22│09│WHO ARE WE

■某日
 台風が近づいている日に限って美容院と国立科学博物館の予約をしてしまっている自分の間の悪さを呪う。ただ普段は予約時間に行ってもなかなか名前を呼ばれない美容院も、この日は台風の影響か普段よりも空いていて到着即案内された。
 『刈り上げ何ミリにしますか?』、いつも担当してくれている人は毎回刈り上げを何ミリにするか聞いてくる。こっちは何ミリがどのぐらいの短さか未だにわかっていないし、前回何ミリでお願いしたとかそういうことも全て忘れているので毎度勘で答える。
「6mmでお願いします」。
6mmに刈り上げられた髪を見る。
『こんな感じで大丈夫ですか?』。
何も考えずに「あぁ 大丈夫です」と答える。
 これがイイ感じなのか微妙なのか判断できない人間が美容院に行く意味あんまない気するな。

 美容院を終えた後にハンバーガー屋へ行くいつものルートを終えて店を出ようとすると、店にやってきたロングスカートの女性が入口でスカートを絞っていた。雫がボタボタと床に落ちる。外に出ると視界が白むほどの大雨だった。仕方がなく駅に向かっていると、靴もズボンの裾も一瞬でずぶ濡れになる。
 でもなぜか今日は濡れても不思議とそこまで気にならない。誰に会うわけでもないと適当に着た色落ちしたTシャツに、靴紐がクタクタになった履きつぶしたニューバランスの出で立ち。こんな天気の中で自分のことを気にしてる人間は一人もいないだろうと思うと、服が濡れる気持ち悪さを、自分のことをどうでもいいと扱える気楽さが勝つ。

 電車に揺られ国立科学博物館へ向かう。東京に来てもうすぐ10年が経つが国立科学博物館に来るのは初めてだ。行ったことないところ、まだまだ沢山ある。
 開催中の企画展『WHO ARE WE 観察と発見の生物学』がネットで話題になっているのを見て興味本位で来ただけだったけれど、これが最高に楽しかった。一部屋だけの展示でそこまで広くはないので40分程度で全て見終わったが、この40分で「へぇー」って頭の中で86回ぐらいは言ったと思う。トリビアの泉なら傑作選行きは間違いない。「なんで?」という疑問で興味を惹きつけ、その疑問に答える形で「そもそも哺乳類とはどういう生き物なのか」や、人間以外の哺乳類の特徴にフォーカスすることでその生態に迫っていく。当たり前だけど知らないことばかり。疑問により刺激された好奇心が、自然界で生きる動物の不思議とも呼べる秘密と出会った時、脳みそがめちゃくちゃ興奮してるのがわかる。あと動物の剥製をこんなに間近で見たのも意外と初めてかもしれない。触りたくなる。
 そのあと博物館内の他の展示も見てみたけれど、やはり「WHO ARE WE」が断トツで面白かった。ただ情報を並べられるよりも、疑問と情報がリンクしている方が頭に入ってくる。好奇心を導入にして関心を広げるきっかけ作りが「WHO ARE WE」は抜群に上手かったんだろう。同じ剥製の展示でもデザインと仕掛け一つでこんなにも面白さは変わるものなのかと勉強になった。今『すばらしい人体』という本を読んでいるけど、これもこういう展示になったらもっと面白そうだ。

■某日
 週に一度ぐらい「自分は何のために生きてるんだろう」と考えて朝の3時や4時ぐらいまで眠れない日がある。別に死にたいわけでもなければ死ぬ度胸もないので、ただ寝不足を助長するだけのこの時間は本当に無駄なのだけれど、どうしても眠れない時がある。

 この前の眠れなかった日、『その着せ替え人形は恋をする』のアニメを見た。五条君の声が想像と違ってなんかなーと思っていたけど気づいたら2時間ぐらいぶっ通しで見ていた。結果2日で全話完走。すぐに「着せ恋 2期 いつ」を検索履歴に残すハマりっぷり。これは現実逃避以外の何物でもないが、自分の思考から逃げたい時もある。

 取引先の漫画好きの女性と話していた時に「『ダンダダン』おもしろいですよ。」と言ったら『男性誌ノリのちょっとした恋愛とお色気要素があまり好きじゃない。』と言われた。なるほどなーと腑に落ちると同時に、そこに無自覚な自分はやっぱ男なんだなと思いちょっと落ち込む。この人は『着せ恋』もあんまり好きじゃないだろうな。同じものを見ているのに、目に入るものは違う。
 でもその人とも『チェンソーマン』がおもしろいという点で見解は一致している。2人の見解は「『チェンソーマン』は週刊連載で1話ずつ読むより単行本で一気に読んで、そのジェットコースター展開とスピード感を楽しんだ方が気持ちがいい。」だ。

■某日
 横浜の赤レンガ倉庫で行われたODD BRICK FESTIVAL 2022に参加する。
 到着即目当ての一つ、韓国のBalming Tigerのステージが始まる。なんの事前情報も入れなかったので最初はHYUKOHのようなバンドをイメージしていたけど、登場した5人のMCが縦横無尽にステージを駆け回り、SUPERORGANISMのようなインディーサウンドから民族音楽オルタナなヒップホップまで楽曲はジャンルレスで形容しがたく、時に振りありのダンスを揃えて見せたかと思えば、曲ごとにメンバーチェンジがありカラーがガラリと変わる自由なステージにかなり衝撃を受けた。何よりライブをしているメンバーが全員めちゃくちゃ楽しそうにしており、見ているこっちも自然と楽しくなってくる。本人たちは自分たちを"オルタナティブK-POPバンド"と称しているようで、ラッパーはいるもののHIPHOPクルーではなく、実際は映像監督などクリエイティブ周りのメンバーも含め11人のメンバー構成らしい。まだオリジナル曲も多くなく今回が初来日のようだったけど、日本で人気が出るのも時間の問題というぐらいこの日一番の発見だった。

 そこからAwich→どんぐりず→HYOLYNを挟み2つ目の目当てのTREASUREを待つ。気が付けば女性率99%の客席。とてもヒップホップやクラブ、ブラックミュージックのアーティストが多数出ているとは思えないK-POP現場と言える光景に目の前が変わる。TREASUREもこの日が日本での初パフォーマンスだったようだけれど、これまで見たK-POPグループの中ではIZ*ONEに次ぐインパクトがあった。歌、ラップ、ダンスがハイレベルなのはもはや当然だが、曲もかなり好きな上に10人のメンバー(本当は12人組)の「かっこいい」と「かわいい」が怒涛のように押し寄せてくる。どこまでが予定されていたかわからないが、本編終了後にはアンコールとして2曲追加でやってくれた上に、ダブルアンコールまで出てきてくれた。結局時間オーバーでダブルアンコールはパフォーマンスはなしになったが、ただ「時間足りなくてやれないみたいです。ごめんなさい。」と言うために出てきてくれたのかと思うと「なんだこの可愛い生き物たちは」と自分の中に存在しない母性が生まれるのさえ感じた(過言)。同じYGだからかどこかBIGBANGのような雰囲気もあり、来年のさいたまスーパーアリーナのチケットを帰りに申し込むほどこちらも初見で大好きになった。ただおれの一番好きな"GOING CRAZY"をこの日やらなかったので、是非ツアーではやってほしい。チケットは取れるつもりでいるから。

 TREASUREの後はSTUTSのステージへ。TREASURE→STUTS→Little Simzの順で見れるこのフェスはやっぱすげぇんじゃないか。STUTSのステージにはゲストでtofubeatsも登場。4か月ぶりのtofubeatsをまたしても赤レンガ倉庫で見ることになるとは思わなかった。安定の心地よさ。STUTSは行きつけのラーメン屋より信頼できる。

 雨脚が徐々に強くなる中Little Simzを待機していると、先ほどまでのK-POP現場とは180度変わったフジロックのような客層に変わっている。さっきまでいた女性たちはもう全員帰ったのか?そしてこの人たちはさっきまでどこにいたんだ?本当に変なフェスだ。

 本日3つ目の目当てのLittle Simzが始まる。こちらも初見。1DJだけのシンプルなセットながら、とにかくラップと歌が上手い。個人的にはラップは女性版Joey Bada$$という感じで歯切れがよく、歌詞の意味はわからずとも聴いているだけで気持ちいい。リリックの内容は人種や家族の話などシリアスなものも多いがステージはとにかくスマート。そのうえ歌も半端なく上手いとなれば、否が応でも体を揺らしたくなる。これは生バンドで聴けたらもっと気持ちよさそうだ。来日にバンドを帯同させるのはコストが嵩むとは思うが、次回は是非生バンドでも見てみたい。途中から雨は豪雨と呼べるほど激しくなり、ラストの"Venom"では音が止まるハプニングがあったものの、客席に手拍子を煽り、その手拍子のリズムに合わせラップを披露。そのスキルの高さでトラブルを利用して客席を一つにしてしまうパフォーマンス力。脱帽です。

 ODD BRICK FESTIVALは今年初開催のフェスで、Kamasi WashingtonとLittle Simzが第一弾で発表されたかと思えばK-POPからはTREASURE,HYOLYN,Balming Tigerに加え日本からはAwich,大沢伸一,STUTS,ALIなど雑多なラインナップで、ソウル/R&BからK-POPを経由してHIP HOPとクラブミュージックに接続していくようなショーケース的なイベントのように感じた。TREASUREで集客を稼いだ部分もあり、動員的に来年も開催できるのかは若干怪しい気もするが、こういうフェスにこそ新しい発見がある気がするので是非来年以降も開催してほしい。

 雨が激しくなるODD BRICKから急いで家に帰り、IVEとELLEGARDENNHKの特番を見る。細美さんはテレビ嫌いを公言していたので、エルレがテレビで特集される日がくるなんて中学・高校生だった自分に言ってもすぐには信じないだろう。

 エルレNHKの特番は素晴らしい内容だった。たった45分だったけれど、これまでの人生がフラッシュバックした。

 『BRING YOUR BOARD!!』でエルレに出会ったので同じようなパンクテイストを期待して『DON'T TRUST ANYONE BUT US』を聴いたら音楽性が全然違って最初はハマらなかったなとか、"Missing"のCDは中学校の校外学習という名の遠足終わりに買いに行ったなとか、"Salamander"のMVを見て親にVANSを教えてもらったなとか、活動休止のニュースは大学から帰ってきた瞬間姉に唐突に教えてもらったなとか、昔の楽曲が流れる度に当時の記憶を思い出す。

 セントチヒロ・チッチが"ジターバグ"を思い入れのある曲に挙げていて、おれと同じだと思った。チッチが「BiSHもこんなバンドになりたい」と思ったのと同じように、おれも"ジターバグ"を聴いてこんな人間になりたいと思ったから。これはそういう曲だよな。
 ファンの人のインタビューで、一人の女性が目を潤ませながら「(エルレは)ヒーローです」と言っていた。おれと同じだと思った。尊敬していて、憧れていて、こんな風に自分もなりたいと思わせてくれる、人生を変えてくれた存在。

 細美さんが番組内のインタビューで「クラスの端っこにいるような2,3人のために歌ってきた」と話していた。13歳で初めてエルレを聴いた時「この曲はおれのために歌ってくれてる!」と本気で感じた。そして自分は周りの他の奴とはちょっと違うと思っていた。当時はSNSもないから周りにエルレを好きな人は一人もいなかったし、エルレが歌っているようなことを現実世界で教えてくれるような人もいなかった。蓋を開けたら自分と同じように感じていた人間が何十万人もいて、自分が他の人と違うという感覚は思春期のイタい勘違いの一つではあったけど、自分と同じように感じている人がいるということは、そのまま救いにもなった。

 9年前に初めて細美さんのことを書いたブログを読み返してみた。言葉遣いや文章の書き方は今と違うけど、当時感じていたことは今と同じだった。

 あとVaundyが番組内で"おやすみ"を取り上げていて、Vaundyのことを軽率に好きになった。この曲のBメロが世界で一番好きなBメロだから。

明日は少しだけ
いい人間になろうと思う
君ならなんて言うんだろうね

 今日までいい人間だったか自信はない。
 でも明日は今日よりは少しだけいい人間になりたいと思う。
 そうやって今日も眠りにつく。
 19年前の自分よりも、少しはいい人間になれてるかなおれは。

22│09│薫る花は凛と咲く

■某日
 恋愛漫画づいていて、特に『薫る花は凛と咲く』と『こっち向いてよ向井くん』にハマっている。
 『薫る花は凛と咲く』は読んでいると文字通り「キュンキュンする」としか形容できない感覚に陥る。この胸の感情を「キュンキュン」と呼んだ最初の人間は天才だ。ストーリーは現代版「ロミオとジュリエット」のような、ちょっとベタなぐらいの王道さと青臭さもあるものの、ヒロインの薫子ちゃんが自分の好きな女性のタイプ全部盛りかというぐらい半端なく可愛い上に眩しいくらい尊敬できるのと、主人公の凛太郎の不器用だけれど優しく筋の通ったカッコいい生きざまのベストカップル具合に毎回「お前ら絶対幸せになれよ」と謎の視点から親指を立てたくなる。あと2巻は3回はマジ泣きポイントがある。ベター is the Best。
 一方『こっち向いてよ向井くん』は読むと毎巻鈍器で頭を33発ほど殴られている気分になる。35歳彼女いない歴10年の主人公・向井の行動のイタさと恥ずかしさに共感性羞恥で悶絶しつつも、自分も同じようなことやってたんじゃないかと我に返りそのまま自殺未遂に走りそうになる。でも傍から見てると恋している人間というのは大なり小なりイタくて恥ずかしいものかもしれない。そのイタさや恥ずかしい気持ちを乗り越えて、自分の気持ちと相手に向き合うから尊いんだろう。

 菅田将暉の"ばかになっちゃったのかな"という曲が好きだ。

 ばかになっちゃったのか、元々ばかなだけかはわからないが、「それでいんだよ」と言ってくれるこの曲が好きだ。情けないけど、それでいいとも思う。

■某日
 SEKAI NO OWARIのドームツアー『Du Gara Di Du』を見るために東京ドームへ。セカオワのライブは各ツアーごとにコンセプトが決まっており、今回の舞台は遊園地。観客は2122年に住む設定で、この遊園地は観客を「2022年の世界」に連れて行ってくれるという、言わば100年後の未来から見た2022年をセカオワの楽曲を通して描いていく。ネットの誹謗中傷、同性愛、環境汚染、表現規制。数曲ごとに100年後からは過去の遺物として語られる現代の社会問題も、虎(?)のマスコットキャラのおかげか説教臭さは感じさせない。
 巨大なセットと照明の演出力でコンセプトを現実の世界に出現させ、ポップソングとエンターテイメントの力でどんな年代の観客も楽しませながら、世の中への皮肉や矛盾への疑問を突き付けるメッセージを感じるのが自分にとってのセカオワのライブだが、今回もまさにセカオワらしいと言えるライブで本当に楽しかった。あと昔からセカオワのライブに来ると、いつか自分の子供と一緒に来たいなという気分になる。絶対的なエンターテインメント性があるから小さい子供でも楽しめるだろうし、その上で何かを持ち帰ってくれるんじゃないかという期待がある。子供どころか結婚どころか彼女ができる予定すらないんだけどな。頼んでもないのに働きたがる想像力、おれの代わりに仕事をしてほしい。

 あと自分がセカオワの曲でTOP3に入るぐらい好きなこの曲をやってくれたのも嬉しかった。小学校か中学校の教科書に載ってもいいんじゃないかって半分冗談、半分本気で思ってる。


■某日
 昔「ツイート大好きなのでずっとTwitterしてください!」と言ってきた女の子。彼氏ができたらTwitterをやらなくなり、インスタのストーリーに彼氏と出かけた時の写真をアップするだけになった。それを批判したいわけではない。ただそういうことだっただけ。

 学生時代に仲の良かった同級生。あんなに毎日一緒にいたはずなのに、そのほとんどの奴は今は連絡先もわからない。仲が良かったわけではなくて、ただ同じ教室に入れられていただけだったのかもしれない。誰のせいでもない。ただそういうことだっただけ。

 Twitterで相互フォローだった人たち。何度かやりとりもしたこともあったはずが、ある日突然ブロックされる。「なんかしたっけな」と考えるも思い当たる節はない。ボタン一つで切れる繋がり。ただそういうことだっただけ。

 ずいぶん前にマッチングアプリで一度だけ会ったことのある人。突然ラインが来て、自分のスルーされたメッセージを見ることで、その人がどんな人でなんて名前だったかを思い出す。「奇跡が起きて会えたら話しましょう」と言われ、この人は奇跡が起きないと会ってくれないんだなと思う。多分その人に他意はない。ただそういうことだっただけ。

 永遠なんてない、当たり前だけれど。今一緒にいるということが、過去一緒にいたということが、未来も一緒にいらることを保証してくれるわけじゃない。むしろほとんどの出会いは、たまたまその時だけ一緒にいられるだけの期間限定のものなんだろう。それはすごく寂しい。でも桜が春にしか見れないことを嘆いてもしょうがない。そういうものなんだから。

さよならだけが人生さ
孤独だけが最後まで友達さ
重なる一瞬の日々に
輝く一瞬の火花
ともに眺め 心
振るわせようじゃないか

bacho「さよなら」

 もう一度出会うために奇跡が必要な人は自分の人生に何人いるんだろうか。でも出会いを奇跡と呼ぶのなら、家族も、友達も、職場の人も、SNSで知り合った人も、こうして出会えて、一緒に生きられてるのは奇跡だろう。ならせめて、重なった人生、やがて来る終わりまで、同じ火花を眺め、ともに心を振るわせたい。それが例え一瞬だとしても。奇跡のおかげで重なり合っているこのお互いの人生が、ほんの少しでも長くこのまま続いてくれたらいいなと思う。

 まあでも自分がもしその人に「会いましょう」って言って会えたなら、奇跡は自分の手で起こせるってことだから、いつだってこの人生に欠けてるのは奇跡じゃなくて勇気の方なんだろうけど。

22│09│Mountain Top

■某日
 「BAND OF FOUR -四節棍-」のライブのためにぴあアリーナへ。10-FEET,BRAHMAN,マキシマム ザ ホルモン,ELLEGARDENと自分が中学、高校生時代から聴いていたバンドによる4マン。一度も使えていなかった夏季休暇を利用し、会社に行く時よりも早く目覚め物販のために横浜に向かう。グッズはエルレのTシャツとハンドタオルだけを買うつもりだったが、いざ会場に着くと、自分と同じようにグッズを身に着けたファンの人やライブ前の高揚感にあてられタオルとショルダーバッグも買ってしまった。多分これが通販だけならおそらくTシャツも買ってない。なのに現地に来てしまうと95%使わないだろうタオルとショルダーバッグも買ってしまう。コロナ禍以降いろんなことがオンラインに移行していったけれど、たくさん人間が同じ場所に集まることで生まれるエネルギーのようなものはあると思う。合理的でも賢くもないけど、これは悪くない。
 
 開演時間を迎え、事前の告知通り10-FEETBRAHMANマキシマム ザ ホルモンの順にライブが進んでいく。どのバンドも20年以上のキャリアを誇るライブバンドだ。10-FEETの人懐っこさと温かさで見る人を包み込むようなステージも、BRAHMANのキリキリと命を削るような切実な問いかけのようなステージも、ホルモンのキャッチ―でタフでハードコアなギャップの織り成すエンターテイメント性に溢れたステージも、三者三様でそれぞれのバンドのカラーの濃さを感じた。10年以上前に聴いていた曲も数多く披露され、懐かしさを感じ、メロディと歌詞が自然と口からこぼれそうにもなる。でもなぜか、モヤモヤした気持ちが心の中に生まれる。

帰るのが寂しいからといって、終わったパーティに居続けるのはみっともない

ヴィンス・ギリガン

 『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』の脚本家ヴィンス・ギリガンの言葉。もしかするとこのライブも終わったパーティーなのかもしれないと思った。周りも見渡せば自分と同年代や年上の人ばかり、同窓会のように10年以上前の曲を「懐かしい」や「青春だった」と言ってノスタルジーに浸る。バンドは今も現在進行形だが、新しい曲よりも昔の曲の方が盛り上がる。過去の曲を聴き、かつての自分を思い出すことで、あの時に持っていた情熱で今の現実に抗っているような気分。高校生の時、一緒にエルレのライブに行った友達は一人は結婚し子どもができた。もう一人はもうどこで何をしているかもわからない。自分だけがずっと同じ場所にとどまり続けているような感覚だ。これはもしかしたらみっともないことなんじゃないか。
 
 どこか集中できない状態でエルレが始まる。どの曲も今も大好きな曲のはずだ。でも目の前でエルレが演奏しているのに今一つテンションが上がらない。結局自分も昔好きだったものを、それを今も失くさずに持っているかのように誤魔化して過去に執着しているだけなんじゃないか。そう思うと全てが虚しくなる。

Sunday is over
We are all going home
No reason to stay here
But no one has made a move

We know that for sure
Nothing lasts forever
But we have too many things gone too fast

Let's a make a wish
Easy one
That you are not the only one
And someone's there next to you holding your hand

休日が終わり
僕らはみんな家に帰る
ここに残る理由もないのに
誰も動こうとはしない

僕らが当たり前に知っていること
いつまでも続くものなんてない
だけどあまりにも多くのものが
早すぎる終わりを迎える

願い事をしようぜ 簡単なやつを
君が一人きりじゃなくて
そばに誰かがいて手を握ってくれるように

Make A Wish


 ライブも終盤に差し掛かる中"Make A Wish"を聴いている時、この歌のようだと思った。楽しかった休日が終わり皆が家に帰る中、まだそこにいる。終わってしまうことが寂しいから。ここに残る理由はないのに。

 エルレに出会ってから19年が経った。この19年間ずっとエルレを聴き続けてきた。ずっと好きでいれるようになんて願い事をしたわけじゃない。それでも、19年経ってもそばにあったのはエルレの曲であり細美さんの言葉だ。これは終わったパーティーなんだろうか。
 「今日久々にステージに立って、自分がどういう人間だったかを思い出したよ。」MCで細美さんが話していた。自分はどういう人間なんだろうか。自分は気持ちを誤魔化していたわけでも、かつての情熱を神聖視しているわけでもないと思えた。当時と同じ気持ちかはわからない。ただ15年以上前に出会った音楽を、今でも大好きな1曲として聴いている。それは傍から見ればノスタルジーかもしれない。みっともないことかもしれない。でも今の自分にとってもそれは大切なものだから。ただそういう人間なんだ自分は。モヤモヤしていた気持ちが少しずつ晴れていく。次の"Salamander"、気持ちが高ぶった。ちゃんと感動できた。涙が出てきた。
 今日のセットリストに”Make A Wish"が入ってなかったら、この場所であの曲が流れなかったら、こんな気持ちにはなっていなかったと思う。全てに意味があるような気がしてくる。

 「新曲聴く?」アンコールで細美さんが話した時、声が出せなくても会場中が色めき立つのがわかった。聴けたらいいなと思っていたが、まさか本当に新曲が聴けるなんて。
 「ずっと過去の思い出とか、楽しかったことの中で生きていく訳にはいかないので、今この場から現役のバンドに戻ります。」、そう言って披露された新曲。だからおれはエルレと細美さんが好きなんだと思った。ノスタルジーと言われても構わないと思ったばかりだったのに、それを否定して、未来を見せてくれる。数えきれないほどファンがいて、再始動フィーバーや伝説のバンドなんて言われていて、そんな中で新曲を作ることがどれだけ過酷なことか自分には想像もつかない。でも自分たちの信念のために挑戦する。世界で一番カッコいいバンドだと思った。

 ライブ終了後、5時間以上立ちっぱなしだったことによる疲労と、今日この場所にいられて本当に良かったという達成感にも似た幸福感でしばらく放心状態になる。今日のイベントでこんな気持ちになるなんて想像もしてなかった。同じようなメンツで同じようなセットリストでも、同じ瞬間は2つとないという当たり前を改めて実感する。

 その後ELLEGARDENの16年ぶりの新曲"Mountain Top"のリリースとMusic Videoの公開、そしてNHKでの特番の放送が発表された。

 "Mountain Top"のWeezerの影響を感じるミドルテンポのイントロと1stアルバムを思い出させるオルタナティブサウンド、そしてどうしようもなく切ないメロディ。まあここだけ抜くとこれは細美さんのカラーなのでMONOEYESにも通じている部分はあるのだけれど、でも歌詞を見た時、これは絶対にエルレじゃなければ出てこなかった歌詞だと思った。

 イベントのアフタートーク内で細美さんが話していた。
「新しいことに挑戦することで未来が生まれる。」

 辿り着くことのない山の頂。でも一歩踏み出したら、その先の景色が待っている。19年前のおれはこの曲を知らない。だから今この曲を大好きだと思う気持ちがノスタルジーなわけがない。6枚目のアルバムは完成間近らしい。過去の楽しかった思い出だけじゃなく、現役のバンドとして、同じ時代を生きて、未来を見せてくれる。

I’m the one who wants to burn out
I’m the one who needs to find out
I’m the one who craves the last match

俺は燃え尽きたい
俺は答えが知りたい
俺は最後の勝負を待ち望んでる

  この旅もいつか必ず終わりがくる。その時はみっともなかろうと寂しさで死ぬまで居座ってしまうかもしれない。でもその未来がくるのは、もう少しだけ先の話だ。

 まだパーティーは終わってはいない。

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22│08-09│I'm In Love With You

■某日
 PUNPEEとBIMによる新作EP「焦年時代」のリリースライブのためZepp Hanedaへ。Zepp Tokyoと新木場スタジオコーストがなくなってしまったため必然的にZepp Hanedaに来る機会が増えているが、天空橋と言われても未だにピンとこない。HANEDA INNOVATION CITYとして再開発の真っ最中ではあるのでここも徐々に賑やかになってくるのかもしれないが、今のところはアクセスが微妙に悪い上に何もないというイメージが頭の大部分を占めている。でもこうした再開発や街の変化は受け入れざるをえないことなので、潔く羽田空港行きの電車に乗る。
 エントランスではフジロックPUNPEEのステージにも登場していた亀(名前はまだない)が迎えてくれた。近くで見ると結構かわいい。ライブは当日券も出ていたようだが、見る分としては快適なジャストな客入りだった。

 河川敷をイメージしたセットに浴衣を着た二人が登場。EP『焦年時代』からの新曲に加え、お互いのソロ曲、"Veranda"や"ODDTAXI"、"サマーシンフォニー"のスペシャルRemix、in-dとOMSBとVaVaにZEEBRA一十三十一がゲストで登場するなどエクスクルーシブ感の強い"夏"と"ノスタルジー"を感じさせるライブだった。
 BIMとin-dの10年以上前の映像から2人でTHE OTOGIBANASHI'Sの"Fountain Mountai"と”Pool”を披露した時、大阪から東京に出てきて数年が経ち、ヒップホップのライブに行き始めた当時のことを思い出しめちゃくちゃ懐かしい気持ちになる。気が付けば来年で東京に出てきて10年が経つ。そもそも学生時代は自分がヒップホップのイベントに行くようになるとは想像すらしていなかった。時の流れをいつも以上に感じて、あの頃から見れば結構遠くまで来た気分になる。

 終演後、インスタのフォロワーの人が同じライブに来ていることを知るもメッセージを送るか悩みに悩み、結果送らないことにした。自分から会いましょうと言って相手が誰か他の人と来ていた場合、非常に気まずいし恥ずかしいし居心地が死ぬほど悪い。あと自分は昔the HIATUSのライブで「お一人ですか?」と声をかけてきた女子大生と仲良くなるも『おれは女の子と出会うためではなくライブを見るために来たんだ!』と謎の意固地をこじらせ連絡先も聞かずに別れたような硬派な人間だから(35マス戻る)。
 蓋を開けると相手も連絡しようかと思っていたらしく本当にしくじった。今後もし「進むか退くか」の2択で悩んだらもう全部進むよ。当たって砕けろと言うらしいから、その時は砕けた骨はどうか拾ってほしい。

■某日
 The 1975の新曲"I'm In Love With You"を聴く。先日のサマソニで初披露された瞬間からリリースされるのをずっと待っていた1曲。この曲がリリースされてからはほぼこれしか聴いていないと言っても過言ではない。最初はライブで聴いた時のアコースティック色の強いアレンジの方が好きだと思っていたけれど、ずっと聴いてるうちに音源の方の音数が増え、華やかで幸福感に満ちたヴァージョンも大好きになっていた。

 そしてMV。MVは"Change Of Heart"の続編とも言われており、"Change Of Heart"では彼女を喜ばせようとするも空回りしてしまいその人を失ってしまったピエロが、" I'm In Love With You"で彼女をもう一度見つけ出し、再び恋に落ち、最後には化粧を落とし素顔を見せあう。
 素直になれなかったピエロが、本心を打ち明けることでもう一度心を通わていくような展開が、好きな人にこそ好きと言えない自分には見れば見るほど泣けてくる。正直になったからと言ってハッピーエンドとは限らない、皮肉にも映るそのエンディングも好きだ。自分は悲観主義者だから。でもこんな風に素直になれたらいいなと思ってる。

Heartbeat is coming in so strong

Oh, if you don't stop

I'm gonna need a second one

 

Oh, there's something I've been meaning to

Say to you, baby (Hold that thought)

Yeah, there's something I've been meaning to

Say to you, baby

But I just can't do it

What a call, moving in

I feel like I can loosen my lips (Come on so strong)

I can summarise it for you

It's simple and it goes like this

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

 

She's got her broadsheet

Reading down the list of the going wrongs (Yeah, yeah, yeah)

I'm getting no sleep

Tossing and turning all night long

 

Oh, there's somewhere I've been meaning to

Take the conversation (Hold that thought)

Yeah, there's somewhere I've been meaning to

Take the conversation

But I just can't do it

 

You show me your black girl thing

Pretending that I know what it is (I wasn't listening)

I apologise, you meet my eyes

Yeah, it's simple and it goes like this

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

Yeah, I'm in love with you

 

Yeah, I got it! I found it!

I've just gotta keep it

"Don't fuck it, you muppet!"

It's not that deep

Well, I've been counting my blessings

Thinking this through just like

"One, two, yeah, I'm in love with you"

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

 

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

I'm in love with you

 

鼓動が速くなる

もし君が止めてくれないなら

別の誰かが必要だよ

 

ずっと君に言いたかったことがあるんだ(想いを抱えたまま)

ずっと君に言いたかったことがあるんだ

でも僕は言えないまま

 

動き出してるんだ

口元が緩くなってくる(もう止められない)

簡潔に言うとね

それはシンプルで、こんな感じのことなんだ

 

君に恋をしている

君に恋をしている

君に恋をしている

僕は君に恋をしているんだ

 

彼女は新聞を手に入れて

間違いだらけのリストを読んでいる

眠れないんだ

一晩中寝がえりを打っている

ずっと君に話したかったことがあるんだ(ずっと)

ずっと君に話したかったことがあるんだ

でも僕は話せないまま

 

君は女の子特有の駆け引きを見せる

僕にはそれが何かわかるかのように(僕は聞いちゃいなかった)

謝るよ 目と目が合う

それはシンプルで、こんな感じのことなんだ

 

君に恋をしている

君に恋をしている

君に恋をしている

そう、僕は君に恋をしているんだ

 

わかったんだ!見つけたんだ!

諦めないで

"後悔するなよ 愚か者”

そんなに難しいことじゃない

呼吸を整える 君のことを想いながら

こんな感じさ "1,2 そう、僕は君を愛してる!"

 

君を愛してる

君を愛してる

君を愛してる

僕は君を愛してるんだ

 「I love you」ではなく「I'm in love with you」というのも好きだ。「愛に包まれてる」ようなイメージ。この曲を聴いている時に感じる切なさと温かさは、好きな人のことを考えている時の気持ちとすごく似ている気がする。好きな人がこの曲を聴いてくれたら嬉しい。こんな風に想っているんだと気づいてほしい。そしてあわよくばこの曲を好きになってほしい。素直に気持ちを打ち明けられない分の想いを、この曲に代弁させようとする自分が臆病な人間だってことはわかってる。

 来年の4月と言われている来日公演。その時はまたThe 1975を見れたらいいな。そして願わくば、いつか好きな人と並んでこの曲を聴くような日がきたらいいなと思う。まあ素直になれたからといって、ハッピーエンドが待ってるとは限らないんだけれど。

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22│08│SUMMER SONIC

■某日
 SUMMER SONIC 2022に参加した。今年はTOKYO会場に2日間の参加。2月にヘッドライナーとしてTHE 1975とPost Maloneの出演が発表された瞬間にチケットを取ったので待つこと半年。夏の予定がロッキンとサマソニぐらいしかなかったので、これで今年の夏は終わりだと思うと自然と肩に力が入る。
 
 初日はTHE 1975のグッズを買いたかったので8:30に会場に向かう。めちゃくちゃ早い。と思っていたらグッズ列は既に中々の行列で、結果的に1時間待つことになる。オフィシャルグッズ待ちもアーティストグッズ待ちも全て同じ列に並ばされている間、オフィシャルグッズや各アーティストグッズごとに待機列が分かれているロッキンのありがたみに気づく。ありがとうロッキン。おまけに1時間並んだ果てに売り場に着いた瞬間、欲しかったTHE 1975のTシャツはサイズ切れ。駅のホームに着いた瞬間、乗ろうとしていた電車のドアが閉まった時のあの敗北感。せめてもの抵抗にTHE 1975のタオルとPost MaloneのTシャツを購入。会場で自分の欲しかったTシャツを着ている人とすれ違う度に「くぅ~」という気持ちになる。でもこればっかりはしょうがない。
 
 前半はCVLTE、Mrs. GREEN APPLECHAI、BEABADOOBEE、Rina Sawayamaを見る。見ているアーティストを途中で切り上げてまでマリンスタジアム幕張メッセをちょい早歩きで往復している時、自分は「せっかくだから」とか「もったいない」とか考えてしまう貧乏性なんだなと思う。無理してでも見たいアーティストを何とか全部見ようとしてしまう。フェスに行き始めて10年以上経つがこの見方は間違っているような気もする。でも1,2曲でも良いから見たいと思う気持ちが勝ってしまうのはいかんともしがたい。
 
 初めてライブを見たMrs. GREEN APPLEは華があってステージ巧者で客席の盛り上がりも想像以上で思っていたより遥かに良かった。自分の先入観ほど信用ならないものもない。BEABADOOBEEはとにかく可愛い。全身から溢れ出るキュート。次はもう少し小さいライブハウスで見れるといいな。そしてRina Sawayama。曲自体はほとんど知らない状態で見たけれど、登場した瞬間から自信が漲るようなパフォーマンスで自然と目が奪われる。何よりMCが日本語だったこともあり、彼女が何を思いどんなことを歌っているかが理解できたことで、歌詞の意味はわからなくともその人となりや曲のメッセージがライブを通じてより伝わってくるような感覚を味わった。意味が分からなくても音楽は楽しく、素晴らしい。でも意味がわかると、よりそのアーティストへの感情移入は深くなる。凛々しく、美しく、カッコいいステージだった。
 
 Rina Sawayamaにかなり食らいつつも再び早歩きで幕張メッセに向かいALL TIME LOWとVaundyを見る。ALL TIME LOWのような伝統的とも言えるポップパンクを聴くと、高校生の時にパンクばかり聴いていた頃を思い出し安心すると同時に頬がニヤけてしまう。Vaundyは人が多すぎて1ミリも見れなかった。次はせめてマウンテンステージにしてください。
 
 この時点で疲労困憊で幕張メッセの床に突っ伏したい気持ちになるも今日はある意味ここからが本番。Måneskin→King Gnu→THE 1975とマリンスタジアムに張り付く。道中、Twitterでずっと相互フォローだったフォロワーの人に会う。音楽の趣味がかなり近く、おまけに出身校と学部まで同じことが判明してかなり親近感を抱いていたので会った瞬間「ついに」という気持ちになる。実際に会うとイメージと違うということはSNSでもマッチングアプリでもよくあることだが、彼はイメージ通りのめちゃくちゃナイスガイだった。そんな彼と一緒にMåneskinを見にマリンスタジアムのアリーナへ。正直Måneskinは1曲しか知らない状態で見たが、この日一番と言っていい衝撃を受けた。強烈なギターのリフと蠢くようなグルーヴにスタジアムが揺さぶられ、ボーカルのダミアーノのセクシーで熱のあるパフォーマンスは見ている人間を強制的に惹きつける。問答無用で高揚させられるパワフルなステージ。Rina Sawayamaを見た時、日本語のMCでガイドラインを引いてもらうことで彼女がどういうアーティストかということが理解でき、その理解が楽曲をもう一段深く、観客を結び付けたような感覚があった。けれどMåneskinは言語を伴う理解や共感を必要としなかった。彼らは非常にコンシャスなバンドだ。ヴィクトリアのトップレスでのパフォーマンスもジェンダー規範へのアンチテーゼ。ただあの日、そういったバンドのスタイルを理解してステージを見ていた人が自分を含めどれだけいただろうか。にも関わらず満員のスタジアムを完膚なきまでに圧倒していた。「これがロックだ!」なんて言うとめちゃくちゃダサいが、これがロックンロールなんだと思った。ロックンロールの救世主の冠は大げさではない。
 
 その後King Gnuを挟みいよいよ今年のサマソニで一番見たかったTHE 1975の時間。THE 1975を待っている間、小雨だった雨が徐々に本降りになってきた。服はビショビショ。体力も限界に近い。けれど、雨が酷くなるに比例するように、ここまで来たら嵐が来ようと絶対にぶち上がってやるぜという開き直りのような、逆切れのような、ランナーズハイのような感覚になっていく。そう思っていたのはおそらく自分だけではなく、そのぐらいその場にいる人たちのTHE 1975への期待感の高さがスタジアム内に充満しているようだった。
 
 THE LIBERTINESの出演キャンセルに伴い90分になったTHE 1975のステージはマシューの「グレイテストヒッツ」の言葉に嘘偽りのない、これまでのTHE 1975のヒット曲を集めた夢のような時間だった。ビジョンの映像はモノクロに加工され、映し出されるメンバーの姿は映画のよう。2曲目の"Love Me"でボーカルのマシューがサラッと呟いた「We are back」という言葉。このコロナ禍の2年半ほぼ活動を休止していた彼らが復活したことの重みを感じる。ライブで初めて演奏された最新曲の"Happiness"を聴いている時、不意に彼らが日本で目の前でライブをしていること、大好きな曲を生で聴けていること、その生演奏を世界で一番初めて聴けているのが自分たちだということ、そういった沢山のことへの感謝の気持ちが一度に押し寄せてきてどうしようもなく泣けた。音楽を聴いていると、稀に途轍もない大きな感情に突然出会うことがある。音楽でしか味わったことのない、音楽が好きでよかったと思える瞬間だ。この日の彼らのライブは曲の持つ切実さや切なさを感じさせながらも、同時にとても穏やかで優しい気持ちになれるものだった。歳を重ねたこともあるのか、成熟し、スタジアムの観客全てを包み込むような懐の深さを感じさせヘッドライナーとしての貫禄に溢れていた。特に文字通りの世界初披露だった未発表曲の"I'm in love with you"。好きな曲は沢山あれど、好きな人に聴いて欲しいという気持ちになる曲はそう多くはない。この曲を聴いている時に感じる気持ちは、そのまま好きな人のことを想っている時の自分の気持ちそのままだと言ってしまえるほど温かいものだった。そして"The Sound"でのファッキンジャンプ。他のお客さんと同じ気持ちになりたくてライブに行くわけではない。それでも同じ気持ちになれる瞬間があるとしたら、それはものすごく幸せなことだ。この時、この瞬間を待ち望んでいたスタジアムにいた全員が間違いなく同じ気持ちだったと思える。でもグレイテストヒッツって言いつつ"She's American"や"Sincerity Is Scary"や"Guys"を聴けなかったことは忘れていない。でもそれはまた次の機会に。いつになるかはわからないが、いつになってもいいからまた見たい。死ねない理由は一つでも多い方が良い。

 THE 1975が終わった瞬間、一日の疲労の全てが来たかと思うほど急に腰に疲れが押し寄せてきた。ライブを見ている時は全く気にならなかったので、ライブ中は疲れを感じさせない脳内物質のような何かがドバドバ出ているに違いない。フェス帰りの人波にのまれながら、慌てて携帯をつけ櫻坂46のW-KEYAKI FESのリピート配信を見る。素晴らしい一日の余韻とぐったりするほどの疲労感に浸りながら必死こいてアイドルの配信ライブを見てるのは我ながらどうかしてるという気分になったが、それをするぐらいには櫻坂のことが自分は好きみたいだ。一度きりの幻の披露かと思った"コンセントレーション"が見れた時はビビッて目が1.5倍ぐらいデカくなった。尾関と葵ちゃん本当にお疲れ様でした。

 しかしロッキンの時は「ご飯何食べよう」ばかり考えてなかったのにサマソニではご飯のことほぼ考えなかったな。もちろん、いちごけずりだけはこの日もしっかりいただきました。

■某日
 2日目。起きた瞬間から前日の疲れを引きずっており体は泥のように重かったが、羊文学のために這うようにして海浜幕張へ。羊文学→SE SO NEON→EASY LIFE→KANDYTOWN→YUNGBLUDを見る。羊文学はライブを見るのは初めてだったが、華奢で繊細なバンドという音源のイメージとは裏腹にライブでは全ての音がデカくて最高だった。その後SE SO NEONを見に行ったPACIFIC STGEで取引先の人にたまたま遭遇する。プライベートで見に来ていたらしく、お互いに気づいた瞬間「おぉー!!」と普段会った時はしないようなボディタッチを謎にしてしまう。なぜ人はテンションが上がるとボディタッチしてしまうのだろうか。音楽業界で働いているとスタッフや関係者としてライブを見る機会が増えるのでお客さんとしてライブを見に行かなくなる人も中にはいるが、音楽が好きで自腹でCDを買ったりライブを見に行ったりしている人は信用できる人が多い気がする。EASY LIFEはチルいグルーブで横揺れさせたと思いきや縦ノリの曲で会場を沸かせチルとアゲの狭間を行ったり来たりするような独特のフィーリングでめちゃくちゃよかった。その後は恒例のマリンスタジアムへ早歩き高速移動しYUNGBLUDのステージで別のフォロワーの人と合流する。普段フェスは一人で行くことの方が多いが、こうして誰かと一緒になって、自分とは違う視点の話を聞くのはすごく楽しい。でも自分のマリンスタジアム幕張メッセ高速移動3往復とかに誰かを付き合わせるわけにはいかないので、結局次のサマソニも一人で行ってるような気はする。YUNGBLUDは声出し禁止やモッシュ禁止というルールを聞いてないのかぐらいガンガンに煽りまくっていてもはやちょっと笑ってしまった。

 YUNGBLUDを途中で切り上げマウンテンステージのTOMORROW×TOGETHER→miletへ。この日すれ違う女性ファンのかなりの人がTOMORROW×TOGETHERのグッズを身に着けていたのでかなりのファンが来ているとは思っていたが、着いたころにはマウンテンステージはほぼ満員。メンバーが登場するや悲鳴に近い歓声が上がり、1曲披露するたびにファンの熱量に気圧される。K-POPのアーティストのステージをそこまで多く見てきたわけではないが、韓国のグループのライブはステージ上だけで完成するものではなく、客席も含めて一つのライブなんだと感じた。次のmiletもライブを見たのは初めてだったが、寡黙でミステリアスだったイメージとは異なり本人からは豪快で快活な印象を受けた。miletの曲で一番好きな"us"。原曲は切なさが強調されるようなピアノとギターが印象的だったけれど、ライブではフルバンドでのアレンジが施されており、ストリングスによってより希望の差すような明るく開かれた曲に変わっていた。誇張じゃなく涙が出た。

 この時点で疲労困憊を通り越して全ての移動を拒否したくなるも、体に鞭を打ちマリンスタジアムへ移動。MEEGAN THEE STALLION→Def Tech→ONE OK ROCK→Post Maloneを見る。MEEGAN THEE STALLIONのステージもRina Sawayamaとはベクトルは違うけれど、その場にいる人を自らの音楽とパフォーマンスでエンパワメントする力強さに溢れていた。ただ今回のサマソニでは海外のアーティストの英語のMCがかなり聞き取れるようになったと喜んでいたのだが、ミーガンのMCはマジで2割ぐらいしかわからなかった。調子こいてすみません。ミーガン終わり、このままワンオク見るかメッセに戻ってCL見るかという2択を突き付けられた結果、謎の第三の選択肢でDef Techを見に行く。多分この時疲れすぎて頭働いていなかったと思う。Def Techも結果的には途中で抜けてしまうのだが、2日間で初めて訪れたビーチステージはちょうど夕陽が沈む時間帯で、砂浜越しに海を眺めていると、この場所だけサマソニから切り離されたような空間に感じた。あと高校生の時に散々聞いてた"Catch The Wave"を生で聴けて流石にマジで興奮した。二人のハモりのヒーリングミュージックの10倍は心地よく、その美しさは波の音にも全く負けていない。Def Techを背中に感じながらワンオクを見るためにスタジアムへ戻る。席がなさすぎて2Fのスタンドの最上段から見たのだが、フェスにも関わらずワンマンかと思うほどの盛り上がりで、スタジアムのほぼ全員がワンオクファンに思えたほど。やはりワンオクのライブは本当に凄い。ライブが素晴らしかった分、余計にMCはいらんこと言ってるなと思ったが。

 そしていよいよ2日間の大トリのPost Malone。ワンオクファンがどっさり帰ってしまい些か人が少ないことに勝手に不安を感じてしまっていたが、そんなことをPost Maloneに思うのは失礼だった。タトゥーだらけの体に屈託のない笑顔。痛みを歌いながら、MCでは常に感謝を言葉にする。"Go Flex"、"STAY"の柔らかいアコギの弾き語りに伸びのある歌声を響かせたと思ったら、"Take What You Want"と"rockstar"ではパイロンで炎を吹き上がらせ、さっきまで弾いていたギターを叩き割ってみせる。"ポップスターとロックスターの二面性。ショービズとしてのパフォーマンスと27歳の青年の面影。1曲披露するごとに「次の曲は~についての曲で」と説明してくれるPost Maloneは絶対に良い奴だと思った。くどいぐらいに感謝を口にしてくれた彼が、多少の集客のことを気にしてるとはとても思えず、日本来てくれなくなるんじゃないかと勝手に不安になった自分はバカだった。元々曲は好きだったが、この1時間の間に見せた彼の人間性が大好きになっていた。花火が打ち上がる中、客席に向かって頭を下げる彼を見る。ありがとうはこっちのセリフだ。疲れ切っていらはずの帰りの道中も、おかげで感謝の気持ちで溢れていた。

 前週にロッキンに参加していたので、ロッキンと比較してしまうとサマソニはお世辞にも快適とは言い難い運営ではあった。ただそれでも、未だにコロナ禍が続く中でこれだけの海外のアーティストを呼んでフェスを開催してくれたクリエイティブマンにはありがとうしかない。そして何より出演した全てのアーティストにありがとう。
 日本で海外のアーティストを見ると「わざわざ日本に来てくれて」という気持ちになる。卑下しすぎかもしれないが、海外のアーティストにとっては実際日本に来ることは簡単なことではないと思う。だからこそ、招聘してくれるイベンターには感謝だし、来日したアーティストの日本で過ごす時間が少しでも良いものになってほしいと思ってしまう。もちろんそこには日本を好きになって、また来日してほしいという下心もあるのだが。

 「来年は誰が来るのかな」。開催されるかどうかを心配していたこの2年間と比べたら間違いなく前進している。来年はミーガンばりのMCも理解できるぐらいには自分も前進していたい。その時がきたらまた、マリンスタジアム幕張メッセの間を、馬鹿みたいに何往復もしてやるつもりだ。

22│08│Ghost In The Rain

■某日
 ある人のnoteの記事を読んだ。これはおれのことを書いた文章だと思った。(もし万が一これがただの勘違いで全くの赤の他人の人のことを書いた記事だった場合は自意識過剰にも程があるので今すぐ殺して欲しいしこのnoteもこれを読んだ全ての人間の記憶も今すぐ消えてほしい)。でもあれは多分、おれのことを書いた文章だと思う。
Twitterでもう10年近くフォローしてくれているみたいで、けどたった一度のリプライすらも送り合ったことがない人。だからそんな人がいて、しかも自分のことを書いてくれていることにビックリした。書かれている言葉はどれも自分にはもったいない言葉ばかりで、これが現実かどうか確かめるために3日連続で読みにいった。嬉しかった。多分あと100回は読むと思う。その人は記事の最後にごめんなさいと書いていたが、なんで謝るのか全然わからない。こっちの気分としては良いこと言うタイプのアーティストがライブのMCで話す「見つけてくれてありがとう」を藤原基央ばりの声で言いたいぐらいの気持ちだ。本当にありがとうございます。
 
 昔Twitterでフォロー外の人にDMをもらったことがある。以前rockin'onが「音楽文」というサービスを運営していて、一般の読者から音楽にまつわる文章を募集してサイトに掲載しており(2022年3月31日にサービスは終了)、自分も当時ライブの感想や好きなアーティストのことを書いては「音楽文」にたまに送っていた。そんな中でELLEGARDENについて書いた文章が「音楽文」のサイトに掲載されたことがある。それはその文章を読んでくれた人が送ってくれたDMだった。少ない手がかりから自分のアカウントを見つけてくれて、その文章を読んだ感想を送ってきてくれたらしい。そのDMの内容はスクショして今も携帯に保存してある。嬉しかった。多分あと100回は読むと思う。それを見返す時、奇跡と呼ぶには大げさな、でも想像もしなかったようなことが自分の人生にも起こるんだなという気持ちになる。

 2018年にELLEGARDENが活動再開した時に行われた復活ツアー、自分はスタジオコーストマリンスタジアムに見に行けた。自分で申し込んだ分は当然のように全て落ちたが、声を掛けてくれた人がいたからだ。エルレが活動休止していた10年間、ただエルレが好きだったから、学校でも職場でもインターネットでも、エルレが好きだと言い続けていた。それを覚えてくれていた人が「チケット当たったけど行く?」と声をかけてくれた。それも一人や二人ではなかった。「エルレと言えばカヲルくんだから」と言ってくれた人もいた。嬉しかった。一生忘れないと思う。ただ好きなものを好きと言い続けただけにしては、もらいすぎてしまったと思う。ほとんど奇跡だった。

 この世に神様はいないと思う。万が一いたとしても、自分のことを見ていて助けてくれることはない気がする。

 でも自分のことを見てくれている人はいる。話している時に何げなく自分が言ったことをずっと覚えてくれている人がいる。RTもお気に入りも一つも付いていないツイートも、それを見てる人はいる。自分のために書いている文章も、読んでくれている人がどこかにいる。全員ではない。でも0ではない。

I'm a ghost in the rain
The rainbow
You can't discern
I'm standing there
Ghost in the rain
The same old
You carry on
The world will find you after all

僕は雨の中に立つ亡霊

君は見分けられない
僕がそこにいることを
雨の中の亡霊
変わらぬもの
君はそのまま進むんだ
やがて世界が君を見つけ出す

 ふとした瞬間、答え合わせのように音楽を思い出す。誰も自分のことは見ていないだろうなと思いながら、それでも誰かに届いたらいいなと落とした言葉。それを見つけてくれる人が、どこかにきっといる。

君はそのまま進むんだ
やがて世界が
君を見つけ出す

光みたいな言葉だと思う。透き通っていて、嘘のように聞こえるほど。
それが嘘じゃないと知れた自分は、もう十分幸せなんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■追伸
 最初の自分のことをnoteに書いてくれた人のアカウントをまだフォロー返していない。それは先に記事を読んでしまったことで「この人は自分のことをnoteに書いてくれた人」と認識してしまったから。その状態でフォローを返すのは打算が透けてキモいし、かといって"逆に"フォローを返さないのもその"逆に"感がキモい。ただ前者と後者なら後者の方がまだマシだろうということでフォローを返していない。なのでその人はこれを読んでくれてるかもしれないけど、嫌とか嫌いとかそういうことでは決してないです。ただ自分が死ぬほど自意識過剰な人間で、この自意識の葛藤に一人であーだこーだこねくり回してるだけなので、こいつはマジでバカだなぐらい思っておいてくれたら嬉しいです。

22│08│Sunburn

■某日
 誰かに告白をされ、相手の気持ちに応えられない時、自分がひどくダメな人間に思えてくる。自分がその人と一緒に過ごした時間は同じはずで、その時間の中で、その人は自分でも気づいていないような良いところを見つけてくれて好きになってくれたのに、同じだけの時間を過ごしたはずの自分は、その人の素敵なところやその人にしかないものに気づけなかった。その人が自分に向き合ってくれた気持ちに対し、自分は上辺の部分だけしか見れていなかったのかもしれない。全ての好意に応えなければいけないわけではないが、自分はどうしようもない人間だという気分になる。申し訳ないとか、自己嫌悪とか、断った側の人間が落ち込むというのはすごく失礼な話かもしれないが。

 人に好きになってもらえるような人間になりたい。でもそれ以上に、もっと人のことを好きになれる人間になりたい。一体今までいくつ自分は見落としてきたのだろうか。通り過ぎてしまう人もいる中でそこにあるものに気づき、足を止めることは、誰にでもできることではない。もしこの世界を回している人がいるとするなら、それは誰かに愛される人よりも、誰かを愛する人がいるからだと思う。

■某日
 ROCK IN JAPAN FESに向かう。3年ぶりとなる今年はこれまで行われてきた茨城県ひたちなかから千葉県の蘇我に会場を移しての開催。JAPAN JAMにも行ったことがないので、3年ぶりの夏フェスな上に初めての会場ということで勝手がわからず、ギリギリで特急券を買ってみたりなど当日の朝まで準備でバタバタする。しかし東京駅はお盆休みということもあり帰省するのであろう人たちでごった返していたが、蘇我行きの電車は思いの外空いており、蘇我駅に着いてから会場に向かうまでの道のりもそこまでのストレスなくスムーズ。人数を絞っているのか前2日での反省点を改善したのか、どちらにせよ少し拍子抜けな気持ちで入場ゲートをくぐる。
 蘇我スポーツ公園の会場はひたち海浜公園と比べるとかなり"コンパクト"という印象で、各エリアの移動時間も以前までと比べるとかなり短縮できる。しかしひたちなかのあの途方もないように感じるフェス空間やGRASS STAGEの広大なフィールドと比べると、開放感という意味では若干のスケールダウンも感じる。でも蘇我スポーツ公園の中にはテントやベンチなど休憩スポットがかなりの数設けられている上にフクダ電子アリーナも丸々休憩場に使えるというのはかなりありがたく、どちらにも良いところがあるのは間違いない。
 
 朝一から会場に着きsic(boy)→Creepy Nuts→優里→NUMBER GIRLKREVA→変態紳士クラブ→Awich→マキシマムザホルモンKICK THE CAN CREWストレイテナーBUMP OF CHICKENを見た。Creepy Nutsを見ている時、地獄みたいな大雨が降ってきて避難したら、逃げている間にライブで聴きたかった"2way nice guy”をやっていて少し後悔した。KREVAが生バンドで"イッサイガッサイ"をやってくれておれの夏が始まった気がした。4分後、おれの夏は終わった気持ちになった。腰は低く、でも自分のスタンスを貫き「HIPHOPのカッコよさをロッキンの人たちに伝えたい」と話していたAwichの姿がカッコよかった。サプライズでANARCHYが出てきた時はちょっと声出た。途中にカレーといちごけずりとハンバーガーとハム焼きとラーメンも食べた。3年ぶりにいちごけずりを食べた時は遠距離恋愛中の彼女に久々に会えたような気持ちになった。500mlのポカリを4本飲んだ。ずっと歩き回ってずっとライブを見ていたら疲れたのでフクダ電子アリーナに入った。日陰の座席に風が入り込んできて、メインステージの音楽が流れてきた。最高の気分で「マジで寝てー」って5回は思った。ちらっとホルモンを見ようとステージに行ったら自分が中学生や高校生の時に聴いていた曲をやっていた。「まだこの曲やってるのか」と思ったが、生で見るとやっぱ圧倒的なパフォーマンスでめちゃくちゃテンション上がった。R-指定が出てきて"爪爪爪"をやった時、大学時代にキャンパスで見かけた「ホルモンの歌詞意味わかんないけどマジかっけー」と言っていた名前も知らないやつのことを下に見ていたことを思い出した。KICK THE CAN CREWのライブ中、オレンジに光る夕陽が綺麗だった。なんだかロマンチックだったなと感慨に耽っていたら社用携帯を無くしていることに気づいた。心臓バクバクで無くしたであろう場所を探してみるも見つからず、激鬱なムードで落とし物センターに行った。スタッフの「届いてないですね」の一言で一蹴された。ダイソーの店員の「そこになかったらないですね」ぐらいのテンションだった。めちゃくちゃ楽しみにしていたストレイテナーも社用携帯をなくしたことを引きずり全然集中できなかった。でも"Melodic Storm”が流れてきた時、-200ぐらいだった気持ちが+380ぐらいまでアガッた。やっぱストレイテナーって良いバンドだなと思ってちょっと涙出た。ストレイテナーのバンド名の由来は「真っ直ぐにする人」だ。もう携帯はええわと開き直ってバンプを見た。"K"と"才悩人応援歌"にビビった。この日は2000年代の学生時代に聴いていた曲を沢山聞いて何度も懐かしい気持ちになった。15年以上も前に心動かされたあの日の自分が今も自分の中にまだいるってことかもしれない。一緒に年を取りながらこうして音楽を続けてくれるアーティストに感謝した。バンプのライブ後に花火が打ちあがった。きっと今年最初で最後の花火だろうなと思った。それでよかった。Twitterのフォロワーの人と会った。初対面だったのでだいぶ緊張して焦ったが、携帯を無くした時よりはマシだった。会場を出る時、入場ゲート横にある落とし物センターに立ち寄った。始末書ものだと思っていた社用携帯は、お客さんかスタッフの人かはわからないが、誰かのおかげで自分の手元に戻ってきた。顔も名前もわからない誰かのやさしさを感じた。自分も、誰かにこの気持ちを還したいと思った。帰り道、フォロワーの人とコンビニでお酒を買い話をした。こういうことをするのもすごく久しぶりだった。Twitterは誰かに向けて何かを書いているわけじゃない。でも、"誰かに届いたらいいな"ということを書いているのだと思う。それを見てくれている人がいるということが、うまく言葉では伝えきれないくらいありがたかった。 

 あっという間に一日が終わった。一日ですごく沢山のことが起きた気がする。普段寝ている時間に目覚め、初めての道を歩く。太陽と雨と風に晒された。太陽が昇り、沈んでいく。月と花火が同じ空に並んだ。色んなアーティストを見た。ご飯も沢山食べた。ポカリもバカみたいに飲んだ。自分の心がジェットコースターのように揺れた。音楽を好きだなと思った。
 やっぱりフェスは良いな。それが当たり前だった日のことを、3年ぶりに思い出した。

■某日
 ロッキンの翌日、ちゃんと日焼け止めを塗っていたはずなのに日焼けをしていた。思えば日焼けをするのも3年ぶりかもしれない。腕時計をしていた部分だけ白く残った歪に焼けた自分の肌を見て、the HIATUSの"Sunburn"を思い出す。

Summer time is so much fun
It’s so bright
Left me with a sunburn
just another chance for me to think it over

夏は本当に楽しい
すごく眩しくて
日焼けと俺を置き去りにする
少しだけ思い出せるように

 この日焼け跡を見てると、Creepy Nutsを見てる時に降ってきた洒落にならないレベルのゲリラ豪雨も、3年ぶりに食べたいちごけずりの味も、被っていたキャップを吹き飛ばしたフクダ電子アリーナの風も、ハム焼き待ちの列で「グッズを買いすぎて金がやばい」と言いながらどこか嬉しそうだった3人組も、途中で社用携帯をなくしたことに気づき顔面蒼白になったことも、バンプのライブ終わりに藤原さんが「一緒に見よう」と言って打ちあがった花火も、フォロワーの人とコンビニでお酒を買って話をしたあの時間も、確かにあった出来事だったと感じられる。

 日焼けをしたいかと聞かれたら全然したくない。次出かける時も、きっと日焼け止めを塗りたくっているだろう。でもその日焼け止めを流すほどの汗と太陽を感じたならその時はまたきっと、忘れられない思い出ができてるってことだろう。時には形あるものこそが、その確かさを証明してくれるから。