を迎えられると思わなかった。
ここまで来れるとも思ってなかった。たくさんのことが過ぎ去った。

細美は言う。「今でも一人で何でもできると思ってる。」
だが己の信念を曲げず、貫き続けてきた道を振り返れば仲間がいた。
目の前には数えきれないほどの笑顔があった。
屈服させられたこともあった。
でも結局そのまま、まるで無傷だ。

幾多の困難を乗り越えてきた男達の勝利の歌が、超満員の日本武道館に掲げられた。

そのまま「Lone Train Running」へと続く。
もっと遠くへ、どこまでも遠くへ。
ここまで辿り着いた。でもまだ先がある。もっと遠くへ。
masasuksのギターソロは、停滞を許さないように、焦燥感と切迫感を内包しながら激しく刻まれていく。
そしてサビの「Away now」の大合唱は、このバンドとならどこまでも行けるというオーディエンスの信頼がそのまま表れたかのような希望に溢れていた。

「この年まで生きてくると、わりかし先にあの世に逝っちまった仲間がいて、また一人また一人と増えていくんだけど、多分お前らもそうだと思うんだけど。まあ今日ぐれぇはここに来て一緒に聴いててくれるといいなと思っています。まあそのうちおれらも行くからよっていう、そんな歌です。」

そんな細美のMCを受け歌われたのは「Something Ever After」。永遠に続くものなどない。

真っ暗な夜の海を照らす灯台のように、両サイドのLEDの柱の底から、温かいオレンジ色の光の玉が浮き上がる。寄り添うような慈愛と寂寥の宿る細美のボーカルに観客は息を呑む。

いよいよライブはラストスパートへ。「Insomnia」では「Save me」と再び大合唱が起こる。
観客はthe HIATUSの音楽に自分たちの抱える言葉にならない、発露できないエネルギーを乗せて、この世界に放出する。

続く「紺碧の夜に」ではアリーナエリアではダイブやモッシュ、サークルがあちこちで発生していた。しかしそんなアリーナエリアでもスタンディングエリアでも、オーディエンスの表情はみな笑顔で輝いていた。

そして本編の最後に歌われたのは「Save The World」のアナグラムが隠された1stアルバム『Trash We’d Love』のリードトラック「Ghost In The Rain」。the HIATUSの曲として初めて発表された曲だ。水面を走るような流麗なピアノに導かれ、温かい日差しが世界に広がっていくように、場内は光に覆われる。

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I’m a ghost in the rain The rainbow
You can’t discern I’m standing there
Ghost in the rain The same old
You carry on
The world will find you after all

僕は雨に立つ亡霊

君は僕を見分けられない
雨に立つ亡霊
変わらぬもの
君はそのまま進むんだ
やがて世界が君を見つけ出す
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初めは孤独を歌った曲のはずだ。
しかし歌われるほどに、この曲は希望に変わる。

「君はそのまま進むんだ」
「やがて世界が君を見つけ出す。」

ゼロから始まったthe HIATUSの5年間。

その始まりの1曲は彼らのここまでの道程が間違っていなかったことを証明するかのように、強烈な閃光のように眩しく、鳴り響いていた。

爆発して砕け散ったガラス片のようなキラキラとした輝きと硝煙のように燻る熱と余韻を残し、5人はステージを去った。

本編終了後も観客の興奮は冷めやらず、メンバーが去るや否や即座にアンコールが巻き起こる。

そんなアンコール1曲目、「Twisted Maple Trees」。リフレインするギターと細美の静かなボーカル、そこにピアノ、ベース、ドラムが重なり合っていき、曲のラスト5人の激情は収束し一つになる。

エルレが止まったおかげでこいつら(the HIATUS)に出会えた。震災が起きたおかげで新しい仲間ができた。本当なら”せいで”って思うことかもしれないけど、前向いて生きていこうぜ。そうやらないと生きていけないっていうのもあるけど、あれたちみたいな馬鹿野郎は、お前らもだよ?、下向いて落ち込んでたってしょうがないんだよ。バカみたいに笑って生きていこうぜ。」

そうして歌われたのは「Silver Birch」、仲間の歌だ。弾むようなピアノはワクワクするような高揚感を生み、この日、この場所に集まった全ての仲間達とともに、今日という日を祝っていた。

しかしまだアンコールは終わらない。それは素晴らしいライブの余韻をいつまでも感じていたい、今日という日を終わらせたくないというファンのささやかでわがままなお願いのようでもあった。けれどその想いはメンバーも同じだったのか、5人はこの日三度目となる姿を現す。

最後の1曲に選ばれたのは「Waiting For The Sun」。柏倉のドラムはまるで生き物かのように凄まじい手数でありながらも変則的かつ気まぐれで、かつマシンのように正確にリズムを作りあげてゆく。客電は点いたまま、「WOW WOW WOW」と言葉にならない叫びは一人一人を繋ぎ、強固な一体感を生み、大きなうねりとなって会場をわたった。

こうして約2時間弱のライブは大団円を迎えた。

ステージを去り行く5人に向けられた惜しみない拍手は、いつまでも、いつまでも鳴り止まなかった。

これは特別なライブではない。
勝ち負けのある闘いでもない。
本人たちにもそのつもりはない。
どこかの街の小さなライブハウスも、日本武道館も、やることは同じだ。
ただいつもより少し会場が大きくて、少しだけ人の数が増えた、それだけのことだ。

それでもこの日の武道館のライブを見て、the HIATUSのこれまでを振り返らずにはいられなかった。

細美はthe HIATUSの一員となり、作曲のスタイルを変えた。
『A World Of Pandemonium』では、メンバーとのセッションから生まれた種を大切に育て上げるように曲を生み出していった。
いつからか柏倉のことを「柏倉くん」ではなく「隆史」と呼ぶようになった。

伊澤は堀江が抜けた後、サポートではなくバンドのより中核を担う存在として「ミュージシャン」ではなく「バンドマン」として、タフな全国ツアーを仲間とやり遂げた。

スペースシャワーTVで放映された「Keeper Of The Flame TOUR」のドキュメンタリー番組の最後、ナレーションを務めたBRAHMANTOSHI-LOWは「the HIATUSは(このツアーを通して)バンドになったんだな」と言って締めくくった。

今回のツアーのチケット代は2600円。
「このままじゃ会社が潰れます。」そう言われた細美は、スタッフの人数を可能な限りなく少なくするために、機材車の運転から機材の搬入・搬出までも自分で行っていた。

前回のHorse Riding TOURのチケット代は2500円。
「100円値上がりしちまってごめんな。」細美はラジオでファンに謝っていた。

1stアルバムから4thアルバムまで万遍なく取り入れられたセットリスト。
会場内に設けられたいくつものチャリティブース。
ここまで共に歩んで来たメンバー、スタッフ。
日本中から集まったファン。笑顔。
来たくても来れなかった人達も沢山いただろう。

その全てが、始まりのあの瞬間から、今日この瞬間まで積み重ねて来たものだ。

振り返らずに走り続けてきた5年間の旅の間、自分たちに対し、ファンに対し、音楽に対し、誠実で真摯であり続けた。時に愚直なまでの揺るぎない信念を貫き続けたバンドの軌跡が、この日の武道館にはあった。

「でかいとこでやるたびに思うんだけど、似合わないおれたちには。LEDも似合わないし。武道館はやってみて凄い楽しくて好きになったけど、やっぱりお前らまでは遠いし。だからまた、どっかの町のきったねぇ路地裏で会いましょう!」

最後の最後、マイクを通さず肉声で叫ぶ細美の声は、2階席の最も遠くはなれた場所に立つファンの元へもはっきりと届いていた。

別に武道館だからなんだ。
感傷的なムードもない。
振り返るなんてしみったれているかもしれない。

彼らは変わらない。
これまでも、きっとこれからも。

それでもこの日、the HIATUSというバンドは見せてくれた。彼らの生き様を。
今まで歩んで来た道程が間違っていなかったことを。

2014年12月22日。
いつも通りの5人が見せた、いつも通りの、
でもほんの少しだけ、特別な夜だった。

 

12月22日(月) the HIATUS Closing Night –Keeper Of The Flame TOUR 2014- @日本武道館
1. Interlude
2. Roller Coaster Ride Memories
3. The Ivy
4. The Flare
5. My Own Worst Enemy
6. Storm Racers
7. Centipede
8. Monkeys
9. Deerhounds
10. Bitter Sweet / Hatching Mayflies
11. Super Block
12. Horse Riding
13. Tales Of Sorrow Street feat. Jamie Blake
14. Souls feat. Jamie Blake
15. Thirst
16. Unhurt
17. Lone Train Running
18. Something Ever After
19. Insomnia
20. 紺碧の夜に
21. Ghost In The Rain
encore1
22.Twisted Maple Trees
23.Silver Birch
encore2
24.Waiting For The Sun

www.youtube.com

 

細美武士が気づかせてくれたもの

元記事掲載:音楽情報ブログ『musicoholic』 http://bit.ly/2mkZ2i7

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細美武士

ELLEGARDEN/the HIATUS、現在2つのバンドでフロントマンを務めるバンドマンだ。彼のライブはチケットもグッズの値段も安い。CDには初回限定盤もなければ特典もつかない。地上波のTVやマスメディアには一切出ない。あれは嫌だ、これは嫌だ。ひたすら愚直なまでに、ファンの想いを直接感じられるライブを、何よりファンの事を1番に考え、細美はここまでやってきた。周りとの意見のぶつかり合いも少なくなかっただろう。もっとラクな道ならいくらでもあったはずだ。

何が彼をそこまで駆り立てるのか。

細美は挫折の人間だ。学校や社会の要求する規則や常識に馴染めず周りから浮いていた。高校を中退し工場で働いたが未来は見えなかった。バイクレーサーになりたいという夢も自分より優れた才能を前に諦めた。ELLEGARDENの前に組んでいたバンドがメジャーデビュー目前まで行った時も納得がいかず話は頓挫、結局バンドは解散する事になった。音楽の道すら一度は諦め就職もした。

彼は自分の信念が報われてこなかった人間だ

その後、偶然残っていた一つの電話番号から引き寄せ合うようにELLEGARDENは生まれた。でもまだ信じられない。1stアルバムのタイトルは『Don' Trust Anyone But Us』。「おれたち以外は信用するな」。しかしそれからライブを重ね、アルバムをリリースする度にファンの数は増えていった。2007年にはELLEGARDEN幕張メッセでワンマンライブを行うまでになった。

あの頃信じていた道は間違いじゃなかった。

細美の信念とは純粋過ぎる程の理想主義と潔癖なまでの完璧主義を貫くことだ。
誰もが自分の理想を持っている。それなのに多くの人は最初から何かを諦めて生きている。『二兎を追うものは一兎をも得ず』。その言葉を飲み込み、二兎を得た方が幸せな事をみんな知っているのに、両方を失う事を恐れて、初めから一兎しか追わない。傷つくことを恐れているから。そして二兎を追う道が最も困難な事を知っているから。
そんな生き方を細美はしたくなかった。別に誰かを困らせたいわけでも傷つけたいわけでもない。でもだからって自分を曲げたり押し殺したりなんてできない。自分も皆も、全員で幸せになりたい。その結果、たとえ二兎を失うことになっても。細美はそうやって生きてきた。

「人生はそんなに甘くない」
「綺麗事だ」
「現実を見ろ」

どれほど周囲と摩擦を生もうと細美は自分の信念を決して曲げなかった。すると少しずつ、少しずつ、彼と同じ道を歩む仲間が増えていった。誰も信じてくれなかった言葉を信じてくれる仲間ができた。そしてファンの存在は、細美に1人じゃないことを教えてくれた。細美の言葉に救われたファンは多いと思う。しかし細美こそが、そんなファンの存在に救われていた。だから彼は誰よりもファンのために歌う。周りに受け入れてもらえなかった自分を信じてくれる仲間のために。

the HIATUSのThe Afterglowツアーで彼らがライブの最後に演奏していた曲は「Silver Birch」だった。『仲間の歌』と言ってこの曲を歌う前、細美はしきりに仲間の大切さを話していた。ELLEGARDENからthe HIATUSになり音楽性は変わった。曲作りの方法だって変わった。
そもそも人間というものは成長し変わっていくものだ。

でも彼にとって本当に大切なものはずっと変わっていない。

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降参するなんて言わないでくれ
奴らに妥協させられるな
理想を実現するんだろ
君は弱虫じゃない

すでに諦めた奴らが君の強い意志を妬む
奴らは君を負け犬の輪に引きずり込もうとしてる

僕は君からやりたいことは
なんでもやっていいと教わった
僕は君から結局王道なんてものは
ないんだということを教わった

奴らは君の信念をぐらつかせようとする
何故なら既に自分の分を失ってしまったから
君には出来ないなんて誰にも証明できない

願い続けさえすれば
いつか気付くかも知れないじゃないか
一緒に歩いている人がいるってことに

僕は君と一緒に行くよ

(Cuomo)

itun.es

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僕たちは全く完璧じゃないし失敗ばかり。クソッたれのダメ人間。おまけに世界は不条理で物事はびっくりするぐらい上手くいかない。泣きたくなる夜もあれば信じているものを諦めたくなる時だってある。

でも『音楽』の下で、赤の他人の僕らがバカみたいに笑い合って一つになれたあの瞬間を僕たちは知っている。周りの人が「そんなものはない」と言っていたその世界は確かに存在した。諦めたくない。信じたい。その道がたとえ最も辛い道だとしても。仮に全てを失ったとしても。

だけどそんな道を一人で生きていけるほど人は強くない。心配事が消えさることなんてない。でもだからこそ僕たちは音楽に勇気をもらい、ライブでその存在を確かめるんだ。不安な時はここに帰ってくればいい。

 

「君は1人じゃない」

 

そんな彼の音楽を僕は今も信じている