'Cause I'm on the run - 2017.11.28 the HIATUS Bend the Lens Tour 2017

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▪️'Cause I'm on the run

the HIATUSの単独ツアー「Bend the Lens Tour 2017」、そのセミファイナルとなった新木場スタジオコースト2日目。今回のツアーはthe HIATUSとしては初めて作品のリリースなしで回るワンマンツアーとなり、セットリストは全くの未知。どんなライブになるのか予想もつかないまま、高鳴る鼓動と収まらぬ妄想を秘め会場へと向かう。

場内ではインダストリアルなダンスミュージックやオルタナティブな楽曲が流れる中、ふとJack's Mannequinの"Crashin'"が流れた。10年以上前に細美が雑誌で影響を受けたアルバムや最近聴いた作品を5枚挙げるコーナーの中に、WeezerThird Eye BlindとともにJack's Mannequinの1st Albumがあったのを今でも覚えている。初期のthe HIATUSにも通ずる流麗で美しいピアノのメロディーは水面を走る光のようで、その懐かしさとともに、今夜がいつものライブとは違うものになる予感を感じた。

開演時間の19時ちょうど、暗転。流れてきたのはJoey Beltramの"The Start It Up"。the HIATUSの入場のSEは過去二度変わっており今は三代目にあたるが、"The Start It Up"はthe HIATUSの結成当時から初期のライブを支えてきた最初のSE曲だ。不穏でトライバルなビートが会場を後戻りできぬカタルシスへと手招きする。期待は大気の中で熱を帯び、目に見えそうなほどに膨らんでいく。

オープニングナンバーは"堕天"。イントロが流れた瞬間、その意外な選曲に不意を突かれた。1st Album『Trash We'd Love』に収録されたこの曲は、2nd Album『ANOMALY』のリリース以降はほとんどライブでは披露されていない曲のはずだった。真っ赤に染まる照明の中、苦しみの中に光を見出すような、ボロボロの翼で羽ばたくような、陰鬱で退廃的な世界が描かれる。地の底から遠くの光へ手を伸ばす"堕天"でライブの幕は切って落とされた。続く序盤は"The Flare"、"Storm Racers"、"Monkeys"と、激情を叩きつけるようなダイナミクスを持った曲が並び、フロアはモッシュとダイブの嵐が巻き起こる。MONOEYESのライブが終始ピースフルな空気なのに対し、the HIATUSのライブには非常にヒリヒリとした緊張感と切迫感がある。四位一体となり突き進むMONOEYESとは対照的に、the HIATUSは卓越したスキルを持った5人の"個"が精神と肉体を削りながら激しくぶつかり合い、化学反応を巻き起こしながら見たことのない強烈なエネルギーを放出しているかのようだ。こちらも久々のプレイとなった"My Own Worst Enemy"では、細美の力強いボーカルは悲痛な響きを伴って、会場にこだまする。

こんばんは、the HIATUSです!

それまでのダークでナイーブ世界観から一転、キラキラと輝くピアノの旋律とともに"Clone"へ。それまでの鬱屈としていた暗闇を切り裂き、雲間から光が射していくような、瑞々しい救いの歌が鳴らされる。心を締め付けた日々も、困難に晒された夜も、いつだってそばにいた自分自身が、いつか君を救う。苦難の末に訪れた、ある素晴らしい一日

東京の音楽好きなやつらってスカしてるやつが多いイメージだけど、エイタスのライブに来るやつは全然違うな笑
知らない人からしたら何やってるかわからない時間があと2時間ぐらい続きますが、おれたちのことを好きなやつは心の底から楽しんでください。

そして細美はギターを置き、シンセとハンドマイクのゾーンへ。"Let Me Fall"、"Thirst"、"Unhurt"、"Bonfire"と、the HIATUSの歴史の中では新しい曲たちが並ぶ。マイク一つで自由に動き回る細美は身振り手振りを交え、客席を鼓舞していく。

オン ドラムス!柏倉隆史

"Thirst"では柏倉の独特のリズムから生み出される凄まじいドラムが、曲をよりスリルへと駆り立てていく。

オン ベース!ウエノコウジ!!

"Bonfire"では柏倉と伊澤のバチバチと火花散るようなピアノとドラムのせめぎ合いの最中、強烈な個性を支えるように豊潤なベースで支えるウエノの腕が光る。

8年って結構だよね。再来年で10周年か。なんかそういうのはただの数字で関係ねぇよって思ってたんだけど、この前ACIDMANのSAIに出て、ああいうのも良いなって思えた。(10周年の時は)なんかやろう。武道館はやっちゃったし、さいたまスーパーアリーナ?埋まるわけねぇだろ!でもなんかやろう、やったことのないこと。
こんな難解な音楽に8年も付き合ってくれてありがとう。でもわかり始めるとジワジワこない?堕天とか、最初聴いた時よくわかんねぇなって思うだろうけど。一度覚えると、もうそれでしかないというか。

このアルバムはおれたちの8年の歴史の中でも本当に大切な一枚で、『A World パンデモニウム』、言えてないね笑。今はおれがギター持ってるけど、レコードでは柏倉が弾いてます。
猟犬のように、水も電気もなくなって、かつて野生動物のいなかった都会が荒廃して、そこを野良犬が駆け回っているような、そんな景色を空から見ると、なんだかこういうのも悪くないんじゃねぇかって。そんな風に、いつかお前らが全ての拘束から解き放たれ、野生動物のように駆け回る姿をおれはステージから見てみたい。

アコースティックギターを抱えた細美が鳴らすのは"Deerhounds"。3rd Album『A World Of Pandemonium』はthe HIATUSの転機となった一枚だった。これまでの細美のネタを広げる作曲から、メンバー全員のセッションによる作曲へ。その結果the HIATUSの音楽は新鮮な光と水を吸ってどこまでも伸びてゆく緑のような、これまでにない有機性と音楽的広がりを得た。その解き放たれた姿は、大きな空の下を自由に駆け回る野生の姿そのものだ。"Bittersweet /Hatching Mayflies"では幽玄的なサウンドスケープがどこまでも広がっていき、"Horse Riding"では跳ねるような細美のギターと伊澤のピアノがマーチのように行進していく。そして沈んでゆく夕陽のように煌めく"Shimmer"と、『A World Of Pandemonium』の楽曲が惜しみなく披露されていく。

今回のツアーはリリースツアーじゃないから何やってもいいんでしょ?マニアックな曲もやっていいんでしょ?ってこのツアーでやってほしいとラジオにリクエストをもらった中で得票数第一位の曲をやります。得票数はなんと…20票!20票で1位になれる世界素晴らしい笑

小さい頃、もっと空が綺麗に見えてたあの時、夏の気配を感じて「これ夏だ!」ってワクワクするような。あの頃はこの先に冒険が待っていて、剣を手に取りドラゴンと闘うような日々が待っていると思っていたんだけど、待ってなかったね笑 この曲はあの頃の自分に歌ってほしいと思ってこのツアーを回ってるんだけど、あいつはもういなかった、記憶はあるんだけどね。
もちろんおれはこの世界も好きだよ。超ダメなやつとか見ると、人間っておもしれぇなって思う。でもあの頃、もっと夜空の星がよく見えていたあの頃の自分をなんとか呼べねぇかなって。
歳をとるとどんどん痛覚が麻痺していくのか、痛みをあまり感じなくなるんだけど、それでも時々ズキンって痛む時があって、子供の頃はその痛みがずっと続いていたんだけど。44歳のおれの中にも超ナイーブな面はあって、それはおれの本質で、皮を一つ一つ向いてくと、きっと(あの頃の自分と)繋がってるんだよ。だからおれはその繋がりを探しながらこの曲を歌うから、お前らも自分の中にあるあの頃の自分との繋がりを探しながら聴いてほしい。

そうして歌われたのは"Little Odyssey"。ピアノと歌だけの世界。息を飲むような静寂の中、悲しみとも慈しみとも取れる細美のボーカルは優しく、全てを包み込むように響き渡る。

オン ピアノ!伊澤一葉

伊澤のピアノも寂しさを埋め合うように、細美の歌に寄り添うように、奏でられていく。

"Sunset Off The Coastline"、"Something Ever After"と、ボーカリストとしての細美の歌が冴える楽曲が続いていく。細美のボーカルは曲ごとに表情を変え、瞼の裏に情景を呼び起こし、脳裏に浮かぶ歌の世界へと聴き手を引き込み、誘っていく。余韻は永遠に続くような気さえしてくる。

the HIATUSにおける細美は紛うことなき"ボーカリスト"だ。the HIATUSの成り立ち、凄腕のミュージシャンが集まった中で、細美は自分の役割をボーカリストとして位置付けた。ELLEGARDENの活動休止直前のインタビューで、細美は「声をもっと遠くへ飛ばす方法を掴めそうだと」、ボーカリストとしての進化の兆しを話していた。そしてその兆しは、他の4人のアンサンブルの中で、時にはギターも置き、ボーカリストとして歌と向き合い続けたことで、the HIATUSというバンドで完全に花開いた。 初期メンバーの堀江に「救いのある声」と評された歌声は、the HIATUSの音楽の持つ痛みと慈しみを、美しさと醜さを、光と影を体現している。

そしてライブはクライマックスへ。"Insomnia"では「Save me(助けて)」の大合唱が起きれば、"Lone Train Running"では今度は「Away now(遠くへ)」の大合唱が起こる。悲壮な"Insomnia"と始まりの"Lone Train Running"は、同じだけの絶望と希望を等しく歌っている。

オン ギター!マサ!

"Lone Train Running"のmasasucksのギターソロはどこまでもエモーショナルに疾走し、それは歌のメッセージを代弁する切実な決意のようだ。そして"紺碧の夜に"では祝福のサークルが巻き起こり、客席には笑顔が溢れる。嘆くような、混沌とした、陰のある曲の多いthe HIATUSのライブに訪れる幸福の瞬間。絶望があるから希望を感じられる。

本編ラストは"Sunburn"。楽しい時間はいつか終わる。その切なさは夏の陽炎のようにゆらゆらと揺れ、けれど思い出を心に残し、次の旅へまた走り出していく。

the HIATUSの音楽は暗い、嘆いてる。部屋で一人で嘆くような、話しかけんなゴルァっていうような曲が多い。でも人生いいこともあれば悪いこともあるじゃん。山あり谷ありで、山の時はハッピーな音楽を聴いてればいいけど、谷底でどん底で、息も吸えないって感じたその時は、おれたちのライブに来い。

ライブハウス好きだけど、来年はちょっとライブハウスを出ていこうかなと、いろんなところへお前らを連れていきたいと思います。

もう話すことなんもねぇわ。なぁマサ。

アンコール1曲目、masasucksが弾くギターに「それやっちゃう?いいよ」と細美。その様子を見たウエノはスタッフにベースの交換の合図を出し、セットチェンジを図る。おそらく予定ではなかったアンコール1曲目は"Silver Birch"。この曲はThe Afterglow Tourでもう一度蘇ったように思う。仲間の歌。ピュアなあの頃の自分は、今もここにいる。そしてオーラス"ベテルギウスの灯"へ。The Afterglow Tourでファンとメンバーから堀江に捧げられたこの曲は、the HIATUSの今も続く歩みを映しているようだった。

オン ボーカル!細美武士!!!

masasucksが仲間を誇るように高らかに叫ぶ。

動かない客先と鳴り止まないダブルアンコールの手拍子が鳴り響く中、約2時間の熱演は終了した。

8年間。気づけばそれなりの季節が過ぎ去っていた。『Trash We'd Love』はELLEGARDENとは違う曲作りの形から始まり、そして『ANOMALY』では苦悩した。しかし『A World Of Pandemonium』で、5人のセッションから生まれた曲たちはthe HIATUSに新たな可能性を与え、『The Afterglow Tour』ではオーケストラを交えた17人の音楽団として芽生えた種に水をやり、花を咲かせた。そして堀江とのしばしの別れ。『Keeper Of The Flame』では、全員のセッションとともにプログラミングを用いた細美と柏倉の作曲も加わり、そして長いツアーという旅を経て、5人は"バンド"となった。『Hands Of Gravity』ではMONOEYESとの両立によりバランスを取ることから解放され、細美と柏倉に伊澤も加えた3人のネタから生まれた曲たちは、5人の鉄壁の信頼関係が反映された素直で真っ直ぐな曲たちだった。

the HIATUSはその作品ごとに、制作スタイルが変わり、それに応じて音楽性が変わってきたバンドだ。当初細美は自分を貫くだけではない方法で最高の音楽を作ることを志向した。それはELLEGARDENの止まってしまった細美が出した、別の答えだった。しかしthe HIATUSを続ける中で、仲間を信頼し、仲間に信頼され、自分自身にもう一度還っていった。もう苦悶の表情で苦しそうに歌う細美はいない。例え音楽は嘆いていても、心は上を向いている。ステージの上にあるのは誇りと笑顔だ。このツアーはそんなthe HIATUSというバンドの8年の歩みを見せるようなものだった。全てのアルバムから満遍なく行われたセットリストは、違和感なく、むしろ完璧な流れでthe HIATUSというバンドの歴史を証明していた。

過ぎ去る日々のように
君は俺に信じさせたがる
過ぎ去る日々のように
許せばいいって君は言う
過ぎ去る日々のように
君は俺を君の世界に連れてってくれる
過ぎ去る日々のように
夜明けまでゾクゾクさせてくれ

だから何度も聞かないでくれ
だから何度もさ 何度も聞かないでくれ
俺は駆け抜けてるんだ
過ぎ去る日々のような速さで

the HIATUSは常に変化を続けてきた。しかし根底にあるものは変わらない。光があるところに影が生まれるように、影を描くことは光が在ることと同じだ。飽くなき音楽への探究心と、可能性への挑戦。新たに実った音楽の果実を仲間と分け合う日々が、この先にも待っている。来年も再来年もその先も、旅は続いていく。そして過ぎ去っていく日々が、降りしきる雪のように、心に積み重なって、また痕を残していく。こんな夜のように、いつか訪れるその日まで。

 

ただ駆け抜けてるんだ。

過ぎ去る日々のような速さで。

 

2017.11.28 the HIATUS Bend The Lens Tour 2017@新木場STUDIO COAST Day2

01.堕天
02.The Flare
03.Storm Racers
04.Monkeys
05.My Own Worst Enemy
06.Clone
07.Let Me Fall
08.Thirst
09.Unhurt
10.Bonfire
11.Deerhounds
12.Bittersweet /Hatching Mayflies
13.Horse Riding
14.Shimmer
15.Little Odyssey
16.Sunset Off The Coastline
17.Something Ever After
18.Insomnia
19.Lone Train Running
20.紺碧の夜に
21.Sunburn
en.

22.Silver Birch
23.ベテルギウスの灯

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The Flare / the HIATUS


ベテルギウスの灯 - the HIATUS


the HIATUS - Deerhounds [The Afterglow - A World Of Pandemonium]


the HIATUS - Thirst(Music Video)


the HIATUS - Clone(Music Video)

 

はじまりか、 - 伊藤万理華の脳内博覧会 in 北野天満宮

(ネタバレを含んでいるので見に行く予定のある方は注意してください。)

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◾️はじまりか、

年内で乃木坂46からの卒業が決まっている伊藤万理華による初の個展、『伊藤万理華の脳内博覧会』。東京での会期を終え場所を京都に移し、現在は北野天満宮で開催中の「KYOTO NIPPON FESTIVAL」の一企画として出展されている。(11月17日からは福岡PARCOでも開催されている。)

自分は特別伊藤万理華推しというわけではなかったが、たまたま大阪に行く機会があり、卒業を控えた彼女の初の個展ということもあってせっかくならと足を伸ばすことにした。

北野天満宮へは京都駅からバスで30分ほど。平日でも京都市内は観光客で賑わっており、北野天満宮でも多くの観光客が降りていく。

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脳内博覧会の会場は北野天満宮内にある「もみじ苑」という園内庭園の中の施設を使っており、展示を見るためには必然的にもみじ苑の中に入場することになる。(もみじ苑の入園料もチケット代には含まれている。) 紅葉シーズンを迎えているのか、まだ一部緑が残っているものの、もみじ苑の中は黄色や赤に染まった多くのもみじで彩られていた。時刻は15時を回り、傾き始めた太陽は早くなった日の入りを知らせる。人は多いが、どこか静かで日常とは切り離された静謐で厳かな空間。移りゆくもみじに反射したやわらかい西日は、儚い時の流れと卒業が突きつける感傷を映すようで、その眩しさに目を細めた。

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会場は1Fが同時開催中の永島千裕による個展『神のまにまに』、B1が『伊藤万理華の脳内博覧会』の展示スペースとなっていた。地下への階段を下り、小さな部屋に入ると大きく3つのブロックに分かれた展示スペースが広がる。

1.写真展(伊藤万理華ソロ)

最初のブロックは伊藤万理華のソロ写真展とも言えるファッションシューティングのブロック。大判の写真が規則的に並ぶオーソドックスな展示だが、写真はカメラマンとヘアメイクを変え、大きく2つのコーナーに分かれており、その全ての写真のスタイリングは伊藤万理華本人により行われている。

1つ目のコーナーはカメラマンを間仲宇、ヘアメイクを宇藤梨紗が務めている。
メインビジュアルにもなっている紫のジャケットを着て、前髪を分けた伊藤の写真を筆頭に、スタイリングごとにヘアメイクも変えた"モデル"伊藤万理華の写真が並んでいる。今回の人選は「自身の私服をメインにしたファッション系の写真が撮りたい」という伊藤の希望から間仲氏に白羽の矢が立った。間仲氏曰く伊藤は「パッと写真の中に入ってくれるから撮りやすい。」とのことで、そこには写真ごとに纏う雰囲気を変える伊藤万理華がいた。モデルのような高身長なスタイルではないかもしれない。けれど誰よりもその服をモノにしているのは伊藤万理華だと言わんばかりの佇まいに自然と引き込まれる。

2つ目はカメラマン:前康輔とヘアメイク:吉田真佐美によるコーナー。こちらはスタジオではなく葉山や渋谷など野外で撮影が行われており、化粧も控えめかつ表情もナチュラルで、「もし伊藤万理華のソロ写真集が発売されたら」という妄想を掻き立てる。前氏曰く「(伊藤は)スッと景色に入って紛れ込むのが上手。それを追いかけてるだけでこっちが楽しくなる。」とのことで、写真もくるくると動く素の伊藤万理華を切り取っているように見られた。

また写真展ブロックのスピーカーからは、この展覧会のために収録されたラジオ番組「MdN Presents RADIO DE meets CREATORS 」が流れていた。様々なクリエイターに伊藤が会いに行くというMdNで連載中の同名の企画を、番外編ということでラジオ番組として収録。これまで伊藤に関わってきたカメラマン、スタイリスト、監督、振付師と、様々な人に伊藤が一対一でインタビューを行い、初めての出会いからお互いの印象、この展覧会に至るまで、伊藤万理華にまつわるクリエイティブを話してゆく。そこからはアイドルとスタッフではなく、表現者としてお互いに認め合うクリエイター同士の言葉があった。

2.写真展(犬会)、スケッチ、脳内ROOM

2つ目のブロックは犬会の写真展と脳内ROOMのスペース。犬会は舞台『すべての犬は天国に行く』に出演した通称“犬メン“のメンバーがお正月に集まりパーティーを開くという設定。メンバーは伊藤万理華生駒里奈井上小百合斉藤優里桜井玲香新内眞衣松村沙友理若月佑美。各メンバーのスタイリングにはテーマがあり(斉藤はギャル、伊藤はヒッピー等)、スタイリストの市野沢雄大氏がそのデコボコした個性を一つの家族として統一感を持たせコーディネイトしている。写ルンですで撮影された写真は独特の色合いを浮かべ、何よりこの撮影を「この一年で一番笑ったかも」と伊藤が話すように、気の置けない仲だからこそ出てくる表情や無防備なほどの笑顔からは、メンバー同士の信頼関係が目にみえるようだった。

蝶々と展覧会のビジュアルにもなっている鉱石と苔の本人の原画を挟み、脳内ROOMへ。乱雑に置かれたバッグやぬいぐるみ、多種多様な小物類も全て伊藤の私物であり、彼女の趣味嗜好をぶちまけたようなカオスな展示だ。更にその隣の壁には沢山の私服が所狭しと並んでおり、そこにはメインビジュアルで着用された紫のジャケットも飾られていた。どの服もただそこにあるだけでは何の変哲もない古着の一つだが、伊藤が身につけ、プロのカメラマンが撮影を行うとあれだけの存在感が出るのかと、プロのマジックを感じた瞬間でもあった。

3.ショートムービー

そして最後のブロックはショートムービー。そこでは『トイ』と京都で初公開となった新作『はじまりか、』の2つの作品と、過去の個人PVの上映が行われていた。

 

■『トイ』

監督:柳沢翔

深夜、うらぶれたガソリンスタンドに止まる一台の車。その中で揉み合う男女。助手席のドアから押し出されるように出てきたのは派手な服装とメイクに身を包んだ伊藤万理華。水溜りに身体を投げ出しボロボロになりながらも、空元気にも見える笑顔を運転席の男に投げかけると、化粧を直すために伊藤はトイレへと向かう。水で顔を洗い気を静める。しかしふと見上げたガラスに映った自分の顔に不安を覚え、何かに追い立てられるように何度も口紅を塗り直す。すると外でエンジン音が聞こえ出す。慌てて飛び出すも、そこにはアイスクリームでベタベタに汚れたバッグが捨てられ、車は伊藤をガソリンスタンドに置き去りにしたまま走り去って行った。肩を落とし身動き一つないまま途方にくれる伊藤。しかし次の瞬間、彼女は何かに目覚めたように突如闇夜の中でダンスを踊り始める。怒りも、悲しみも、憤りも、寂しさも、全てを放出し尽くすようなダンス。通りすがりの車を気にもせず車道へ飛び出し、ボンネットに乗り上げ、感情のままに、腕をなびかせ、身体を預け、ステップを踏む。街灯に照らされながら、闇夜に溶け込みながら。身体の中が空っぽになってしまうほどの、自身を放出する鬼気迫るダンス。気がつくと夜は明け、地平線の先には太陽が昇り始めていた。うらぶれたガソリンスタンドには、変わらず1人。捨てられた。何もない。けれど、解き放たれた。関係から、しがらみから、自分自身から。暗闇が晴れ、青みがかる少し前の、乳白色の美しき空がどこまでも続いていた。その限りない広さを前にした彼女は、自由だった。雲の先、永遠とも呼べる空を前に、彼女の瞳には涙が溢れていた。

 柳沢監督に「最後のショートムービーをダンスメインにしたのはなぜか?」と聞かれた伊藤は「ダンスで想いを伝えるっていうのをやってみたかった。」と答えた。アイドルには歌という手段もあるが、それとは違う形で、自身の感情を表現する方法として彼女が選んだのがダンスだった。

そしてそれに対し柳沢監督は非常にダークな内容で応えた。重い内容にしたのは、追い込んだ方が伊藤の感情をより引き出せるからだと。インスパイアされたのは『アナと雪の女王』。あの「Let It Go」も住み慣れた国を追われ、一人ぼっちになった時に歌われた曲だ。それはある意味では不幸なシーンとも呼べる。しかし失うことで得た自由がある。もう誰の目も気にしなくていい。私は私のままでいい。新しい一歩を踏み出す時、私は自由だ。

柳沢監督は伊藤万理華の『トイ』で、彼女の自由を謳い祈った。

 

■『はじまりか、』

監督:福島真希

15の時に乃木坂の オーディションを受けた
まさかの合格!?ハッピー!も束の間
選抜発表で名前は 呼ばれなかった
どうしたらいい?何が足りない?
焦りは空回り まわりまわりぐるぐる巡り
誰かが付けた順番に 泣いて眠れない夜もあった
周りを見ればみんなキラキラ 羨ましいないいないいな
でも違うんだ それはあの子だから出来ること
私にはできない ひとりひとりの眩しい輝き
ようやく認めた時に 何かが開けた!
 
自信なんて無い 不安定な歌声
何でアイドルに?アイドルになったのか?
ずっとずっと コンプレックスだった
でも「味、味」って あなたが言ってくれたから
あなたがあの日 言ってくれたから!
 
ファッションも趣味も全然 アイドルぽくなくて
こんな変な私だけど 見つけてくれてありがとう
どうして私を選んだの?
どこから巡って辿り着いたの?
どうしてそんなに優しく笑ってくれるの?
 
あの時あなたが手を 差し伸べてくれた
あなたの言葉にたくさん 支えられてきた
見ていてくれた
ブログ読んでくれた
コメントくれた
声援くれた
りっかタオル
緑と紫のサイリウム
ありがとうありがとう 全部全部ありがとう
会いに来て手を繋いでくれて ありがとう
 
ここじゃなきゃ出会えなかった 大好きな大好きな大好きなメンバー
みんなすごくない?最高じゃない?
私ここにいて いれて本当によかった
1,2,3,4,5,6年
私の誇り私の青春 一生の宝物
前から3列目のだいたい端っこ
真ん中にはなれなかったけど ここが私らしいかなって
目の前と左に広がる みんなを景色を輝きを
ファンのみんなの声を ずっとずっと忘れない
忘れないから!
 
苔とか石とか鉱物とか アイドルぽくなくて
こんな変な私だけど 見つけてくれてありがとう
どうして私を選んだの?
どこから巡って辿り着いたの?
どうしてそんなに優しく笑ってくれるの?
 
あの時あなたが手を 差し伸べてくれた
あなたの言葉にたくさん 支えられてきた
見ていてくれた
ブログ読んでくれた
コメントくれた
声援くれた
りっかコール
緑と紫のサイリウム
星みたいですごく綺麗だった
広い宇宙にあなたと私
ここで出会えた奇跡に ありがとう
 
もっと話したい まだまだ足りない
離れるのは寂しいけど 違う私も見てほしい
良かったらもし良かったら 一緒に来ませんか?
あなたの未来と 私の未来
どこかでまた交わることができたらいいな
新しい私 これからのタワシ、ってタワシ!?
 
進もう一歩一歩
迷いながらでもいいから
悩んだり森を迷ったり
定期とケーキを間違えたり(べちゃ)
シロクマになったり
アン・ドゥ・トロワ!!で髪を切ったり
でもすぐ伸びたり
たまに「まいっか」って言いながら
 
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ありがとうありがとう あなたと会えてありがとう
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ここからここから 私が始まる
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ありがとうありがとう 全部全部ありがとう
一歩一歩一歩 未来はたった一歩先
ここからここから 私が始まる
ここからここからここから
「はじまりか、」

りっかの名付け親でもある福島真希監督による、乃木坂46伊藤万理華として最後の作品。最後は真希ちゃんじゃないとダメと、伊藤からの指名で制作された今作は乃木坂の街角を伊藤が歩き、歌い、踊る姿をワンカットによる長回しで撮影している。音楽は福島真希の夫でもあるOngakushitsuの福島節が担当。綺麗な音色とエモーションを重ねていくストリングスが琴線に触れていく。キュートな振り付けとともに、リズムに合わせ、街中を踊る伊藤は、ままごとの舞台「わたしの星」で用いられたようなラップ調の歌と不安定だが真摯な歌声で、卒業を迎えた今の心境とファンへの想いを歌う。『トイ』のダークで陰のある内容とは打って変わり、軽快なテンポでストレートにその想いの丈を解き放つ伊藤の姿は、清々しく澄み渡っている。

自信なんて無い 不安定な歌声
何でアイドルに?アイドルになったのか?
ずっとずっと コンプレックスだった
でも「味、味」って あなたが言ってくれたから
あなたがあの日 言ってくれたから!

身に纏っていたコートを脱ぎ、衣装へと姿を変える伊藤。そこには紛れもない"アイドル"伊藤万理華がいた。
映像の最後、タイトルコールで締めようとした伊藤の背後の暗幕が下がると、そこには緑と紫のペンライトを手にしたファンの姿が。伊藤へのサプライズ。驚きとそれ以上の喜びをたたえた満面の笑顔で、映像は終わる。

脳内博覧会を見ていて、伊藤万理華橋本奈々未と似てると思った。2人はともに2月20日生まれ。意志の強さと潔さ、そしてファンへの想い。

自分は橋本奈々未推しで、彼女の最後は掛け値なく素晴らしく、ファンとして望外の感動をもらい、生きてきて一番美しいものを見たとさえ思った。けれど、一番彼女の口から聞きたかった言葉は最後まで聞けなかった。もちろん本人の本心はわからないが、それでも、最後に聞きたかった言葉があった。

『はじまりか、』にはそれがある。自分の好きなアイドルが、いつかアイドルをやめるその時、もし叶うのなら言って欲しい言葉の全てがそこにはある。何百人何千人何万人いるかわからない乃木坂46のファン、そして伊藤万理華のファン。この歌はそんな「ファン」という括りではなく、紛れもなくたった1人の「あなた」に贈られたものだ。自分はその「あなた」ではないだろう。それでも、伊藤万理華の人柄とまっすぐな想いに、自然と涙が頬をつたっていた。

『はじまりか、』を見ていてふと橋本奈々未のことを思い出し、そして伊藤万理華推しの人たちは絶対に幸せだろうなと、違う形の答えに、ほんの少しだけ羨ましくなった。

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伊藤万理華の卒業ライブは乃木坂46初の東京ドームコンサートの2日目となった。ラストソングはともに年内で卒業する中元日芽香とのダブルセンターによる"きっかけ"。

中元日芽香は、オリエンタルラジオと共演していたラジオ番組『らじらー』で先日最後の活動を終えた。中元のために制作された"LAST NUMBER feat.中元日芽香"とともに、最後までアイドル中元日芽香としてその活動を全うした。

www.youtube.com (ファンの人による自作MV)

伊藤万理華乃木坂46としての最後の活動は12月23日の仙台の握手会を予定している。

卒業ソングがないことは不公平か、卒業ライブがないのは不運か、握手会で別れを告げられないのは不幸か、わからない。でも伊藤万理華中元日芽香も、それぞれの場所で、それぞれのやり方で、それぞれの最後を全うしている。他の誰にも真似できない愛され方で。正解はない。きっとアイドルは、アイドルを辞める時初めて、何を残したかがわかるんだろう。

「ありがとう」以上の別れの言葉はあるのだろうか。新しい場所へと旅立つ2人の残した同じ言葉は、形は違えど、必ず、「あなた」の心を掬っていく。それはどうしようもないほどハッピーエンドで、そしてどうしようもなく切ない。

www.youtube.com

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伊藤万理華の脳内博覧会の様子は一部ナタリーでも見れます

【イベントレポート】乃木坂46伊藤万理華、初の個展開催に「やっと自分の存在意義を皆さんに伝えられる」(写真12枚) - 音楽ナタリー

braineclips22.hatenablog.com

欅坂46「不協和音」個人PVレビュー

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◾️石森虹花『虹花と七つのいいところ』

 監督:中村智恵

石森自身に「自分の好きなところを七つ」探してもらうため、1日をかけ都内や故郷の仙台を巡りインタビューをしていく。"欅坂46について"という質問では自身の葛藤が吐露され、また故郷で話されるアイドルを目指したきっかけには、石森の原点が垣間見える。バラエティではおバカキャラで目立つことが多いけど、こうして話してるのを聞くと石森って本当良い子なんだなって思う。てかまず家族が大好きな時点で絶対良い子でしょ。ただ七つ紹介してなくない?"虹"に掛けて"七つ"にして石森がちゃんと七つ考えたのに実際は三つだけ話聞いて終わってない?七つの良いところよりインタビューの方がメインになってない?

www.youtube.com

◾️上村莉菜『少女と怪物』

 監督:藤枝憲 / 須藤中也

1人妄想の世界に浸り寂しく過ごす少女の元に、ある日現れた怪物。2人で楽しい時間を過ごしたのも束の間、別れの時が来てしまい………、という大人になると見えなくなってしまうやーつのストーリー。洋館と上村のロリータ衣装のバランスがマッチしてて、これを着こなせるのは土生ちゃんか上村かって感じでかわいい。そしてそこからの大人になった(設定上)上村の衣装と化粧がまたギャップを生んでて更に可愛い。大人になっても忘れちゃいけない大切なもの、そう、これはもはやトイストーリーやね(違う)

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◾️小林由依『彼女の愛情 または彼女は如何にして愛することを諦めその感情と訣別したか』

監督:児玉隆

小林に与えられた3つのルール。そのルールを必ず守り、1人で舞台に立ち芝居をしなければならない。ストーリーはある男性に恋する少女の話。文学的表現が並ぶ長尺のセリフを情感込め、淀みなく演じる小林。時にはにかみ、驚き、慌て、そして最後には…。またラストのセリフは空欄となっており、その物語の最後のピースは小林自身が考え決める。約8分に及ぶ熱演。エンディングそのものは、無難と言えば無難だけど、歌にギターにダンス、おまけに演技までやってのける小林のオールマイティカードぶりが恐ろしい。ブログの枕詞もまだ隠れた才能の片鱗なんだろうか、可愛いだけで十二分なのにどんだけ。素直に凄い。

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◾️原田葵『植物少女』

監督:西堀真澄

「植物はその地に根を張ってしまうと、その場から動けなくなってしまう。彼女もまたそんな生活を送るが、しかしそのことを彼女は不幸には感じていない。」というこの世界とその世界のささやかな交流を描いているんだけど、そんなことよりドレスアップした原田葵ちゃんめちゃくちゃ可愛くない?花びらパクパク食べる原田葵ちゃんめちゃくちゃ可愛くない?育ち盛りなのかな。

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◾️長濱ねる『Lightning Diary』

監督:上田真紀子 / 石川夕紀

なんだこのあざといたぬきは馬鹿野郎。失礼、取り乱してしまいました。ねるが未来の自分へ向けた日記をモノローグ的に語る映像なんだけどとにかくかわいい。そしてあざとい。あざといが果てしなくかわいい。「分かっててやってるんでしょ?」って聞いたら『そんなことないです』って絶対言い返してくるんだろうな。ただシャッタースピードを遅くすることで光の残像を残して文字を書く、所謂「花火文字」は視覚的にはポップなんだけどなんでこれになったんだろうか。可愛くねるを撮るためのふりかけ程度の味付けにとどまってる気が。まあねるがかわいいからなんでも良いか。

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◾️柿崎芽実・佐々木美玲『Magic Girl』

監督:加藤マニ

SISTER JETのケンスケ アオキ氏によるオリジナル曲「Magic Girl」のリズムが最高に心地いい。ボーカルを取る柿崎芽実と佐々木美玲の歌声は少し不安定だけれど、その不安定さはあどけなさや幼さを醸していて、"魔法を使う"という絵空事のようなファンタジーさと合っていて良い方に作用してる。魔法が使えるのにクロスワードパズルは自力で埋めていく2人の姿にこの物語の本質が隠されている、かどうかは全くわからない。

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◾️高瀬愛奈・東村芽依『上京けやきストーリー』

監督:杉山弘樹

関西出身の2人による東京タワーを目指す都内旅、と見せかけたらそうじゃないんかい!というオチ付き。2人とも話してるとナチュラルに関西弁が出る感じがいい。写ルンですで撮った写真のフィルムの具合が超イマドキの子っぽい。映像も少しボヤけたようなフィルターをかけていて全体的に90'sの感じを出してる。東村芽依ちゃんのスカートの丈がちょっとエッチなのが気にな)ry

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◼️今泉佑唯今泉佑唯のひとり童話』

監督:加藤慶吾 / 小向英孝

前回は天使、今回はお姫様。今泉が有名な童話の物語を天真爛漫かつちょっぴりおバカに書き換えていく。前回はあざとさに自覚的な役を演じていたが、今回はあざとさはなりを潜めていて無邪気な面が前面に出ている。物語のある場面で予測できない未来を選ぶその瞬間、それは今泉佑唯という"キャクター"を超えて今泉佑唯という"人間"にオーバーラップする。夕立も予測できない未来も、嫌いじゃない。

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◼️尾関梨香『タイムスリップドロップ』

監督:田村啓介

高校の映画部を舞台にしたこれは『桐島、部活やめるってよ』か『幕が上がる』かってぐらいの青春ドラマ。尾関もイメージに似つかわしくないほどの正統派女子高生を演じている。ただこうやって普通の女子高生やらせると尾関超かわいい。ポニーテール尾関の正統派美少女感とベタな甘酸っぱいストーリーに胸キュン必須。途中で流れる音楽はあまり統一感なくて唐突な印象を受けるけど、設定もおもしろいし総じてだいぶ好き。

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◼️齋藤冬優花『続 NIGHT RACER FUYUKA』

監督:曽根隼人

いや、まだこれやる?あと途中の「取れない」のくだり結局手伸ばして届くならいらなくないですか?セリフにメタ視点が加わったことが違いだけど、なんでこれもっかいやったの?が正直な感想。

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◼️守屋茜『パーフェクト寝起きドッキリ』

監督:森田亮

前作『二人セゾン』の鈴本美愉の個人PV『鈴本ミユの秘密の告白』を担当した森田亮による作品。今作も守屋茜に早口を喋りに喋らせる。ただ鈴本のと比較すると今作はキャラを守屋のイメージ(本人が言いそう)に寄せた結果か、シチュエーションも実際のアイドル的になり、ダレはしないけど途中で飽きてしまう…。全く言わなそうなことをマシンガンのように言う方が面白い気が。絵的には終始かわいい。

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◼️渡辺梨花『ベリカ2号機』

監督:谷健二・脚本:高木俊貴

渡辺梨花がアンドロイドって設定はハマっている。それは表情の変化や感情の起伏が見えづらいからかもしれない。そんな渡辺が普段は見せない、最後不完全なアイドルだからこその自分の覚悟を叫ぶ姿はじんわりクる。エンドロールのNGシーンで渡辺梨花"らしさ"に戻ってくるのも良い。ただなぜもう一人の自分に会う時は大体屋上なのか問題。

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◾️齊藤京子・高本彩花『アフレコ職人ず 齊藤&高本』

監督:タナカシンゴ

ラーメン部、腕相撲部、怪談部。3つの部活動を2人が演じるショートストーリー3本立て。と思いきや通常の撮影分とは別に全編2人がセリフから効果音までアフレコしたヴァージョン違いを加えた全6本のショートムービー集。「てくてく」や「とことこ」と言った効果音をつけたくなるような2人のチープでゆるい演技がまあかわいい。白衣と黒縁メガネ最高。ツインテール最高。靴箱から顔を覗かせる齊藤京子のかわいさは異常。ただ「男は星の数ほどいる」のきょんこ、ブルゾンちえみ…?

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◾️小池美波『誕生日の女』

監督:大畑貴耶

まず喋り声が本当に可愛いですよね。どんなありきたりなモノローグも小池美波の声で聞くと耳が溶ける。最後漫才的掛け合いで関西弁になるのもGOOD。ストーリーは特にこれと言って言及することはないんですが。

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◾️佐藤詩織『おねぇちゃんのプレゼント』

監督:大金康平

詩織お姉ちゃん…!失礼、取り乱してしまいました。子どもに絵本の読み聞かせをしていたら話が途中で切れてしまっていたため、自ら物語を描き足す詩織おねえちゃんのほっこり物語。赤のベレー帽とコートに身を包んだ姿が破茶滅茶に秋の装いで素晴らしい。佐藤詩織さんの愛らしい動物のイラストもかわいくて美術センスとおねえちゃんスキルが高次元で融合した佳作(適当)。ただ動物の鳴き声たまにエキセントリック。

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◾️志田愛佳『たった一日の志田愛佳

監督:月田茂

はいはい優勝優勝。志田の自撮りムービーから始まった瞬間頭が3mぐらい後方に吹き飛んだ。内容は誕生日の日にカメラで街を撮影して回る志田の姿と写真、志田の自撮りによる語り映像で構成。ちょいちょい「にゃん」とか「にゃー」とか脈絡なく猫言葉をブッ込んでくるの意味不明とか、トドメの太陽コンピューターによるオリジナルソング「猫時計」(振りもかわいいし良い曲)もなんで猫?となっていたがオチでタイトルの意味も含めて伏線回収。志田がやらなそうな(嫌がりそうな)「甘いかわいさ」を引き出した設定が素晴らしい。「ねる超え」と言っても過言ではない志田の可愛さがフルスロットル。志田には絶対「超恥ずかしい」とか「なんでこんなのやらないといけないの」とかぶつくさ言ってて欲しい。

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◾️土生瑞穂『QUEEN OF COMMERCIAL FILMS』

監督:松田広輝

土生が架空の企業CMのモデルを務める今作。様々な商品に合わせてスタイルを変える土生ちゃんだが、一貫してシンプルにずっと可愛い。土生ちゃんは身長高くてスタイル良いから普通にモデルとか映えそう。コンタクトのCMで全身黒のシックな装いの土生ちゃんとか超カッコいい。東京デザインウィークでこういうのありそう(適当)。

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◾️渡邉理佐『あの日の忘れ物』

監督:脇坂侑希

引っ込み思案でちょっとイケてないタイプの女の子を演じる渡邉理佐って珍しい。そんな女の子が50年後の世界からやってきた未来の自分に運命の男性に出会うと告げられる。その後の眼鏡を外して髪をほどき、イメージチェンジを果たす瞬間を収めた28秒間にこの個人PVの全てが詰まっていると言っても過言ではない。べりさってこんなに可愛いんですね。可愛いとは思ってたけどその想像の630倍上をいく渡邉理佐が観れる。最高です。

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◾️潮紗理菜・加藤史帆・佐々木久美『夜は目映し踊れよ乙女』

監督:森岡千織

ドレスアップした3人が街角を闊歩する姿を捉えているんだが、可愛いは可愛いけどセリフもないし、なんかこう、もう一声欲しい。まあ3人いると難しいのかもだけど…。あと俗に言う「女子会っぽい女子会」を加藤史帆と佐々木久美がやるのはいいけど、潮ちゃんがやってるのはなんか嫌だっていうこの感じわかります??宇佐美宏さんの音楽は好き。

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■織田奈那『コールミー』

監督:松本壮史

先生への淡い恋心を胸に抱く女子高生織田奈那。この時点で良いですよね。織田奈那の歌うオリジナル曲「コールミー」は作曲を先生役も演じているEnjoy Music Clubの江本祐介、作詞を監督の松本壮史、振り付けをロロの島田桃子が手掛けている。芝居から歌への入り方が舞台的。ラスト「あと◯秒」を繰り返してしまう織田奈那がいじらしくてかわいい。青春やね。

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菅井友香『未来のわたしへ』

監督:柴田啓佑

ゆっかーお姉ちゃんやん。すみません、あたりまえ体操くらい当たり前のことを言ってしまいました。架空の映画の撮影を通して、菅井の見ている10年後の未来の菅井の姿を炙り出すフェイクドキュメンタリー。撮影の合間の菅井の姿はほっこりするし可愛いけど、正直わかりにくい。超能力研究部の3人かよ。 

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◾️鈴本美愉『冥土のみやげ』

監督:立岡未来

亡くなったおばあちゃんに会いたいと願っていたらある日から成仏できない幽霊が見えるようになってしまった少女の話。鈴本が演じるのは幽霊とおばあちゃん想いの役なんだがこういう裏表のなさそうな健気な役がすずもんには不思議とよく合う。モノローグの話し声も無垢に響く。そして服はダサくてもすごい可愛い。鈴本美愉、地力が強い。

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◾️長沢菜々香『しりとりっぷ』

監督:田村啓介、企画・作詞:本山香菜子

しりとりの果てに"ダンシングだっしー"という正体不明の生物を産み出した女子高生長沢がしりとりをしながら校内を旅する今作。長沢のしりとりしながら言葉を繋いでいく脱力系のラップと、小道具を使いながらコロコロと表情を変える抜群のチャーミングがもたらす摩訶不思議な世界を長回しで収めている。なーこの不思議キャラを全開にしつつ大正解な可愛さでまとめた良作。めちゃくちゃ好き。ただ持ってる筆記用具の癖が強い。

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◾️平手友梨奈『>>> swIming/girrrrrl << <』

監督:大久保拓朗

平手のビデオはいつも肩に力が入り過ぎなのでは?もといお金を掛けて大人が本気出しすぎなのでは?まず他のメンバーと違ってコンセプト抜きにスケールの大きさと映像美だけでブン殴れる強さ。そして設定も物語ではなく世界観を重視し、衣装から音楽まで手の込んだ作りよう。当の平手もカメラを通せば意志の強い眼差しと年相応の屈託のない笑顔のコントラストがどこまでも眩しい。夢を夢見る少女はやがて目を覚まし、覚醒する。こんなに絵になる女の子はそうそういない。本当に引き込まれる。そりゃ大人がマジになる気持ちもわかる、が、一回『NIGHT RACER YURINA』やってみよ?

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◾️米谷奈々未『三角関係関数』

監督:田平衛史

前回が文学少女なら今回は理系女子。米谷の勤勉な秀才っぷりを活かした数式物語は米谷ならでは。米さんの舌足らずなナレーションは可愛いしやりたいことはわかるけど、ただすまん、計算式のシーンが長くて途中で飽きてしまった…。

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◾️井口眞緒・影山優佳『ドーナツの変』

監督:こだかさり

影山優佳ちゃんのスタイルの良さが全世界にバレてしまう!!!!ドーナツのためにパン食い競争をする井口と影山、ドーナツのために「炙りカルビ」を連呼する井口と影山、ドーナツのために)ry。井口のポンコツおバカキャラと影山優佳ちゃんの常識人キャラのギャップでほのぼのと進行する映像は2人のナチュラルな可愛さを映していてニコニコオタクスマイル全開になってしまった。いや、こういうので良いんですよ僕は。あと影山優佳ちゃんのPKクソ痺れる。

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We are still the same - 2017.10.10 MONOEYES Dim The Lights Tour 2017

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■We are still the same

7月5日にリリースされたMONOEYESの2ndアルバム『Dim The Lights』。このアルバムを引っさげ7月から始まった全国ツアーも、追加公演のいわきと最終日の沖縄を残すのみ。10月10日、事実上のツアーファイナルとなる新木場スタジオコーストの2DAYSの初日を迎えた。

ゲストのJohnsons Motorcarがライブを終えると、お馴染みとなったスターウォーズのテーマソングをSEにMONOEYESの4人が登場する。

Wildlife in the sandy land
Barking at the rising moon
That’s what my body feels like doing
You are someone like me
砂だらけの陸地で動物たちが
昇る月に吠えている
僕の体が欲しているのはそれ
君と僕は似てる

「Dim the lights = 灯りを落とす」。暗闇の中でこそ浮かび上がる野生。重い扉を開け、日常とは毛並みの違うライブハウスという空間でだけ露わになる本能。MONOEYESのライブが呼び起こすのは、日々の社会や規範の中では羽を伸ばせない衝動と純真だ。ルールではなく思いやりを持って。それさえあればこのライブハウスでは誰もが平等で自由だ。

It’s you and me again
もう一度 君と僕だ

『Dim The Lights』の核心に触れるリードトラック、"Free Throw"でライブの幕は切って落とされた。 

続く"Reasons"でフロアが更に熱を帯びていくと、3曲目で早くも"My Instant Song"が投下される。

全て失ったと感じるときは
これ以上もちこたえられないと感じるときは
暗がりにいると感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
息を飲む瞬間には
夢みたいだと思うときには
飛び込むのが怖いと感じるときは
ただ歌を歌うんだ
即興の歌さ
いつだってやめられる
即興の歌さ

2年前、MONOEYESはこの曲とともに始まった。「ただ歌うだけ」、いつだってやめられると口ずさんだ即興の歌が、会場をポジティブなエネルギーで満たしていく。ステージも客席も、見渡す限り一面の笑顔が、赴くままに身体を宙へ弾ませる。

 

細美「本日1発目スコットがキメるぜぇ!!」

 

細美のシャウトを皮切りに"Roxette"が披露される。スコットらしい伸びやかなメロディとほろ苦い歌が、細美の曲とはまた違う風通しの良さで、MONOEYESのライブに新しい色を加えていく。

細美「千葉LOOKから始まり、東北を散々回って、九州を巡り、北陸を回り、ようやくここまでたどり着けました。追加公演のいわきと沖縄を残して、事実上のツアーファイナルなんだけど、ファイナルだからと言って特別なことは何もありません。だからおれたちがこれまで回ってきたところと同じライブをするよ。」

"Leaving Without Us"、"When I Was A King"で一瀬の2ビートが激しい疾走感とダイナミズムを起こしたかと思えば、続く"Get Up"では「Get Up」の合唱が優しくも力強いサウンドスケープを描いていく。

「東京でやるのはすごい久々の曲をやります。」

 

そうして演奏されたのは"Cold Reaction"。

I'm against the new world
僕は新しい世界なんていらない

大きい会場でライブがやりたいわけじゃない。ただ、自分たちのこの場所(ライブハウス)をこれからも守っていきたい。MONOEYESは東北で細美が1人で弾き語りを行なっていた時、ライブに来る人たちがもっとスカッと暴れられるようにバンドで来たいと、ソロアルバムを作り始めたことをきっかけに生まれたバンドだ。ただ仲間とともに、ライブハウスでバカ騒ぎをしていたい。1stアルバム「A Mirage In The Sun」のオープニングを飾ったナンバーは、ハードなリフと地鳴りのような轟音で、今も変わらずにMONOEYESというバンドのアティテュードを表明する。

"明日公園で"では突然スコットがベースを銃に見立て戸高を打つ、すると膝から崩れ落ちる戸高、かと思えばそのままポジションを入れ替え、目の覚めるようなプレイでフロアを煽りに煽る。間奏では戸高がヒリヒリするようなギターソロで琴線を掻き毟り、逆側ではスコットがステージダイブで客席へと飛び込む。無邪気にステージを楽しむ2人が、ハイタッチまで飛び出す抜群のチームワークでライブを更に盛り立てる。

細美「みんな夏の楽しかった思い出があると思うんだけど、そういう楽しかった思い出をべっこう飴みたいに凝縮したような曲ができたんだ。人生で1番好きな曲。だから聞いて。」
「昔好きな女の子をバイクに乗せて海を見に行って、じゃあ帰ろっかってなった時に雨が降り出して、『こんなのすぐ止むよ』って彼女に言って庇の下で雨宿りをして、タバコに火をつけたんだけど、雨は止むどころかどんどん強くなって『ごめん、これは止まないね。』ってなって、そんで彼女を後ろに乗っけってさ。町からちょっと離れたところだったから、ずぶ濡れになりながらバイクで走って、やっとコンビニを見つけて、寒くて震えながらこれでちょっとはマシになるだろって500円のカッパを買ってお互いに着たら、その姿がどうしようもなくおかしくて、お互いに笑い合うような。」
「1番はBRAHMANの宮田俊郎と飲んでる時のことを書いていて、TOSHI-LOWがお店のグラスを全部割ってさ。光るモノが嫌いなゴリラみたいな笑 なんかこういう生き物いたなって笑 手には空のウイスキーのボトル、テーブルの上には割れたグラスがあって。」
サンゴ礁のある海を泳いだことがある人はわかると思うけど、あのあたりにいるような小さな魚は、合図もないのに示し合わせたように同じ方向にクイって進むんだよ。こんなこと言うのはこっぱずかしいんだけど、今日は目の前にいるブスと脳足りんのどうしようもないお前らのために歌います。そんな風に、お前らと一緒におれに年をとらせてくれ。」

"Two Little Fishes"。二匹の小さな魚。
アルバム制作において、1曲オススメの曲があるのは他の曲に失礼だから、それなら全部作り直すべきだ。頑なにそう言っていた細美が、この曲は人生で1番好きな曲と言ってはばからない。ミディアムテンポのパワーポップ。サウンドも詞も、明るく、温かい。

これまで細美の作る音楽は、明るい曲調の裏にも、いつもどこか自己嫌悪や孤独、胸に刺さったままとれないささくれのような痛みを抱えていた。でもだからこそ同時に、自分を認めていいんだと、君は1人じゃないと、痛みは和らぎ、いつか傷跡だけを残しなくなるということも教えてくれた。

彼の音楽は失望を内包することで希望を歌ってきた。 

だが今はそれだけではない。"Make A Wish"で祈った君の幸せ。その隣にいるのは僕じゃなかった。"Two Little Fishes"で歌った僕の願い。君のそばにいるのは、まだ見ぬ誰かじゃない。

Let’s run forever
We get older
Do you think I’m gonna leave
逃げようぜこのまま
僕らは歳をとる
いなくなるわけないだろ

客席を鼓舞し、ファンと一体となり歌う細美。ELLEGARDENの1stアルバムのタイトルは『DON'T TRUST ANYONE BUT US』。自分たち以外は誰も信じない。そこから積み重ねて、失って、そしてまた積み重ねてきた。the HIAUS、東北ライブハウス大作戦のメンバー、TOSHI-LOWとの大きな出会い。仲間と呼べる揺るぎない存在。生まれる確かな信頼。

1stアルバム『A Mirage In The Sun』のリリースツアーでは、ライブ前に細美自らがステージに立ち、ライブの注意事項を説明していた。昨年の「Get Up Tour」では、モッシュやダイブをするファンを時に注意しつつ、常にコミュニケーションを取りながら、MCでも思いやりを持ってと話していた。

このライブではわざわざ注意事項を話すことはしなかった。ダイバーに直接話しかけることもなかった。その必要がなかった。

Wanna make us synchronized like two little fishes
Wanna make a sunset like this last forever
Wanna grow older while you’re here beside me
Tell me when the wind starts blowing into the room
僕らは二匹の小さな魚みたいにシンクロしてたい
この夕日がまるでずっと続くみたいに感じていたい
君がそばにいてくれる間に歳を重ねたいんだ

孤独も喪失もない。幸せな記憶。MONOEYESが鳴らす仲間の歌は、ファンの声と重なり、お互いの想いとシンクロしながら、二匹の小さな魚のように同じ未来を描いていた。

マーチのような"Carry Your Torch"を経てライブは終盤戦へ。 "Run Run"、"Like We've Never Lost"を畳み掛けると、"Borders & Walls"ではJohnsons Motorcarのマーティも参加。ポリティカルな内容を孕みながらも、その憂いを吹き飛ばさんとばかりに、スコットの人懐っこいキャッチーなサウンドにフロアは縦横無尽に入り乱れ、幸福な暴動が起こる。スコットがボーカルの曲では細美もギタリストへと変わり、ギターに全霊をぶつける。

細美「たまにどうしようもなく吠えたくなる時があるんだよ。電車乗ってる時とかコンビニにいる時とか、そういう時に吠えるとパクられるからやらないけど笑 お前らもそうだろ?でも今日は吠えられたんじゃない?」「性別も年齢もルックスも貯金も収入も、そんなものはここには何一つ関係ない。」「世の中がこんな風(ライブハウス)だったらいいのにってずっと思ってるけど、どうやらそうじゃないみたい。あのドアを開けたら、少し窮屈な世界が待ってて、ちょっと違う服を着てたり、人と違うご飯の食べ方をしたら笑われる。そういうことに疲れたら、その時はいつでも遊びに来て。」

いつだってここに帰る場所はあると、細美は語りかける。

Let me see the morning light
Ditch a fake TV smile
And you said to no one there
Like 3, 2, 1 Go
When we see the rising sun
I can feel my body getting warm
朝陽が見たい
テレビ向けの笑顔なんて捨てて
君は誰にも向けずにこう言った
3.2.1 行くよ
すると太陽が昇って
僕は体が暖かくなるのを感じる

正解も不正解もない。沢山の人がそれぞれ違った価値観を持つ社会では、常に批判され、常に折り合いや妥協を求められる。自分の全てが間違っているように感じる時さえある。でも夢に見た世界がある。その場所に辿り着きたい。

タイアップを断り、CDの特典を拒み、ライブハウスにこだわり、どれだけ人気が出てもチケット代は2,600円のまま。多少の怪我はしてもいい、でも誰かに怪我はさせるな。禁止するのではなく、信じることで守りたい。理想の世界は綺麗事だろうか。「そんなのは無理だ。」また声が聞こえる。生半可な戦いじゃない。でも彼は戦い続けてきた。その生き方は彼を知った14年前から変わらない。その姿を見てると、ちっぽけな自分の中にも勇気が湧いてくる。そしてその戦いの先にあるこの場所に来ると、夢に見た世界を実感できる。身体は疼き、汗が滲み出す。体の芯から脳天を突き抜けるような高揚感に鳥肌が立つ。言葉にできなかった想いが熱を持って肉体に溶け出し、目頭が熱くなる。夢を見ていいんだと信じられる。
歳を重ねても、バンドが変わっても、変わらない細美の生き様を、"3,2,1 GO"は写している。

"グラニート"が見せる景色はその信念の先にあるものだ。赤の他人同士が、初めてライブハウスで出会い、同じ音楽を聴いて、肩を組み笑い合う。ルールで縛り合うのではなく、思いやりを持ち寄って、想いに惹かれ合う。

そういう世界があるなら
行ってみたいと思った

そういう世界がここには広がっている。

本編のトリを飾るのは"ボストーク"。『Dim The Lights』の中で唯一収録されている日本語詞の楽曲だ。"グラニート"同様の軽快なドラミングと爽やかなメロディが、ライブハウスに風を運ぶ。ボストークとは1961年にソ連が打ち上げた人類初の有人宇宙飛行船の名だ。これからも、誰も知らない場所へ、この旅は続いていく。

客席のアンコールを受け、すぐにステージに現れた4人。

細美「(袖とステージを)行って帰って来てっていうのは茶番にしか思えないので、あと2曲だけやって帰ります。」「またここで打ち上げやろう。ライブの打ち上げじゃないよ。外の世界では戦って、そして人生の打ち上げを、ここでやろう。」

アンコールのラスト、"Remember Me"で細美は歌詞の中にある「You are still the same.」を「We are still the same.」と歌った。

If you sail back to your teenage days
What do you miss
What did you hate
Remember we are still the same
10代の日々に船を出したら‬
何が一番懐かしい?‬
何が嫌いだった?‬
今も同じだってことを忘れないで

11年前、16歳で初めてライブハウスに行った時、不安で怖かった。でもそれ以上にワクワクして胸が踊った。重いドアを開けたその先では爆音の中、人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、グチャグチャになりながら息をするのも大変だった。でも日常では絶対見ないような光景の中、そこにいるみんなが、笑顔で拳を掲げ、声を上げていた。
そしてステージで歌うその人は、今この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

11年後、27歳になって訪れるライブハウスには不安はなくて、でも11年前と変わらずにワクワクし、そして少しだけ涙が出そうになった。重いドアを開けたその先では爆音の中、相変わらず人波に呑まれ、頭の上を人が転がっていき、汗まみれのグチャグチャになりながら、普段どれだけこんな顔ができてるんだろうってくらいの笑顔になれた。
そしてステージで歌うその人は、今も変わらずに、この瞬間世界で1番自分が幸せだというような笑顔を見せていた。

人は変わる。細美が手拍子や「オイ!オイ!」と掛け声を煽るようになる日が来るとは思わなかった。身体は鍛え上げられ、すぐTシャツを脱いでは裸になり、親友との惚気話に頰を緩ませる。
自分も変わった。あの日の学生は社会人になり毎日仕事。昔みたいにライブハウスに来て汗まみれになって暴れることも少なくなった。周りは結婚して子どもができ、会うことも少なくなった友達も多い。
全ての人が年とともに、時代とともに変わっていく。

でも変わらないものもある。

もし君が疲れたら
呼び出して
付き合いきれないものに疲れたら
あの頃に戻って話をしよう
そしたらこの世界のどうしようもない出来事が
音にかき消されて
勇気が湧いてくる

この場所では、今も変わらずに素直でいられる。笑われることも比べ合うこともなく、クソッタレのダメ人間も、外の世界で擦り減ってしまった人も、大好きな音楽を大好きなままで。立ち上がれと、1人じゃないと、その音楽は鳴り続ける。

細美「20年後には64歳のおれに会えるよ。」

逃げようぜこのまま
どれだけ歳をとっても
いなくなるわけないだろ

外の世界で戦って、疲れた時は勇気をもらいに、頑張った時には自分へのご褒美に。
人生の打ち上げをやろう。何度でも。


さあ ライブハウスへ帰ろう


 


MONOEYES - Two Little Fishes(Music Video)

 

セットリスト

1.Free Throw

2.Reasons

3.My Instant Song

4.Roxette

5.Leaving Without Us

6.When I Was A King

7.Get Up

8.Cold Reaction

9.Parking Lot

10.明日公園で

11.Two Little Fishes

12.Carry Your Torch

13.Run Run

14.Like We’ve Never Lost

15.Borders & Walls

16.3, 2, 1, Go

17.グラニート

18.ボストーク

アンコール

19.Somewhere On Fullerton

20.Remember Me

欅坂46「二人セゾン」個人PVレビュー

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石森虹花 『カワッテアゲル』

監督:住田宅英

「あなたじゃ無理」「代わってあげる」

突如現れたもう一人の石森(黒服)を、本当の石森(白服)が追い掛ける。強くなりたい自分と弱気になってしまう自分。ラスト、「私はできる」ともう一人の自分を捕まえて、自信を取り戻すストーリー展開は、現実の欅坂でいまだ一度もフロントに立っていない彼女のリアルな実情を重ねて見ると、結構シビア。「チャンスの順番」を聴いて諦めずに頑張ってほしいなって感じで…。

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今泉佑唯『落ちてきた天使』

監督:タナカシンゴ

あざとい天使のキャラと恥じらいの残る演技が良い塩梅でぶりっ子キャラを掻き立ててる。本人はどちらかと言えばおバカで天然なのだろうけど、乃木坂でいう秋元真夏のようなキャラは欅坂にはまだいないので、ぶりっ子役はこれからも引き受けてほしい。洗濯物を畳む時の畳み方が雑、おまけに料理も下手、そんな愛くるしい天使役が最高にハマってる。

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■尾関梨香『もじもじ探偵尾関ちゃん』

監督:田村啓介

まず服がかわいい。モジモジヘラヘラしながら自己紹介するところがかわいい。文字に関する特殊なトレーニングを受けた(という設定)のもじもじ探偵だけあり、文字を組み合わせる謎解きは意外と凝ってるが、基本的に内容はないので、ただヘラヘラユラユラしている尾関のかわいさを見守る作品。お笑いキャラは織田、天然は今泉、不思議ちゃん・大食いは長沢とキャラ被りの渋滞に巻き込まれ中々クローズアップされず、「欅って、書けない?」での「運動音痴で動きが変」ということが見せ場になることが多いけど、こういうヘラヘラしたかわいさは尾関が一番似合ってる。

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小林由依『こばやし荘は住人十色』

監督:丸橋俊介/阿部至

101号室の住人、かわいい。102号室の住人、神。103号室の住人、かわいい。104号室の住人、やらされてる感がいい。105号室の住人、かわいい。106号室の住人、指がいい。107号室の住人、シンプルに良い。108号室の住人、かわいい。109号室の住人、神。大家、かわいい。端的に言えば小林由依の十変化なのだが、アパートを舞台にホラーとしてのオチがつくのもおもしろい。何よりメイキングが最強に可愛い。優勝。

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佐藤詩織『Ballet』

監督:山本花観

バレエスクールでの本人インタビュー。「なぜアイドルになろうと思ったのか?」という問いへの答えには佐藤詩織の人柄が出ているし、レオタードに身を包んだナチュラルメイクの彼女はかわいいけれど、最後に舞台で衣装を着てバレエを披露するところまでそのまま過ぎる気もする。別に個人PVでこれやらなくていいのでは。

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菅井友香『僕のクラスの学級委員』

監督:ねむことよるこ

菅井友香が学級委員という設定がいい。ゆっかーお姉ちゃんここにあり。内容に関しては正直よくわからない。

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鈴本美愉『鈴本ミユの秘密の告白』

監督:森田亮

鈴本美愉に早口を喋らせた監督は天才だ。映像の9割がお風呂場で展開されるが、全くダレずにあっという間にエンディングを迎える。テレビの前と楽屋でキャラが違うと言われる彼女だが、この作品は後者の彼女を引き出してるんじゃないか。クールでキツめの彼女とは違うおっちょこちょいで愛らしい、これは良いすずもん。

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■原田葵『ねぇ ねぇ 聴いて』

監督:上田真紀子

「机を叩く音」、「チョークが黒板をなぞる音」、「バスケットボールが地面を打つ音」、「カスタネットを弾く音」、「クラッカーを開く音」、「紙を丸める音」など、原田葵の様々な音を生むアクションを連続して繋いだ今作。メトロームのような無機質に反復するテンポの上で、一挙手一投足の全てに実年齢以下の幼さの残る原田葵のあどけない魅力と、World’s end Girlfriendや蓮沼執太のバックでもドラムを叩くJimanicaの音楽が不思議な融合を果たしている。Type-B収録の個人PVの中では最もコンテンポラリーな作品で、映像のカットとリズムや音のテンポの良さが視覚と聴覚をくすぐる。しかし原田葵ちゃんは本当に高校生なのだろうか、小学三年生の間違いなんじゃないか。でもこの先絶対もっと可愛くなるし美人になりますよね。あと10年はアイドルをやってくれ、頼む。

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■織田奈々『カッパの好物』

監督:脇坂侑希

白ニットに手料理と、デフォルトなぐらい女の子っぽい織田奈々を見れる。「欅って、書けない?」のお笑いキャラのイメージが強くて、どうしても織田奈々を王道の「かわいい」という目で見れなくなってしまってるけど、当然のことながら美形だしかわいい。このまま欅坂のオカロになってしまうのか。あとカッパとの出会いの場面やキュッキング、エンドロールで使われている音楽が好き。

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■小池美波『転校生探偵・真壁川ナツ』

監督:磐木大

もじもじ探偵と被ってるやん!それはさておき関西弁で自分のことを「ウチ」と言う小池美波ちゃんがかわいい。あと突然関西弁でキレる小池美波ちゃんもかわいい。ドヤ顔の小池美波ちゃんもかわいい。これも特にストーリーに内容はない。尾関の『もじもじ探偵尾関ちゃん』は「モジモジ」を与えることで彼女の持つかわいいを引き出した感じがあったけど、こっちは素の小池の可愛さがそのまま出てる感じ。

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齋藤冬優花『NIGHT RACER FUYUKA』

監督:曽根隼人

オープニングのパルクールを駆使したアクションシーンやCGなど、他のメンバーの作品に比べると映像技術としてはかなり凝って作られている。ミニ四駆が好きだったのでレースシーンはテンション上がる。でもこれ齋藤冬優花さんの必要なくない?主人公そのまんまヨシキくんじゃない?

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■土生瑞穂『僕の彼女は吸血鬼』

監督:高木俊貴

吸血鬼という設定と「エピグランマタ」や「ダークシャドウ」からの引用がアクセントになっているが、基本的には「僕の彼女が土生瑞穂だったら」を体感できるガチ恋製造作品。フィルターかかった映像も綺麗で、彼女の美形で整った顔立ちと相まってショートフィルムのよう。セリフや顔のアップのシーン、甘い声で「キス」という単語を連呼し言い寄る場面、土生supreme瑞穂です。

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平手友梨奈『てち浪漫』

監督:豊島圭介

明治時代の異人館平手友梨奈の底知れない魅力に取り憑かれた男の恋文を、侮蔑を込めたかのような声色で平手が朗読する。「子どもで大人」。真っ赤なワンピースは幼く、妖艶。最後の最後に15歳の少女の声と表情を覗かせるが、それすらも"素の平手友梨奈"ではない"15歳の少女"の演技なのだろう。個人PVはそのメンバーの魅力を引き出すものが多いが、この作品は平手友梨奈本人の魅力ではなく、スイッチの入った平手友梨奈の"演じる"凄みを捉えた作品。この作品だけ関わってるスタッフの人数が他のメンバーよりも明らかに多いし、力の入れようが否応なしに伝わってくる。

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守屋茜『KICK'N'CLEAN』

監督:加藤マニ

音楽がいい。服はちょっとダサい。えーっと、あんまり言うことがない。

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■米谷奈々未『文學ガール』

監督:藤枝憲/須藤中也

竹下夢二『秘密』、太宰治『女生徒』、夏目漱石夢十夜』の3つの文学作品を朗読する米谷。自然の中に立つ制服姿の米谷の映像が、その作品の表現の一つ一つをより際立たせている。「美しい目の人と 沢山会ってみたい」、湖の中に入って傘差してるシーンが個人的なハイライト。個人の魅力というよりは、映像と文学との調和の上に成立している作品。米谷は「和」のイメージが強いし、こういう文系路線は非常に好き。あとはもうちょっとだけ舌足らずな語り口がどうにかなれば。

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渡辺梨加『私の好きな人。』

監督:橋本侑次郎

眼鏡かけてる渡辺梨加を見れるだけでもう十分ではあるが、不思議キャラや天然キャラを使ってシュールやポップな方向に逃がすのではなく、正面から"恋する女の子"を渡辺梨加さんに演じさせてくれてありがとうございますって感じで。意外とこういう渡辺梨加は珍しいと思う。ノースリーブのチェックのワンピースに眼鏡、100点。手紙に口紅でハートマークを書くシーン、1000点。

と途中までは思ってけど、オチはやっぱり渡辺梨加だった。でもそこも含めてめちゃくちゃ好き。

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上村莉菜『煙に巻く』

監督:中島望

奔放でわがままな上村莉菜は最高にかわいい。もうとにかくかわいい。そしてタイトルも伏線になっていて、最後に少しドキッとさせられる。なんにせよ、女の子がかわいく撮れてる映像は偉い。

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志田愛佳『ドラムス・シンバル・サバイバル』

監督:川口潤

渡邊理沙とともにザ・クールと言われる志田だが、そのイメージとは異なり内面は熱く、芯の通った信念を持っており、その意志を鼓動という形でドラムのビートで表現した、という風に解釈を勝手にしましたがどうでしょうか。ラスト、振り向いて見せる笑顔を見れば、そんな解釈は瑣末な問題なんですが。

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■長沢菜々香『私の夢』

監督:土屋隆俊

特技のバイオリンを張り詰めた静寂の中、ドレスアップして演奏する長沢菜々香の普段のキャラとのギャップがすごく、非常に女性的な彼女にドキッとさせられる。特技披露と本人コメントという意味では佐藤詩織の『Ballet』と大きく変わらないはずなのに、こちらの方が「おぉ!」という新鮮さがあったのは、個々に対して持ってるイメージとギャップがあったからだろうか。掘れば掘るほど隠し持っている。なー研入りたい。

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■渡邊理沙『Love Letter』

監督:月田茂

ぶっきらぼうで不器用な女子高生が、初めて好きになった人にラブレターを書くも相手から先に告白されてしまう。渡辺梨加の『私の好きな人。』も意中の相手に手紙を書くという話だったが、最後に自分の好きな人が誰かを忘れてしまい「ま、いっか」とすませてしまう渡辺梨加と、好きな人に先に告白され「なんかつまんない」と自分の手紙を破り捨ててしまう渡邊理沙。同じシチュエーションではあるが、お互いのキャラが導く異なる結末が好対照に光る。あと告白された瞬間に「なんか急に世界の音が聴こえだした」と音楽が流れ出す演出、ベタかもしれないけどそこからのカットが正に色が付いたように映ってとてもいい。渡邊理沙の表情には心の内を読ませないミステリアスな魅力がある。

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■長濱ねる『じぶんルール』

監督:柴田啓佑

転校を目前に控え「自分の決めたルールが果たされたら彼に告白する」、と決心するも、中々うまくいかない女の子を演じる長濱ねる。現実の長濱も長崎から上京し、東京の高校に転校したため元々通っていた長崎の高校の卒業式には出られなかった。そして親にアイドルになる道を反対され、一度は夢を諦めた。この物語の主人公は、そんな現実の長濱ねると大きくシンクロしている。作中の彼女が最後「ルールは破るためにある」と、自分で決めたレールを離れた先に待っていた結末。演技も思ったより自然で違和感なく、長濱ねるの良さが120%で出ている最高のビデオだと思う。「余は満足じゃ〜」って周るとこ、最高にかわいい。

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サヨナラの意味 - 橋本奈々未卒業に寄せて

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16thシングル

2016年11月9日。乃木坂46の16枚目のシングル『サヨナラの意味』がリリースされた。この曲は初期より乃木坂46の中心メンバーとしてフロントに立ち続けてきた橋本奈々未が初めてセンターを務めた楽曲であり、そして同時に、彼女の最後のセンターを飾る1曲となった。

表題曲「サヨナラの意味」は、美しいピアノのイントロに始まり、ストリングス、エレキギター、シンセ、そしてボーカル、コーラスと、それぞれのパートが曲が進むにつれ重なり合い、厚みを増していくミディアムバラードだ。「サヨナラに強くなれ」。選抜メンバー19人による重層的な歌声は、ただ悲しみに暮れるのではなく、別れを受け入れ、前に踏み出そうとする凛とした力強さを放っている。それは新しい一歩を踏み出す橋本の背中を押すような力強さと、見送る者の寂しさに寄り添う優しさに満ちている。まるで曲そのものが、彼女の芯の通った、しなやかな人柄そのものを映しているかのように。

昨年の6月に、乃木坂46からは深川麻衣がグループを卒業し、同年3月には彼女を送り出す作品として、乃木坂としては初めて、明確に一人のメンバーの卒業を受けたシングル、『ハルジオンが咲く頃』がリリースされた。同じ卒業ソングながら、この曲は去っていったものが残した慎ましさと逞しさ、温もりを感じさせる作品だった。ハルジオンの花言葉は「追想の愛」。もうここにはいなくても、その淑やかな美しさを何度でも思い出す。メンバーやファンから「聖母」と呼ばれた深川麻衣を思わせる、慈しみをたたえた楽曲だった。どちらも別れをテーマにした曲だが、「サヨナラの意味」には、別れへの揺るぎない決意が宿っていた。

最初で最後の握手会

2016年11月23日。幕張メッセで行われた全国握手会に行った。人生初の乃木坂の握手会。これまで一度も握手会には行かなかったが、橋本奈々未と握手できる最後のチャンスだったので、意を決して始発に乗り込んだ。幕張メッセに着いたのは午前6:30頃。 ミニライブが始まるのは午前11:00。4時間30分の待ち時間。でも不思議と苦ではなかった。これから橋本奈々未に会えるのかと思うと、何を話そうか、何を伝えようか、たった数秒の与えられた時間を使って、後悔ないと思えるほど自分の気持ちを正しく伝えられる言葉は何か、そればかり探していた。

午前11:00、ミニライブが始まった。披露されたのは表題曲「サヨナラの意味」を含めた、シングルに収録されている全7曲。初のライブ歌唱となった「ないものねだり」では、橋本が生歌を披露していた。歌が得意な人ではなかったと思う。緊張で声が震えていたようにも思う。けれど時折音程が不安定になりながら、言葉を綱渡りに紡ぎながら、無事に最後まで歌い切っていた。歌い終えた後、安堵からか、表情が緩み笑顔を見せた橋本の表情が印象的で、その姿を見れたことが嬉しかった。

握手会の列に並び始めたのは13:00頃。そこから握手会の会場に入るまで1時間ほど待つ。深川麻衣の卒業前の最後の全握が4時間待ちと聞いていたので、同じか、それより少しかかる程度の待ち時間は覚悟していた。もとより既に5時間以上待っているので、ここまでくると時間の感覚は麻痺している。

14:00頃、橋本奈々未レーンに入る。彼女との握手を待つ人で途方もない長さの列ができていたものの、「いよいよこれから会えるのか」という期待と緊張の気持ちの方が遙かに勝っていた。橋本がラジオやブログで好きと言ってはばからないSuchmosを聴いてその時を待つ。

待つ。待つ。iPhoneに入ってるSuchmosの曲は全て聴き終えた。アーティストを変える。待つ。待つ。並び始めて2時間が経つ。幕張メッセの9〜11ホールに横たわる何重にも折り返した巨大な列の半分にも達していない。目を疑うような光景を前に、このままだと握手できるまでどう見積もってもあと4時間はかかると気づく。冗談のような現実を目の当たりにし、自分のやっていることが、途轍もなく罪なことのように感じられ、寒気がした。たった数秒の握手のために6時間待つ、どう考えても普通ではない。何よりも握手のために6時間待つということは、それ以上の時間、彼女はファンと握手をし続けるということだった。その列に並ぶということは、彼女の心と体を酷使することと同じことのように思えた。湧き上がる罪悪感と反吐の出そうになる気分から逃げたくなり、今すぐその場を離れてしまいたくなる。でも「この最後のチャンスを逃してお前は一生後悔しないのか」という声が頭をよぎった。なんのために今日ここに来たのか、これが本当に最後だぞ。そのもう1人の自分の、言い訳のような訴えが頭から離れず、その場から動くことができなかった。

待つ。待つ。どれだけ待っただろうか。楽しみなどという気持ちはとうに消え失せ、申し訳ないという罪悪感が寄せては返す波のように何度も訪れ、それでも並び続ける矛盾した自分を呪い、答えのない葛藤の中振り切った、ここまできたらやるしかないという放棄にも似た決意さえ見失うほど、ただただ時間が流れていった。

20:00、橋本奈々未レーンに入り6時間が過ぎた。最後の一列がやってくる。握手の時が近づくにつれ、それまで疲弊し、神妙な顔をしていたはずの周りのファンがみな、表情が生き返り、目が輝き始めた。もちろん自分もそうだった。「何を話そう」。それまでの6時間がなかったかのようにみな、目と鼻の先までやってきた未来の話に声が弾んだ。"アイドル"という存在の業の深さと、尊さを目の当たりにしたようで、そしてその形容しがたい何千人という人間の清濁併せた感情の渦の全てを、その身一つで受け止めようとする橋本奈々未という人に抱いた感情は、言葉にはなれず、心に溶けていった。

握手の時。間近で見る橋本は、テレビや雑誌で見るよりももっと華奢で、か細く、手も小さかった。椅子に座った彼女と握手をする。握り返す力はないに等しい。目が合う。

「アイドルになってくれてありがとうございます」

『ありがとう』

「ずっと、元気でいてください」

『ありがとう』

時間にして4秒。最初で最後の瞬間は、呆気なく終わった。その声は小さく、吹けば消えてしまいそうだった。ただ次の人と握手をする瞬間まで、離れ行く自分からも、彼女は合わせた目を一度も逸らさなかった。

「アイドルになってくれてありがとう」なんて、残酷な言葉だと思った。アイドルになったせいで経験した嫌なこと、辛いこと、悲しかった、忘れたいことさえ全て肯定してしまうような言葉だと思った。でも、絶対にそれだけではないはずだった。何より自分は、彼女がアイドルになってくれたから出会えた。アイドルだったから好きになれた。だからその選択に感謝したかった。乃木坂46になってからの、彼女のこれまでの全てに感謝したかった。

アイドルになってよかったと、思っていてほしかった。 

20:30、会場を後にする。どうするのが一番正しかったのかは未だにわからない。今なら違う言葉をかけたかもしれない。でも帰り道、「握手することを選んでよかった。」、それだけは確かに感じられた。

その日、橋本奈々未の握手が終了したのは、23:00を回った頃だった。

ラストライブ

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2017年2月20日。乃木坂46の5th YEAR BIRTHDAY LIVE初日、そして橋本奈々未の誕生日でもあり、彼女が乃木坂46を卒業し、芸能界を引退する最後の日がやってきた。天気は曇りのち雨。二度と使うことはないとわかっているグッズを鞄に詰め、さいたまスーパーアリーナへ向かう。

場内に入ると、乃木坂のライブでは最大規模の、全面にLEDを配した巨大なメインステージと、会場中央にはセンターステージ、そしてそこから十字に伸びた花道が広がっていた。スタンド席の最上段からメインステージ裏のバックステージ席まで全て解放され、平日の18時開演にも関わらず、さいたまスーパーアリーナのスタジアムモードが35,000人もの人で埋まっていた。チケットの取れなかった人や地方に住む人、仕事や学校、色んな事情のあった人。来たくても来れなかった人が沢山いたであろう中、自分がこの場所にいれることは、少なくない幸運の巡り合わせのおかげなんだと、ふと思った。

開演。オープニング映像が流れる。紅白の楽屋での映像のようだ。みんなで手を繋ぎ円になり、2017年へのカウントダウンをしている。5.4.3.2.1.…「ハッピーニューイヤー!」。新年を祝福する輪の中で、誰かが言った「あと2ヶ月あるよ」。その言葉とともに、涙に目を抑える橋本の姿が映る。 

映像が終わり、センターステージに橋本が1人現れた。静寂の中、深々と一礼する彼女。1曲目は「サヨナラの意味」。最後のライブが始まった。

桜井「今日はどんなライブにしたい?」

橋本「私自身もこういうステージに立つのが最後になるから、この景色を焼き付けつつも、それ以上に、…皆さんが帰った後も、こびりついて離れないようなライブにしたい。」

この日はBIRTHDAY LIVEだったが、従来の時系列で乃木坂の歴史を追っていく曲順とは異なり、デビューから最新曲「サヨナラの意味まで」、曲を橋本自らもセレクトし、それぞれのシングルとアルバムから順番に披露していく「橋本奈々未」という人を振り返るようなセットリストだった。シングル曲は、その曲のセンターのメンバーに加え、橋本もセンターに来るスペシャルなフォーメーションで披露された。「指望遠鏡」、「やさしさとは」、「僕が行かなきゃ誰が行くんだ」、「革命の馬」、「ボーダー」、「制服を脱いでサヨナラを…」、「ここにいる理由」、「君は僕と出会わないほうがよかったのかな…」、「自由の彼方」。どれもシングルのカップリングやアルバム曲だが、どの曲も卒業ライブという別れの日に聴くことで、いつもとは違う意味合いを持ち、別の表情を見せていた。ただ卒業ライブの日であっても、自分の参加していないアンダー曲やユニット曲も関係なく入ったセットリストに、橋本の乃木坂46への想い入れや、その曲をパフォーマンスするメンバーへの愛情を感じた。橋本が乃木坂の曲で1番好きという「生まれたままで」は、同じ2月20日生まれの伊藤万理華とともに、センターステージの最上段で背中合わせになりながらの披露。曲が終わると、サプライズで伊藤万理華への誕生日ケーキが用意されていた。奈々未の卒業コンサートなんだからと、橋本を立てようとしゃがむ伊藤。万理華だって誕生日なんだよと、伊藤を祝おうとしゃがむ橋本。35,000人の中心にいた2人は、誰よりも小さくなり、笑い合っていた。

桜井「めっちゃ息切れてるね。」

橋本「やっぱりね、全てを出し切ろうとすると、息が切れちゃうね。」

桜井「珍しく汗かいてる。」

橋本「本当?」

桜井「綺麗だよ。」

橋本「(照笑)」

桜井「最後だから言っちゃった(笑)」

MCでのメンバーとの何気ないやりとりにも、終わりの時が近づく。

橋本「(センターステージで、行ったり来たりを繰り返す)こうしてみんなを見るのも、これが最後なんだなと思って。」

橋本「次が最後の曲になります。」

メンバーと抱き合いながら、笑顔の「孤独な青空」で、本編は終了した。

アンコール、衣装を着替え、1人現れた橋本。

橋本「私は「ないものねだり」という曲を歌っているけど、「ないものねだりしたくない」って歌っているけど…、こんなに素敵な景色を何度も何度も目の前にしているのに、別の道を進みたいと思うのが、いちばん「ないものねだり」だなと感じてます。」

橋本「私が選んだ道が正解であることを願い、きょう皆さんが私とお別れして、その先に、皆さんの道に、楽しいこと、うれしいこと、幸せなこと、これでよかったと思えることがたくさんあることを願っています。 」

そうして歌われた「ないものねだり」。

歌が得意な人ではなかったと思う。涙で声が震えていたようにも思う。途中、言葉に詰まる瞬間もあった。それでも自分の心の内をファンに伝えるように、揺るがない決心が、揺らぐことのないように、胸を張り、最後まで歌い切っていた。

「ないものねだり」の後のMCでは、サプライズで白石から橋本への手紙が読まれた。白石が泣きながら手紙を読む間、目に涙を浮かべながらも、橋本は白石の目を離さなかった。それは握手会の時、自分の目を見続けてくれたその姿と同じだった。

乃木坂46橋本奈々未、白石麻衣の手紙に号泣 卒業スピーチ&白石手紙全文 | ORICON NEWS

(手紙を読み終えて)

白石・橋本「ティッシュください(泣)」

白石「泣いてる私ブス」

橋本「かわいいよ」

白石「そっちこそ!」

橋本「うっ、やられた(泣)」

※白石と橋本が過去に明治チョコレートのCMに出演した際の2人のやりとり 

そして本当のラストへ。

橋本「アリーナのみんなありがとう。スタンドのみんなありがとう。上の席のみんなありがとう。ステージ裏のみんなありがとう。ペンライトを緑にしてくれてる人ありがとう。今手を上げてくれている人ありがとう。立ってくれてる人ありがとう。今日ここに来て、私を見てくれてありがとう。」

一つ一つに感謝の言葉を告げ、ステージ下手に向かい、移動式のステージに立ち、その時を迎える。アンコール最後の曲は「サヨナラの意味」。

移動式のステージに1人立ち、ファンに手を振りながら場内を一周する彼女。

「後ろ手でピースしながら 歩き出せるだろう」

ファンに背を向け、後ろ手でピースをしてみせる彼女の強さが、眩しかった。

「サヨナラに強くなれ」。乃木坂46全員による歌声は、悲しみを振り払うように、何度も、何度も、繰り返された。

ステージに並んだメンバーが1人ずつ、橋本と別れの言葉を交わし、ステージ裏へ下がっていく。齋藤飛鳥は、橋本の伸ばした手に応えようとせず、彼女の肩で泣いていた。最後の白石とは、マイクにも聞こえない2人だけの会話をし、お互いのこれまでの日々を認め合うように抱き合った。

「おわった!」「さようなら!」

会場上空へと上がっていくゴンドラの上で、最後の瞬間まで深く下げた頭を一度も上げないまま、約3時間半に及ぶライブと、5年半に及んだ橋本奈々未乃木坂46としての最後のステージは、幕を下ろした。

握手会の時に見た橋本奈々未は、散る寸前の花のようだった。華奢な体で、握り返す力も弱くなった小さな手で握手をし、それでも語りかけるファンの目は絶対に離さずに、全ての言葉に頷き、全てに言葉を返していた。その姿はあまりに儚くて、いますぐ散ってしまいそうだった。

でも卒業コンサートで見た橋本奈々未は、沈んでゆく夕陽のようだった。もうすぐ目の前からいなくなってしまうことなんて忘れさせるほどに、どこまでも眩しくて、何よりも輝いていた。人生で見た全ての中で、一番綺麗だった。見る人を照らす太陽は、その姿が彼方に沈んでも、また別の場所で昇り、その褪せることない輝きで、誰かを照らすのだろうと思った。

どうしたらこんな人になれるんだろうか。どうしてアイドルは、最後が一番美しいんだろうか。答えは見つからないまま、涙が止まらなかった。楽しいも、好きも、悲しいも、寂しいも、辛いも、全てが霞んでしまうほど、美しい最後だった。

サヨナラの意味

2017年2月23日。オフィシャルとしては最後の仕事となったSCHOOL OF LOCKの放送。ファンへ残した最後の言葉を聞いて、間に合ってよかった。この人と出会えてよかった。好きになれてよかった。ただ、そう思った。

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2017年2月24日。最後のモバメが届いた。これが本当に、本当の最後。あっさりとした文体。簡潔な言葉。オセロの石が、一手で全てひっくり返るような、手にとって触れそうなほどの決意。余りにも軽やかで、そして力強い志を目の当たりにして、いつまでも悲しみを引き連る自分が恥ずかしくなった。握手会の時、瞬き一つせず自分の目を見続けてくれたように、彼女の視線は今、揺らぐことなく、目の前に広がる未来を見ているのだろう。

なんで彼女を好きになったのか考えた。外見の好み、もちろんめちゃくちゃある。可愛い子や綺麗な子は世の中に沢山いる。乃木坂なんて更に可愛くて綺麗な子しかいない。その中でも、顔も髪型も、ショートヘアーもロングヘアーも、ブランドや値段より好きなものを選んで着こなす服装も、所作も、極端なことを言わず自分と相手のことを考えて慎重に言葉を選ぶ言葉遣いも、優しくて、でもメンバーにもファンにも媚びない、人への接し方も、一番好きだった。何かのインタビューで好きな男性のタイプを聞かれた時「言葉がやわらかい人」と言っていて、そういう人間になろうと密かに思った。

音楽の趣味が自分に近いことにも勝手に親近感が湧いていた。以前ブログで好きなアーティストを書いた時、その内の一人に細美武士と書いていた。自分も彼のことが好きで、そしてELLEGARDENthe HIATUSとバンド名ではなく「細美武士」と書くところに、1人シンパシーを感じていた。最近ではSuchmosの話をすることも増えたけど、Suchmosを好きと言いながら、キュウソネコカミに感動する橋本奈々未が好きだった。

他にも好きなところを挙げれば沢山ある。でも、きっと1番好きだったのは、物事の考え方や生き方だったんだと思う。

「自分に正直に生きていたい」。

最後のアップトゥボーイのインタビューで語っていた言葉。客観的に物事を見つつも、ブレない自分の考えや意志をしっかり持っていて、感じたことを、時に素直すぎるほどに表に出す人。モバメでファンに思っていることをぶつけることも少なくなかった。正直そのメールを読むと、しんどい気持ちになることもあった。でも思い返せば、ブログでも昔からファンにもハッキリと思ってことを言っていた人だった。スタッフや関係者には"子供っぽい"ところもあると、メディアで書かれていたこともあったけど、それは自分の気持ちに正直であろうとしたことの裏返しだったんじゃないかと思う。卒業を発表したANNで、桜井と生田を呼んで「(この2人は)ズルくない」と言ったことが、ファンの中で憶測を呼んだこともあった。でもそれも、この2人は自分自身に対して嘘をつかない人だと、言いたかったんじゃないかと思う。ファンの目に見える部分なんてほんの一部で、全てはこちらの都合のいい解釈でしかないけれど、それを信じられるような、まっすぐな人だったと思う。

サヨナラは、その人がいたことの証だ。そしてサヨナラの数だけ、残るものがある。自分にとって、橋本奈々未が残してくれたものは生き様だ。

自分が人生でこの人のようになりたいと思っている人が一人いる。そしてそこに、橋本奈々未も加わって二人になった。それが自分より年下の女性アイドルになるとは思わなかったけど、カッコいいことや美しいこと、尊敬できるということに、年齢も性別も職業も関係ない。人生という道で、何千マイルも先を走る彼女の背中に追いつけるように、自分に正直に、自分らしく、自分の選んだ道を、自分で切り開いていく、そういう風に生きたいと、強く思った。「幸せになってほしい」なんて言葉を彼女にかけるのは100年早かった。まず自分自身が、それに足るふさわしい人間になりたいと思った。

ずっとありがとうございました。本当にお疲れ様でした。

出会えて、好きになれて、心から良かった。

こんな気持ちにさせてもらって、あんなにカッコよくて、美しい卒業を見届けさせてもらった自分は、アイドルファンとして、最大級に幸せなんだと思う。悲しいし、寂しい。それでもなお、これ以上望めないほどに、自分は幸せなファンだと思う。

いつか偶然でも、どこかで会えたらいいな。その時には「あなたのおかげで幸せになれました。」そう目を見て言えるような、正しい人間になっていたい。そんな期待は持つべきではないけど、期待が希望になって、希望が未来に変わるなら、夢見るぐらいは許してほしい。

 

でもそう望んでしまうのはきっと、ないものねだりなんだろう。

 

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27

2017年2月7日、27歳になった。2と7づくしだ。 気がつけばそれなりに大人になっていた。中学生や高校生の頃から考えたら27歳なんて完全に大人。仕事をバリバリやって、結婚もして、普通の、"正しい"幸せに向かうレールの上に乗って、あとはその道を走っていればいいだけのはずだった。

けど実際は精神性はロクに成長してないし、好きな仕事をしてると言えば聞こえはいいが、低い給料と不透明な未来を前に、いつか必ずくる決断の時をごまかしながらやり過ごす毎日。結婚どころか彼女もいない。自分が親なら「おまえこのままで大丈夫か?」とマジで心配になってくる。50年後どころか5年後さえ自分がちゃんと生きれてるか、不安を感じない日はない。

でも矛盾してるようだけど、自分のことはそんなに嫌いじゃない。26年間生きてきた中で、今が一番"良い人間"だ。10年前より、5年前より、1年前より、昨日より。「昔」と比べたら「今」の方がいくらかはマシな人間になれている、気でいる。これで人生で一番マシだなんて、今までがどんだけクソでしょうもない奴なんだって話だが、「自分」を誰よりも一番見てきた『自分』としては、間違った方向には進んでないんじゃないかと思う。もちろん、他の人と比べたらダメなところだらけで、自信を持てるところなんて未だ一つもない。それでも、過去のどんな自分よりも、『今の自分』が1番好きだ。

"良い人間"ってなんだろうか。自分で言ってみたものの答えはわからない。優しい人、誠実な人、言葉を選ぶ人、気持ちを伝えられる人、正直な人、自分に嘘をつかない人、大切な人を大切にできる人、努力のできる人、本気になれる人、夢を持ってる人、想像できる人、行動できる人。色々並べてみたけれど、他の人に聞いたら、全く違う答えが返ってくる気がする。

容姿のことで言えば自分はブサイクだ。こういうことは男性も女性も自分から言うものではないが、とはいえ現実問題仕方ないものでもある。でもカッコいい人間になりたいと思ってる。イケメンじゃない。自分の顔も好きじゃない。ただそれでも、いやそれならせめて、生き方のカッコいい人間にはなりたい。そう思ってしまっている。

優しい人間じゃない。何かしたって「人によく思われたい」「嫌われたくない」、そういった感情の裏返し。卑しい自分に"自分"が気づくと吐きそうになる。「自分のため」と割り切ることで、なんとか見て見ぬフリをしてる。でも少しでいい。何の感情も葛藤もなく、全てそうあることが当然のように、優しい人間になりたい。そう思ってしまっている。

口先だけのやつほどカッコ悪いものはない。綺麗事を並べてただ傍観してるだけでは信用に値しない。そういう人間にはなりたくない。吐いた言葉の1/10000にも満たない等身大の自分。迷いだらけの一歩を踏み出してみる。ダサくて、カッコ悪くて、情けなくて、惨めで、恥ずかしくて、痛々しい。頭の中で描いた妄想は何一つ叶わない。大したことのない人間。落ち込んで、傷ついて、呼吸が苦しくなる。思い出す度に羞恥心と自己嫌悪が全身を蝕む。もうこんな思いはしたくない。それでも、その踏み出した一歩の分だけは、マシな人間になれたんじゃないか。そう思ってしまっている。

結局"良い人間"なんてものに答えはなくて、目指すべきはただ「自分の"なりたい"自分」、それだけなんだろう。

「どういう人間になりたいか」、その姿を描ければ、進むべき方角に向かって歩んでいける。その道すがら、遠回りをしたり、迷ったり、立ち止まったり、つまづいたり、引き返したりすることもあるかもしれない。それでも、その霧の、その雲の向こう側に見える山の頂を見失わずにいられたら、今どんな場所にいたとしても、視線の先は揺るがずにいられる。

けど生きてれば雨の日もあれば嵐の日もある。目指したはずの頂を見失って、どこに進めばいいかわからなくなる日が来る。ただそんな時にだって、気づいていないだけで、誰よりも自分自身こそが、進むべき道を知っている。嬉しい、楽しい、悔しい、悲しい、むかつく、かっこいい、ダサい、寂しい、尊敬、憧れ、嫌悪、感謝、嫌い、好き。何度となく胸の内に灯る理屈を超えた心のサイン。昔馴染みの感情から、いまだ名前を知らないその想いまで。その心のサインが、進むべき方角を教えてくれる。「自分はどう生きたいか」。たとえ迷いや悩みの中にいても、その気持ちに正直に従えば、その先にはきっと、目指すべき山の頂が待ってる。

そして絶対に辿り着くことのないその山の頂を、死ぬまで目指すことを止めない人間になりたいと思う。完璧になれる日なんて永遠に来ない。でも死ぬ時、息を引き取るその最後の瞬間にこそ、自分の人生史上、一番良い人間になれてたらいいと思う。その山の頂に最も近い場所か自分の人生を眺めて、「悪くなかった」と思って死にたい。その時だって周りの人と比べたらクソ野郎のままかもしれない。それでもその時には27歳になった今の自分の、9000倍ぐらいは良い人間になっていたい。

音楽によって自分の人生は変わった。そう思える曲がある。そして自分の人生を変えた曲が、自分の生き方そのものになっている。

<いつかそんな言葉が 僕のものになりますように>

綺麗事を"綺麗事"と言う人がいる。でもやはり、物事がそうなっていく方がいいと、思ってしまっている自分がいる。

27歳、気がつけばそれなりに大人になっていた。言っても自分はロックスターじゃないからきっと27歳じゃ死なない。才能も能力も魅力もないしょうもない人間。だからこそ、まだ死ねない。良い人間になりたい。答えのない山の頂は果てがない。辿り着くことのない「いつか」。

でも"いつか"、そんな日が来ることを信じてる。

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