22│08│Sunburn

■某日
 誰かに告白をされ、相手の気持ちに応えられない時、自分がひどくダメな人間に思えてくる。自分がその人と一緒に過ごした時間は同じはずで、その時間の中で、その人は自分でも気づいていないような良いところを見つけてくれて好きになってくれたのに、同じだけの時間を過ごしたはずの自分は、その人の素敵なところやその人にしかないものに気づけなかった。その人が自分に向き合ってくれた気持ちに対し、自分は上辺の部分だけしか見れていなかったのかもしれない。全ての好意に応えなければいけないわけではないが、自分はどうしようもない人間だという気分になる。申し訳ないとか、自己嫌悪とか、断った側の人間が落ち込むというのはすごく失礼な話かもしれないが。

 人に好きになってもらえるような人間になりたい。でもそれ以上に、もっと人のことを好きになれる人間になりたい。一体今までいくつ自分は見落としてきたのだろうか。通り過ぎてしまう人もいる中でそこにあるものに気づき、足を止めることは、誰にでもできることではない。もしこの世界を回している人がいるとするなら、それは誰かに愛される人よりも、誰かを愛する人がいるからだと思う。

■某日
 ROCK IN JAPAN FESに向かう。3年ぶりとなる今年はこれまで行われてきた茨城県ひたちなかから千葉県の蘇我に会場を移しての開催。JAPAN JAMにも行ったことがないので、3年ぶりの夏フェスな上に初めての会場ということで勝手がわからず、ギリギリで特急券を買ってみたりなど当日の朝まで準備でバタバタする。しかし東京駅はお盆休みということもあり帰省するのであろう人たちでごった返していたが、蘇我行きの電車は思いの外空いており、蘇我駅に着いてから会場に向かうまでの道のりもそこまでのストレスなくスムーズ。人数を絞っているのか前2日での反省点を改善したのか、どちらにせよ少し拍子抜けな気持ちで入場ゲートをくぐる。
 蘇我スポーツ公園の会場はひたち海浜公園と比べるとかなり"コンパクト"という印象で、各エリアの移動時間も以前までと比べるとかなり短縮できる。しかしひたちなかのあの途方もないように感じるフェス空間やGRASS STAGEの広大なフィールドと比べると、開放感という意味では若干のスケールダウンも感じる。でも蘇我スポーツ公園の中にはテントやベンチなど休憩スポットがかなりの数設けられている上にフクダ電子アリーナも丸々休憩場に使えるというのはかなりありがたく、どちらにも良いところがあるのは間違いない。
 
 朝一から会場に着きsic(boy)→Creepy Nuts→優里→NUMBER GIRLKREVA→変態紳士クラブ→Awich→マキシマムザホルモンKICK THE CAN CREWストレイテナーBUMP OF CHICKENを見た。Creepy Nutsを見ている時、地獄みたいな大雨が降ってきて避難したら、逃げている間にライブで聴きたかった"2way nice guy”をやっていて少し後悔した。KREVAが生バンドで"イッサイガッサイ"をやってくれておれの夏が始まった気がした。4分後、おれの夏は終わった気持ちになった。腰は低く、でも自分のスタンスを貫き「HIPHOPのカッコよさをロッキンの人たちに伝えたい」と話していたAwichの姿がカッコよかった。サプライズでANARCHYが出てきた時はちょっと声出た。途中にカレーといちごけずりとハンバーガーとハム焼きとラーメンも食べた。3年ぶりにいちごけずりを食べた時は遠距離恋愛中の彼女に久々に会えたような気持ちになった。500mlのポカリを4本飲んだ。ずっと歩き回ってずっとライブを見ていたら疲れたのでフクダ電子アリーナに入った。日陰の座席に風が入り込んできて、メインステージの音楽が流れてきた。最高の気分で「マジで寝てー」って5回は思った。ちらっとホルモンを見ようとステージに行ったら自分が中学生や高校生の時に聴いていた曲をやっていた。「まだこの曲やってるのか」と思ったが、生で見るとやっぱ圧倒的なパフォーマンスでめちゃくちゃテンション上がった。R-指定が出てきて"爪爪爪"をやった時、大学時代にキャンパスで見かけた「ホルモンの歌詞意味わかんないけどマジかっけー」と言っていた名前も知らないやつのことを下に見ていたことを思い出した。KICK THE CAN CREWのライブ中、オレンジに光る夕陽が綺麗だった。なんだかロマンチックだったなと感慨に耽っていたら社用携帯を無くしていることに気づいた。心臓バクバクで無くしたであろう場所を探してみるも見つからず、激鬱なムードで落とし物センターに行った。スタッフの「届いてないですね」の一言で一蹴された。ダイソーの店員の「そこになかったらないですね」ぐらいのテンションだった。めちゃくちゃ楽しみにしていたストレイテナーも社用携帯をなくしたことを引きずり全然集中できなかった。でも"Melodic Storm”が流れてきた時、-200ぐらいだった気持ちが+380ぐらいまでアガッた。やっぱストレイテナーって良いバンドだなと思ってちょっと涙出た。ストレイテナーのバンド名の由来は「真っ直ぐにする人」だ。もう携帯はええわと開き直ってバンプを見た。"K"と"才悩人応援歌"にビビった。この日は2000年代の学生時代に聴いていた曲を沢山聞いて何度も懐かしい気持ちになった。15年以上も前に心動かされたあの日の自分が今も自分の中にまだいるってことかもしれない。一緒に年を取りながらこうして音楽を続けてくれるアーティストに感謝した。バンプのライブ後に花火が打ちあがった。きっと今年最初で最後の花火だろうなと思った。それでよかった。Twitterのフォロワーの人と会った。初対面だったのでだいぶ緊張して焦ったが、携帯を無くした時よりはマシだった。会場を出る時、入場ゲート横にある落とし物センターに立ち寄った。始末書ものだと思っていた社用携帯は、お客さんかスタッフの人かはわからないが、誰かのおかげで自分の手元に戻ってきた。顔も名前もわからない誰かのやさしさを感じた。自分も、誰かにこの気持ちを還したいと思った。帰り道、フォロワーの人とコンビニでお酒を買い話をした。こういうことをするのもすごく久しぶりだった。Twitterは誰かに向けて何かを書いているわけじゃない。でも、"誰かに届いたらいいな"ということを書いているのだと思う。それを見てくれている人がいるということが、うまく言葉では伝えきれないくらいありがたかった。 

 あっという間に一日が終わった。一日ですごく沢山のことが起きた気がする。普段寝ている時間に目覚め、初めての道を歩く。太陽と雨と風に晒された。太陽が昇り、沈んでいく。月と花火が同じ空に並んだ。色んなアーティストを見た。ご飯も沢山食べた。ポカリもバカみたいに飲んだ。自分の心がジェットコースターのように揺れた。音楽を好きだなと思った。
 やっぱりフェスは良いな。それが当たり前だった日のことを、3年ぶりに思い出した。

■某日
 ロッキンの翌日、ちゃんと日焼け止めを塗っていたはずなのに日焼けをしていた。思えば日焼けをするのも3年ぶりかもしれない。腕時計をしていた部分だけ白く残った歪に焼けた自分の肌を見て、the HIATUSの"Sunburn"を思い出す。

Summer time is so much fun
It’s so bright
Left me with a sunburn
just another chance for me to think it over

夏は本当に楽しい
すごく眩しくて
日焼けと俺を置き去りにする
少しだけ思い出せるように

 この日焼け跡を見てると、Creepy Nutsを見てる時に降ってきた洒落にならないレベルのゲリラ豪雨も、3年ぶりに食べたいちごけずりの味も、被っていたキャップを吹き飛ばしたフクダ電子アリーナの風も、ハム焼き待ちの列で「グッズを買いすぎて金がやばい」と言いながらどこか嬉しそうだった3人組も、途中で社用携帯をなくしたことに気づき顔面蒼白になったことも、バンプのライブ終わりに藤原さんが「一緒に見よう」と言って打ちあがった花火も、フォロワーの人とコンビニでお酒を買って話をしたあの時間も、確かにあった出来事だったと感じられる。

 日焼けをしたいかと聞かれたら全然したくない。次出かける時も、きっと日焼け止めを塗りたくっているだろう。でもその日焼け止めを流すほどの汗と太陽を感じたならその時はまたきっと、忘れられない思い出ができてるってことだろう。時には形あるものこそが、その確かさを証明してくれるから。