22│08│SUMMER SONIC

■某日
 SUMMER SONIC 2022に参加した。今年はTOKYO会場に2日間の参加。2月にヘッドライナーとしてTHE 1975とPost Maloneの出演が発表された瞬間にチケットを取ったので待つこと半年。夏の予定がロッキンとサマソニぐらいしかなかったので、これで今年の夏は終わりだと思うと自然と肩に力が入る。
 
 初日はTHE 1975のグッズを買いたかったので8:30に会場に向かう。めちゃくちゃ早い。と思っていたらグッズ列は既に中々の行列で、結果的に1時間待つことになる。オフィシャルグッズ待ちもアーティストグッズ待ちも全て同じ列に並ばされている間、オフィシャルグッズや各アーティストグッズごとに待機列が分かれているロッキンのありがたみに気づく。ありがとうロッキン。おまけに1時間並んだ果てに売り場に着いた瞬間、欲しかったTHE 1975のTシャツはサイズ切れ。駅のホームに着いた瞬間、乗ろうとしていた電車のドアが閉まった時のあの敗北感。せめてもの抵抗にTHE 1975のタオルとPost MaloneのTシャツを購入。会場で自分の欲しかったTシャツを着ている人とすれ違う度に「くぅ~」という気持ちになる。でもこればっかりはしょうがない。
 
 前半はCVLTE、Mrs. GREEN APPLECHAI、BEABADOOBEE、Rina Sawayamaを見る。見ているアーティストを途中で切り上げてまでマリンスタジアム幕張メッセをちょい早歩きで往復している時、自分は「せっかくだから」とか「もったいない」とか考えてしまう貧乏性なんだなと思う。無理してでも見たいアーティストを何とか全部見ようとしてしまう。フェスに行き始めて10年以上経つがこの見方は間違っているような気もする。でも1,2曲でも良いから見たいと思う気持ちが勝ってしまうのはいかんともしがたい。
 
 初めてライブを見たMrs. GREEN APPLEは華があってステージ巧者で客席の盛り上がりも想像以上で思っていたより遥かに良かった。自分の先入観ほど信用ならないものもない。BEABADOOBEEはとにかく可愛い。全身から溢れ出るキュート。次はもう少し小さいライブハウスで見れるといいな。そしてRina Sawayama。曲自体はほとんど知らない状態で見たけれど、登場した瞬間から自信が漲るようなパフォーマンスで自然と目が奪われる。何よりMCが日本語だったこともあり、彼女が何を思いどんなことを歌っているかが理解できたことで、歌詞の意味はわからなくともその人となりや曲のメッセージがライブを通じてより伝わってくるような感覚を味わった。意味が分からなくても音楽は楽しく、素晴らしい。でも意味がわかると、よりそのアーティストへの感情移入は深くなる。凛々しく、美しく、カッコいいステージだった。
 
 Rina Sawayamaにかなり食らいつつも再び早歩きで幕張メッセに向かいALL TIME LOWとVaundyを見る。ALL TIME LOWのような伝統的とも言えるポップパンクを聴くと、高校生の時にパンクばかり聴いていた頃を思い出し安心すると同時に頬がニヤけてしまう。Vaundyは人が多すぎて1ミリも見れなかった。次はせめてマウンテンステージにしてください。
 
 この時点で疲労困憊で幕張メッセの床に突っ伏したい気持ちになるも今日はある意味ここからが本番。Måneskin→King Gnu→THE 1975とマリンスタジアムに張り付く。道中、Twitterでずっと相互フォローだったフォロワーの人に会う。音楽の趣味がかなり近く、おまけに出身校と学部まで同じことが判明してかなり親近感を抱いていたので会った瞬間「ついに」という気持ちになる。実際に会うとイメージと違うということはSNSでもマッチングアプリでもよくあることだが、彼はイメージ通りのめちゃくちゃナイスガイだった。そんな彼と一緒にMåneskinを見にマリンスタジアムのアリーナへ。正直Måneskinは1曲しか知らない状態で見たが、この日一番と言っていい衝撃を受けた。強烈なギターのリフと蠢くようなグルーヴにスタジアムが揺さぶられ、ボーカルのダミアーノのセクシーで熱のあるパフォーマンスは見ている人間を強制的に惹きつける。問答無用で高揚させられるパワフルなステージ。Rina Sawayamaを見た時、日本語のMCでガイドラインを引いてもらうことで彼女がどういうアーティストかということが理解でき、その理解が楽曲をもう一段深く、観客を結び付けたような感覚があった。けれどMåneskinは言語を伴う理解や共感を必要としなかった。彼らは非常にコンシャスなバンドだ。ヴィクトリアのトップレスでのパフォーマンスもジェンダー規範へのアンチテーゼ。ただあの日、そういったバンドのスタイルを理解してステージを見ていた人が自分を含めどれだけいただろうか。にも関わらず満員のスタジアムを完膚なきまでに圧倒していた。「これがロックだ!」なんて言うとめちゃくちゃダサいが、これがロックンロールなんだと思った。ロックンロールの救世主の冠は大げさではない。
 
 その後King Gnuを挟みいよいよ今年のサマソニで一番見たかったTHE 1975の時間。THE 1975を待っている間、小雨だった雨が徐々に本降りになってきた。服はビショビショ。体力も限界に近い。けれど、雨が酷くなるに比例するように、ここまで来たら嵐が来ようと絶対にぶち上がってやるぜという開き直りのような、逆切れのような、ランナーズハイのような感覚になっていく。そう思っていたのはおそらく自分だけではなく、そのぐらいその場にいる人たちのTHE 1975への期待感の高さがスタジアム内に充満しているようだった。
 
 THE LIBERTINESの出演キャンセルに伴い90分になったTHE 1975のステージはマシューの「グレイテストヒッツ」の言葉に嘘偽りのない、これまでのTHE 1975のヒット曲を集めた夢のような時間だった。ビジョンの映像はモノクロに加工され、映し出されるメンバーの姿は映画のよう。2曲目の"Love Me"でボーカルのマシューがサラッと呟いた「We are back」という言葉。このコロナ禍の2年半ほぼ活動を休止していた彼らが復活したことの重みを感じる。ライブで初めて演奏された最新曲の"Happiness"を聴いている時、不意に彼らが日本で目の前でライブをしていること、大好きな曲を生で聴けていること、その生演奏を世界で一番初めて聴けているのが自分たちだということ、そういった沢山のことへの感謝の気持ちが一度に押し寄せてきてどうしようもなく泣けた。音楽を聴いていると、稀に途轍もない大きな感情に突然出会うことがある。音楽でしか味わったことのない、音楽が好きでよかったと思える瞬間だ。この日の彼らのライブは曲の持つ切実さや切なさを感じさせながらも、同時にとても穏やかで優しい気持ちになれるものだった。歳を重ねたこともあるのか、成熟し、スタジアムの観客全てを包み込むような懐の深さを感じさせヘッドライナーとしての貫禄に溢れていた。特に文字通りの世界初披露だった未発表曲の"I'm in love with you"。好きな曲は沢山あれど、好きな人に聴いて欲しいという気持ちになる曲はそう多くはない。この曲を聴いている時に感じる気持ちは、そのまま好きな人のことを想っている時の自分の気持ちそのままだと言ってしまえるほど温かいものだった。そして"The Sound"でのファッキンジャンプ。他のお客さんと同じ気持ちになりたくてライブに行くわけではない。それでも同じ気持ちになれる瞬間があるとしたら、それはものすごく幸せなことだ。この時、この瞬間を待ち望んでいたスタジアムにいた全員が間違いなく同じ気持ちだったと思える。でもグレイテストヒッツって言いつつ"She's American"や"Sincerity Is Scary"や"Guys"を聴けなかったことは忘れていない。でもそれはまた次の機会に。いつになるかはわからないが、いつになってもいいからまた見たい。死ねない理由は一つでも多い方が良い。

 THE 1975が終わった瞬間、一日の疲労の全てが来たかと思うほど急に腰に疲れが押し寄せてきた。ライブを見ている時は全く気にならなかったので、ライブ中は疲れを感じさせない脳内物質のような何かがドバドバ出ているに違いない。フェス帰りの人波にのまれながら、慌てて携帯をつけ櫻坂46のW-KEYAKI FESのリピート配信を見る。素晴らしい一日の余韻とぐったりするほどの疲労感に浸りながら必死こいてアイドルの配信ライブを見てるのは我ながらどうかしてるという気分になったが、それをするぐらいには櫻坂のことが自分は好きみたいだ。一度きりの幻の披露かと思った"コンセントレーション"が見れた時はビビッて目が1.5倍ぐらいデカくなった。尾関と葵ちゃん本当にお疲れ様でした。

 しかしロッキンの時は「ご飯何食べよう」ばかり考えてなかったのにサマソニではご飯のことほぼ考えなかったな。もちろん、いちごけずりだけはこの日もしっかりいただきました。

■某日
 2日目。起きた瞬間から前日の疲れを引きずっており体は泥のように重かったが、羊文学のために這うようにして海浜幕張へ。羊文学→SE SO NEON→EASY LIFE→KANDYTOWN→YUNGBLUDを見る。羊文学はライブを見るのは初めてだったが、華奢で繊細なバンドという音源のイメージとは裏腹にライブでは全ての音がデカくて最高だった。その後SE SO NEONを見に行ったPACIFIC STGEで取引先の人にたまたま遭遇する。プライベートで見に来ていたらしく、お互いに気づいた瞬間「おぉー!!」と普段会った時はしないようなボディタッチを謎にしてしまう。なぜ人はテンションが上がるとボディタッチしてしまうのだろうか。音楽業界で働いているとスタッフや関係者としてライブを見る機会が増えるのでお客さんとしてライブを見に行かなくなる人も中にはいるが、音楽が好きで自腹でCDを買ったりライブを見に行ったりしている人は信用できる人が多い気がする。EASY LIFEはチルいグルーブで横揺れさせたと思いきや縦ノリの曲で会場を沸かせチルとアゲの狭間を行ったり来たりするような独特のフィーリングでめちゃくちゃよかった。その後は恒例のマリンスタジアムへ早歩き高速移動しYUNGBLUDのステージで別のフォロワーの人と合流する。普段フェスは一人で行くことの方が多いが、こうして誰かと一緒になって、自分とは違う視点の話を聞くのはすごく楽しい。でも自分のマリンスタジアム幕張メッセ高速移動3往復とかに誰かを付き合わせるわけにはいかないので、結局次のサマソニも一人で行ってるような気はする。YUNGBLUDは声出し禁止やモッシュ禁止というルールを聞いてないのかぐらいガンガンに煽りまくっていてもはやちょっと笑ってしまった。

 YUNGBLUDを途中で切り上げマウンテンステージのTOMORROW×TOGETHER→miletへ。この日すれ違う女性ファンのかなりの人がTOMORROW×TOGETHERのグッズを身に着けていたのでかなりのファンが来ているとは思っていたが、着いたころにはマウンテンステージはほぼ満員。メンバーが登場するや悲鳴に近い歓声が上がり、1曲披露するたびにファンの熱量に気圧される。K-POPのアーティストのステージをそこまで多く見てきたわけではないが、韓国のグループのライブはステージ上だけで完成するものではなく、客席も含めて一つのライブなんだと感じた。次のmiletもライブを見たのは初めてだったが、寡黙でミステリアスだったイメージとは異なり本人からは豪快で快活な印象を受けた。miletの曲で一番好きな"us"。原曲は切なさが強調されるようなピアノとギターが印象的だったけれど、ライブではフルバンドでのアレンジが施されており、ストリングスによってより希望の差すような明るく開かれた曲に変わっていた。誇張じゃなく涙が出た。

 この時点で疲労困憊を通り越して全ての移動を拒否したくなるも、体に鞭を打ちマリンスタジアムへ移動。MEEGAN THEE STALLION→Def Tech→ONE OK ROCK→Post Maloneを見る。MEEGAN THEE STALLIONのステージもRina Sawayamaとはベクトルは違うけれど、その場にいる人を自らの音楽とパフォーマンスでエンパワメントする力強さに溢れていた。ただ今回のサマソニでは海外のアーティストの英語のMCがかなり聞き取れるようになったと喜んでいたのだが、ミーガンのMCはマジで2割ぐらいしかわからなかった。調子こいてすみません。ミーガン終わり、このままワンオク見るかメッセに戻ってCL見るかという2択を突き付けられた結果、謎の第三の選択肢でDef Techを見に行く。多分この時疲れすぎて頭働いていなかったと思う。Def Techも結果的には途中で抜けてしまうのだが、2日間で初めて訪れたビーチステージはちょうど夕陽が沈む時間帯で、砂浜越しに海を眺めていると、この場所だけサマソニから切り離されたような空間に感じた。あと高校生の時に散々聞いてた"Catch The Wave"を生で聴けて流石にマジで興奮した。二人のハモりのヒーリングミュージックの10倍は心地よく、その美しさは波の音にも全く負けていない。Def Techを背中に感じながらワンオクを見るためにスタジアムへ戻る。席がなさすぎて2Fのスタンドの最上段から見たのだが、フェスにも関わらずワンマンかと思うほどの盛り上がりで、スタジアムのほぼ全員がワンオクファンに思えたほど。やはりワンオクのライブは本当に凄い。ライブが素晴らしかった分、余計にMCはいらんこと言ってるなと思ったが。

 そしていよいよ2日間の大トリのPost Malone。ワンオクファンがどっさり帰ってしまい些か人が少ないことに勝手に不安を感じてしまっていたが、そんなことをPost Maloneに思うのは失礼だった。タトゥーだらけの体に屈託のない笑顔。痛みを歌いながら、MCでは常に感謝を言葉にする。"Go Flex"、"STAY"の柔らかいアコギの弾き語りに伸びのある歌声を響かせたと思ったら、"Take What You Want"と"rockstar"ではパイロンで炎を吹き上がらせ、さっきまで弾いていたギターを叩き割ってみせる。"ポップスターとロックスターの二面性。ショービズとしてのパフォーマンスと27歳の青年の面影。1曲披露するごとに「次の曲は~についての曲で」と説明してくれるPost Maloneは絶対に良い奴だと思った。くどいぐらいに感謝を口にしてくれた彼が、多少の集客のことを気にしてるとはとても思えず、日本来てくれなくなるんじゃないかと勝手に不安になった自分はバカだった。元々曲は好きだったが、この1時間の間に見せた彼の人間性が大好きになっていた。花火が打ち上がる中、客席に向かって頭を下げる彼を見る。ありがとうはこっちのセリフだ。疲れ切っていらはずの帰りの道中も、おかげで感謝の気持ちで溢れていた。

 前週にロッキンに参加していたので、ロッキンと比較してしまうとサマソニはお世辞にも快適とは言い難い運営ではあった。ただそれでも、未だにコロナ禍が続く中でこれだけの海外のアーティストを呼んでフェスを開催してくれたクリエイティブマンにはありがとうしかない。そして何より出演した全てのアーティストにありがとう。
 日本で海外のアーティストを見ると「わざわざ日本に来てくれて」という気持ちになる。卑下しすぎかもしれないが、海外のアーティストにとっては実際日本に来ることは簡単なことではないと思う。だからこそ、招聘してくれるイベンターには感謝だし、来日したアーティストの日本で過ごす時間が少しでも良いものになってほしいと思ってしまう。もちろんそこには日本を好きになって、また来日してほしいという下心もあるのだが。

 「来年は誰が来るのかな」。開催されるかどうかを心配していたこの2年間と比べたら間違いなく前進している。来年はミーガンばりのMCも理解できるぐらいには自分も前進していたい。その時がきたらまた、マリンスタジアム幕張メッセの間を、馬鹿みたいに何往復もしてやるつもりだ。